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当たり前の転生 精霊と穴蔵  作者: 秋乃六倫
第一部 穴蔵に生きる

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第11話 石板

 アラトやラウラも知らなかったが、リアンナはこの石板のことを知っていた。とはいえ直接見たのはこれが初めてで、詳しい使い方などは分からなかった。

 武器や防具に使用すると、不思議な能力が装備に追加されるそうだ。その装備を装着するだけで精霊の恩恵が強化されたり、スキルや武器を使った攻撃の威力を高めてくれるらしい。

 

「地下世界で見つかる遺物とは違うのでしょうか」


 ラウラのその問には答えられなかったが、遺物とはもっと珍しいものということなのだろう。このクレイゴーレムの身体から現れたということは、これからも魔物を討伐していればいくつか見つけることの出来るものなのだ。

 

 

 アラトは矢を番える間、なにか出来ないかと考えていた。

 初めてボウガンを扱ったときは、以前使っていた弱いものでさえ、必死だった。今では慣れたもので、弦を引くことが出来る。それでも数秒の間無防備だ。このとき魔法でも使えたらと思ったが、両手がふさがっているし結局何もすることができない。

 石などを念動力で飛ばすことも考えたけれど、結局時間がかかるだけで大したダメージも与えられない。

 

 そういえば、自分にはもう一つ使えるスキルがあることを思い出した。

 これは精霊ではなくユニカから与えられた能力の一つ。いまいち使い道が分からなかったせいで忘れていたが、それならボウガンの弦を弾いている間も使えるのではないかと、使用してみる。

 

 手のひらに四角いキューブが産み出された。キューブは屈折しているが透明度が高く、手のひらが透けて見える。

 アラトが使用したのは『コラプスキューブ』

 以前使ったときはボウガンなどで攻撃するよりも攻撃力が弱く、わざわざ使う価値を見出せなかったが、クレイゴーレムを相手するならば、一手でも多くの攻撃が出来る方が早く倒せるかもしれない。

 

 キューブ状のそれをクレイゴーレムに向かってほいと投げた。念動力で飛ばしながらボウガンの弦を弾いた。

 コラプスキューブはクレイゴーレムにあたると、体内に吸い込まれてしまった。やはり大してダメージを与えられなかったとアラトが諦めそうになったところに、ラウラの声が聞えた。

 

「きゃっ」


 クレイゴーレムはラウラのこん棒で、身体の半分を吹き飛ばすようなダメージを食らっていた。それに驚いたラウラが声をあげたようだが、ラウラの体感ではまだ倒せるほどの体力ではなかったらしい。これはアラトもそう考えていたから間違いではないはずだ。

 それにこん棒で攻撃を与えた瞬間、クレイゴーレムの身体から大きな衝撃を加えられたような反動を感じたという。

 

『これが多分コラプスキューブの力なのね』


 アラトは、いまいち納得がいかなかった。それまでの魔物ではこんな威力はでなかったはずだ。それともラウラが攻撃したのがよかったのか、魔物によって効果が違うのか。

 

『おそらく、魔物の体力や防御力によって効果が変わるのだと思う。今までの魔物はボウガンでも一発や二発で倒せてしまうくらいの魔物だったから。もしかしたらトリガーであるラウラちゃんの攻撃も良かったのかもしれないけどね』


 クレイゴーレムにはラウラのこん棒が効果的だったのは悪くない発見ではあった。コラプスキューブをなしにしても、ラウラの攻撃が効率よくダメージを与えられていたようで、武器やスキルが攻撃的なリアンナと比べても遜色がないのだった。

 

 逆にアラトのボウガンがいまいち効率的じゃないような気がしていた。ダメージは与えられていると思うが、それまでの魔物のように、倒しきるような威力は出ていない。

 結局矢を番える時間がかかり連射できないボウガンは、クレイゴーレムには相性がいまいちであった。

 

 

 結局その日は七層の最奥までたどり着くことはできなかった。クレイゴーレムを倒すまでの時間がかかり、数もそれほど討伐できなかった。

 魔石や石板を入手したが、やはり稼ぎだけなら五層が一番多い気がしていた。

 

 

 翌日は、雨が降っていた。連日地下世界に行っていたため、休みにすることにした。

 アラトはリアンナやラウラとも別行動をした。五層の足場を歩いていると、雨のせいで湿気を感じられる。上の階の足場が屋根となっているおかげで、雨粒でずぶ濡れになることは無いにしろ、ところどころで雨漏りをしているかのように滴っている。

 こんな状態では結局外は歩きにくい。休みにはしたが、地下世界に行った方が雨に濡れることは無かったかもしれないと少し後悔した。

 露店などを観て周ったが、欲しいものもいまいち見つからない。

 

 なんとなく足が向いたのはドワーフの爺さんがいる鍛冶屋だった。

 

 

 

「こんにちは」

 

 ドワーフの爺さんは、武器の手入れをしていた。ちらりとこちらを見た後、手を止めずに何の用だと返事をする。

 客だという認識はないのか、困ったアラトはなんとなく剣を見に来たと答えた。

 

「狩人の精霊と契約したそうだな」


「ええ。狩人にあう剣って何かありますか」


「お前さんの身体の大きさにもよるが、大抵はショートソードが良いはずだ。片刃の曲刀のようなものを持つものもいるが、扱いが難しい。戦い方によるだろう」


 傍に立て掛けてある剣をいくつかカウンターに並べる。

 短剣にもサイズがあり小さいものと大きいもの。大きい物であればショートソードとさほど変わらないくらいのサイズ感だ。

 長い物だとロングソードというものもある。

 

「狩人でロングソードを持つ人がいるんですか?」


「あまりいない。以前剣士や戦士などやっていた者が、慣れていた武器を扱うことはある。初めてならショートソードが無難だろう。なんなら短剣のままでさえかまわないはずだ。狩人は武器を素早く切り替えて戦うことが重要だと聞いたことがある」


 ドワーフの爺さんも昔は地下世界を攻略したことがあったらしい。精霊を鍛え、能力があがると鍛冶師としてのスキルも鍛えられるらしい。

 

 アラトは鍛冶師になるにも精霊の力を使っているということに驚いた。

 実際に、鍛冶師の精霊と契約し、スキルを使って武器や防具を作成することが出来るのだという。

 

「俺がはじめて地下世界に足を運んだのはもうすでにそれなりに歳だったからな。それまで鍛治職をやってはいたが、若いころから精霊と組んでやっている奴には敵わねえ」


 地下世界でなくとも精霊のレベルやスキルを鍛えることは出来るものの、地上に現れる魔物は多くなく、丁寧に魔物の強さが順番に現れてくれるわけではないため、危険だった。


 アラトは思い出したことがあり、石板を取り出した。

 

「これを七層で手に入れたんですけど、どんなものかわかりますか」


 ドワーフの爺さんは石板を手に取ると表面の文字を見る。すぐにわかったのか、こちらに石板を押し返してきた。

 

「こういった石板は、対応する装備品と装備に使用した場合どんな能力が上昇するか、あらかじめ書いてある。これは鎧に使用できて、防御系統の性能があがるというものだ」


「防御系統? 防御力ということ?」


「単に防御だけとは限らない。体力や、回避できる俊敏性など、色々ある。石板自体のランクは低いので、複雑な効果は発揮しないだろう」


 アラトはここまで聞いては見たが、いまいち分からないことも多かった。

 どれだけの性能が装備に追加されるのか分からない。

 

「一度使ったら効果は取り出せないんですか?」


「そんなことはない。それに使用する前から正確に知りたいなら錬金術師に金を払うか、自らが錬金術師になっても良い。それに石板を集めて、石板自体の強化を行うことだってできる。この辺りは複雑だ」


 知りあいに錬金術師はいないかと思ったが、目の前のドワーフは鍛冶師と錬金術師を持ち合わせているらしい。

 

「錬金術師はおまけだ。大したことは出来やしない」


 そういって石板の内容を調べてくれる。結局石板の性能は鎧に防御力を付与する効果があった。

 石板自体の等級は7。これは手に入れた地下世界の階層に近い数字になることがほとんどだそうだ。石板自体はドムグリなどからもごくまれに手に入ることもあるようだが、大抵はクレイゴーレムで初めて見かけることになるらしい。

 

「この性能だと、ほとんどおまけだ。等級があがっていくと馬鹿にならない能力が装備に追加されることもある。まだ価値の低い今のうちに慣れるために使ってもいいし、取っておいて錬金術師に強化をしてもらうのも良い」


 そういって話は終わった。今アラトは異次元ボックスの中に三つの石板があった。

 再びドワーフに石板を調べてもらうのも気が引けた。

 

 カウンターに出されたショートソードを手に取る。短剣とは違って手にしっかりとした重みがあった。

 

 

 

 宿に戻るとラウラもリアンナも退屈そうにアラトのことを待っていたのだった。思えばこの穴蔵では大した娯楽もない。地上や十層までいけば何かしらあるのかもしれないが、そこまでいきたいとも思えなかった。

 結局、地下世界に行くことが一番楽しい。大した娯楽もないこの場所じゃ、急に休みにしようったって何もすることがない。

 リアンナやラウラはそのことにも慣れているかもしれないが、最近は地下世界に行ったり、セリーのことで忙しくしていたため、逆に戸惑ったかもしれない。

 急に大人ぶって休日などと言ったが、結局落ち着かないのだ。

 

 リアンナとラウラに声を掛けて、明日の地下世界のことで話し合うために、食事に誘った。

 二人とも暇そうにしていたが、誘うと真剣な顔つきになった。


「そんな気負わなくて良い」


「いえ、これは大事なことです。食事も大事ですし、明日のことも大事です。リアンナさんと話し合ってたところですから」

 

 何を話し合っていたのか分からないが、真剣な眼差しをこちらに向けてくるラウラと深く頷いているリアンナに、眉を潜めながらも苦笑いを止められなかった。

 勢いにのまれながらいつもの食堂に向かうのだった。

 

 

 

 再び七層のクレイゴーレムに相対する。

 このときのために狩人のスキルも新たに習得した。

 そして石板も使用して装備の強化を行ってみた。実際に現れた効果は、ほんとうに些細なもので、すべての装備に使用すれば、ようやく感じられる程度の差しかない。しかし、装備に付与できる効果は防具によって違っていたり、石板の効果もまちまちであるため、狙った付与をするにはかなりのお金がかかることが分かった。

 

 これなら味方に錬金術師がいたら楽だろうなと頭をよぎるほどだ。

 

 アラトはボウガンの矢を放つ。精霊の装備変更の力を借りて、素早くボウガンを手元から消した。手に持っているのはショートソードだった。

 あらかじめコラプスキューブを埋め込んだクレイゴーレムに向かって飛んでいった矢は、穴をあけるくらい大きな衝撃を与えた。その上にショートソードを叩きつける。


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