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第6話:限界県『西海県』のバーゲンセール

「本当に、天馬の大臣様が、こんなゴミクズのような土地を丸ごと引き取ってくださるのですか?」



 西海県さいかいけんの県庁、その重苦しい応接室。

 ずらりと並んだ高齢の県議会議員たちと、議長が、すがるような視線を蓮華に向けていた。



 その光景を、蓮華の背後に立つ黒鉄颯太は、冷ややかな目で見下ろしていた。

 お嬢を「小娘」と舐めていた中央の政治家どもとは違い、ここ地方の限界自治体のトップたちにとって、総理大臣を脅して大臣に就任した天馬財閥の『女帝』は、文字通り神仏のような存在だった。



「ええ。西海県の全土地の八割――山林、耕作放棄地、そして誰も住まなくなった限界集落のすべてを、天馬グループが買い取らせていただきます」



 蓮華は清楚な笑みをたたえ、テーブルの上に一枚の契約書を滑らせた。



「その代わり、県が抱える未払い国債、ならびに地方債の合計八千億円は、我がグループが本日中に一括で全額肩代わりし、完済いたします。これで西海県の財政破綻は、完全に回避されますわ」



「おお……っ!」

 議員たちが一斉にどよめき、涙を流して手を合わせる者すらいた。



 高齢化率七五%を超え、若者は全員都会に逃げ出し、インフラの維持費だけで毎年数十億の赤字を垂れ流していた暗黒の土地。

 放っておけば財政破綻して国から「消滅自治体」に指定されるだけの厄介荷物を、国債の完済と引き換えに丸ごと引き取ってくれるというのだ。

 県議会にとっては、これ以上ない「バーゲンセール」だった。



「ありがとう、天馬大臣! これで我々も、国会に首を括られずに済みます!」

「契約成立にございます。速やかに登記の移転手続きを進めましょう」



 御子柴が静かに頭を下げ、契約書に印を押させる。

 県議たちが歓喜に沸く中、蓮華は窓の外に広がる、錆びついた閉塞感に満ちた西海県の山々を、静かに見つめていた。



 県庁を出て、黒塗りのセダンに乗り込んだ瞬間、颯太は我慢しきれないといった様子で大笑いした。



「ははっ! あいつら、本当に大喜びで『世界一のプラチナチケット』を手放しやがったな、お嬢」



「ええ。彼らにとってはただの『負債の山』だもの。でも、私たちのソロバンは違うわ」



 蓮華は手元にあるタブレットの地図を見つめ、不敵に目を細めた。



「この西海県だけで、国から毎年どれだけの『後期高齢者医療費』と『介護給付金』の補助金が出ていると思う? ……年間、約三千億円よ。若者たちの血税から搾り取られたお金が、この消えゆく街の、前時代的で非効率な医療・介護システムに虚しく吸い込まれていたの」



「それを、俺たちのAI自動運転技術とドローン物流、それに拓さんの生体監視AIで完全自動化して、コストを十分の一以下に圧縮する。……浮く金は、年間で二千七百億円だ」



 颯太がシートに頭を預け、獰猛に笑う。



「その浮いた二千七百億円を、お前は『少子化対策大臣』の権限で、何に使う気だ?」



「決まっているでしょう」

 蓮華は窓の外の荒れた街並みを見つめ、冷徹に微笑んだ。



「この西海県に住む、、あるいは新しく移住してくる『三十代以下の若い世帯』に、毎月一五万円の【若者生活配当金】として直接、全額キャッシュバックするわ。

 老人の介護コストを最新技術で極限まで削り、浮いた血税を、そのまま若者たちの財布へダイレクトに流し込む。

 若者が苦しむ重税の鎖を引き千切って、手取りを倍にする。これこそが、じいちゃんの遺言にあった本当の『救国』よ」



「ははっ、最高だな! 老人は最先端のAIケアで一生無料で守られ、若い奴らは働いた分だけ金が手元に残る。誰も損しねえ、泥棒政治家ども以外はな」



 颯太がアクセルを踏み込もうとした、その時。

 運転席のフロントミラーに、一台の古びた国産車が映り込んだ。県庁を出た時から、ずっと自分たちの後を必死に追いかけてきている車だ。



「……お嬢、後ろ。どうやら、その『若者』の代表が、血相変えて追っかけてきてるぜ?」



「ええ。西海県の、若き女性知事さんね」

 蓮華はルームミラー越しに、必死な表情をした知事の姿を捉えた。



「彼女の説得こそ、このプロジェクトを若者たちに証明するための、最初の鍵よ」



(第6話・了)


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