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第11話:共犯者たちの『ざまぁ』

 翌朝、午前九時。

 日ノ本皇国の首都・東京は、未曾有の『大恐慌』に包まれていた。

「しょ、証券取引所がシステムストップだと……!? どうなっている、説明しろ!」

 首相官邸の閣僚室。

 西園寺総理は、電話の受話器を握りしめ、血管を浮き上がらせて怒鳴り散らしていた。

 その隣の長椅子では、数時間前まで傲慢に葉巻をくゆらせていた九条元首相が、血の気の失せた顔でがたがたと震えている。

 壁に掛けられた巨大なテレビモニターからは、アナウンサーの悲鳴のような絶叫が鳴り響いていた。

『緊急速報です! 本日午前九時の東京株式市場の開始と同時に、天馬グループ、ならびに海外のメガファンド十五社が保有する日ノ本国債と主要株を一斉に売却!

 円相場は一瞬で一ドル一八〇円台まで急落し、日経平均株価は戦後最悪の下げ幅を記録!

 現在、市場はパニック状態に陥っています!』

「ば、馬鹿な……! なぜだ! なぜ天馬の売り注文に、海外の巨大ファンドまで同調して売りを浴びせてくる!」

 九条が机を叩き、掠れた声で叫ぶ。

 その時。

 重厚なオーク材のドアが静かに開き、二人の人影が、優雅に歩み入ってきた。

 漆黒のタイトスーツを完璧に着こなした天馬蓮華。

 そして、その背後で銀髪を揺らし、ポケットに両手を突っ込んだ黒鉄颯太だ。

 二人の表情には、一分の焦りもない。ただ、絶対的な勝者の冷徹な笑みだけがあった。

「簡単なことだよ、九条のじいさん」

 颯太は歩きながら、手元のノートPCのキーを軽く叩いた。

 閣僚室のモニター画面が切り替わり、アトラス・モーターズをはじめとする、世界的なテック企業のCEOたちのビデオメッセージが一斉に再生され始める。

『――我々グローバル・コンソーシアムは、日ノ本政府によるエデン特区への不当な介入、ならびに私有財産の国有化法案を断固非難する。これより、日ノ本国内におけるすべての技術投資を引き揚げ、工場を閉鎖する』

「お前たちがエデンを強奪しようと『国有化法案』の強行採決を企てた瞬間、世界のマネーは、日ノ本を【投資不適格な独裁国家】だと判断したんだよ」

 颯太の銀色の瞳が、冷酷に細められる。

「お前らが法律っていう紙切れ一枚で他人の畑を奪おうとするなら、俺たちは『信用』っていう、お前らには一生手に入らない武器で、この国の経済の息の根を止めてやる」

「ひ、ひぃっ……!」

 九条が、椅子から滑り落ちるようにして床にへたり込んだ。

「それだけではないわ、九条先生。西園寺総理」

 蓮華がゆっくりと、二人の前に歩み寄る。

 その清楚な佇まいに宿る、この世のすべてを見下ろすような「女帝」の覇気に、西園寺総理は息を呑んだ。

「エデン特区から、中央の厚生労働省、ならびにあなた方の息がかかった大手医療機関へ提供していた『生体AI未病検知アルゴリズム』のライセンスを、一分前に【完全遮断】いたしました」

「な、なんだと……!? アクセス権を遮断した、だと!?」

「ええ。あなた方のご親族が経営する私立病院。エデンのシステムを裏で横流しして、高額な最先端医療を提供していましたわね?

 本日この瞬間から、あなた方の病院のAI診断システム、介護ドローン、そして特殊な治療機器は、すべて『ライセンスエラー』で稼働を停止します。

 ……あなた方がお年寄りから奪おうとした未来の医療を、まずはあなた方自身が、身を以て失いなさい」

 完璧な、逃げ場のない『逆襲』。

 国会で過半数を持っている、法律を作れば勝てると思い込んでいた世襲議員たちは、天馬が握る「世界の資本・技術・インフラ」という、国家そのものを超越した暴力の前に、ただの無力な老人へと成り下がっていた。

「た、天馬大臣……! 頼む、止めてくれ!」

 西園寺総理が、プライドをすべて投げ捨てて床に膝をつき、蓮華の足元に滑り込むようにして土下座した。

「我々の負けだ! 法案は今すぐ撤回する! 強行採決も中止だ! だから……株価と、医療アクセスを元に戻してくれ! このままだと、本当に国が破綻する!」

「あら。強硬採決をして、一人の小娘からエデンを奪うのが『大人の政治』ではなかったかしら?」

 蓮華は冷徹に微笑み、床にひざまずく総理を見下ろした。

「撤回だけでは、もう許さないわ。

 西園寺総理。ここからは、私がこの国を『買い叩く』条件を提示させていただきますわ」

(第11話・了)

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