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今世で勝ち組だった俺、娘のために王家の喧嘩を買ったら、悪役令嬢まで出てきた  作者: 福嶋莉佳


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第12話 駆け抜けろ

門にいた左右の兵たちが、ぎょっとした顔をするのがちらりと見えた。


石畳を蹴る馬蹄の音が大きく響き、勢いよく進む馬体が空気を切り開いていく。


「止まれ!」


後ろで王都守備兵の声が上がった。


「止まるな!」


俺は叫んだ。


隊列が一気に速度を上げる。


「殿下、前だけ見ろ!」


「はい!」


黒鹿毛の馬が、ぶれることなく大通りを駆ける。

馬も根性がある。


脇道の荷車の陰や、閉じられた店の二階。

いたるところから視線を感じた。


どこかに弓がいる。

このどさくさに紛れて、狙っているのだろう。


「速度を落とすな! このまま抜けろ!」


ギデオンが後続に向けて声を飛ばした。


荷馬車の車輪が石畳を削るように鳴り、二頭立てにした四台の荷馬車が、遅れまいと食らいついてくる。


「ギリギリだな!」


「王宮手前までなら大丈夫よ! ……旦那様、右の屋根!」


視線を向けると、屋根の上に人影があった。


「バルド!」


叫んだのと同時に、弓が鳴った。


「ぎゃっ」


人影が悲鳴を上げる。


その直後、荷馬車の板に何かが突き立つ音がした。


「撃たれています!」


トマが叫ぶ。


「止まるな! 左右に気をつけろ!」


今止まれば終わる。


止まった瞬間、脇道から兵が出る。

屋根から矢が降り、前後を塞がれる。


――この大通りを右に逸れたら、リエネの実家だ。


まさか、こんな形で王都に来るとは。

無事でいてくれ。


俺たちは、全力で駆け抜けていた。


「広場が見えます!」


トマの声が後ろから飛ぶ。


前方に、開けた空間が見えた。


――王宮前広場。


その奥には、王宮の正門。

そして、その前に並ぶ兵の列があった。


銀の胸甲、王家の紋章が入った盾、長槍をそろえ、正門を背にして立つ兵たち。


「近衛か」


「正面は、そうでしょうな」


ギデオンが答えた。


その手前の左右に控えている兵たちは、近衛とは明らかに違っていた。


黒に近い外套を羽織り、その下に革鎧と鎖帷子を着込んでいる。

手にしているのも、短槍や片手剣だった。


動きやすさを優先した、実戦用の装備だ。


「殿下、王宮警備ってのは、短槍なのか?」


「……少なくとも、通常の警備で持つものではありません」


俺は手綱を引き、広場の中央へ馬を滑り込ませた。


同時に、後続の荷馬車が横を向き、車輪が石畳を削ってぎしりと軋んで止まる。


「止まれ!」


広場の奥から、鋭い声が飛んだ。


「近衛副長……あなたが、そこに立つのですか」


「第二王子レオンハルト殿下! ここより先は王宮警備区域です。護衛兵は武装を解き、広場にて待機を!」


「私は、北方男爵家への疑いを解くため、証拠を持って参りました。道を開けてください」


近衛副長は、声を張った。


「ですが、殿下。北方男爵家には、故王陛下の崩御に関わる重大な疑いがございます。その者らを武装させたまま王宮へ入れることはできません」


「彼らは、証人でもあります」


「証人であればこそ、王宮の手続きに従っていただきます」


近衛副長は、槍を持つ兵たちへ目配せした。


「第二王子殿下のみ、こちらへ。北方男爵、ならびに記録を持つ者は、武器を預けた上で、この場にて待機を」


「断ると言ったら?」


「殿下の御身に危険が及ぶ前に、制圧いたします」


その言葉に合わせるように、正門を背にした近衛の列の手前で、左右に控えていた黒外套の兵たちが動いた。


黒外套の兵たちは、短槍と盾を構えながら、こちらを挟み込むようにじりじりと間合いを詰めてくる。


「危険が及ぶ前に、ねぇ」


近衛副長の顔が、わずかに強張る。


「武器を下ろしなさい。これは王宮警備の命令です」


「そっちが先に武器を下ろすべきだろ」


俺がそう言った瞬間、後ろの荷馬車の上から、バルドの弓弦が鳴った。


矢はひゅ、と空気を裂いて王宮正門脇の二階回廊へ飛び、柱の陰に潜んでいた男の肩へ突き立つ。


「ぐあっ!」


男の手から、短い弩が落ちた。


……よく当てるなぁ。

そこそこ距離あるぞ。


その直後、広場を囲む屋根や柱廊の陰で、黒い影がいくつも動いた。


「撃て!」


どこかから、誰かが叫んだ。


その瞬間、荷馬車の幌がばさりと落ち、荷台に伏せていた弓兵たちが身を起こす。


「弩だ! 腕を狙え!」


バルドの声と同時に、弓兵たちが一斉に矢を放った。


屋根と柱廊の陰から、弩の矢が何本も飛んだ。


荷馬車の側板に突き立つものもあれば、護衛の盾に弾かれるものもある。


その中の一本が、馬上のレオン殿下へ向かった。


「殿下!」


ギデオンが剣を振るい、矢を弾き落とす。

弾かれた矢が石畳を跳ねた。


だが、こちらの弓は正確だった。


弩を構えていた兵たちは、二射目を放つ前に腕や肩を射抜かれ、武器を取り落として崩れていった。


「なっ……」


近衛副長が、声を詰まらせる。


「俺はもう引退の身だったんだぞ……」


俺は弓を構えたまま、屋根の上へ視線を向けた。


「年寄りにむち打ちやがって」


荷馬車の上で、バルドが声を張った。


「近衛はまだ撃つな! 後ろだ! 来た道を塞がせるな!」


バルドの声を受けて、後続の荷馬車二台がさらに向きを変え、大通り側へ壁のように並ぶ。


荷台の弓兵たちは狙いを低く取り、近衛の列を避けながら、前へ出ようとする黒外套だけを狙った。


黒外套の兵たちは盾を上げるより早く腕や肩を射抜かれ、数人は身を伏せて近衛の列の陰へ逃げ込もうとする。


「後ろ、来ます!」


荷馬車の陰にいたトマが叫んだ。


振り返ると、俺たちが駆け抜けてきた大通りの奥で、王都守備兵たちがこちらへ走ってくるのが見えた。


「塞がせるな!」


バルドが叫んだ。


その時、大通り沿いの店先や路地の陰から、何人もの男たちが飛び出した。


腕に布を巻いた者や、まだ顔色の悪い者がいる。

見覚えがあった。


北方で救った、王都軍の兵たちだった。


「北方男爵を罪人扱いするな!」


男たちは荷車を押し出し、酒樽を転がして、追ってくる守備兵たちの足を止めた。


「退け! 王宮の命令だ!」


「だったら俺たちは、王都軍の兵だ!」


包帯を巻いた男が、倒した板戸に肩を押しつけながら叫んだ。


「俺たちを助けたのは北方男爵だ! あの人の邪魔をするな!」


「……助かる!」


俺は奥歯を噛み、近衛に向かって叫んだ。


「殿下をお守りしろ!」


近衛の列の陰から、黒外套の一人が短槍を構えて踏み出した。


俺は弓を引き、そいつの肩を射抜く。


「ぐっ……!」


男は短槍を取り落とし、膝をついた。


近衛たちは、黒外套ほど迷いなく前へ出てこない。

まだ、迷っている。


「近衛! 私は、王宮へ刃を向けに来たのではない!」


レオン殿下が、馬上で声を張った。


「だが、王子に武器を向ける者を、王宮警備とは認めない!」


近衛の列が、わずかに揺れた。


「惑わされるな!」


近衛副長が叫んだ。


「王宮警備区域で武器を構えた時点で反逆だ! 武装解除に従わぬ者を制圧しろ!」


近衛の兵たちが、はっとしたように槍を構え直す。


俺は舌打ちした。


「道を塞ぐ気か」


「今よ!」


バーデンが叫んだ。


その声と同時に、広場の左右から矢が飛んだ。


先行させていた弓兵たちが、荷馬車の陰、店先の庇、閉じられた露店の裏から一斉に矢を放った。


「うわっ!」


「下がるな!」


矢は、近衛の槍を持つ手や盾の縁をかすめ、前へ出ようとしていた黒外套の肩や腕に突き立つ。


黒外套の兵たちはそれでも下がらない。

近衛の列を盾にするように身を寄せ、隙間からなおもこちらへ詰めようとした。


正規の近衛たちは、列の隙間へ入り込んだ黒外套を押し戻すべきか、味方として通すべきか迷っている。


列が乱れた。


その隙を、ギデオンは見逃さなかった。


「殿下!」


ギデオンの馬が走り出した。


その後を、レオン殿下と俺が続く。


「止めろ! 正門を守れ!」


近衛副長の声が飛ぶ。


近衛の槍が、一斉にこちらへ向いた。

だが、踏み込みが浅い。


「退け!」


ギデオンが叫ぶと、先頭の近衛が、わずかに身を引いた。


その一瞬でギデオンは馬を槍の間へ滑り込ませ、剣で槍の柄を叩き落とした。


「殿下を通せ!」


俺は叫んだ。


「王子に弩を向けた連中と一緒にされたいのか!」


近衛の隙間から、黒外套の兵が飛び出してきた。


「殿下を保護しろ!」


叫びながら、男はレオン殿下の脇腹めがけて短槍を突き出した。


俺は弓を引き、男の手首を射抜いた。短槍が石畳に落ちる。


「なにが保護だ!」


「前へ!」


ギデオンが叫びながら、迷った兵たちの間に、無理やり馬体を滑り込ませた。


「進みます!」


レオン殿下の黒鹿毛が、王宮正門へ向かって駆ける。


「どこ行くんだ!?」


「大広間へ!」


正門の石段が迫った。


ギデオンの馬が石段の手前で大きく跳ね、蹄が石を叩いて火花のような音を鳴らした。


「うおっ!」


「旦那様、前見て!」


バーデンの声が飛ぶ。


俺は歯を食いしばり、手綱を握った。


閉まりきっていない王宮正門へ、俺たちはそのまま突っ込んだ。


王宮に入ると、馬蹄の音が石壁と高い天井にぶつかって、何倍にも膨れ上がった。


いいのか?

馬で走るところじゃないよな!?


「止まれ! 馬で入るな!」


誰かが叫んだ。


いや、無理だ!


正面の広い玄関広間では、侍従や下働きらしき者たちが悲鳴を上げて左右へ散っていた。


「すまん!」


「旦那様、左です!」


俺は慌てて手綱を引いた。


「兵がいる!」


回廊の先に、兵がいた。

馬蹄の音に驚いて飛び出してきたような顔だった。


ギデオンは速度を落とさず、その兵たちの真正面へ馬を向けた。


「第二王子殿下がお通りだ!」


兵たちは反射的に槍を構えた。

だが、レオン殿下の姿を見た瞬間、その穂先が揺れる。


ギデオンが馬体を槍先の間へ押し込み、兵たちは思わず左右へ退いた。


俺たちも、迷う兵たちの横を駆け抜けた。


「大広間はこの先です!」


前方には、片側だけ開いた大きな扉が見えた。


こちらの馬蹄の音に気づいた兵たちが、慌ててそれを閉めようとしている。


「閉められる前に入れ!」


ギデオンはさらに馬を走らせ、閉まりかけた扉の隙間へ馬体をねじ込んだ。


左右の兵が必死に扉を押さえようとしたが、もう間に合わなかった。


扉が大きく押し開かれ、ギデオンの馬が大広間へ飛び込み、続いてレオン殿下の黒鹿毛が駆け込む。


俺も、その後に続いた。


広間の中にいた者たちが、一斉にこちらを振り返る。


全員の顔が、信じられないものを見るように固まっていた。


俺も信じられない。


レオン殿下は馬上から広間の奥へ視線を向け、そこにいた第一王子らしき男と王妃イザベラを見た。


最初に声を上げたのは、王妃だった。


「武装した者を連れて、王宮へ押し入るなど……」


王妃は椅子の肘掛けを掴んだまま、ゆっくりと立ち上がった。


「レオンハルト。あなたは、自分が何をしたか分かっているのですか」


「分かっています」


レオン殿下は馬上から降り、手綱を握ったまま王妃を見据えた。


「ですが、王宮前広場で、私に弩が向けられました」


「あなたにですって?」


王妃の眉が動いた。


「見間違いではありませんの? 近衛が、そのようなことをするはずが――」


「近衛ではありません」


レオン殿下は、はっきりと言った。


「黒い外套の兵たちです。近衛の胸甲も、王家の紋章が入った盾もありませんでした」


「……それが、王宮へ馬で押し入った理由になると?」


「なります」


レオン殿下の声は、よく通った。


「近衛ではない兵が、王宮警備の名で弩を構えたのです。ならば、私がその場で武器を捨て、従う理由はありません」


王妃は、扇を握る指に力を込めた。


「誰が、あの者たちを王宮前広場へ置いたのか。誰が、王宮警備の名で私を狙わせたのか」


レオン殿下は、広間にいる者たちへ向けて言った。


「私は、それを問う義務があります」


「……やっと王宮へ戻ったと思えば、ずいぶん騒がしい帰還だな、レオンハルト」


第一王子は椅子から立ち上がり、広間の入口に立つレオン殿下と、その背後の俺たちへ視線を向けた。


「こちらも戸惑っている。まさか、お前が兵を連れて王都へ攻め込むような真似をするとは思わなかった」


「兄上。驚かせたことは、お詫びします」


レオン殿下は、頭を下げた。


「しかし、私は王宮を制圧しに来たのではありません」


その言葉に、近くにいた文官の一人が息を呑んだ。


「王族として、正式な評議を求めるために参りました」


「評議だと……!」


第一王子の顔色が変わった。


「王都を離れ、所在も明かさず、武装した者たちを連れて戻った身で、王家の評議を求めるというのか!」


「彼らは、この場で語るべき事実を持つ者たちです」


「事実だと? 都合よく集めた者を並べただけだろう!」


第一王子の眉が険しく寄った。


「……よいではありませんか」


場の空気を破ったのは、席からゆっくりと立ち上がった男だった。


王妃の視線が、鋭くそちらへ向く。


「ヴィクトル殿下」


あ、あれが悪役令嬢の父か。


「第二王子殿下の御身に危険が及んだというのなら、王家として見過ごすわけにはまいりません」


ヴィクトルは柔らかな笑みを浮かべたまま、広間を見渡した。


「しかも、北方男爵家への疑いと、ローデン領襲撃の件もございます。曖昧なまま済ませれば、かえって王家の名に傷がつきましょう」


「叔父上。いつから、この場の裁定役になられたのです」


アルベールが低く声を漏らす。


ヴィクトルは、にこりと笑った。


「裁定など、とんでもない。私はただ、王家の一員として、正すべきことを正した方がよいと思っただけです」


そこでヴィクトルは、広間にいる者たちを見渡した。


「皆様も、そうお思いでしょう?」


王妃の扇が、わずかに軋んだ。


「……事が事です。評議を開くにしても、日を改めて――」


「早い方がよろしいでしょう」


ヴィクトルは、王妃の言葉を遮った。


「これだけの証人が王宮まで来ているのです。ここで帰せば、かえって余計な噂を招きます」


広間にいた文官たちが、互いに視線を交わした。


戸惑ってるな。

でも、反論しそうな空気ではない。


……というより、風向きがこの男に向いてないか?


「……評議の準備を」


アルベールが、絞り出すように言った。


王妃は何も言わなかった。


ただ、その扇を握る指だけが、白くなっていた。



俺たちは、評議の場からはいったん外されることになった。


当然といえば当然だ。

北方男爵家への疑いを晴らしに来たとはいえ、王族の評議は場違いだ。


……武装してる危ない奴だし。


外にいた護衛たちは、王宮前広場に留め置かれることになったらしい。

黒外套の連中と弩を持っていた連中は拘束。近衛副長も、いったん指揮から外されたという。


まあ、そらそうだ。

あの近衛副長、おかしいだろ。


俺たちも、弓と剣は預けることになった。

ギデオンは槍もだ。


「証人として、控えの間でお待ちいただきます」


文官が、こわばった顔でそう告げた。


「必要があれば、評議の場へお呼びします」


「分かった」


俺はうなずき、レオン殿下へ視線を向ける。


証拠は、すでに殿下の手にある。

後は殿下に託すしかない。


近衛に先導され、俺たちは控えの間へ向かっていた。

レオン殿下だけは、評議の準備が整い次第、呼び戻されるらしい。


「……はぁ……」


思わず、深い息が漏れた。


「分かるわ……あたしも、さすがに疲れた……」


隣でバーデンが、いつもより少し老けた顔をしていた。


たぶん、俺も似たような顔をしている。


王都の門を突っ切って、馬で王宮へ突っ込んで、王族の前に立つ。


おっさんにはきつい。

体力的にも、精神的にも。


なのに、ギデオンだけはいつも通りの顔で歩いている。


なんでだ。


「旦那様……大丈夫ですか?」


レオン殿下が、心配そうにこちらを覗き込んだ。


その顔にも疲れは見える。けれど、俺らほどへばってはいない。


若いな。

羨ましいぞ。


「すぐに水を用意させます」


その時だった。


「レオンハルト殿下。ご無事で何よりですわ」


振り向くと、フランス人形みたいな女が立っていた。


艶やかな金髪に、エメラルドグリーンの瞳。

びっくりするほど整った顔立ちだった。


と言っても、レオノーラの方が可愛いがな。


「エスメラルダ嬢」


レオン殿下の表情が、硬くなった。


俺はぎょっとした。


こいつが悪役令嬢!?


「本当に驚きましたの。まさか、殿下がこのような形でお戻りになるなんて」


そう言いながら、エスメラルダの視線が、すっと俺の方へ流れた。


「それで……こちらの方は?」


「北方男爵だ。私をここまで護ってくださった」


「まあ……」


エスメラルダは、微笑んだ。


「もしかして、レオノーラ様のお父様でいらっしゃいます?」


俺は軽く頭を下げた。


「お噂はかねがね。王都では、なかなかお目にかかれない方ですもの」


どういう意味だ。

噂されるほどネタなんてないぞ。


「王都への顔出しは、妻と娘に任せておりますので」


「お会いできて嬉しいですわ……そうですか、あなたが」


「?」


「いいえ。レオンハルト殿下を、ここまでお連れくださったのでしょう? 感謝いたしますわ」


「ああ……いえ、それくらいは」


「それから、国王暗殺の疑いをかけられたこと。王家の者として、心よりお詫び申し上げます」


「エスメラルダ様が悪いわけでは……」


そう言いかけたところで、エスメラルダの笑みが深くなった。


「いいえ。王家に連なる者として、当然のことですわ」


「……どうも」


エスメラルダは優雅に一礼すると、去り際にもう一度こちらを見た。


「これからもどうぞ、よろしくお願いいたします」


その声は、最後まで柔らかかった。


けれど、妙に冷たい。

冷たいというか……圧がすごい。


……これからも?


俺は思わず、ぽつりと呟いた。


「あれが、悪役令嬢……」


「旦那様、聞こえるわよ」


隣にいたバーデンに肘打ちされた。


二度目の人生。

しかも、おっさんになってから。


悪役令嬢と顔を合わせる羽目になるとは思わなかった。

黒鹿毛の馬「皆……俺に注目してやがる。俺のたてがみの美しさに、酔いな!」

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― 新着の感想 ―
正直王宮で出されるもの全部に毒があると思って問題ないレベルだよなあ
鐙「踏んで! もっとしっかり!」
バルドさんの弓無双、今回も健在ですね。臨場感あります。 しかし、ヴィクトルさんが場や流れを掌握していきますなあ。
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