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汝、我の敵なりや ~その女、神喰らいの魔神につき~  作者: 隣野ゴロー


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第五話 プロローグ

エルゼのこと、この世界のこと……説明回です。

 かつて、この世界には神が人々と共に暮らしていた。ここは神より与えられた超常の力、魔法を操る者たちが生きる並行世界――別次元の地球である。


 事の始まりは、人類が誕生するより遥か昔に(さかのぼ)る。


 神は当初、自らが生み出した生命たちと共に平穏な楽園で暮らしていた――もっとも、そこに広がるのは、残酷な弱肉強食が支配する野生の世界である。


 そこでは来る日も来る日も、無機質な生と死の営みが繰り広げられていた。


 そんな日々が数万年も続いた頃。ただ一人、知恵を持つ存在である神は、変化のない退屈な世界に心底うんざりしていた。


 そこで神は、世界に”変化”と”物語”を生み出す存在として”人間”を創り出す。


 彼らは自ら文明を築き、社会生活を営むことによって、様々なドラマを(つむ)いでみせた。


 悠久の時と試行錯誤の果てに生み出された、知的生命体という特別な生物。神は、己の分身とも言うべき彼らを深く愛した。


 だからこそ――彼らがこの残酷な弱肉強食の世界を生き抜き、万物を統べる支配種となるための力として、神の権能の一部を”魔法”という形で分け与えたのだ。


 続いて神は、暴走を防ぎ、人間の社会に秩序をもたらすため、個々に運命(さだめ)を与えて徹底的に管理した。


 人は皆、生まれながらに一つの職を定められ、その道を歩んで生涯を終える。作物を育てる者は農夫、鉄を打つ者は鍛冶師、武をもって驚異に対抗する者は戦士、といった具合である。


 神が示す道を歩めば、誰もが平穏な一生を全うできる。衣食住は保障され、安全すらも担保された箱庭の世界。


 かくして、全てが満たされた完全なる平和の中で、絵画や演劇、音楽に小説といった”文化”が次々と花開いた。神もまた、人々が生み出すそれらに触れ、時代と共に洗練されていく高い芸術性に感嘆する。


 彼らの人生を垣間見て、人と共に街での生活を楽しむ。神は何と、男女の交際すら経験したのだ。


 だが、人が豊かになればなるほど、ある感情が静かに、確実に心を蝕み始める。


 それは――“退屈”である。


 飢えも争いもない安定した日々。平穏で平等な暮らしを、退屈という毒が静かに蝕んでいく。


「もっと豊かに」

「もっと自由に」

「自分だけが特別な存在でありたい」


 ――(ふく)れ上がる欲望、好奇心、そして自尊心。


 それは、神に与えられた”社会の一員”としての生き方ではなく、”個”としての在り方を渇望する声だった。


 神の定めた秩序に従うのではなく、自分自身の意志で運命を選びたいと願う反逆者たち。その思想の芽はやがて大きなうねりとなり、神の世を讃える者たちとの間で、決して埋めることのできない亀裂を生んだ。


 神は、自由を求めて秩序に背を向けた者たちを、魔に魅入られた存在――『魔人』と名付け、神を讃える者たちは、彼らを迫害した。


 対立と分断が広がり、そしてついに――人と人とが、互いの血を流しながら争い始めた。


 こうして始まったのが”神魔大戦”である。


 最初は小規模な暴動にすぎなかった。だが、反逆の炎は瞬く間に世界へ広がり、神からの自立を掲げる魔人勢力は、ついに神の支持者を数で凌駕するに至る。


 その時、彼らが求めたものは、もはや箱庭の片隅で得るちっぽけな自由などではなかった。


 ――神そのものを玉座から引きずり下ろし、世界の支配構造を根底から覆すこと。


 自らの運命を自分自身で決めるその思想を、人は『人民主権』と呼んだのである。


 その悲願を果たすため、人々は極限まで進化した魔法技術と高度な医術を掛け合わせた。目指したのは、人の限界を超える戦士――すなわち、闘争のみに最適化された”生物兵器”の創造である。


 魔法戦士、強化歩兵、異なる生物同士を掛け合わせた合成獣キメラ


 生命(いのち)(ことわり)すらもねじ曲げて生み出された異形の人工生命が、次々と神との戦いに投じられていく。


 だが――それほどの禁忌を犯してなお、神を打ち倒すには至らない。


 それどころか、傍観者として世界を見つめる神を、争いの舞台に立たせることすらできずにいたのだ。


 神との絶望的な戦いが三百年ほど続いたころ。数えきれないほどの犠牲の果てに、ついに“神をも殺す存在”が誕生する。


 魔法研究によって確立された高度な魔法工学。生命に対する理解と操作を極限まで押し広げた、先進的な生物工学。そして、その禁忌の融合を破綻なく肉体に定着させ、完全な兵器としての運用を可能にした医療科学。


 ――これら三つの叡智が結集し、生み出された究極の人造神。


 その名は、『エルゼリナ・ブラットフォルム・シュヴァルツリート』。


 彼女は、ただ神を殺すためだけに造り上げられた完璧な兵器であった。その身に宿す無尽蔵の魔力と、死者の魂を喰らうことで強くなる能力——ソウルイーター。


 生をうけてからの八十年、幾千万(いくせんまん)の魂を喰らい続けた果てに――彼女はついに、悲願たる“神殺し”を成し遂げた。


 だが、彼女自身も深手を負い、底知れぬ眠りへと落ちていく。


 いつか再び、神が顕現するその日に備えて――魔人たちは眠れる彼女を、深く静かに封印したのである。




 しかして――神を打ち倒し、待望の”神なき時代”が訪れてもなお、人間の争いが終わることはなかった。


 人が人らしく生きるための自由な社会。それは同時に、過酷な競争を強いる、才能の有無が絶対的な格差を生む残酷な世界であった。


 恵まれたエリートが富を独占する一方で、持たざる凡人は貧困にあえぐ。


 その差を埋めるべく、才能主義の極致たる魔法に対抗し、凡庸なる人々は新たな力――”科学”を発展させた。


 そして行き着いたのが、凡人の執念が生み出した究極兵器。魔法文明すら瞬時に焼き尽くす終末の炎、核兵器である。


 相互確証破壊。


 互いに破滅をもたらす武力を持ち合い、争えば共に滅びる結末のみが残る、狂気の平和。


 核による恐怖の均衡は、一時的な平和を生む。しかし、過酷な自由に疲弊した人々は、やがて管理社会への回帰を模索し始めた。誰もが平等に生きられる社会――国家による徹底的な管理統制、共生主義とよばれる新たな概念。


 しかし、神ならざる者が管理する社会構造は、必然として独裁者を生む。結果、とある独裁者の暴走が、大国間の全面戦争を招いた……そして際限のない核の応酬により、栄華を極めた文明は残らず灰燼に帰したのだ。


 わずかに生き延びた人々は、残された魔法の知識を頼りに……焦土と化した野生の中で、細々と命を繋ぐこととなる。


 ――それから幾世代もの時を重ねて。


 人類はふたたび、かつて中世と呼ばれた頃の繁栄を、この大地に取り戻しつつあった。


 

 ***



 封印の一族――


 エルゼリナ・ブラットフォルム・シュヴァルツリートの封印を守るために創られた、人口生命体の血を継ぐ一族。この一族はエルゼリナを生み出したのと同じ技術によって設計された。


 神殺しのような力はないものの、常人よりも遥かに濃密な魔力を宿し、肉体は身体強化術との親和性に優れた構造をしていた。彼らは辺境の地へと送り込まれ、外界との関わりを断ち、封印の祠を守る守人として前時代的な生活を強いられていた。


 人里離れた秘境の奥地に、ひっそりと根を下ろした特殊な少数民族。その土地は辺境にあったがゆえに核戦争の直接的な被害を免れ、続く気候変動にもその肉体の強靭さに依って耐え抜いた。


 そうして幾世代もの間、変わらぬ暮らしが静かに続く。


 悠久の中で子孫へと伝えるべき口伝は失われ、伝承は風化していった。自らの存在意義、そして封印の意味を知る者は――今や、誰ひとりとして残っていない。


 ――そして、封印からおよそ二千年。


 解放の条件である”封印の一族の血”と”魔力”が同時に注がれたのは、皮肉にもただの偶然に過ぎなかった。


 長い沈黙から目覚めたエルゼリナは、もはやかつての生物兵器ではなかった。神を屠った瞬間、その神性の一部が彼女と同化し、魂を喰らったことで人造神から本物の神――亜神へと存在を昇華させていたのである。


 この日、この場所に顕現したのは、人を容易く滅ぼしうる暴力の化身にして、神の力をも取り込んだ新たな神。果たして彼女は人類の守護者となるのか。あるいは、人類を裁く断罪者となるのか……。


 ただひとつだけ確かなことは――彼女の傍らに、ひとりの幼子がいるということ。


 フィーネ。封印の一族の最後の生き残り。今は何の力も持たぬ四歳の娘。


 この幼子の成長が、その生き様が、世界の行く末を決める。


 神を斃した亜神と、か弱き幼子。二人の旅の果てにいかなる物語が待ち受けているのか。


 ――それを知る者は、まだ誰もいない。

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