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生徒会が機能しなくなったので、私は一般生徒に戻ります!  作者: 木曜日午前
『馬に蹴られたくなくば立ち去れい!!作戦』
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02

「そんな作戦できるかあああああ!!」


「まあまあ、お互い利害一致するんだからいいじゃねーか」


「そういう問題じゃないっつーの!!そんな作戦決行してみろ、そのあとの説明がたいへんじゃんか!!」


「えー、ちょうどいいと思うんだけどな」

「馬鹿だ!馬鹿すぎる!!絶対に拒否する!!」



 伊織の胸ぐらを掴み、ガンガン揺らすが本人はどこ吹く風、ニヤニヤしながらこちらの反応を楽しんでいる。

 お前が何故か少女漫画を書かないかと打診されてしまい、悩んでいたことは知っていた。だけど、行き詰まったからって、この作戦は流石にあり得ない。

 下手したら、今後の学生生活まで賭けるはめになってしまう。

 それほどに伊織から提案された『馬に蹴られたくなくば立ち去れい!!作戦』は、想像を遥かに越えた作戦だった。


「くっそ頭が沸き上がったバカップルを演じればいいだけだぞ?しかも、熱りが冷めるまでだしさ」

「それが問題だ、この二次元厨が!!どっかで息が詰まりながら砂吐くような少女漫画でも読んだのかぁ!?さったさと帰れ!!てめぇの次元に帰りやがれくずが!!」

「ははは、まあ、落ち着けってーの」


 落ち着いてられるか、これが。

 伊織から提案された『馬に蹴られたくなくば立ち去れい!!作戦』というものは、私としてはとんでもない作戦だった。


 そう、人前で、砂どころか内蔵まで吐き出しそうになるような台詞を、伊織と二人で言い合わなければならない。しかも、イチャイチャしながらだ。


 お互いに恋人はいないし、私的にはこれからもこんな学校で恋愛する気も更々ない。

 由緒正しいお金持ちとの結婚とか、息の詰まる生活になりそうだ。

 伊織もイケメンならではという感じには恋には苦労したらしい。恋人は専ら二次元の向こう側の子、しかもDT(童貞)らしい。


 まあ、だとしても、だ。

 この作戦を決行すれば、やっと手に入れた自由を当分手放すことになる。四六時中この漫画馬鹿と一緒に過ごさなければならないのだ。別にイチャイチャするのは漫画の資料のためとかで、写真を使い伊織と生きたデッサン人形みたいなことをしてるせいか、別に嬉しくも恥ずかしくも気持ち悪くも痒くもなんともない。

 それに、自由になろうがならまいが、ほぼ毎日のように伊織と会うとは思うけども。


 けど、それを漫研の奴ら以外の前でやるのが問題だ。


 なにせ、四六時中なんてしたら、私の……


 腹筋が壊れてしまうからだ。


 伊織もだが台詞の読み合わせをしたり、イチャイチャシーンを撮ったりするとき、終わった瞬間爆発したように笑いだしてしまうのだ。


 そこまで展開が読めている。

 イチャイチャして、気を抜いたら爆笑。見ている人達には、どういうことか説明しろと詰め寄られるのが想像ついてしまう。


「大丈夫だ、アフターフォローまでつけてやるからよ。恋人ごっこ付き合えっつーの」

「……しかたねぇな、期待しててやるよ」


「よし、きた。そうでなくちゃ」


 仕方ないので、身体をしっかりと密着させるように抱きつく。伊織もわかってるのか腰に腕を回し、ひしっと抱き締める。

 この光景を誰か見てくれれば、私たちが恋人(ごっこ)だというだと思ってしまうだろう。長い間抱き締めることにより、愛の初々しさに逃げていくだろう。

 実際、テニス部から出てきた女の子は私達をまじまじ見たあと走って逃げていく。


 思えば、あの子入ってくとこ見てなかったけど、野球部の子のあとに入ったのか……?

 しかし、そろそろ沈黙も辛いので、耳元で囁くように話しかける。私が自然と嬉しい顔になるような話題を。


「ダーリン、お金寄越すっちゃ」

「ははは、出直しておくれよハニー」

「いおりん、ご飯おごってぇ」

「このりんったら、食べたらまた肥るよん」

「あなた、お金かして無期限で」

「それしか言うことがないのかい、お前」


「じゃあ、おごってよ伊織」

「……わかったよ、木芽」


 名前で呼ぶと、仕方なしという感じで驕る約束をしてくれた。学校近くの喫茶店で、今まで二人で全身全霊かけて拒否していたカップル専用ビックベリーパフェを食べよう。

 あそこは学校帰りの寄り道スポットで、一度寄れば多くの人に目撃される。


 コーヒーは美味しいけど、カップル専用メニューがあって、なかなか寄りづらかったのだけど、この際とことん使ってやる。


 ……色気がないのわかってるけども、これが二人の在り方だ。




 翌日、私は胸焼けを抱えて登校するはめになった。くっそ、あの店長、「やっと……やっとか!!」とか言って、生クリーム溢れるほど乗せやがって。うえっ、やっとってなんだよ、大きなお世話だよ、うっ。


 可愛い大きなパフェが巨悪としてやって来たときは、伊織と二人初めての挫折に見舞われた。しかも、サービスにハニートースト。いらねぇ、まじいらねぇ。


 しかし、残すことを嫌う私たちは全部平らげた。


 家の夕飯が朝飯へと変身したけども。


 整腸剤を飲み、胸焼けを堪えつつ、伊織の家に向かう。


 普通は逆だって?あの伊織が私より早くに起きれる訳がない。今だって良くてシャワー浴びてる最中だろう。

 マンションのインターホンを鳴らせば、ドッタンバッタン音がした後「木芽か?!」と叫ぶような声がする。


「そうだよ!!」

「すまん、入ってくれ!!」


 ドアを開ければ、そこには相変わらず何もない部屋だった。

 ただ、そこで仁王立ちしている全裸の男を除けばだったが。


「着ろ」

「ラッキースケベポイントだぞっ!」

「何も感じねぇからさっさと着ろ」

「はーい……」


 漫画ばっか書いてるくせに引き締まった身体しやがって、嫌みかコノヤロウ。どうせストレスで体重激増して、体重計乗れないわよ。ああ、朝から胸くそ悪いったらありゃしないわ。


 ささっと学生服に着替えている馬鹿を眺めながら、あんな作戦成功するのかなと今更ながら不安になってきてしまう。


 着替え終わり何故かこんがり焼けたトーストを咥えた状態で靴を履こうとしたアホを張り倒し、さらに一層その不安が増すのはあと数分後のことだった。





いちゃいちゃしてんじゃねー!!と言いたいのに、一切甘さがなくて何も言えない作者であった。

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