1 祝いの茶会
王宮舞踏会から数日後。
別れを惜しむはずだったエリーゼのお茶会は、いつしかエルナのドレスと、その夜の出来事で持ちきりになっていた。
馬車の中でルシアンと何を話したのか。
四人に囲まれた以上、白状させられるのは時間の問題だった。
頬を真っ赤に染めたエルナを前に、シャルロットは身を乗り出す。
「――それで、その後はどうなりましたの!?」
きらきらと瞳を輝かせたかと思えば、さらに畳みかける。
「キスは!? キスはなさったのですか!?」
エリーゼの庭園に、弾んだ声が響き渡る。
「シャール……」
助けを求めるようにエルナは視線を巡らせる。
けれど、エリーゼは果実水を口元へ運びながら穏やかに微笑み、オリヴィアは面白そうに口元を隠し、クレアはすでに手帳を開いている。
誰一人として止める気配はなかった。
(皆様まで……)
エルナは小さく肩を落とす。
あの夜を思い出しただけで、今でも胸の鼓動は早くなる。
交わした言葉の一つひとつが、今も鮮やかによみがえる。
きっと、一生忘れることはないだろう。
――だからこそ。
あの夜のすべてを、自分だけの宝物にしておきたかった。
エルナは恥ずかしそうに俯き、小さな声で答える。
「……『式の日取りを決めようか』と、おっしゃってくださいました」
「きゃあっ!」
シャルロットが両手で口元を押さえ、ぱっと頬を染める。
オリヴィアは満足そうに目を細め、クレアは慣れた手つきで手帳へ書き留める。
そしてエリーゼは、誰よりも優しい笑みを浮かべていた。
好奇心を満たしたシャルロットは、ふとエリーゼの手元へ目を向けた。
「お義姉様、最近は果実水ばかりですのね」
以前は、いつも香り高い紅茶を楽しんでいたはずだ。
そういえば、このところ紅茶を口にしている姿を見ていない。
何気ないひと言だった。
けれど、その瞬間。オリヴィアとクレアが、ぴたりと動きを止める。
二人はそっと顔を見合わせた。
(もしかして……)
(まさか……)
シャルロットの瞳が、ぱっと輝く。
「お義姉様、もしかして……っ!」
言いかけたところで、
「痛っ!」
テーブルの下から、オリヴィアの靴先が軽くシャルロットの足を踏んだ。
シャルロットが目を丸くすると、オリヴィアは人差し指を唇へ添え、小さく首を横へ振る。
その隣では、クレアが何事もなかったかのように手帳を閉じ、静かに紅茶へ口をつけていた。
「……?」
状況が分からず首を傾げるエルナは、にこりと微笑む。
「エリーゼ殿下も、果実水がお好きなのですね」
そのあまりにも真っ直ぐな一言に。
「…………」
四人は一斉にエルナを見つめた。
当の本人だけが、不思議そうに小首を傾げている。
やがて。
ぷっ、と最初に吹き出したのはシャルロットだった。
「ふふっ……エルナ様らしいですわ!」
その笑いにつられるように、オリヴィアも肩を震わせる。
「ええ。本当に敵いませんわね」
クレアはくすりと笑いながら手帳を閉じる。
「今日も記録することが増えてしまいました」
そしてエリーゼは、愛おしそうにエルナを見つめながら穏やかに微笑んだ。
「そのままのエルナ様でいてくださいませ」
「……?」
理由の分からないまま首を傾げるエルナを見て、一同の笑い声が庭園いっぱいに広がった。




