王都編2-4 幼馴染の再会
王宮の執務室で書類に目を通していたルシアンは、突然やって来た幼馴染二人を見て、嫌な予感を覚えた。
「今日の会議は、もう終えたはずですが?」
視線を向けると、レオンハルトが執務机越しにルシアンを見やる。
「リゼとシャールから聞いたんだが、お前、ずいぶんまめに手紙を送り合っていたそうだな」
隣でジークも頷く。
――また、あのお茶会か。
ルシアンは小さく眉をひそめた。
「さすがに四、五日に一通は多すぎるだろう」
「そうか?」
平然と返され、今度はレオンハルトが眉をひそめる。
「返事が来る前に、次の手紙を書いてないか?」
「内容が違うから別だ」
「そういう問題じゃない」
二人のやり取りに、ジークが苦笑する。
「どうせ待てなかったんでしょう?」
「待った」
「待ったうちに入りません。私は手紙が届いてから返事を書きました」
ジークの言葉に、ルシアンは小さく鼻を鳴らした。
「冬は雪で伝令が遅れるんだ」
「遅れるだけで、送っていたのですか」
思わず声を上げるジークへ、ルシアンは当然と言わんばかりに頷く。
「もちろんだ」
「……重症だな」
「そこは同感です」
レオンハルトとジークは顔を見合わせた。
ここまで想いを行動に移しておきながら、当の本人は何一つ自覚がなく、肝心の関係もまるで進展していない。
頭が痛くなる。
「その熱量、エルナ嬢には伝わっているのか?」
「伝わっている。エルナも毎回返事をくれていた」
それは、婚約者だから合わせてくれていただけではないだろうか。
「伝わってない」
「……それは、伝わっているとは言いません」
声を揃えた二人に、ルシアンは不思議そうに首を傾げた。
「……?」
その反応に、二人は揃ってため息をつく。
「……ところで、レオン」
「どうした?」
空気を変えるように、ルシアンが口を開いた。
「最近、仕事量が減った気がする。秘書官に何か指示を出したのか?」
以前は一つ仕事を終えるたび、新たな書類が積み上げられていた。
だが、冬の間に滞っていた案件を片付けて以降は、秘書官は「本日は以上です」と首を横に振るようになった。それでも翌朝になれば、執務机の上には新たな書類の山がきちんと用意されている。
やはり気付いたか、とレオンハルトは苦笑した。
「社交シーズンだからな。閉門まで文官たちを執務室へ縛り付けるわけにはいかない。秘書官に命じて、一日の仕事量を調整させている」
文官の多くは貴族の子弟でもある。
冬のような働き詰めを繰り返させるわけにはいかないし、社交シーズン中はなおさらだった。
隣に控えていた秘書官が、静かに一礼する。
「そうか」
あっさりと納得したルシアンに、レオンハルトは釘を刺した。
「婚約者を待たせるのも感心しない。さっさと帰れ」
「たしかに」
ルシアンは素直に頷き、手元の書類を秘書官へ差し出した。
「今日はこれ以外にあるか?」
「ございません」
返事を聞くなり、ルシアンは手早く指示を書き込み、完成した書類を秘書官へ渡す。
そして迷いなく立ち上がった。
「帰る」
「かしこまりました」
言うべきことだけを言い残し、ルシアンは執務室を後にする。
その後ろ姿を見送りながら、レオンハルトとジークは顔を見合わせた。
「私もシャールに会いに行ってもよろしいでしょうか?」
「今ごろリゼと一緒に客人の相手をしている。騎士団の演習が終わってからにしろ」
「承知いたしました、殿下」
そう答えるジークは、ちっとも残念そうには見えない。
その様子に、レオンハルトは呆れたように肩をすくめた。




