王都編2-3 茶会での再会
エリーゼのお茶会は、今年もいつもの庭園で催されていた。
エルナが庭園へ足を踏み入れると、すでに皆席についている。
「皆様、ごきげんよう。お久しぶりです」
穏やかに微笑むエリーゼ。期待に瞳を輝かせるシャルロット。口元に笑みを浮かべるオリヴィア。そして、手帳とペンを準備したクレア。
挨拶を交わし、香り高い紅茶が行き渡ると、主催のエリーゼが静かに口を開いた。
「冬の間は、それぞれ大変だったことでしょう。今日は皆さんがどのように過ごしていたのか、お話ししましょう」
その言葉を待っていたかのように、シャルロットが勢いよく身を乗り出す。
「エルナ様は冬の間、公爵領に滞在されていたと伺いましたわ! ぜひ、お話を聞かせてくださいませ!」
「殿下こそ、アイゼンベルク公爵領のために王都で奔走されたと伺いましたが?」
オリヴィアがそう尋ねると、シャルロットは首を横に振る。
「私のことは後です。今はエルナですわ」
クレアはすかさずペンを持ち直し、エリーゼは「どうぞ」と促すように紅茶へ口をつけた。
「秋はルシアン様とお手紙のやり取りをしていたのですが、公爵夫人から招待状が届きまして……」
「私もジーク様と文通をいたしましたわ!」
嬉しそうに頷くシャルロットへ、クレアが間髪入れず尋ねる。
「ちなみに、どのくらいの頻度でしたの?」
「ルシアン様は筆まめなようで、秋の間は四、五日に一通はくださいました」
その瞬間、お茶会の空気がぴたりと止まる。
「四、五日に……一通ですの?」
「はい」
エルナは不思議そうに瞬きをした。
「毎週届くだけでも多いと思っておりましたのに……」
シャルロットが遠い目をする。
「そうなのですか?」
きょとんと首を傾げるエルナを見て、オリヴィアは堪えきれないように口元を緩めた。
「そういえば今年の秋、公爵領と辺境伯領の間を伝令の早馬が頻繁に行き来していた、と耳にしましたわ」
クレアが情報通らしく付け加える。
「あら、そう」
エリーゼが続きを促すように微笑むと、エルナは何の疑いもなく話を続けた。
「雪が降ってからは頻度も減ってしまいましたが、その頃に公爵夫人から、新年の行事が終わったら夫人教育のため公爵領へいらっしゃい、とお招きいただいたのです」
「……本当に、それだけかしら」
ぽつりと漏らしたオリヴィアの言葉に、誰もが心の中で深く頷く。
夫人教育。それも理由の一つではあるだろう。
けれど、それだけで公爵夫人が冬の公爵領へ婚約者を呼ぶとは、とても思えなかった。
皆の脳裏には、同じ銀髪の青年が浮かぶ。
当のエルナだけが、何一つ疑うことなく紅茶へ口をつけていた。
◇ ◇ ◇
その後も、それぞれの領地での出来事や王都での話に花が咲き、気付けばあっという間に時間が過ぎていた。
エルナが退席し、その姿が見えなくなると、オリヴィアが静かに口を開く。
「……視察中に、何かありましたわね」
公爵領での日々について、エルナが語ったのは公爵夫人との視察や夫人教育のことばかり。
最後に婚約者との視察にも触れていたものの、その話しぶりはどこか淡々としていた。
「でも、お二人が喧嘩をしたようには見えませんでしたわ」
シャルロットが首を傾げる。
「昨日だって、ルシアン公子はずっとエルナ様をご覧になっていましたもの」
青年貴族や各家の当主たちに囲まれながらも、折に触れてエルナの姿を目で追っていたことを、シャルロットはしっかり見ていた。
クレアは手の中でペンをくるりと回し、静かに言う。
「話したくないのでしたら、無理に聞かなくてもよろしいのではありませんか」
「そうね」
エリーゼも穏やかに頷いた。
「本人が話してくれる時を待ちましょう」
社交シーズンは、まだ始まったばかり。
「その頃には、何か進展があるかもしれませんよ」
その一言に、シャルロットはぱっと瞳を輝かせる。
オリヴィアは意味ありげに微笑み、クレアは眼鏡をそっと押し上げた。




