↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
17/70

王都編1-16 恋路

 王宮にあるルシアンの執務室には、今日も招いていない客人が訪れていた。


「一時期はどうなることかと思ったが、エルナ嬢もすっかり社交に慣れてきたな」


 レオンハルトがそう言うと、隣に立つジークも小さく頷いた。


「変な噂もありますけどね」


 白い結婚の婚約者から始まり、ハルトマン伯爵家の茶会では、当事者を前に善意と正論で押し切った――。


 その一件から、「辺境伯令嬢の前では、どんな結び目も両断される」などという噂まで流れ始めた。


 最近では、それを面白がった令息たちの間で、『北境の天秤』などという異名まで囁かれているらしい。


 噂の一人歩きも甚だしい。


「実際のところ、どうなんだ?」


 レオンハルトに問われたルシアンは、少し考えてから、大真面目な表情で口を開いた。


「エルナは他の令嬢よりも素直で優しいんだ」


「……だろうな」


「そういう話ではありませんよ」


 二人から同時に返され、ルシアンは僅かに眉を寄せた。


「事実だろう?」


「事実でしょうね」


 ジークは苦笑しながら頷いた。


「ところで、ルシアン」


 レオンハルトが話題を変える。


「おまえ、肝心のエルナ嬢とはどうなんだ?」


「どう、とは?」


 ルシアンが首を傾げた。


「社交シーズンに毎日律儀に朝から仕事をしてくれるのはありがたいんだが……たまにはエルナ嬢と出かけたりしないのか?」


「毎日辺境伯邸で会っているが?」


 さらに首を傾げるルシアンを見て、レオンハルトとジークは顔を見合わせた。


「……ルシアン」


「何だ?」


「レオンは、せっかくエルナ嬢がデビュタントをして王都にいるのですから、二人でどこかへ出かけたりしないのか、と聞きたいのですよ」


 ジークが噛み砕いて説明する。


「社交のために会うのではなく、二人で過ごすために出かける、という意味です」


「……考えたこともなかった」


 煙水晶の眼鏡の奥で、青い瞳が瞬いた。


「…………」


「…………」


 二人の間に、何とも言えない沈黙が落ちる。


「おまえな……」


 レオンハルトが額を押さえる。


「エルナ嬢はデビュタントしたばかりなんだぞ。王都にはいくらでも二人で行ける場所があるだろう」


「例えば?」


 そんな視点で王都を見たことなどな

かった。


「それを俺たちに聞くな」


「ジーク」


「私に振らないでください」


「そういうところだ」


 レオンハルトが呆れたように息を吐いた。


「エルナ嬢の好みは、とっくに把握しているだろう? 彼女が喜びそうな所へ連れて行ってやれ」


「なるほど」


 確かに毎日会ってはいるが、お互い予定の合間を縫って、少し顔を合わせるだけだ。


 以前、一人で買い物へ行ったと聞いたが、その後、どこかへ出かけたという話は聞いていない。


 そろそろ息抜きがあってもいいかもしれない。


 頷いたルシアンは、真剣に候補を考え始めた。


 王都の外は、移動がエルナの負担になるかもしれない。


 買い物も、必要なものは既に揃えている。流行の菓子も、話題になるたびに贈っている。


 図書館や庭園、食事では、公爵邸で過ごす時間とそう変わらない。


 騎士団の演習――は、辺境伯領で見慣れているだろう。


「ルシアン? 話を聞いていたか?」


「聞いていませんね」


 レオンハルトとジークの呆れた声は、すでにルシアンの耳には届いていなかった。


 エルナが喜びそうなものは何か。


 王都にいて、負担が少なく、普段とは違う時間を過ごせるもの。


 ルシアンは頭の中でいくつもの候補を並べ、ひとつずつ消していく。


 やがて、ひとつの場所に目星をつけると、ようやく顔を上げた。


 その頃には、執務室にいたはずのレオンハルトとジークの姿は、すっかり消えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。