第三章 リビングのピクニック
休日の正午。遮光カーテンが半分だけ開けられたリビングの中央には、赤と白のチェック柄をしたレジャーシートが広げられていた。
傍らには大きな観葉植物の鉢植えが移動させられ、ささやかな自然を演出している。
「パパ、いいお天気ね。ピクニック日和だわ」
「そうだね、ママ。お弁当、すごく楽しみだよ」
俺たちはシートの上に靴下のまま向かい合って座り、水筒とお揃いのプラスチックコップを並べた。
理沙の膝の上には、可愛らしいウサギの柄が描かれた三段重のお弁当箱が置かれている。蓋を開けると、色とりどりのおかずが隙間なく詰め込まれていた。
海苔でニコニコ笑う顔が描かれた小さなおにぎり。甘い出汁巻き卵。そして、真っ赤なタコさんウインナー。
子供の頃に誰もが憧れた、完璧なピクニックのお弁当だ。
「まずは、タコさんウインナーからね。パパのお口に向かって、出発進行!」
理沙は黄色の星型ピックで赤いウインナーを刺すと、宙を泳がせるように揺らし、そして迷いなく自分の口の中へと放り込んだ。
プチッ。
薄い皮が弾ける小気味良い音が響く。
クチャ、クチャ……ネチャァ。
理沙が顎を動かし始めると、その音はすぐに暴力的なまでの水音へと変わった。
赤い皮とひき肉が奥歯ですり潰され、彼女の大量の唾液と混ざり合っていく。理沙は目を閉じ、首を小さく振りながら、ウインナーが完全に液状になるまで執拗に噛み続けた。
ジュプ……クチャクチャ……ネチャ。
油分と唾液が乳化し、ドロドロのペーストが口内で粘り気を帯びていく音が、静かなリビングに響き渡る。
「……ん。あーんして、パパ」
理沙の唇の端から、薄いピンク色に濁ったペーストが微かに覗いている。
「あーん」
俺が口を開けると、理沙がシートの上に四つん這いになるようにして身を乗り出し、俺の唇を深く塞いだ。
チュッ……ドロォ……。
ウインナーの燻製の香りと、油の甘み、そして理沙の生温かい唾液が混ざり合った泥が、俺の舌の上に流れ込んでくる。
ジュルル……グチュ、ネチャァ。
理沙の舌が、俺の口内をくまなく這い回る。彼女は一度にすべてを流し込むのではなく、少しずつ、少しずつ俺の喉の奥へと泥を押し込んでくる。
息継ぎのためにわずかに唇が離れる。銀色の糸が引き、すぐにまた塞がれる。
チュポ……ジュル……クチュクチュ。
「ん……チュル……」
俺の口の中はすでにペーストでいっぱいだったが、理沙はさらに舌を深くねじ込み、自分の唾液を分泌して俺の喉の奥へとウインナーの残骸を押し流そうとする。
苦しい。息ができない。俺は鼻からフンッ、フンッと荒い息を漏らすが、理沙は俺が完全に飲み下すまで絶対に唇を離そうとしない。
永遠にも感じられる長い口移しの末、ようやく俺の喉が動き、大きな塊を飲み込んだ。
ゴクリ。
「美味しい? お外で食べると、いつもより美味しく感じるわよね」
理沙は唇を離し、恍惚とした表情で微笑んだ。ここは密室のマンションの一室だが、彼女の中ではここは木漏れ日の降る公園なのだ。
「ああ、すごく美味しいよ。タコさんウインナー、最高だ」
俺は息を整えながら、胃に落ちた生温かい塊の重みを感じていた。
「よかった。じゃあ次は、おにぎりさんね」
理沙はお弁当箱から、海苔で顔が描かれた一口サイズのおにぎりを指でつまみ上げた。そして、それを丸ごと自分の口に押し込んだ。
モチャ……クチャ、ネチャ……ジュルル。
米粒という水分を吸いやすい食材をペーストにするため、理沙は普段以上に大量の唾液を出しているようだった。
クチャクチャ、クチャクチャ……。
炊き立ての米が唾液と混ざり合い、濃厚な糊のような状態に変わっていく。海苔が千切れ、米と一体化して黒っぽい泥へと変貌していく音が、俺の鼓膜を執拗に叩き続ける。
十分以上の長い咀嚼の末、理沙の両頬がパンパンに膨らみ、準備が完了したことを告げた。
彼女は再び四つん這いになり、俺の顔にゆっくりと近づいてくる。
傍らに置かれた観葉植物の影が彼女の顔に落ち、その完璧で愛情深い笑顔を不気味に縁取っていた。
「パパ、大きなお口開けて。あーん」
俺は、これから口内に注ぎ込まれる生温かい糊の感触を想像し、小さく喉を鳴らしてから、雛鳥のように大きく口を開けた。




