表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/5

第二章 午後のお茶会

休日の昼下がり。暖かな日差しが差し込むリビングのテーブルには、美しい午後のティータイムがセットされていた。


純白のレースが敷かれたテーブルの中央には、アンティーク調のティーポット。その両脇には、繊細な花の模様が描かれた二客のティーカップと、お揃いのケーキ皿が並んでいる。皿の上に乗っているのは、粉砂糖が雪のようにふりかけられた、可愛らしいモンブランだ。

カップからは、淹れたてのアールグレイの華やかな香りが湯気と共に立ち上っている。


「パパ、今日のおやつはパパの大好きなモンブランよ」

「わあ、美味しそう。ママ、ありがとう」


俺たちはダイニングチェアに向かい合って座り、絵本の中の理想の家族のように微笑み合った。完璧にセットされた、美しいおままごとの舞台だ。

理沙は優雅な手つきで小さなシルバーのフォークを手に取ると、モンブランの山の頂上をたっぷりのマロンクリームごとすくい取った。

そして彼女は、それを俺の皿に取り分けるでもなく、迷わず自身の口の中へと放り込んだ。


サクッ。

土台になっているメレンゲが、理沙の歯で砕かれる軽やかな音が響く。


サクッ、ボリッ……クチャ、ネチャ。

最初は乾いていた焼き菓子の音が、理沙の口内で大量の唾液と混ざり合うことで、すぐにひどく粘り気のある水音へと変わっていった。

クチャクチャ、ネチャァ……ジュプ。

濃厚な栗のペーストと生クリームが、理沙の舌の上で練り上げられていく。彼女は目を細め、頬を小さく膨らませながら、ケーキが完全にドロドロの流動食になるまで執拗に咀嚼を続けた。


「……ん、クチュ……」

十分なペースト状になったことを確認すると、理沙はフォークをカチャリと皿に置き、テーブルから身を乗り出して俺の顔に近づいてきた。


「はい、パパ。あーんして」

「あーん」


俺が口を開けると、理沙の顔が目の前に迫り、躊躇いなく唇が塞がれた。

チュッ……ドロォ……。

俺の口内に、生温かい泥のような物体が流れ込んでくる。

モンブランの強烈な甘みと、理沙の体温と同じ温度になった唾液。それらが完全に一体となったドロドロの塊が、彼女の舌によって俺の口の奥へと押し込まれてきた。


ジュプ……チュルル、ネチャァ。

理沙の舌が、俺の口内の粘膜にへばりつくように這い回る。モンブランのペーストは粘度が高く、喉の奥にへばりついてなかなか飲み込むことができない。

理沙はそれに気づくと、一度唇を離した。

銀色の糸が二人の間で細く伸び、ツーッと音を立てて切れる。


「待っててね、ママがお茶と一緒に流し込んであげるから」


理沙はそう言うと、テーブルの上の美しいティーカップを両手で持ち上げた。

上品に一口、アールグレイを口に含む。しかし彼女はそれを飲み込まず、両頬をリスのように膨らませた。


ジュルル……グチュ、クチュクチュ……。

理沙は口内に含んだ熱い紅茶を、自分の口の中に残っていたケーキの欠片や唾液と念入りに混ぜ合わせるように、グチュグチュと音を立てて濯ぎ始めた。

うがいをするような、あるいは口内を洗浄するようなその水音が、静かなリビングに異様に響き渡る。


「……んっ」

理沙は再び身を乗り出し、俺の唇を塞いだ。


チュポ……ジュルルルルッ。

今度は固形物ではなく、生温かい液体が俺の口内に注ぎ込まれた。

アールグレイの高貴な香りと、理沙の唾液の匂い、そして溶け出したモンブランの甘ったるい味が混ざり合った、ぬるい液体。

俺は息を止め、理沙の口から流れ込んでくるそれを、ただひたすらに喉を鳴らして飲み込み続けた。


ゴキュリ、ゴクン。

「ん……チュル……クチャ……」

理沙は俺が完全に飲み下すまで唇を離さず、舌を絡ませて最後の数滴まで俺の喉へと送り込んでくる。

息継ぎすら許されない密着。俺は鼻で荒く呼吸をしながら、理沙の舌に押し戻されるがままに、その生温かいお茶を受け入れ続けた。


ようやく理沙が唇を離すと、彼女は満足げなため息をついた。

「どう? ママのケーキとお茶、美味しかった?」


理沙は自分の唇の端を指で拭い、そのままその指をチュッと舐め取りながら尋ねてきた。テーブルの上には、まだ半分以上残っているモンブランと、湯気を立てるティーカップが美しく鎮座している。


「ああ。すごく甘くて、美味しかったよ」

俺は口元を手の甲で拭いながら答えた。胃の中で、生温かい泥と液体がズシリと重みを感じさせている。


「よかった。さあ、まだいっぱいあるわよ。あーんして」

理沙は再びフォークを手に取り、モンブランの残りに狙いを定めた。


サクッ、クチャ、ネチャ……ジュル……。

優雅なティーカップとケーキ皿が並ぶ、完璧なお茶会の風景。

俺は甘い香りに包まれながら、妻の口内で美しいケーキが完全にすり潰される音を、ただ静かに待ち続けていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ