第二章 午後のお茶会
休日の昼下がり。暖かな日差しが差し込むリビングのテーブルには、美しい午後のティータイムがセットされていた。
純白のレースが敷かれたテーブルの中央には、アンティーク調のティーポット。その両脇には、繊細な花の模様が描かれた二客のティーカップと、お揃いのケーキ皿が並んでいる。皿の上に乗っているのは、粉砂糖が雪のようにふりかけられた、可愛らしいモンブランだ。
カップからは、淹れたてのアールグレイの華やかな香りが湯気と共に立ち上っている。
「パパ、今日のおやつはパパの大好きなモンブランよ」
「わあ、美味しそう。ママ、ありがとう」
俺たちはダイニングチェアに向かい合って座り、絵本の中の理想の家族のように微笑み合った。完璧にセットされた、美しいおままごとの舞台だ。
理沙は優雅な手つきで小さなシルバーのフォークを手に取ると、モンブランの山の頂上をたっぷりのマロンクリームごとすくい取った。
そして彼女は、それを俺の皿に取り分けるでもなく、迷わず自身の口の中へと放り込んだ。
サクッ。
土台になっているメレンゲが、理沙の歯で砕かれる軽やかな音が響く。
サクッ、ボリッ……クチャ、ネチャ。
最初は乾いていた焼き菓子の音が、理沙の口内で大量の唾液と混ざり合うことで、すぐにひどく粘り気のある水音へと変わっていった。
クチャクチャ、ネチャァ……ジュプ。
濃厚な栗のペーストと生クリームが、理沙の舌の上で練り上げられていく。彼女は目を細め、頬を小さく膨らませながら、ケーキが完全にドロドロの流動食になるまで執拗に咀嚼を続けた。
「……ん、クチュ……」
十分なペースト状になったことを確認すると、理沙はフォークをカチャリと皿に置き、テーブルから身を乗り出して俺の顔に近づいてきた。
「はい、パパ。あーんして」
「あーん」
俺が口を開けると、理沙の顔が目の前に迫り、躊躇いなく唇が塞がれた。
チュッ……ドロォ……。
俺の口内に、生温かい泥のような物体が流れ込んでくる。
モンブランの強烈な甘みと、理沙の体温と同じ温度になった唾液。それらが完全に一体となったドロドロの塊が、彼女の舌によって俺の口の奥へと押し込まれてきた。
ジュプ……チュルル、ネチャァ。
理沙の舌が、俺の口内の粘膜にへばりつくように這い回る。モンブランのペーストは粘度が高く、喉の奥にへばりついてなかなか飲み込むことができない。
理沙はそれに気づくと、一度唇を離した。
銀色の糸が二人の間で細く伸び、ツーッと音を立てて切れる。
「待っててね、ママがお茶と一緒に流し込んであげるから」
理沙はそう言うと、テーブルの上の美しいティーカップを両手で持ち上げた。
上品に一口、アールグレイを口に含む。しかし彼女はそれを飲み込まず、両頬をリスのように膨らませた。
ジュルル……グチュ、クチュクチュ……。
理沙は口内に含んだ熱い紅茶を、自分の口の中に残っていたケーキの欠片や唾液と念入りに混ぜ合わせるように、グチュグチュと音を立てて濯ぎ始めた。
うがいをするような、あるいは口内を洗浄するようなその水音が、静かなリビングに異様に響き渡る。
「……んっ」
理沙は再び身を乗り出し、俺の唇を塞いだ。
チュポ……ジュルルルルッ。
今度は固形物ではなく、生温かい液体が俺の口内に注ぎ込まれた。
アールグレイの高貴な香りと、理沙の唾液の匂い、そして溶け出したモンブランの甘ったるい味が混ざり合った、ぬるい液体。
俺は息を止め、理沙の口から流れ込んでくるそれを、ただひたすらに喉を鳴らして飲み込み続けた。
ゴキュリ、ゴクン。
「ん……チュル……クチャ……」
理沙は俺が完全に飲み下すまで唇を離さず、舌を絡ませて最後の数滴まで俺の喉へと送り込んでくる。
息継ぎすら許されない密着。俺は鼻で荒く呼吸をしながら、理沙の舌に押し戻されるがままに、その生温かいお茶を受け入れ続けた。
ようやく理沙が唇を離すと、彼女は満足げなため息をついた。
「どう? ママのケーキとお茶、美味しかった?」
理沙は自分の唇の端を指で拭い、そのままその指をチュッと舐め取りながら尋ねてきた。テーブルの上には、まだ半分以上残っているモンブランと、湯気を立てるティーカップが美しく鎮座している。
「ああ。すごく甘くて、美味しかったよ」
俺は口元を手の甲で拭いながら答えた。胃の中で、生温かい泥と液体がズシリと重みを感じさせている。
「よかった。さあ、まだいっぱいあるわよ。あーんして」
理沙は再びフォークを手に取り、モンブランの残りに狙いを定めた。
サクッ、クチャ、ネチャ……ジュル……。
優雅なティーカップとケーキ皿が並ぶ、完璧なお茶会の風景。
俺は甘い香りに包まれながら、妻の口内で美しいケーキが完全にすり潰される音を、ただ静かに待ち続けていた。




