アクチュアリー
ッイイィーン……!!
いつものベッド脇に真央は戻ってきた。
部屋は、影の本拠地に行く前とまったく同じ、PCのファンが静かなノイズを奏でている。
真央はスクリーンセーバーが動くモニターを見つめて、立ち尽くした。
「・・・・・・・・・うん・・・」
少し寂しそうな表情で、荷物を詰め込んだリュックの肩ひもを持つ。
そして、机の方へ歩いていき、椅子に座った。
荷物を足元に置き、机の上のタブレットを手に取る。
パスワードを入力して、ログインする。
真央の瞳に、タブレット画面にずらりと並んだアイコンが映った。
「こいつが諸悪の根源だ・・・・・・」
VPSに接続するアクチュアリーのアイコンを長押しする。
タブレットがブルル…と振動し、画面にアイコンに付随するコマンドが表示された。
真央は指を放さずドラッグすると、画面が編集モードに変わり、上部に【削除】【アンインストール】というアイコンがあらわれた。
そのまま、アンインストールの場所へ指をドラッグしていく。
アンインストールのアイコンが反転表示され、真央は指を放した。
画面に【アクチュアリー このアプリをアンインストールしますか? キャンセル/OK】というウインドウが表示される。
真央は迷いなく、OKを押すとアンインストールが実行され、画面下に【アクチュアリーがアンインストールされました。】とメッセージが表示された。
真央はタブレットを取り返して安心していたが、しばらく留守にすることを考えると、なぜか不安になってアンインストールした。
椅子にもたれて「ふぅ~・・・・・・」と大きく息を吐いた。
「これで、VPSに接続できるのは、オレのPCだけになった・・・」
そして、マウスを動かし、スクリーンセーバーを解除すると、VPSへ接続し、実行中のアクチュアリーを開く。
アクチュアリーの、無機質な白と黒のウインドウが表示される。
真央は訓練所へ行き、自分のキャラクターを表示させる。
自分のキャラクター名を選択すると、ステータスが表示される。
そのステータスの中に、【ログアウト中】と表示されていた。
「アクチュアリーはオフラインのゲームなのに、ログアウトって・・・な・・・」
真央はそう呟いて、笑った。
「で・・・これはどうすればログインできるんだ・・・?」
ログインのコマンドが見当たらず、訓練場から酒場へ移動する。
ゲームシステムの酒場では、パーティを組むことが出来る。
酒場の【パーティに追加】コマンドを実行するが、酒場には自分の名前は存在しなかった。
「ログインしてないから、パーティグループに参加できないのか・・・??」
画面を見ながら、両肘を机に置き、両手で口元を覆って画面を見つめる。
「やっぱ、訓練場か・・・?」
再度、訓練場へ行く。
【1、キャラクターを作成】
【2、キャラクターを見る】
【3、キャラクターを削除】
【4、キャラクターを編集】
【5、戻る 】
画面には1~5の項目が表示されている。
「削除・・・は、まず・・・あり得ない・・・よな・・・」
キャラクターの削除が、ゲームからの解放なのか、存在自体の削除なのかがわからなかった。
その為、真央は3の項目は無視することに決めた。
残るは4のキャラクター編集だけだった。
4を選択し、編集コマンドが画面に並んだ。
【1、名前の変更】
【2、転職 】
【3、戻る 】
「ないな・・・・・・再ログインって、いったいどこなんだよ・・・?」
PCの画面を見つめて、アクトリアで集めた情報を思い出した。
「アクトリアはノクサリウスによって封印された地・・・
アクトリアの隣国・・・カテドラリス・・・カトリックと、正教・・・ナゼール教会・・・」
真央は、思い出す中でハッとする。
「そうだ・・・敵対していた正教が・・・ナゼール教会に入り込んでたんだ・・・
そして、正教はノクサリウスの・・・」
真央は慌てて教会を選択した。
「やっぱりそうだ・・・」
画面には、【どんな御用ですかな?】とメッセージが表示されていた。
そして、死んでも状態異常でもないのに、メッセージの下に【魔王】が表示されていた。
【1、魔王 ―――― 状態:ログアウト中 $1,000,000-】
本来、死亡中、灰、石化、などと表示されているはずが、ログアウト中と金額が表示されている。
「金取るとか・・・冗談だろ・・・? しかも、たけえな・・・・・・」
1を選択すると【ログインしますか? Y/N】と尋ねてきた。
真央は立ちあがってリュックを手に取る。
部屋の電気を消して、周りを見回して忘れ物を確認する。
左手には交換した日本刀【正宗】を持っていた。
リュックは、右肩にひっかけてある。
確認が終わると、キーボードの【Y】を押す。
すると、目の前が真っ白になり、意識が一瞬飛んだ。
――― アクトリア ナゼール教会裏
――ツイィーー……ンッ!!
真っ白だった空間が、色と形を帯びていく。
徐々に霞がかかったような世界がくっきりと姿を現した。
真央は目の前にそびえ立つナゼール教会の鐘楼を見つめた。
「おおおぉ・・・・・・見慣れた教会だ・・・帰ってきたんだな・・・」
後ろを振り返ると、巨大な城壁がそこにはあった。
ドサッ!!
何かが地面に落ちる音がした。
「ま、真央くん・・・!?」
名前を呼ばれ、真央は振り返る。
そこには彩乃の姿があった。
足元には、買い出しした食料がバッグごと散らばっている。
(い・・・生きてた・・・・・・)
彩乃は両手で口元を押さえ、瞳が揺れる。
「よ・・・よく・・・・・・よく無事で・・・・・」
あのボスとの戦いの中、迷宮の奥底で生き別れして、9日が経っていた。
彩乃たちは、今真央が立つ場所に、強制的にテレポートさせられ、真央というリーダーを失い、彩乃たちはすぐに立ち直ることが出来なかった。
救出に行こうと何度も挑戦したが、あのボスと戦った時ですらギリギリだった。
真央の抜けたパーティでは7階層が限界で、最下層には到底到達できなかった。
「彩乃さん!」
一か月近く会っていなかった彩乃を見て、真央は笑みがこぼれた。
――次の瞬間、彩乃が走り出し、飛びついて真央の首に腕を回した。
「わっ、わわわっ!! あ、彩乃さん!?
ど、ど、どうしてここに!?」
真央は思いもよらぬ抱擁に驚いて尋ねた。
「こ、ここ短時間で・・・来訪者が連続でやってきて・・・
それで・・・また・・・誰か来るかもしれないから、陽菜と近くで買い物してたら・・・光が降り注いで・・・」
彩乃は真央をギュッ!と抱き寄せて話を続ける。
「・・・・・・無事で良かった! 生きてたんだね!!
みんなで何度も救出に向かったんだけど、迷宮の奥深くだったから・・・難しくて・・・」
熱い抱擁に真央は、片方の肩にかけていたリュックを地面に落とし、彩乃の腰に腕を回した。
「ごめん・・・心配かけちゃったね・・・・・・」
「ううん・・・無事だったんなら、いいの・・・また会えて・・・本当にうれしい・・・
ねえ・・・初めてここに来た時のこと覚えてる?」
「・・・え? もちろん覚えてるよ。」
「あの時、私が一人っきりで心細かった時、真央くんが来てくれたの・・・
ビックリしたけど、本当にうれしかった・・・
ボスとの闘いの中で、死に別れみたいになって、喪失感がすごくて・・・
今日、何度も教会の裏に光が降り注いで、走ってきたの・・・真央くんじゃないかって・・・
でも、全部女の人だった・・・・・・“もう会えないかも”って・・・変なことばかり考えてた・・・
でも、また会えた!! 本当に・・・うれしい・・・・・・」
抱擁の中、彩乃はあふれる涙を拭きとる。
そして、手で押し出すように体を離し、目元を見せないように顔を伏せた。
「彩乃さん?」
真央は固まった彩乃に声をかけたが、肩に伝わる震えを感じ、彩乃の手に自分の手を乗せると、目を細め半月以上会えなかった思いが溢れる。
「オレも・・・あの時から、ずっと一緒にいて・・・
・・・彩乃さんに会えなくて・・・寂しかった・・・」
真央の言葉を聞いて、彩乃はホッと力が抜け、笑みを浮かべて目を開ける。
そして、目の前に飛び込んだ物に目を奪われた。
「!?」
目を開けると、真央が履いているスリッパを見て驚いた。
手を放し、目元を何度か擦って見間違いじゃないかと確認する。
「真央くん!!」
「は、はい!?」
真央は彩乃の声に驚いた。
彩乃は足元から確認するように、顔を上げていく。
そして、スウェット姿の真央に、驚いた顔を見せて尋ねた。
「す、スウェット・・・? ねぇ、もしかして・・・帰ってたの・・・?」
真央は彩乃の観察に感心して、声が大きくなる。
「そ、そうなんだっ! 帰ってたんだ!!
帰る方法もわかったんだよ!!」
「ほ、ほんとう!?」
「う、うん・・・条件は厳しいけど・・・帰れるよ!」
彩乃は真央の答えを聞いて、満面の笑みになったが、ふとした疑問に素に戻る。
「え・・・じゃあ・・・なんで、真央くん・・・戻ってきたの?」
彩乃はいたずらっ子みたいな笑みを浮かべると、「あれ~?」という顔で尋ねた。
真央はその問いにすぐ「そりゃ」と続けたが、次の言葉を口に出せなかった。
「あっ・・・あ、あや・・・あや・・・」
彩乃は期待するような顔で真央を覗き込んで「あや?」と、尋ねる。
真央はなんとか伝えようと、こぶしを握った。
だが、そのこぶしに込めた力も虚しく・・・口が力なく開かれた。
「あっ・・・やっ・・・いや・・・そりゃ・・・
みっ、みんなで・・・元の世界に帰るためでしょ!!」
彩乃は真央の言葉に、ガックリと肩を落とし、眉をひそめた。
そして、「ウン、ウン!」と頷くと、笑いがこぼれた。
「ふふふっ・・・ふふふ・・・ほんと、ヘタレ!
なんかこのやりとり久しぶり! ふふっ・・・ふふふ・・・」
真央は恥ずかしそうに、顔を両手で覆った。
そして、天を仰ぐ。
心の中では、そういうつもりじゃなかったが、言葉が出てこなかった。
真央は自分でもガックリと肩を落としたが、ハッ!と何かを思い出し再び顔を上げる。
「そういや、現実世界は篠原たちの予測通り、3年進んでた・・・」
「やっぱり、時間経過が違うってこと?」
「あと、魔法使えました。」
「あらっ! 帰ったら私たち勝ち組ね。」
「ははは・・・」
「ねえ、早く帰ろう! みんな絶対びっくりするわよ!」
彩乃はそう言って、「ねえ、陽菜! 帰るよ!」と振り返った。
だが、そこには陽菜の姿はなく、肉屋の店主がこちらを見ているだけだった。
「あ、あれ?」
「どうしたの?」
「陽菜がいたんだけど・・・見当たらなくて・・・」
「先に帰っちゃったとか?」
「陽菜はそんなこと・・・しない・・・・・・」
彩乃は木下の行動の意味が分かった。
「ううん、そうだね。 先に帰ったのかも・・・」
二人は、彩乃が落としたバッグに、散らばった食料品を詰めなおし、教会裏すぐそばの門を抜けて城壁外へと消えていった。
――― エピローグ ―――
「真央~! 真央~!」
母親が階段の下から、真央を呼ぶ。
首を捻り「寝とるとかしら・・・?」と階段をトントン…と登っていく。
真央の部屋の扉をノックするが、返事がなかった。
カチャ……
ノブを捻ってドアを開けると、部屋の中は真っ暗だった。
真央が最後に触ったPCは、すでにスリープ状態に移行して、モニターも信号が無くなり自動オフ状態だった。
ドアのそばの照明のスイッチに手を伸ばす。
部屋がLEDの真っ白な光に包まれる。
そこに真央の姿は既になかった。
母親は振り返って、階段のそばまで急いで移動し、一階の父親を大声で呼ぶ。
「あなた! 真央が・・・!」
トントン……と、足音が近づいてきて、階段の横から頭を出して二階を見上げた。
「真央がどがんした?」
「真央がおらんと・・・」
父親が慌てて階段を登ってくると、部屋を覗き込む。
「そうか・・・もう出発したんだな・・・」
「え? 玄関は出て行っとらんよ?」
「神隠しに玄関はいらんやろ・・・」
「・・・ああ・・・そう・・・ね・・・」
母親は少し寂しい顔をした。
父親は照明を消し、ドアを静かに閉める。
真央の部屋は、再び真っ暗に戻った。
ドアの外から二人の会話が聞こえてくる。
「無事を祈ろう・・・」
「そうね・・・」
トントン……と、階段を降りて行く音が、次第に小さくなっていった。
そんな時、真っ暗だった部屋にボウッ…と微かな光が灯った。
その光は、机の上に置かれたタブレットから放たれていた。
―――
とある、どこかの誰かのスマホが「ピロンッ」とメールを受信した。
そのスマホの持ち主は中学生の少年だった。
「メール?」
少年がスマホを手に取りメールを確認する。
「ん~・・・広告メール?」
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これで、アクチュアリーの1章が終わりました。
36ページの漫画が、37万文字越えになるとは作者自身も思いもよらなかったです。
直ぐに2章へは移行せず、しばらくは別視点での穴埋めでもしようかな・・・とか思ってます。




