1.5話 残された者達
~~~ 1.5話(これは2話の直前の話です。 99話につながる思いを描いています。)
迷宮最下層の、ドクロの仮面をつけたボスとの闘いは終盤だった。
先ほどまで、ボスは仲間を何度も呼び、自分の壁にして攻撃魔法を唱えてきていた。
「真央くん! もうMPがないよ!!」
真央は、後衛の彩乃からそんな声が聞こえた。
「わ、わかった! オレはもう少し・・・残ってる・・・」
木下が、ボスが呼び寄せたモンスター2体を連続で切り伏せると霧散していく。
ボスがそれを見て、真っ赤な宝石が取り付けられた大きな杖を掲げ、新たな仲間を呼んだ。
だが、仲間は出現しなかった。
『ちぃっ・・・』
「い、今だ・・・!」
真央は手に持つ盾を離し、村正を両手で持つと、体を左へ思いっきり捻り、召喚に失敗したボスに低い体勢で踏み込むと、村正を右上方へ力一杯振り上げた。
ガキィーーンッ!!
振り切るつもりだった村正は、激しい衝突音を響かせて停止した。
「な、なにっ!?」
ボスは杖を迷宮の石づくりの床に打ち付け、右足の裏で押さえていた。
真央は杖を真っ二つに出来るぐらいのつもりだったので驚きを隠せない。
ドクロの仮面に隠れて表情は見えないはずなのに、ボスが“ニヤリ”と笑った気がした。
ギリギリギリ……
鍔迫り合いの状態になっていた。
ボスは真央の村正を杖で抑え込んだ状態で、お互いの腕がプルブルと震える。
「セージッ! ユージッ! 今だ!!」
「おう!」「まかせろ!」
真央は、今なら実力の低いセージとユージでも、攻撃が通ると踏んだ。
ボスは少しでも力を抜くと、真央の攻撃が来ることがわかっていたので、動けなかった。
セージとユージがボスの両サイドからボスに襲いかかった。 次の瞬間――
真央の目の前で、ボスの左手が“MAK…”と光の帯を放つ。
「う、嘘だろ・・・」
真央は目と鼻の先で描かれる呪文に、寒気と恐怖を感じ、ヒュッ…と息を吸う。
カッ!!
次の瞬間、辺りに真っ白な光が溢れ、全員が光に包まれた。
――― ナゼール教会裏
チリ…チリ、チリチリ……
真っ青な空の空中に光の粒が煌めき、地上へとものすごい勢いで下降を始め光の粒をまき散らしながら、地上に衝突すると光の粒がはじけて昇華した。
「ら、来訪者か!?」
城壁近くにある馬小屋で馬の寝床の藁を交換していた男が、まばゆい光にピッチフォークの柄を離して、目元を腕で隠しながら、何がやって来たのかを確認する。
「ご、6人・・・!? ら、来訪者じゃない・・・・・・」
光の中に6人の影を見つけた男がつぶやいた。
光が徐々に収まり、彩乃、イチゴ、タツヤ、木下、ユージ、セージの姿が現れた。
飛ばされてきた6人は、まぶしそうに眼を細めていたが、徐々に光が無くなると、目を開けて唖然とした。
「なっ!?」
「そ、空だと!?」
「と、飛ばされたのか?」
そこは地上だった。
暗くて寒く、闇と圧に侵されている迷宮と違い、まばゆい光に包まれて暖かだった。そして、周りには雑踏が響いている。
彩乃は辺りを見回す。
「ナッ、ナゼール教会!?」
慌てて後ろを振り返ると、後ろには15メートル以上の高い城壁があった。
「ここ・・・ナゼール教会の裏ですね・・・」
木下が教会を見上げながらつぶやくと、それを聞いたタツヤが叫ぶ。
「転移魔法を食らったのか? みんな無事か!?」
「えっ?」
後ろの城壁を見ていた彩乃が驚く。
(・・・・・・どうして・・・真央くんじゃなくてタツヤくんが・・・?)
彩乃は、真央ならすぐに状況判断して一番に声をあげることを知っていた。
だから、タツヤが声をあげたことに驚いた。
「ね、ねぇ~、みんな・・・真央が~、真央がいないよ・・・」
イチゴが全員を見て言った。
彩乃は体と首を何度も振って、真央を探したがそこには真央の姿はなかった。
「う、嘘だろ!? アイツだけレジストしたってのか!?」
セージが目を見開き驚く。
「ま、真央は・・・あのボスと1人で戦ってるのか・・・」
ユージが震えながら、弱々しく声を絞り出す。
全員の背筋に冷たい何かが流れた。
その場にあったのは絶望だった。
もし真央が死んでた場合、生き返らせるために死体を回収するには、あの場所へ行くしかなかった。
ダダッ……!!
彩乃は、サン=ラミ通りへ駆け出す。
木下が、そんな彩乃の腕を慌てて掴んだ。
「彩乃っ! どこ行く気ですか!?」
腕を掴まれて彩乃は動けなくなり、振り返って木下に向き合うと、感情に任せて叫んだ。
「め、迷宮にっ・・・迷宮に行く!! 真央くんを助けに行かないと!!」
「・・・・・・ツッ」
その言葉に木下は言葉が詰まった。
そして、悲痛な表情で顔を伏せ、重い口を開く
「む・・・無理です・・・真央さんがいないパーティで、最下層までなんて・・・」
彩乃は木下の言葉に、ブルブル…と肩が震える。
「じゃあ、助けに行かないの!?
真央くんがここにいたら、絶対助けに行くよ!?」
彩乃の言葉にハッとして、木下は彩乃の手を力なく離した。
自由になった彩乃が、サン=ラミ通りへと再び駆け出す。
「柏木さん!!」
イチゴが叫んだ!
彩乃はイチゴの声に、ビクッ!と反応して立ち止まった。
「柏木さんは~・・・MPが尽きてるんだよ・・・休まないと・・・
1人で迷宮なんて無理だよ・・・」
彩乃の目から大粒の涙がボロボロと溢れた。
自分のMPが無いことは分かっていた。
それでも、心が、体が、真央を求めた。
だが、イチゴの言葉で心が折れ、その場に崩れる。
ドチャッ……
地面に力なく膝を落とすと、そのままペタリとお尻まで地面に落ちる。
そして両手で顔を覆うと、「うぐっ・・・ひぐっ・・・ぐっ・・・」耐えるような声にならない嗚咽が漏れた。
その声に木下も俯いたまま涙をこぼし、唇を噛んだ。
「くそぉーーっ!!」
セージが空に向かって叫ぶと、ユージは自分の鞘に納めた長剣を地面に力一杯打ち付けた。
「なんて・・・オレは非力なんだ・・・
真央に生き返らせてもらったのに・・・助けに行けないなんて・・・」
そして、がっくりと項垂れると、その様子を見ていたタツヤが、セージとユージの肩に腕を回した。
イチゴは、崩れたままの彩乃に近づき、彩乃の前に膝をついた。
そして、膝の上に手をやさしく添える。
「一度休んで、体力とMPを回復させて、迷宮に潜ろう・・・オレも一緒に行くから・・・
大丈夫、真央は絶対死んでないよ。」
イチゴの優しさに、彩乃は涙が更に溢れた。
「うん・・・うん・・・」
「ざけんな、イチゴ!! オレも行くぞ!! 置いて行くな!!」
セージが体を揺すって怒鳴った。
その声にイチゴは顔を3人の方へ向ける。
「あっ、何を自分だけ行くような風に言うかな!?」
ユージがセージの首元を掴んで引っ張るように言った。
そして、タツヤに顔を向けて続ける。
「オレだって行くよ! もちろん、タツヤも行くよな!?」
「当たり前だろ!!
オレ達は“真央と彩乃さん”に生き返らせて貰ったんだ! 行くに決まってる!!
だから大丈夫・・・柏木さん、1人じゃないよ。」
彩乃は漏らしていた嗚咽が止まる。
心を締め付けられる思いが、優しさに包まれて、耐えていた声があふれ出た。
「ありがとう・・・ありがとう・・・」
溢れる涙を、両腕で何度も何度も拭う。
「なんか、皆さんずるいです・・・なんか私だけ仲間外れ・・・」
木下が涙で目を腫らして、少し離れたところから言った。
「確かに幼馴染とかじゃないですけど・・・私だって仲間ですよね!?」
彩乃が慌てて涙を拭きとり、顔を上げて木下に顔を向ける。
「陽菜! 助けてくれる!?」
木下は泣きながら親指を立てて、こぶしを彩乃に向けると、出来るだけ元気な声を出した。
「ズズッ! あたりまえだい!! 彩乃、前衛は任せてよ!!
あと、泣くときも一緒!! 1人で悲しまないで・・・仲間だよね・・・?」
彩乃は皆の優しさに、再び涙が溢れた。
顔を覆い、背中を丸め、今度は大きな声を出して泣いた。
「わああああーーーーっ・・・」
木下は慌てて彩乃のそばへ寄って肩を抱くと、彩乃は木下に腕を回した。
泣きじゃくる彩乃の頭を手でやさしく撫でる。
「大丈夫! 絶対、立花くんは生きてるから」
「・・・うん・・・・・・うん・・・」
「ウチに帰ろう・・・迷宮に潜るにも回復しないとね・・・」
木下は彩乃の肩を抱き立たせると、すぐ近くの内城壁の門へと誘導していく。
他の4人も2人の後をついて、場外へと出て行った。
その眼には、真央を助け出すという思いがお互いを結束させているのは間違いなかった。




