約束
道場にいた全員が開いた戸を見つめた。
「なんだ・・・?」
入ってきたのは高野で、全員の見つめる視線に驚きたじろいだ。
「高野か・・・驚かすな・・・」
東郷は、「はぁ・・・」と、ため息をついた。
「『高野か』じゃないだろ! オマエがこれを取って来いって言ったんだろ!!」
高野は金襴が織り込まれた紫色の御刀袋を、東郷に向けて差し出す。
「おお、そうじゃったな。」と、受け取ると御刀袋の紐を解き、袋を滑らせて中の正宗をスラリと取り出した。
鞘から取り出すと、抜き身を立て道場の照明にあてて刀身を見上げる。
「ふむ・・・」
そして鞘に戻すと、真央に差し出した。
「ほれ、受け取れ。」
真央が受け取り、ただ普通に脇に置くと、それを見た貞明が羨ましそうに刀を見つめてつぶやいた。
「真央、それ国宝やからな。」
「えっ!? は? はあぁーー・・・っ!?」
真央はそれを聞いて驚きの声を上げた。
慌てて刀を手に取ると、「国宝なんて受け取れませんよ!!」と、東郷に指し返す。
東郷はその真央の欲の無さに、笑いがこぼれた。
「くっくっくっ・・・真央よ、その刀は鎌倉時代末期に作られたものでな。
国宝になる為に作られたものではない。
刀とは、人を切る為に作られたものじゃ・・・
今の時代、人を切ることはできんから、国宝として飾られておるが・・・
飾り物として、手元に置き留めるより、真央が持っておくほうが正宗も喜ぶじゃろうて・・・」
「え?」
真央が意味を理解できず固まっていると、
晴樹が「『貰っておけ』ってことだ。」と耳打ちする。
一度晴樹の方を見て、東郷へ顔を向き直る。
「・・・い、良いんですか?」
東郷は、ニヤリと笑い「かわいがってやってくれ・・・」と頷いた。
真央は正宗を両手で持って掲げると、
「ありがとうございます・・・」と感謝の意を述べた。
「では、話を元に戻そうかの・・・」
「今、どういう話をしてたんだ?」
高野が尋ねると、東郷は残念そうな顔をして、目を伏せる。
「この世界では、魔法を覚えることはできぬらしい・・・」
「この世界・・・? どういう意味だ?」
「すまんな、真央・・・もう一回職業について説明してくれるか?」
真央はコクリと頷き、高野が聞けていなかった職業について説明をした。
―――
真央の説明を受け、高野は眉を顰め、まっすぐに視線を送って確認する。
「――つまり、この世界の人間は職業を持たないから、魔法を覚えられない・・・
そして、真央くんは向こうの世界へ行ったことで職業を得た・・・と・・・」
「ええ・・・まあ、そういうことです。」
「高野さんが戻られる前・・・
我々も向こうに行ければ、職業を得られるんではないかと・・・
そういう話をしてたんです。」
「なるほど・・・理解した。
それで、真央くん、それは可能なのかな?」
高野の問いに、真央はしばらく考え込んだ。
その様子に、全員が何か問題があることに気づいた。
「真央、なにか問題があるのね?」
薊は真央が口を開くのを待ちきれず、背中をまげて顔を近づけて尋ねた。
「はい、たぶんですが、問題はありますね・・・」
パン!
東郷が胡坐をかいた足に両手を叩きつけ、前のめりになった。
「どんな問題があるんじゃ?」
真央は顔をあげて、東郷に視線を送ると、考えうる問題点を伝えた。
「まず、1つ目・・・ですが・・・
向こうの世界に行くと、今のパラメーターから一気にレベルダウンします。」
「ぱらめーたー・・・? れべるだうん・・・?」と、東郷は首を捻る。
「そのレベルダウンとはなんだ?」
晴樹が床に片手をついて、体を前に出しながら尋ねた。
「つまりですね、現実世界での能力が、向こうに行くと基本値になるという事です。」
「「「「?」」」」
「どういう事や? もう少しわかりやすく説明してくへんか?」
貞明の要求に、真央は口元を押さえて少し考え込む。
そして、何かを思いついたように説明を始めた。
「例えば、オレと晴樹さん・・・どっちの方が上ですか?」
晴樹がムッとした顔で「何が聞きたい?」と尋ねる。
「能力ですよ。 力とか素早さとか・・・」
「速さやったら晴樹が上やろな・・・力は真央やろか?」
晴樹が貞明の説明に「おい! 力だってオレだろ!」と立ち上がろうとする。
薊が後ろから晴樹の肩を押さえる。
「晴樹、真央の説明は、まだ終わってないよ。」
晴樹は顔を上げて薊を見る。
薊は晴樹の肩を押さえたままジッと見つめている。
晴樹は腰を戻す。
「で、真央・・・何が言いたいんだ?」
そして、真央に視線を送ると、真央は小さく頷く。
「・・・・・・さっき、基本値になるって言ったでしょう?
向こうに行くと、晴樹さんの能力値は基本値に戻るので、オレよりすべて弱くなります。」
「かかか・・・、それは見てみたいもんや!」
貞明は晴樹を見て笑う。
「なんだとっ!?」
晴樹は再び立ち上がろうとするが、薊が肩を押さえて立ち上がれなかった。
「まあ、ボーナス値は入りますが、レベルは1からになるんで、どっちにしてもオレより弱くなります。――これが一つ目の問題。」
「二つ目はなんじゃ?」と、東郷が尋ねた。
真央は一度東郷へ視線を送り、説明を続ける。
「二つ目は、向こうに行ってもすぐには、魔法を覚えられないという事です。
レベルを上げないと、魔法は身に付きません。」
「時間がかかるという事か?」
高野が尋ねると、真央がコクリと頷き続ける。
「時間がかかる上に、向こうとこちらの時間が一致しません。
向こうでの1日は、こっちの世界では3日です。
戻って来るには、こちらでは3年以上進むと思ってもらった方がいいです・・・」
「ああ・・・そんなこと言っとったな・・・
でも、なんで3年以上なんや?」
「オレがこっちに戻れたのがギリギリだったからです。
同じ様にレベル上げてた連中が、こっちに戻って来れなかったことを考えると・・・・・・
もっと時間がかかると思った方がいいでしょうね・・・」
「序列に3年も穴が開くのは痛いな・・・」
説明を聞いて、高野が顔を曇らせてつぶやいた。
「そして、もう一つ・・・」
「まだ、あるのか!?」
高野はしかめた顔を手で覆い、首を振りながら「はあ~・・・」とため息をついた。
「東郷・・・これはダメだ・・・
計画は面白いが、影にはそんな暇はないぞ! これ以上は――」
東郷は高野に手のひらを上げて、発言を止める。
「まあ、待て・・・もう一つの問題点を聞いてみようじゃないか・・・
真央、頼む!」
真央はコクリと頷き、話を続けた。
「最後の一点ですが・・・魔法を覚えられるのは魔術師、僧侶、侍、君主の4つの職業のみです。 最初につける職業は、君主は不可能です。 となると、侍の一択となります。」
「なんで一択なんや?」
「魔術師と僧侶は、剣技が使えません。
つまり、影の技術はなんの役にもたたないんです。」
「なんやて? なんでや?」
「職業柄、武器が装備できないんです。
なので、侍一択なんですが・・・侍は回復魔法を使えません・・・」
「待て、待て・・・真央は侍って言うとったのに、回復魔法使っとらんかった?」
「よく気が付きましたね。 実は、オレ2度、転職してるんで・・・」
「転職?」
「はい。 パラメーターさえ条件を満たしておけば、様々な職業に転職は可能なんです。
ですが、転職するとレベルが1になります。」
「と言うことは、同じようにやれば良いという事じゃないの?」
後ろで聞いてた薊が尋ねる。
「そうなんですが、オレは僧侶の呪文を全部覚えてないんです。
なので、回復と言っても一番低い回復魔法しか使えません。」
「つまり・・・どういうことなの?」
「能力の高い回復魔法を覚えようと思ったら、時間がかかるってことです。
なので、全魔法を覚えたいなら、僧侶から侍に転職するのが最短で出来るとは思いますが・・・先ほども説明した通り、僧侶の間は剣術を使えません。
この3つのデメリットを、どう考えるかでしょうね・・・」
全員が真央の説明を聞いて、それぞれが黙り込んでしまった。
特に時間がかかることに、デメリットを感じていた。
そんな中で、東郷だけが影の未来のことを考えていた。
「なるほど、よくわかった。
では、真央・・・影が未知の力を入れるには、どんなやり方が一番いいと思うかの?」
その問いに真央は、腕を組んでしばらく考え込んだ。
何度か視線を泳がし、ハッと一つの答えを思いついた。
それを見て、東郷はニヤリと口角を上げ「何か思いついたようじゃの?」と尋ねた。
真央は、東郷の気づきに流石と思いながら、口を開いた。
「一番手っ取り早いのは、オレの同級生を取り込むのが一番早いでしょうね。
まあ、影に入るかどうかはわかりませんけどね。」
「公務員になりたければ、超が付くほどの高待遇じゃぞ!」と、東郷は笑った。
「公務員試験はどうするんです?」
「影には不要じゃ」
「ははは、さすがは国家権力!」と、真央も笑う。
―――
「では、オレはこれで・・・帰ります・・・」
話が終わり、真央は刀を手に取って立ち上がる。
それに合わせて、全員が立ち上がり、東郷が真央の前に歩み寄る。
「真央、オマエの実力は半年で、ずいぶん上がった・・・
向こうに行っても、その実力は発揮できるはずじゃろう・・・
よいか・・・必ず戻ったら顔を出すんじゃぞ!
全員を助けるのは大変だと思うが・・・無事に戻ることを祈っておるぞ。」
東郷は真央の胸の辺りにこぶしの甲をコツンと当てた。
「短い間でしたが、充実した日々を過ごせました・・・
皆さん、またいつか・・・会いましょう!!」
「がんばりや! 帰ってくるの待っとるからな!」
「真央に負けないように、腕を磨いておくわ。」
「神速を上げておくからな。 期待してろ!」
真央はペコリと頭を下げ、マコールを発動させる。
一瞬にして消えると、光りの粒が舞った。
「おおお~・・・ほんまに魔法や・・・・・・
時間かかっても行ってみたかったわ・・・」
貞明が、真央がいた場所に手を差し出して確認する。
「確かにすごいが・・・任務を考えたら、序列上位に長期休暇は与えられんよ。
行きたかったら、自分の後釜を育てるんだな。」
高野も消えた真央に驚きつつ、貞明の肩を叩いた。
晴樹も貞明の肩を反対から抱く。
「オレ達も、真央に負けんように鍛えないとな・・・」
バチンッ…!
貞明は、「簡単には追いつかせんわ!」と晴樹の胸にこぶしを入れたが、
晴樹はそれを手で受け止めた。
「私なら良かったんじゃない?」
薊の言葉に高野が「オマエでもダメだ!」と、ツッコミを入れる。
「高野ぉ~、ワシなら行っても良いんじゃないか~?」
東郷がねだるように言うと、
「あんたは、それ以上強くなる必要はない!」と呆れるように言った。
「そうです、お屋形様はもうそれ以上強くならないでください・・・」
薊も突っ込むと、「そうだな。」と、全員が笑った。




