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アクチュアリー ―封印都市アクトリア―  作者: ブラックななこ


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呼び出しの意図

真央は、地下道場の前の通路へと移動した。


左手に持った刀に気づく。

「やべっ、村正持ってきちゃった・・・」


パンッ!!


「誰や!!」


突然現れた気配に気づいたのか、道場の引き戸が音を立てて開いた。

道場には、夜だというのに結構な数の影のメンバーがいた。

引き戸を開けた貞明は通路にいる真央を見る。


「なんや・・・物騒なもん持って来とるな・・・証拠隠滅かなんかか?」


「ははは・・・隠滅できる程、実力ないですよ・・・」


「お屋形様! 真央が物騒なもん持って、戻ってきました!

真央、はよ道場に上がれ! お屋形様が待っとる。」


貞明はそう言うと、道場の中へと歩いていく。

真央はスリッパを脱ぎ、道場へと上がる。


道場の中では、影のトップの東郷を筆頭に、城代と上士全員がそろっていた。

真央が来たことにより、全員が自分たちの定位置へと移動する。

当主の東郷重臣は道場の神棚のある神床の中央に座り、神床の両サイドで挟み込むように城代の高野正嗣が左側、その次は上士の序列順に左側から右側と、順に9人が座っていく。


「真央、オマエはここに座りぃ!」


貞明が指定したのは、東郷の真正面、上士全員の真ん中だった。

自分の序列6位の位置(右側2番目)に貞明は座った。


全員袴だが、真央はスウェット姿だった。

あまりの場違いに、真央は顔を真っ赤にして、指定された位置に正座し、脇に村正を置いた。


「プッ・・・」


その姿を見て、薊が吹き出す。

隣の序列10位が睨みつけると、薊は「すみません!」と背を伸ばした。


真央は中央の位置で頭を伏せ、左右に視線を送って状況を確認する。


(いったい何なんだよ・・・時代錯誤も甚だしい・・・

オレは影でもなんでもないのに、呼び出してこの状況って・・・・・・)


そこに東郷の声が響いた。


「真央! 表をあげい!」


(・・・ったく、いつの時代だっての!!)

「はい。」


不満を募らせつつ、真央は顔を上げた。


「え?」


視界に飛び込んだのは、不満そうに胡坐をかいた足に肘をつき、頬杖をついている東郷だった。


「すまんの真央・・・ワシは、ただオマエと話をしたかっただけなんじゃが、ここにいる一部の馬鹿どもが文句を言って来よってな・・・」


「当たり前です!! お屋形様と気軽にお話を交わすなど、もってのほか!!」

「そうです! 影でもない者と談笑されるなど、下々が赦しますまい!!」

「お屋形様は、もっと威厳をもって頂かねば!」


序列2、3、7~9位が真央に不満を持っているようだった。

真央がここに通い始めた時から本拠地におらず、真央の実力を知らないのが原因だった。


「はぁ~・・・」と、東郷が大きなため息をつく。

すると、城代の高野が声を上げる。


「黙らんか! お屋形様の言葉を遮るとは何ごとだ!!」


発言した者達が、東郷に向きを変えると、頭を下げる。


「お屋形様!! 申し訳ありませんでしたー!!」


東郷は呆れるように目を伏せる。


「もう満足したろう・・・時間が惜しい。

高野! 余計な連中は退場させろ!」


「なっ!!」

「いっ、いけません!! こんなどこの骨ともわからぬ者とっ・・・」


東郷の言葉に、真央のことを認めない連中は、膝を立てて前に一歩出る。

それを見た高野は、勢いよく立ち上がって怒鳴る。


「貴様らは、誰に物を言っておる!! お屋形様の命令が聞けんのか!!」


「し、しかし・・・我らは、お屋形様の危険を・・・」


「ここにいる立花真央は、すでに半月の間、毎日ここに来ている!!

何かする気なら、もうすでにしているはずだ!!

お前たちの心配するような事にはならん!!


残るのは、5位の晴樹! 6位の貞明! そして、12位の薊の3人!!

他の者はさっさと退場しろ!!」


「くっ!!」


ダァンッ!!


4位の男が、床にこぶしを打ちつけると、大きな音が響き渡った。

そして、名前を呼ばれた3人以外が立ち上がる。


ドタドタ…と板張りの床を、不満そうに踏みしめながら道場を後にした。

東郷はその様子を、頬杖をついたまま、視線だけを送って見送った。

真央はポカンと口を開いて、その様子を見つめていた。


ピシャン!!


全員の退場が終わり、道場の引き戸が大きな音を響かせて閉まった。


「ようやっと、静かになったな・・・」


東郷は「フン!」と鼻息を一度吐き出し、胡坐をかいていた片膝を立て、その膝にひじを置いた。


「真央、すまんかったな・・・怒っとるじゃろ?」


東郷の問いに、真央は両手を広げると「い、いえ・・・ただ、びっくりしてて・・・」と、訳が分からず驚いた声を出した。


「最初はこのメンバーで、真央と会おうとしてたんだ。」


真央はその声に左を向くと、晴樹が立ち上がってこちらに近づいてきていた。


「そしたらな、真央に不満を持っとる連中が、文句言うて来てな・・・」


貞明が右側からそう言いながら寄ってくると、真央のそばにドカッ!と胡坐をかいて座った。


「え・・・不満って・・・?」


真央は貞明の方へ、困惑した顔を向けると、

「私らが、真央をなんで呼び出しているのか知らないのよ・・・それが、疑念となって噴き出した感じ。」と、後ろの方から薊が近づいてきて貞明の横に立つと腕を組んだ。


「え? オレもなんで呼び出されたのか分からないんだけど・・・」


「魔法や!」


貞明が呼び出された理由を言うと、「えっ!?」と真央が驚いた。


「ワイが気づいたやろ? ケガ、治してたこと・・・」


真央が“ああ~・・・”という表情をすると、

「ここにいるメンバーだけに、それを共有したんや。」


「ここにいるメンバーだけ? どうしてです?」


真央はバレてることを諦めていたので、不思議そうにみんなの顔を見た。


その様子に薊が、「どうしてって・・・真央・・・みんなにバレてよかったのかよ!?」と心配そうな表情で尋ねる。


(・・・・・・あ・・・オレのことを、気にかけてくれたんだ・・・)


「もしかして・・・神隠し事件のことも?」


「「「あたりまえだろ!!」」」


真央は、その気づかいに視線を落として、笑みを浮かべた。

晴樹たち上士の3人は、真央の様子を見て“しょうがない奴だな・・・”という表情を浮かべた。


――パン!パン!


高野が東郷の横に立ち、手を叩いた。


「そろそろ、こちらにも話をさせてくれるか?」


その声に4人は背を伸ばし、薊は後ろ手を組んだ。


「だが、その前に・・・真央!

わしはその刀が気になっておる! 見せてくれんか?」


「おい、東郷・・・オマエが話を脱線させるのか!?」


「すまんな、高野・・・あの刀が放つ妖気が気になってしょうがないんじゃ・・・」


東郷は高野に片手を顔の前に立てて申し訳なさそうに言うと、高野は「はぁ・・・」とため息をついて、真央に向きなおす。


「すまん・・・真央くん・・・刀を見せてやってくれるか?」


真央は、「え? これですか?」と、脇に置いた村正を手に取った。


「そうそう、その刀じゃ!」と頷く。


「もちろん、いいですよ。」と、刀を顔の高さまで持ち上げた。


東郷は立ち上がって、真央の傍に寄ると左手で刀を受け取り、真央の正面にドカッ!と座り込む。 そして、顔の前で両手を広げスラリ…と鞘から刀を抜いた。


顔の前で縦に刀を持つと、チャッ…と手首を返しながら、刃を見上げる。

しばらく色んな角度からチェックしながら、「ほうっ・・・」と、感嘆の声を漏らした。


「真央・・・」


「はい。」


「これは誰の銘じゃ?」


「村正です。」


その答えに、その場にいた全員が「なっ!?」と驚きの声を上げた。


「む・・・村正じゃと・・・?」

「なんで、国宝を持っとるんじゃ・・・?」

「い、いったい幾らすんのよ?」


動揺する皆に驚き、真央は説明する。


「いやいや・・・本物の村正じゃないですよ・・・

向こうの世界で手に入る刀なんで・・・」


「偽物・・・じゃと・・・? 高野、オマエはどう思う?」


東郷は高野に刀を手渡す。

高野は見定めるように、刀を両手で抱えると、銃を構えるように目線に合わせる。

感心するように首を何度も横に振る。

「これの、メンテナンスはどうしてるんです?」


「鍛冶屋に出して調整してもらってます。」


「なかなかの腕ですね・・・その方が作ったわけじゃないんですよね?」


「ええ、それは迷宮産です。」


「め? 迷宮?」


「向こうには迷宮があって、そこに出現するモンスターを倒すと出てくるドロップ品です。

でも、なかなかドロップ率が低くて、手に入れるの大変なんですよ。」


真央の説明に、高野は意味がわからない。 が、貞明が目を輝かす。


「それ、めっちゃええな~・・・一攫千金になるんやないか?」


「その、迷宮に潜ってる時ってのは、どれぐらい潜ってるんだ?」


晴樹は迷宮が気になって尋ねてきた。


「3~4日は潜りっぱなしですね・・・」


高野はその日数に驚き、「その間は、もしかしてメンテナンス無しですか!?」と聞いてきた。


「はい。」


「これはメンテナンス後?」


「いえ、迷宮で戦っている最中に、こっちに戻ったんで・・・

メンテナンスはしてませんね・・・」


それを聞いて、高野は慌てて立ちあがり、脇床の方へ歩いていくと、

その脇床の下に設けられている戸棚を開け、中から和紙を手に取り元の位置に戻った。

両ひざを立てて座り、持ってきた紙を床に置くと、1枚を取って少し折り目をつけ、手に持つ村正にその紙を乗せる。


そして、切っ先を少しさげると、紙が刀の刃上を滑り、スッ…と抵抗なく2つに分かれて床に舞い落ちた。


「おお~・・・」

「!!」

「すごい・・・」

「こ、こりゃ、すごいのお」


「メンテナンスなしでこの切れ味・・・実戦向きの日本刀ですね・・・

これ、本物以上と言っても過言でもないかもしれません・・・」


「それほどか!?」


「はい。」


高野は答えると、村正を鞘に戻す。


東郷は目を輝かせて真央を見ると、「真央・・・」と嘆願するような声を出した。


「もしかして、欲しいんですか?」


東郷はウンウンと頷き、「代わりにワシが持っとる“正宗”をやる。交換ではどうじゃ?」と、前のめりになって、片手を床につけた。

高野は呆れたように顔に手を当て、口角を上げて首を横に何度か振った。


ジッと見つめる東郷に真央は困った顔をする。

(まあ、向こうでは潜ってれば、また出る可能性高いからな・・・)


「はぁ・・・・・・いいですよ。 交換しましょ。」


「やったぞ! 高野! 正宗を持ってこい!!」


高野はしょうがないという顔をすると、立ち上がって道場から出て行った。

東郷はニヤニヤしながら、床に置かれた村正を手に取り、鞘から半分引き出すと、映り込む自分の顔を見つめながら、何度も頷いた。


「あの・・・で、オレは何で呼ばれたんですか?」


真央が尋ねると、4人が顔を見合わせた。


「忘れとったぁーっ!」

「日本刀に目移りしすぎたの・・・」

「お屋形様が日本刀に執着するからですよ。」

「早く本題に入ろうよ。」


東郷は村正を脇に置き、膝をパン!と叩いて話をきり出した。


「実はな、魔法のことが聞きたいんじゃよ。」


真央は意外な顔をして、「魔法・・・ですか?」頭を軽く傾げた。


「魔法の何を聞きたいんですか?」


「ワシらの仕事内容は分かっておるじゃろ?」


「はい・・・」


「魔法を我々の仕事に応用できんかと思ってな。」


真央は東郷の無茶な話に、「う~~ん・・・」と目を瞑り、困った顔をした。


瞑った目を開き、「つまり・・・魔法を使いたいってことですか?」と尋ねた。


「そう、そうじゃ!

貞明から説明を受けたんじゃが、使えるとしたら、死亡率が減ると思うてな・・・」


「死亡率・・・・・・?」


東郷のいう死亡率が真央はよくわからず、確認するように晴樹たちに視線を送った。


「つまりな、ワイら影は仕事柄、潜入案件が多いやろ・・・

毎年、結構な数の影が死んどってな・・・それを魔法が使えれば減るんやないかと・・・」


「影の衆は、死を覚悟して任務に取り組んでいる・・・だから、死ぬことに後悔はしない・・・

だが、任務を完了できず、途中で死ぬことはできるだけ無くしたいんだ。

剣技を我々が鍛えたように、魔法を真央が我々を鍛えることはできないだろうか?」


真央はその切なる思いに応えたかったが、眉間にしわを寄せると、「残念ですが・・・魔法を使うことはできません・・・」と、目を伏せた。


「何故じゃ? 教えたくないのか?」


「いえ、そうではなく・・・

魔法を使うのに必要な職業が、この世界の人間にはないんです。」


「職業・・・?」


「はい・・・例えば、回復魔法を使いたかったら“僧侶”。

攻撃魔法を使いたかったら“魔術師”という職業を選択しなければなりません。

そして、“剣士”は魔法を使えません。」


「待て待て、真央は刀と魔法使ってるやないか・・・」


「オレは魔法剣士・・・向こうの世界でいう“侍”という職業なんで・・・」


「・・・・・・ダメなのか・・・」


薊は真央の説明を聞いて、「でも、なんで真央は、職業を持ってるの?」と、首を捻る。


「それは・・・」

(これ教えたら・・・暴走しそうだなあ・・・)と、真央は口ごもった。


「「「「それは?」」」」


「向こうの世界に行ったからです・・・」


「向こうって言うのは、神隠し・・・?」


真央は口を真一文字にして、コクリと頷いた。


「真央は、仲間を助けに向こうに行くんやろ?

それに我らもついてけば・・・職業貰えるんやないの!?」


貞明はそう言うと、真央に顔を近づけて見つめた。

真央は(やはり、こうなったか・・・)と、俯いて目を強く瞑った。

そして、どうするかと悩んでいた時――


ガラリ・・・


道場の引き戸が開いた。


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