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アクチュアリー ―封印都市アクトリア―  作者: ブラックななこ


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最後の夜

夜の8時すぎ、真央はタブレットを小脇に抱え、真っ暗な口加高校の運動場に立っていた。


「最後、ちょっと警官が来るとは思わなかったけど・・・

まあ街中で、効果が見えるような魔法出しちゃだめだよな・・・しかし、終わった・・・」


すべてをやり遂げ、口を一文字にして拳を握り、何度か小さく上下させてガッツポーズをとった。


「あとは、アクトリアのみんなだけだ・・・」


運動場の出口から門の方へと下って、自宅へと戻って行った。


―――


真央はアクトリアから帰ってきた時と同じルートを通って自宅へ帰る。

門を開けて、3段ほどの階段を登って玄関の前に立つ。

玄関のドアに手を掛けようとした時、声がかかった。


「真央くん」


手が止まり振り返ると、門柱の向こう側に田中と笹田がいた。


真央は門のそばへ行き、道路にいる田中に向き合った。


「こんな時間に何か用ですか?」


「いやね、今日ウチの署に問い合わせがあってね。」


「問い合わせですか?」


「ああ、警視庁、警備部『東郷重臣』って人なんだが、知っている人かい?」


真央は思いもよらぬ田中の言葉に動揺し、

驚いた顔で、「えっ、ええっ? えっ? 警視庁!?」と答えた。


珍しく動揺する真央に、田中と笹田は笑ってしまう。

真央はそれが気に入らず、不満そうに尋ねた。


「なんで、笑うんですか?」


「やっと大学生らしい表情を見せたなって思ってな。

――なあ?」と、田中は笹田にも同意を求めた。


「まあ、そうですね・・・年相応でした。」と笹田は笑う。


真央は不満そうな顔したあと、照れくさそうに頭を掻きながら、「それで、どんな問い合わせだったんですか?」と尋ねた。


「ん? ああ、『3年前の神隠し事件の失踪者の一人、立花真央という青年が戻ったというのは本当か?』という問い合わせだったんだが・・・真央くん、何かやったのか?」


「し、知りませんよ! なんで、警視庁とか・・・東京なんかに行ってませんし・・・」


「まあ、そうだよな・・・『何故、そんな問い合わせを?』と尋ねたが、『3年前から気にしていた事件をニュースで知った』と言われ、それ以外は何もわからなかった。

そこで、本人に確認してみようということで、来てみたわけだが・・・・・・

その様子では本当のことは教えて貰えんだろうな・・・」


田中はうがった視線を真央に送り、「ふう~・・・」とため息をつくと、苦々しい顔で後頭部を掻いた。

それを見た笹田が、「あからさま過ぎです。」と肘で小突く。


「真央くん、ごめんね。 じゃあ、これで失礼するよ。

――ほら、帰りますよ。」


そう言って、乗ってきた車の方へ、田中の背中を押していく。


「おいおい・・・笹田、なに仕切ってんだ!」


「無理ですよ。 彼が帰ってくる前に『毎日、朝飯と晩飯は食べた』って、母親に言われたんですから・・・」


「母親がウソ言ってる可能性だって・・・」


「な訳ないでしょ、警視庁から問い合わせがあっただけですよ・・・

東郷さんって人が協力を仰いでるわけでもないんですよ。

そもそも警視庁の警備部ってSPのことですよ。 捜査なんてしないんですから・・・」


「・・・・・・そう言われりゃ、確かにそうだな・・・」


二人はそんな会話を交わしながら、車に乗り込んで走り去っていった。

その様子を真央は見つめていた。


走り去るのを見て、真央は門の上に手をかけたまま、膝を折ってしゃがみ込む。

カン、カンッ……!とスチール製の門がぶつかり合って音を出す。


「何してくれてんだよ、お屋形様・・・・・・マジで冷えた・・・・・・

ていうか、“影”って警備部だったのか?」


しゃがみ込んだまま、しばらく足元を見つめる。

「はぁ~っ・・・」とため息をついて落ち着きを取り戻すと、立ち上がって玄関のドアを開けた。


「ただいまー」


「お帰りー」と、家の中から母親が返した。


真央は、スリッパに履き替え、ダイニングキッチンを覗き込むと、テーブルには夕食の“卵とキクラゲの炒め物”がラップされて置いてあった。

それを手に取りレンジに入れて温めていると、母親がリビングの方から話しかけてきた。

振り返って見ると、リビングでは父親と母親が野球中継を視聴中だった。


「夕方、警察の田中さんと笹田さんが来らしてね。 真央んことば聞かれたとよ。」


「なんて?」


「『最近はどうですか? 突然消えたりとかはないですか?』って聞かれたけん、『元気にしてます。よく出かけてますが、毎日帰ってきて朝と晩は家でご飯食べてます。』って答えたよ。」


「ふぅ~~ん・・・(『消えたり』じゃなくて、『東京に行ってませんでしたか?』だろ)」


チーン…!と、レンジの温めが終わり、扉を開けて熱そうに指先で持って、取り出すとテーブルの上に置き、皿の下のラップの端を探す。


「あ、それと真央に電話あったよ。」


ラップの端を指先でつまんで引っ張り「だれから?」と、尋ねる。


「薊って、女ん人。――」


母親の口から出た名前に驚き、動きが止まる。

その瞬間、隙間ができたラップから熱い湯気が真央の手を襲う。

「熱ぁツッ!!」と思わず指を放した。


「大丈夫ね?」


「ああ、大丈夫・・・びっくりしただけ。」


「火傷には、気ぃつけんねよ・・・」


「はい、はい・・・」

(そっちじゃないんだけど・・・てか、みんなバレバレじゃん・・・)と、真央は苦笑する。


テーブルにはもう一品、“サバのみりん干し”がラップされていたので、それをレンジに入れて温めを押す。

レンジが動き出すのを見て、真央はお茶碗を持ち、炊飯器の蓋を開けてご飯をよそう。


「で、薊って人はどこん人? 同級生?」


「違う違う、今、色々教えて貰ってるんだ。」


「あ~、勉強ね。“認定試験受ける”て、言うとったもんね。」


真央は「ははは・・・」と苦笑しながら、椅子を引いて座ろうとすると、

チーン…!と、レンジが鳴り、中から取り出しテーブルに置いた。


椅子に座ると、真央は手を合わせて「いただきまーす!」と言って、サバのみりん干しに手を伸ばし、半身を箸で持つと、口に近づけて噛み切った。

そして、ご飯をかき込んでいく。


(美味いなあ・・・また、これ食えなくなるのか・・・)


「それで、薊さんは何か言ってた?」

と真央が尋ねると、母親がキッチンの方を向き、首を傾げて電話の内容を思い出そうとする。


「えっとね・・・“まだ帰ってません”って言ったら、“一度こっち来てって伝えて欲しい”って言わしたね。」


「ふ~ん、わかったー」(・・・長崎に電話してきて来いって・・・全部バレてるじゃん・・・)

真央は苦笑しながら、食事を済ませる。


「ごちそうさまでした。」


真央は立ちあがると、食器を水の入った洗い桶にドボンと入れて、そこから取り食器を取り出し、スポンジで洗っていく。


「今日はどがんしたと? 自分の食器洗うなんて珍しかね・・・」


「これぐらい普通だよ・・・」

(そう・・・アクトリアでは普通にやってた・・・)


食器を洗い終わり、部屋へ行こうとしたら、野球中継を見ていた父親が突然声をかけてきた。


「・・・・・・おい! 真央!」


キッチンとリビングの境界線に立って、「なに?」と真央は尋ねる。


「どっか行くとか? ・・・行くんなら、黙って行くなよ!」


父親の問いに、真央と母親が「えっ?」と驚く。


「なんね・・・それ・・・? 真央、あんたまたどっか行くと!?」


「って・・・なんだよ・・・?」


口ごもる真央に、父親と母親は視線を送る。

真央は二人に心を読まれているような気持になり、目を閉じて顔を上に向けた。


口を真一文字にして、話していいものかと考える。


父親はTVのリモコンに手を伸ばし、電源を落とす。

すると家の中がシンと静まり、二人からの圧が強くなったような気がした。


真央は上を見上げたまま、口を開いた。

「オレの言うこと、全部信じてくれるかな・・・?」


「信じるよ。」「真央のこと、信じないわけないじゃない!」


父親と母親はすぐに答える。そのまっすぐな愛情に真央はこぶしに力が入る。

そして顔を二人に向けると、その場に正座して太ももに手のひらを置いた。


「みんなを助けに行く。」


「みんなって同級生たち?」


母親の問いに、真央は頷いて答える。


「警察には任せられんとか?」


「父さんはわかってるのかもしれないけど・・・・・・

神隠しの行き先は・・・・・・警察みたいな鍛えた大人でも、すぐには役に立たないし、戻って来れないかもしれない・・・そんな世界なんだ・・・・・・


オレは偶然なんだけど、この世界へ戻る方法を見つけたんだ。

でも、向こうにいるみんなはそれを知らない・・・オレが行って導けば・・・全員が戻って来れる・・・・・・かもしれない・・・」


真央は足に置いた手をギュッ!と握る。

その真剣で辛そうな表情を見て、母親がソファーから床に膝をつき、真央の手を両手で握る。


「みんなが危なかとね?」


母親の問いに、瞳が揺れる。

眉をピクピクと震わせ、耐えるように口を震わせる。


「ふ、2人、危ない・・・コータが危険な状態で・・・朝比奈さんが行方不明なんだ・・・」


母親は、真央の出した名前にドキッとするが、

「そうなのね・・・」と、それ以上何も言わず信じてくれた。


「真央!」


父親がソファーから立ち上がって、真央を見下ろした。

その声に真央は父親を見上げて、まっすぐに見つめる。


「全員を無事に戻す! お前には“それ”が出くってことな!?」


真央は父親を見つめたまま、大きくゆっくりと頷いた。


「わかった。 行ってこい!

だが、必ず無事に戻って来っことが条件ばい!!」


「はい!!」


真央は大きく返事をして母親に視線を送ると、母親は微笑んで頷く、それに応えるように真央も頷いた。


真央は立ちあがり、母親の手を引いて立たせる。


「警察にはバレないように・・・一人旅に出たとでも言っておいて・・・

家族会の人達にも、精神的にヤバそうな人には教えていいけど――」


「分かっとるわよ!」


母親が真央の腕をパシッ!と叩いた。


「それと・・・向こうとこっちの世界って時間の経過が違うんだ・・・

向こうの1年は、こっちで3年・・・」


「え? それって・・・真央、あんた・・・」


「ははは、実は19歳なんだ・・・」


真央は笑って後頭部を撫でた。


「だから、帰ってきた時に驚いとったとか?」


「そう・・・だから、できるだけ急いで全員を連れて帰るつもり・・・

でも、さっきも言った通り、コータと朝比奈さんが時間はかかりそうだから、

一度に全員じゃなく、何度かに分けて、戻る感じになるかもしれない。」


「そう・・・わかったわ。頑張ってきなさい!」


真央はそう言って、自分の部屋へと向かう。

階段を登ろうとして、立ち止って二人を見つめた。


「父さん、母さん、信じてくれてありがとう!!」


父親は「早く行け!」と手のひらで弾くような動作をした。

母親は「すぐ行くの?」と尋ねた。


「ちょっと色々準備してから出発する。朝にはいないと思う。

・・・・・・母さんのご飯、美味しかったよ。」


真央は階段をドタドタ……と登っていった。

それを見て、母親は父親の腕に抱きついた。


「大丈夫だ・・・アイツは言ったことは、ちゃんとやり切る子だ!」


「・・・そうだったわね・・・何か隠しとることは分かっとったけど・・・

みんなを助けに行くって・・・そがんこと止めらるっわけないわよね・・・・・・」


「ああ・・・あがん目で見られたら・・・止められるわけがなか・・・

親として・・・送り出して、信じて待つ! そんだけばい。」


「また寂しくなるわね・・・」


そう言って、母親は頭を父親の肩に頭を寄せた。


―――


真央は部屋のドアを開け、電灯をつける。

PCは京都に行く前に消してなかったので、電源は入ったままだった。

画面はスリープに入って真っ暗だが、部屋にはPCのファンの音が響いていた。


机にタブレットをモニターの横に置き、トントンと指で叩いてジッと見つめた。


マウスを動かしてスリープを解除すると、モニターの電源ランプが点灯し、京都に行く前の画面が表示された。


「VPS上から、アクチュアリー消したいけど、消すと皆消えちゃうような気がする・・・


いや、待て・・・・・・消えるのか?

矢島慎吾さん・・・彼の作ったユーザーディスクってどうなったんだ・・・・・・?

パッケージには入ってなかったってことは、紛失してるってことか・・・?」


真央は不穏な思考が、頭をグルグルとめぐった。

首を振って、考えないようにする。


「今、考えることじゃない!

オレがやることは、皆を救い出すこと・・・VPSのセキュリティもログを見る限り大丈夫・・・

攻撃ログを見る限り、ログインIDすらバレてないし、セキュリティは今の所は大丈夫・・・

信じて保持しておくしかない・・・


っと、そうだ・・・行く前に・・・」


真央はマロールを実行し、すぐにまた部屋に戻ってきた。

手には、武器の村正と、武具のBRAST PLATE+3を持っていた。


大きめのリュックサックに、武具を入れ、その隙間にこっちで用意した服や靴を詰め込んでいく。


荷物の準備を整え、他に持っていくものはないかと、部屋を見渡し、村正をリュックに括り付ける途中、真央は「あっ!!」という表情をする。


母親の話の中にあった薊の伝言を思い出していた。

(“まだ帰ってません”って言ったら、“一度こっち来て!って伝えて欲しい”って言わしたね・・・)


「ああぁーーーっ! 完全に忘れてた!!」


真央は手にリュックを持ったまま固まって、考えていたが「うん、無視しよう!」と村正をリュックに括り付けようとした――その時・・・


♪トゥルトゥー、トゥルトゥー、トゥルトゥー……うおぃ! ♪トゥルトゥー、トゥルトゥー……♪


スマホから真央のお気に入りの曲を切り出した、着信音がなった。

スウェットパンツのポケットから、スマホを取り出して画面を見る。


「わわっ、なんだ??? 誰だ、この番号・・・?

もしもし・・・」


(おっ、出た!出た! 真央! 私だ薊だ!)


電話をかけてきたのは薊だった。 スマホの番号を教えていなかったので、真央は驚いて、声がひっくり返った。


「へええっ!? あ、薊さん!? な、なんで、このスマホの番号・・・・・・」


(あのさー、真央・・・オマエ、影がどういう組織なのか忘れてないか?)


「あ、あのー・・・」


(なんだ?)


「オレ、犯罪者じゃないですよ・・・個人情報を勝手に調べていいんですか?」


(バカだな・・・犯罪者じゃなくても、犯罪者にすることはできるんだぞ)


スマホの向こう側で、薊がゲラゲラと笑う。


「(こわっ! この人達、マジでこわっ!!)・・・・・・それで、何か用ですか?」


(ん? 母親から伝言聞いてないのか?)


「いや、聞きましたけど・・・」


(そうか。 なら、何時に来るんだ?)


「えっ・・・・・・?」


(・・・・・・なあ、一応、確認だが・・・まさか無視しようとか思ってないよな?)


真央のこめかみに汗が流れる。


「む、無視するとどうなるんでしょうか・・・?」


(そうだなぁ~・・・さっき言ったみたいに犯罪者にすることもできるし、両親を人質にとるとかってのもできるぞ。)


「(こ・・・国家権力って・・・何なんだろうか・・・)冗談でも、度が過ぎますよ・・・本気で戦争するとか・・・ないですよね・・・?」


(まあ、冗談だ。 お屋形様が待ってるから、早く来い!)


「・・・わかりました・・・行きますよ。」


(待ってるからな・・・ブッ…)


スマホを耳から放し、「はあぁ~~~っ・・・」と大きなため息をつく。


「ははは・・・この人達に接触したのが悪いんだよな・・・

自業自得か・・・あはははは・・・ウケる・・・」


真央はそう言って大声で笑うと、マコールを発動させ、イィンッ…!!と小さな高周波のような音を出し、部屋から一瞬にして消えた。


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