報い
「あぁぁーーっ!!」
周りに渦巻く風がゴウゴウ⋯と激しい音を出し、周りの木々が、ザザザザザァーッ…と荒波のような葉音を鳴り響かせる。
バキッバキ、バキッバキッ……
辺りに冷気が漂い、木々の葉に霜が張り付いていく。
「ははははは・・・っ!!
残念だったわね! また消えてちょうだい!」
久美は高笑いして、「ざまあみろ!」と吐き捨てて続ける。
「また戻ってきても、私がWi−Fiスポットでアクセスしなきゃ、
私の居場所は簡単に見つからないんでしょ!!
ヒントまでくれるなんて、バカじゃないの!! あはははは・・・!!」
渦巻く土が空に高く伸び、細くなって消えていく。
それを見つめる久美。
激しい渦巻に長い髪がたなびき、顔の前を塞ぐ髪をかき上げ、そのまま押さえた。
真っ白な吐息が風に伸びていき、周囲の渦へと消えていく。
(・・・・・・木下の時、こんな渦巻きなんて出てたかしら・・・?
それにこの冷気はなに・・・?)
久美は自分を抱くようにして風上に背中を向け、背を丸めた。
そして唯一、消滅の瞬間を見た体育館のことを、視線を落として思い出すと、キョロキョロと視線が泳ぐ。
(あの時は一瞬で消えて・・・フルートが床に落ちた・・・)
真央が、ニヤリとして声を出し笑う。
「あはははははっ!!」
その声に久美が目の前の渦に視線を上げた。
渦が徐々に弱まり、空の方へと登っていくと、地面の方から土煙の勢いが落ちていく。
そして、効果が消えると、中心にいた真央が何事もなく立っていた。
「なあ~んてね!」
真央は、久美をバカにするように「ちょっとガルト(氷魔法)使って演出してみたー。」と、笑って言う。そして、渦で乱れた髪を直すように、数回髪を撫であげた。
「は!? はああぁーー・・・・・・っ!?」
久美は目を見開いて驚きの声をあげる。
「どっ、どうしてっ!? なんで消えないのよっ!?」
「画面見てみなよ。」
「がめん?」
「タブレットのゲーム画面だよ。」
真央の言葉にタブレットに視線を落とす。
「こっ、これはっ!?」
作成メッセージウインドウの【YES/NO】の上に、【同じ人間は作れません】
というエラーメッセージが表示されていた。
「えっ??・・・同じ人間!? 何っ・・・? どういうこと・・・????」
久美は、画面と真央を交互に見つめる。
初めて出たエラーに理解が追い付かない。
「メッセージどおりさ・・・
オレは既にそのゲーム内に作成済みだから、同じ人間を重複した形でのキャラクター作成ができないってエラーメッセージだ。」
久美は驚いて尋ねる。
「ウソでしょ!?
こっちに戻ったのに、名前が残っているってこと?」
「ああ・・・オレもこっちに帰ってきてから、ゲームを立ち上げて気づいた。
オレはまだゲームに登録されたままなのさ・・・」(*7話)
真央は、バッ!と、勢いよく人差し指を差し向け、久美を睨みつけた。
「つまり! キャラメイクでオレを消すことはできない!!」
「そ・・・・・・そんな・・・・・・」
久美はショックを受け、よろよろと後ずさりした。
「じゃあ、タブレットを返してもらおうか。」
真央は伸ばした腕の手のひらを返して、久美の方へ一歩二歩と近づいていく。
「いやよぉーーーっ!!」
久美は体を折って、地面に向かって叫んだ。
真央はその声にビクッと前に進めてた足を止める。
久美は上半身を捻り、タブレット取られないようにして操作を始める。
「いや! いや! いや! あいつらを――」
新しくメイキングをやり直す。
種族を選択し、ボーナスを割り振っていく。
「私をバカにしたアイツらを消してやるんだ!! 今すぐにっ!!
私が一番なんだからっ!!」
ギリッ……
真央は、その自分1人がよければ良いという久美の傍若無人さに、今アクトリアで苦しんでいる篠原たちを思い出し、こぶしを強く握る。
「あんたは・・・そうやって・・・いつもいつも自分勝手にやってたのかよ!!」
ドンッ!!
真央が地面を激しく蹴ると、公園の土が弾け飛ぶ。
そして、久美に飛び掛かった。
――その次の瞬間、真央が久美の顔を右手でつかむ。
その勢いのまま引き倒されると、久美の手からタブレットがはがれ落ちた。
「えっ?」
あまりの速さに久美は何が起きたか分からなかった。
そのまま、公園の地面に投げ飛ばされ、背中から地面に激しく打ちつけられる。
「うぐっ!」
勢いが強く、ズザー…と土の地面を滑り、久美のリクルートスーツは泥だらけになっている。
久美は痛そうに体を横に回転させ、腕を使って上半身を起こした。
顔を摑まれたことにより、かけてた眼鏡は歪み、顔に斜めにかかっているが、それすら直す余裕がなかった。
「なあ・・・・・・向こうの世界がどんなところか想像してるか?」
その声に久美は真央を見上げる。
「ひぃっ!」
怒りで圧が漏れ出していた。
その圧に空気がビリビリと揺れ、久美の周りの木々の葉がカサカサ……と震えている。
その様子に、久美は体をガクガクと震わせ、逃げようと足で自分の体を押した。
真央は首を左右に振ってタブレットを探す。
見つけると、近くへ歩いていき拾い上げて画面を見る。
画面は名前を入れる所で止まっていた。
それを一旦キャンセルし、新しく作成を始めた。
「毎日毎日、モンスターとの戦いだよ。
そして、何度も何度も傷だらけになるんだぜ・・・
我慢するが、痛いのなんのって・・・」
「ま・・・まさか・・・」
久美は真央が入力するのを見て、弱弱しい声を出す。
「あんたはそんな世界に、自分より成績が良いからとか、気に入らないとか・・・
そんなくだらない理由で他人をそんな世界に送り込んだ。」
「ま、まって・・・ね・・・ねえ、う、ウソでしょ・・・」
久美は首をフルフル…と振り、これから起こることを予想してガタガタと体を震わせた。
「ウソって・・・まさか自分は大丈夫だって思ってたわけ?
あんたは20人以上の人生を狂わせちゃったんだぜ・・・
それなのに、その報いを受ける覚悟なかったのか?」
久美は逃げようと座ったまま足をバタバタと動かし、後ろへと体をずらす。
「なあ・・・今まで何人も送ったんだ・・・
オレから逃げても無駄だってわかってんじゃないのか?」
久美は思い出したかのように目を見開いてガタガタと体を震わせ、「い・・・いや・・・・・・」と歯をガチガチと鳴らした。
画面に【属性を選んでください GOOD/ NEUTRAL/EVIL】と出る。
真央はそのメッセージに眉間にしわを寄せて、こぶしをブルブルと震わせて殴りたい衝動にかられ、こぶしを振り上げる。だが、その怒りを押さえ、耐えるように人差し指を伸ばして【E】を押した。
「ひとつ教えておくよ。
京都から送られた人たちは分からないけど、
同級生の皆は“あんたじゃないか”って思ってるから」
真央の手が止まる。
画面には、【作成しますか? YES/NO】と表示されている。
「だから、向こうに行って仲良くできるとは思わない方がいいよ。
逆に後ろから刺されないようにね。」
真央の言葉に、久美はビクッと体を震わせる。
「ごめんなさい!! 許して!!」
真央は「はあ?」という顔をする。
「何言ってんの? あんたが謝る相手はオレじゃないよ。」と、首を振った。
「じゃあね!」と言うと、タブレットのキーパッドの【Y】を「トン…」とタップした。
――その瞬間、久美の体が消滅し、光が残滓を残しながら、空へと上っていった。
真央はその様子を見上げていた。
先ほどの魔法で霜のついた葉から雫がおちて、元に戻っていく。
平静に戻ると、周囲の喧騒の音が聞こえてきた。
瞬きして、ゆっくりと顔を落とすと、手にしたタブレットに視線を流して見つめた。
しばらくすると画面がオフになり、ブラックアウトすると画面に真央の顔が写り込む。
「・・・・・・終わった・・・・・・これで・・・もう誰も向こうには送られない・・・」
真央は近くにあった公園の椅子にへたり込むように座った。
太ももに肘を置いて、うな垂れると目を閉じ、これからの事を考える。
(・・・・・・これからどうするか・・・まず、皆をこっちに戻すこと・・・・・・親への説明・・・いや・・・説明すべきじゃないか・・・?)
そんな時、どこからともなく、一筋の光が座っている真央を照らした。
真央はまぶしそうに顔を上げて、照らされる方へ手をかざして、目を細める。
照らされる光が足元へ落ちる。
何者かの足音が近づいてきた。
「キミ、ここで何をしてるんだ?」
制服姿の警察官二人だった。
小型の懐中電灯を肘をまげて、肩口の所に持っていた。
警官は腰を捻って、他にも誰かいないか懐中電灯で照らす。
もう一人の男は、胸の所の無線のマイクを口元に持ち報告している。
「通報があった八坂神社北の公園に到着しましたが、特に被害や怪我人は見当たりません・・・・・・」
「キミは、ココにどれぐらい前からいたのかな?」
もう一人の警官が真央に尋ねた。
「え? 10~15分ですかね~・・・」
「我々は西楼門の交差点の祇園交番から来たんだが、この辺りで『竜巻が発生してる』と通報があったんだが、キミは無事のようだね・・・何か見なかったかい?」
「え? ええ・・・・・・っと」
演出に使った魔法が、どうやら周囲の人に見られたらしく、真央は焦って言葉に詰まる。
真央は腕を伸ばして指さす。
「そこの桜の木が植えてある区画の向こう側で・・・竜巻を見ました・・・」
「本当ですか!?」
「え、ええ・・・・・高さ・・・10メートルぐらいの竜巻みたいなのを見ました・・・
木々がめっちゃ揺れて・・・バサバサ音が響いてました。」
「おお、そっちですね。 協力ありがとうございます!」
警官の一人は、そう言って敬礼すると、真央が指定した場所へと走っていった。
もう一人の警官は、なぜか真央をジッと見つめている。
「な、なにか?」
「いや、キミ・・・・・・どっかで見たことがあるんだが・・・」
真央はその警官の言葉に、ビクーッ!となり、嫌な汗が出てくる。
「え~、他人の空似じゃないですかねえ~・・・」
「いや・・・・・・最近どっかで・・・・・・」
(やばい・・・)
「じゃあ、僕は帰りますね~・・・」
真央は慌てて立ち上がり、そそくさと逃げるようにその場を離れていく。
警官は目を瞑り、「う~ん・・・う~ん・・・」と考えている。
「あ~~~~っ!! 思い出した・・・神隠し事件の!!」
警官は思い出して、顔を上げる。
だが、周囲には誰もいなかった。
「あれ? あれれ~・・・?」
警官は首を振って真央を探したが、真央らしき人影はなかった。
「おい! サボってないで、こっち来い!!」
「あ、ああ・・・すまん、すまん。」
後ろ髪を引かれるように、警官はもう一人の方へと走っていった。




