安永久美
薄暗い公園の中、久美はタブレットの画面とにらめっこしていた。
タブレットの放つ光で、顔が浮かび上がり、眼鏡にはタブレット画面のアクチュアリーが映り込んでいた。
タン、タン……と慣れた手つきでタップし、キャラクターメイクを進めていく。
「まずは・・・アイツ・・・白井だ!!
アイツは、研究会で一番うれしそうな顔で笑っていた・・・」
久美の中で、白井がバカにした口調で語りかけてくる。
『へえ~・・・その程度で推薦なんですか~
出身は長崎でしたっけ? いいですね~競争相手が少なくて・・・』
タブレット画面をタップする親指がプルプルと震える。
「白井・・・男に好かれるために、いつも、いつも、露出の高い格好しやがって・・・
なんで、あんな男好きが、成績が良いっておかしすぎるだろ!!」
そう言いながらキャラメイクを進めていく。
先ほどまで怒り狂っていた顔が、ニヤニヤと笑みを浮かべ始める。
「このキャラクターメイク、ほんと楽しいのよね。
これが終わったら消滅するって思ったら、おかしくてしょうがない・・・
くくくっ・・・白井は消える瞬間、どんな顔するんだろう?
くふっ! 今度消すヤツと話しながら、顔を見ながら消すってのも良いわね・・・
くふっ! くふっ! くくく・・・想像しただけでも笑えてくるっ!」
久美は口を押さえて、肩を震わせ、タブレットをタップする。
画面には【〈S〉が作成されました】と表示された。
「ぎゃははははは・・・・・・!!
私をバカにしたことを後悔するがいいわ!!」
大笑いしたが、いきなり真顔に戻った。
「あ・・・私が消したってこと知らないんだった・・・後悔もクソもないわね・・・」
そう言って、長い髪の毛を右手で肩の後ろへと払った。
「さて、次は・・・誰にしようかしら・・・・・・・・・
ああ・・・そうね、あの女・・・本田がいいわ。」
久美の怒りは、またしても同性に向いた。
男よりも陰湿さを感じたのだろう。
キャラクターメイキングの画面を開くと、名前にすぐさま“H”と打ち込んだ。
真央がこちらに戻って来る前、久美が送り込んだ大学生たちの割合は男が5人、女が7人だった。
それは同性という事で、久美が自身に対する攻撃性を強く感じる部分があったからだろう。
そのため、久美は同性へのやっかみがとにかく強かった。
『これ、どうせコピペでしょ?』
「誰がコピペなんてするか!!」
『コピペじゃなければ、AIの回答のまんまとか?』
「AIなんて使ってないわよ!!」
『知ってる? 無料AIなんて、ウソばっか言うし、勝手なことばっかりやるのよね~』
本田に言われていないことまで、頭に次々と浮かび上がる。
先ほどまで笑っていた顔が、般若のような表情に変わった。
「うるさい! うるさい! うるさいっ!!」
久美は声が聞こえないように耳を押さえ、ブンブンと頭を左右に振った。
「・・・そ、そうよ・・・あのクソ女消せば、こんな声は無くなるわ・・・
はっ、早く消さないと・・・」
タブレットに手を伸ばし、タタタッ…とキーをタップしていく。
「くくっ・・・クソ女は盗賊・・・
AGILITYは最低値、LUCKは上げない・・・くふっ・・・そして、悪」
久美は大学に入ってから、ロールプレイングゲームのパラメーターをネットで検索し、パラメーターの意味を理解していた。
キャラクターメイキングに置いて、その行為が自分の優位性を表しているようで、気に入っていた。
「はあぁ~~~っ! スッキリするっ!」
そして、最後に【Y】を押した。
「ぎゃははははは・・・・・・っ!! 次は誰だっけぇ~・・・
ああ・・・“李”でいいわね。 あいつもあの釣り目でよく睨んでたわ・・・」
【種族を選択してください】
「人間しか選べないってのはアレよね・・・李なんて、ホビットにでもしたいわ・・・」
人間を選択して決定する。
タンッ…
「ボーナスは7と8がよく出るわよね・・・くふふっ・・・」
【ボーナスを割り振って職業を決めてください】
「ふふふふっ・・・瘦せっぽっちな“李”は、戦士で良いわね。」
タンッ…
【属性を選択してください】
「そんなもの“悪”って決まってるわよぉ~・・・あぁ~っ・・・」
久美はゾクゾクと身震いして、両肩を抱いた。
【名前を入力してください】
「“R”」
タン…
名前に【R】と入力する。
「くふくふっ・・・あとは、アイツを思い浮かべて・・・くふふっ・・・」
久美は笑いを堪えるように口を押えた。
「やっぱり安永・・・アンタだったか・・・」
「!!」
どこからともなく声が聞こえ、久美はビクリと体を震わせ、入力していた手が止まる。
眼球だけを動かして、声の主を探すが見当たらない。
額に冷や汗が滲む。
「だっ、誰っ!?」
今度は首を振って声の主を探した。
「そろそろ、いいかげんにして欲しいもんだな・・・」
バッ!!
再び聞こえた声に、立ち上がって体をいろんな方向に向けて警戒する。
「だ、誰!? 誰なのよ!?」
ガサッザッザッガサガサッ………
落ち葉を歩く足音が聞こえてきて、次第に近づいてくるのが分かった。
久美はその足音の方を向き、目を凝らす。
だが、公園の木々の中の暗闇で正体はつかめない。
久美は体を少し揺らしながら、わずかな光で影を探りつつ後ずさりして、公園の外灯の方へと移動していく。
次第に、影の中から足先が外灯に照らされて浮かび上がってきた。
(・・・だ、誰・・・? 男なのは間違いない・・・けど・・・・・・)
人影が暗闇から生垣を跳び越え、公園の通路へ姿を現す。
だが、今度は外灯が逆光になり顔が見えない。
久美は目を細め、ジッと見つめて尋ねる。
「誰なの・・・? (・・・若い男・・・みたいだけど・・・?)」
「立花だよ。」
真央が答えた。
だが、久美の中では、「立花」という苗字はありふれた名前過ぎて、同級生の名前にはつながらなかった。
「立花・・・? (誰だ? 立花って・・・??)」
「そのタブレットの持ち主だよ。」
「は・・・?」
真央がさらに歩いていくと、次の外灯に顔が浮き上がる。
「!? たっ、立花って・・・・・・え・・・? うそ・・・??」
久美は真央を思い出し、驚いた口を手で押さえた。
その顔を見て、真央は頭を掻きながら呆れた顔でため息をつく。
「はあ・・・半月ほど前に、向こうの世界から戻って来たんだ。」
真央の言葉に、久美は喉を鳴らす。
喉が渇き、変な汗が流れ、手元が震えた。
「も、戻って????
どういう・・・え・・・? 戻って来れるの・・・?」
「簡単には戻れないけどね。」
「簡単には・・・? 向こうの世界って何よ・・・?」
「アンタが送っているじゃないか、そのゲームを使って・・・
この世界から、そのゲームと繋がる世界へ・・・」
「ゲームと繋がる・・・世界・・・?
じゃあ、消した人間は生きてるってこと・・・?」
「そうさ、あんたが送った20人・・・・・・」
真央は朝比奈を思い出して、言葉が一瞬詰まったが続ける。
「全員生きてるよ。(大学生とは交流ないから、多分だけど・・・)」
久美は細かく顔を横にブルブルと振る。
信じたくないという気持ちが表情に表れている。
「う、うそ・・・うそ!うそ!
そ、そんな・・・生きてるなんて・・・戻って来れるなんて・・・
アイツは・・・そんなこと言わなかった!!」
そう言って、目を見開いてタブレットを見つめた。
(アイツ? アイツって誰だ・・・? ――教えてる誰かがいる・・・?)
真央は怪訝な表情をして、手を伸ばしつつ久美に近づく。
「それより、それさ。 返してくんないかな?
そもそも、オレんだし・・・」
久美はにじり寄る真央から逃げるように後ずさりする。
「ど・・・どうして・・・」
「ん?」
「どうして、私のいる場所がわかったの?」
久美は震えるような声で尋ねる。
「ああ・・・そこのハドバンのWi-Fiスポット使っただろ?」
真央は、公園に隣接する京料理の店を指さした。
「え? ええ・・・」
「それで分かった。」
「はぁ!? そんなんで、ここが分かるわけないでしょ!?」
久美は意味が分からず怒鳴った。
真央は「あぁー・・・面倒くせぇ・・・」とイライラするように頭をポリポリと掻いて説明する。
「わかるんだよ・・・
まず、そのゲームは、そもそもそのタブレットで動いてない。
動いているのは、オレの借りてるVPS上だ。」
真央は説明を始める時は、イライラした表情をしていたが、
罠を張っていたところに、無様に引っかかった久美がおかしくてしょうがなかった。
次第に、ニヤニヤと顔が緩んでいく。
「アンタがタブレットのゲームを立ち上げると、VPSに接続するんで、罠張って待ってたんだよ。
スマホに連絡来るようにアラーム設定してさ・・・
接続されたら、あとはアクセスルートを探せばいいって話さ。
でも、アンタがWi-Fiルーター使ってたら、場所を特定できなかったけどね。
特定するにはハッキング(犯罪)が必要だったけど、ケチくさくWi-Fiスポット使ってたおかげで、非常に助かったよ。」
真央の説明に、自分がミスしたように言われイライラする。
プルプルとタブレットを持つ手が震える。
「だっ、だからって・・・短時間でここまで来れるわけないわ!!」
腕を大きく振って、大声でアピールした。
「ああ・・・そっちね。
オレってマコール・・・いや、テレポート使えんのよ。
この辺の位置情報さえわかれば来れちゃうんだよね~」
そう言って笑った。
「はあぁーっ!? テレポートとか馬鹿にしてるの!?」
真央の説明に納得いかない久美は、イライラして怒鳴りまくる。
だが、真央は飄々と「いやいや、バカになんてしてないよ。 侍なんでー」と、軽く答える。
(こいつ・・・何言ってんの!? ほ、本当に立花なの?
テレポートとか侍とか意味が分からない・・・)
久美はだんだん目の前にいる真央に対して、不信感を芽生えさせた。
どうにかして、この目の前にいる真央を何とかしなければという考えに陥る。
「あんた、なんか言いなさいよ!! 助けるタイミングでしょ!?」
久美はタブレットに向かって叫んだ。
真央はそれを見て「なんだ・・・?」と、追いつめる足が止まる。
(…………)
だが、タブレットは何も語らなかった。
しかし、久美はタブレットに向かって叫んだことによって、表示されているゲーム画面に気づいた。
(――これだわ!!)
タブレットには“李”のキャラメイクの名前入れの途中で止まっていた。
それに気づき、久美は笑みを浮かべて真央に話しかける。
「ねえ、立花・・・知ってる?」
真央は急に問われ、「ん?」という表情を返した。
「このゲームのキャラメイクってさ、名前が違ってても思い浮かべた人物を紐づけするって知ってる?」
「ああ、知ってるさ。
コータ達は、あだ名でキャラメイクしたからね。」
この答えを聞いて、久美は口角を上げた。
「今ね・・・
【Yボタン】を押すだけでキャラメイクが終わるとこなんだよね・・・
立花、アンタを思い浮かべて押せば・・・どうなるかな?」
久美はタブレットのキーボードの【Y】の所で指を止めて尋ねた。
真央は慌てて、「おい! やめろ!!」と、その久美の行為を止めようと叫んだ。
焦りで汗がほほを伝う。
だが、久美はその声を無視してキーをタップする。
次の瞬間、真央の足元から光があふれ、公園の土が真央を中心に渦を巻いた。
「うわああぁぁぁーーーーっ!!」
真央は巻き上がる土を、両手で掻き分けるように動かす。
公園に真央の声が響き渡った。
久美は目の前で起こる現象に、目を見開いた。
そして次の瞬間、
「あはははははーー・・・っ!!




