また会えるか
――― 影本部 道場
道場の引き戸が開き、医務室へ行ってた真央と付き添いの郷士が入ってきた。
気づいた薊が駆け寄り、付き添った郷士に尋ねる。
「傷はどうだったんだ? 深かったろう!?」
「いえ・・・それが・・・医務室で先生に見てもらったんですが・・・」
付き添っていた郷士の男が思い出しながら、医務室でのことを薊たちに説明する。
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一度、扉の外の通路にでて、出口方面ではなく、奥隣りのドアが医務室だった。
影の道場では毎日のようにけが人が出るような訓練を行っており、影エリアと医療エリアは隣り合わせの方が便利だったからだ。
重症や重体などの重いケガであれば、慶應義塾大学病院へ送り込まれる。
医務室には、常に医師が病院から派遣され常駐しており、影以外も緊急時はこの医務室で対応するほど、
ドアをくぐると、小さな待合室があった。
1辺が7メートルほどの真四角の形をしており、奥側には3メートルの通路が右方向へ伸びている。
待合室には、背もたれのないタンデムタイプの長椅子(3人掛け)が4脚ほど置かれていた。
その正面の壁には巨大なモニターが2台あり、1台は順番待ちの番号が表示され、1台はテレビ放送を流していた。
「ここ使う場合は、この機械で自分の受付番号を取るんだ。
あと、たまに国の重要人物がいる時あるんで、口の利き方には注意しろよ。」
「え? 重要人物って?」
「一番やべぇのは皇族だよ。」
郷士の男はきょろきょろと周りを確認して、真央の耳に手をかざして小声で伝えた。
入ってすぐの場所には、受付の機械が鎮座していた。
その機械のボタンを押すと、ジィージジジ…と受付番号015とプリントされた感熱紙が出てくると、それを切り取る。
「ほらよ・・・これが真央の受付番号だ。 受付すると、あそこのモニターに番号が表示される。」
切り取った感熱紙を真央に渡すと、モニターを指さす。
すると、モニターに015が“パッ”と表示される。
「今は誰も待ってないから、次呼ばれたすぐだけどな。」
ピンポーン……!
「15番の方は診察室へどうぞ。」
チャイムが鳴ると、女性の声で案内が天井のスピーカーから流れた。
「呼ばれたぞ。 行こう!」
郷士が真央に、奥の壁にある引き戸を指さして、引き戸の方へ歩く。
引き戸の前でいったん立ち止まり、右へと続く通路を指さして説明する。
「この奥にレントゲン室、CT室・MRI室がある。 トイレはその対面にある。
まあ、使う時があるかもだから思えとけよ。」
そう言って、引き戸を開ける。
カラカラカラー……
「せんせー、ケガ人つれて来たんだけど・・・」
郷士の男が中へと入っていく。
真央は左右を見回しながらついていく。
診察室は、普通の病院と変わらなかった。
引き戸のすぐわきに、荷物を置くためのプラスチック製のかごがあり、医者が使う机と、その後ろ側には横になれる白いシーツがかけられたベッドがあった。
机のには、解像度の高いモニターが2台、縦置きで横に並んでいた。
医者が入ってきた真央たちを向く。
「ケガ?」
「コイツですよ。 立花真央って言います。」
郷士が後ろにいる真央を説明すると、医者は破けた袴についている襟元の血を見る。
「裂傷? 今日は木刀じゃなくて、他の得物を使ったのですか?」
「いえ、木刀です。」
医者は目を見開いた。
木刀でのけが人は大抵、打撲痕や骨折などのケガが多かったので、大量に血がついている真央の袴に驚き、呆れながら笑った。
「ははは・・・、まだ君たちの非常識さが理解できてなかったようだ・・・
私もまだまだ不慣れですね・・・
立花さん・・・どうぞ、ここに座って・・・」
そう言って、自分の横にある診察チェアーに手の平を向けた。
真央はその椅子に腰を下ろす。
「どれ・・・」
医師は立ち上がって、破けた襟元を手で掴むと、首から離して傷を確認する。
「おや? 傷はないようですが・・・この血はどこから?」
「え? ここんとこ、えぐれてましたよ!」
郷士が自分の首元を叩いて説明する。
医師はそれを見て、再度真央の首元を触って確認する。
「いえ・・・傷はないですね・・・」
「はあぁ~?」
郷士は不思議そうな声をあげ、真央の首元を確認する。
「ほんとだ・・・ないですね・・・」
「でしょう?」
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「てなことが、ありまして・・・」
郷士が説明すると、薊が不思議そうな顔をして、真央に近づくと、襟元をひっくり返すように広げて確認する。
「確かに・・・傷がないな・・・
おい、真央! オマエ、ケガしてたはずだよな?」
「掠った程度じゃなかったですか?」
(ジオスで治したんだけど・・・)
「掠った程度で、こんな血が出るわけないだろ!?
さっきの脇もそうだし、顔の傷もそうだ・・・オマエの体、どうなってるんだ!?」
「治っただけですよ。」
「いやいや、そんなすぐには治らんだろ!!」
郷士が突っ込む。
薊もウンウンと頷いた。
そこに、晴樹と貞明が近づいてくる。
「どうした? 何騒いでるんだ?」
「晴樹さん、真央の傷が消えてるんですよ。」
「は?」
薊が晴樹に説明すると晴樹が近づき確認する。
「確かにないな・・・」
貞明が真央に顔を近づけて首元を見ると、ガバッ!と真央の首に腕を回した。
そして、他に聞こえない様に耳元で囁いた。
「それ・・・“向こうの世界”の力なんやろ?」
貞明の問いに、(ああ・・・そういえば、この人には言ったんだ・・・)と、言ったこと思い出し、コクリと頷く。
貞明は首に回した腕を解き、真央を突き飛ばす。
そして、両手を腰に置いてうなだれると「はあぁ~・・・」と大きなため息をついた。
「真央! あかん! あかんで!」
真央は突き飛ばされて、何歩か歩を進めて肩と首を回して貞明を見つめた。
晴樹と薊も“何ごと?”かと貞明を見た。
「オマエ、そんな力があるもんやから、身を削る傷を無視しとるんや!
そらあ、あかんで! 絶対いつか大ケガするか、もしくは死ぬで!!」
真央はその言葉にドキッ!となった。
貞明は真央に近づき、襟元を掴んで捻り上げる
「生き残りたきゃ、そんなギリギリの戦いはあかん!!
オマエは、友人を助けるために死んだらあかんのや!!」
「おい、貞明! 何やってんだ!?」
晴樹は貞明の肩を掴んで引き寄せる。薊は驚いた顔で見つめていた。
真央は黙って聞いていた。
確かに、多少の傷は無視して戦い続けている。
だが、それはタツヤの自分の回復魔法がある時だけが有効で、無くなった時のことを後回しにしているからだ。
ピロンッ!!
そんな時、道場の壁にかけていた真央のショルダーバッグから音が鳴った。
真央は捻り上げてる貞明の手を振りほどき、慌ててバッグの所へ駆け寄り、ジッパーを開けて、スマホを取り出す。
「なんだ? どうした?」
「・・・なにかあったのか?」
様子のおかしい真央に、郷士たちの視線が集まる。
待機画面にVPSからのメッセージが表示されていた。
真央はハッ!として、慌ててショルダーバッグを壁から外すと、両手で抱えて立ち止まり、言い訳を考える。
「す、すいません・・・きゅ、急用が入ったので、今日はこれで失礼します。」
「えっ?」と薊が驚く。
そして、小さく頭を下げると、道場を出て行くために引き戸を開けた。
道場から一歩出たところで、貞明が「真央!!」と呼ぶと、真央は引き戸に手をかけたまま立ち止まる。
「また、会えるんやろな・・・?」
その問いに晴樹と薊が「えっ?」という表情で貞明に視線を送り、貞明の神妙な面持ちを見て、立ち止まっている真央に視線を戻した。
「・・・・・・。」
真央は答えず、道場を出ると引き戸をパンッ!と閉めた。
「おい! 真央っ!!」
薊があわてて走って追いかけ、引き戸を開ける。
勢いよく開けた引き戸が敷居を端まですべり、ピシャン!と音を立てた。
しかし、道場の外に真央の姿はなかった。
「うそ・・・なんで?」
薊は首を振って確認するが、気配すらなかった。
「ドアの音もしなかった・・・」
薊は道場の方を振り返る。
「真央がいない!! ちょっと、確認してくる!」
薊はそう言うと、地下の出入り口へと追いかけていった。
晴樹はその様子を黙って見つめた。
貞明は、目を強く伏せ、髪の毛をグシャグシャと搔き乱している。
「・・・・・・貞明・・・オマエ、何か知ってるのか?」
貞明の方へゆっくりと体の向きを変えて、詰め寄る。
「ようは知らん! ただ、真央が何者なのかはわかったんや!」
「何者・・・? どういう意味だ?」
晴樹は眉を寄せ尋ねた。
「真央は、3年前の神隠し事件の一人や・・・」
ザワッ……!
「神隠し事件だって?」
「それって、なんだったっけ?」
「覚えてないか? 高校生が目の前で消えたって事件・・・」
「あ、あ~、あれか・・・」
道場にいる郷士たちが、驚いた顔で見合わせる。
「な・・・なんだと・・・?
なんで、そんな重要なこと黙ってた!?」
晴樹は、貞明の襟を捻るようにつかんだ。
貞明はその手首をつかんで引きはがす。
「黙ってたんやないわ!! さっきの仕合の最中に聞いたんや!!」
晴樹は引きはがされた手を、ゆっくりとこぶしを緩め、力なくゆっくりと下した。
「そ、そうか・・・すまん・・・
それで・・・なんで、“また会えるのか?”って聞いたんだ?」
「わからん・・・なんか二度と会えへんような気がしてな・・・
真央は、また向こうの世界へ行く気や・・・」
「向こうの・・・世界・・・?」
「神隠しの世界や・・・」
「ちょ、ちょっと待て! 自分の意志で戻れるのか!?」
晴樹が驚いて、手を開いて貞明に向けた。
「“残ってる仲間を助ける”言うとったから、戻れるんやろ・・・」
「仲間・・・消えた同級生ってことか?」
「せや、真央は仲間を助けるために、ここへ修行に来たんや・・・
アイツが強いんは、向こうの世界で命を懸けて戦っとるからや・・・」
貞明はそう言って、寂しそうに顔を上げ天井を見つめた。
そこに薊が戻ってくる。
開けっ放しだった引き戸をガラガラと閉める。
「だめだ、門を通ってなかった・・・真央のやつ、どこ行ったんだ?」
薊はそう言って首を振った。
「ぷっ!」
貞明が噴き出した。
それを晴樹と薊が見つめた。
「何だ? 何がおかしいんだ?」
「絶対笑わんか?」
晴樹と薊はその問いに顔を見合わせる。
「内容によるが・・・」
晴樹の答えに薊がウンウンと頷いた。
「真央な、魔法が使えるんやで・・・多分やけど。」
「は? 何、馬鹿なこと・・・魔法って、漫画かアニメじゃあるまいし・・・」
「傷、治してたやん!」
貞明が、二人に人差し指と親指を立てて向ける。
「えっ? えええぇーーーーっ!?」
道場にいる全員が奇声のような驚いた声をあげた。




