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アクチュアリー ―封印都市アクトリア―  作者: ブラックななこ


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「では、改めて名乗ろうかの。

ワシは裏・示現流十五代目当主、東郷重臣。


立花真央とやら、一つ尋ねる。

おぬしの敵とはいったい何じゃ? 思うに人ではないな・・・?」


東郷の問いに、真央はピクッと反応する。


「当たりのようじゃの・・・」


東郷は顎髭をいじりながら、木刀で首の根元をトントンと叩いた。


「人みたいなやつはいますよ。」


「ほお、物の怪の類か・・・よかろう。 ほれ、構えてみい。」


東郷は木刀の切っ先を真央の前でプラプラと左右に動かす。

促されるように、真央は木刀を構える。


「いくぞ。 瞬きなどするでないぞ!」


そう言った刹那だった。

真央の視界から東郷が消え、次の瞬間には木刀を持つ手に何かが当たる感触がした。


真央が視線を落とすと、手首のところに東郷の木刀が乗っていた。


「!! うっそ!?」


あまりの驚きに、真央はパチパチと何度も瞬きをした。


「なんじゃ? 瞬きでもしたのかの?」


周りで二人を見ていた影の衆が歓声をあげる。


「おお~・・・さすがは、お屋形様!」

「今のは陽炎か・・・」

「お年をめされても、あの足さばき・・・」


東郷が外野を睨む。


「誰じゃ、歳のことを言うたのは!?」


東郷がギロリと周囲を睨みつけると、先ほどまで歓声を上げていた影の衆は、再び頭を深く伏せて沈黙した。


真央は先ほどの東郷の動きを思い出そうとしていた。


(・・・視界に確かにいた・・・でも、あの姿が本物だったのか・・・

それ以前に踏み込みとかまったくなかった・・・なのに、すぐ横にいた・・・


飛び込みとか・・・そういうレベルじゃない・・・・・・スゴイな・・・)


真央はゾクリと背筋が震え、口元に笑いがこぼれる。

バッと勢いよく東郷に向き合う。


「もう、いっぽおぉーん!!」


そう言って、木刀を構えた。


「謎は解けたかの?」


「いえ、まだです!」


絶対見つけるという顔で、そう言う真央に東郷は笑う。


「よかろう。 もう一本だけじゃぞ。」


「はい!」


「薊! 差図を頼む。」


東郷の言葉に、薊は驚いた。

通常、東郷の初太刀は、差図を掛けてもその姿をとらえる事ができない。

その為、差図をかける意味がなかった。


(もしかして・・・お屋形様は、あの立花真央という男に、可能性を見ているのか・・・?)


薊は晴樹に視線を送る。

晴樹もその意味を理解して、コクリと頷いた。

その様子に、薊がゴクリと息を飲む。


「始めっ!!」


次の瞬間、薊が腕を振り下ろす。

真央は目を閉じた。


「お屋形様相手に、目を閉じるだと!?」


(見えないものは、見る必要ない・・・!)


真央は空気の動きを読む。

東郷が一度反対の動きを見せ、逆の方向へと動く。


(これが見えていた残像か・・・)


先ほどと同じように、真央の手首を狙ってくる動きを感知し、真央は手首を回し、サッとその方向へ木刀を向ける。


カンッ!!


東郷の切っ先を真央の木刀が弾き、初太刀を防ぐ。

その防いだ行為に、影の衆が驚きの声を上げた。


「まさか!」

「お屋形様の一手目を塞いだ!?」


初太刀を塞がれた東郷は、体を逆回転させて真央の肩口を狙う。

真央はそれに反応し、背中を防御するように、頭の上から背面に木刀を回す。


カカッ!!


木刀の先の方で、東郷の木刀を弾く。

ギリギリ、防御できていた。


「おおぉ・・・」

「二手目までも防ぐとは・・・」


だが、東郷は体を回転させ、次の太刀の為に動作を続けており、首元に向かって太刀を振った。


ヒヤリ…


真央も反応したが間に合わず、東郷の切っ先は首筋に接触した。

横目でそれを確認する。


「わしの勝ちじゃな。」ニヤリと東郷が笑う。


真央は肩で息をしていたが、東郷は息ひとつ乱れていなかった。

そんな東郷を見て、真央が呆れた顔をする。


「はっ・・・はっ・・・じいさん・・・はっ、実は・・・妖怪か何かでしょ・・・?」


「なっ!? 無礼な!!」

真央の言葉に、影の衆が怒りをあらわにして、木刀に手をかけて立ち上がろうとする。


「よいよい・・・よい仕合じゃった。」


東郷は笑って顎髭をさすった。

真央は背を伸ばして東郷に向きなおすと、「ありがとうございました!!」と深々と腰を折った。


「どうじゃったかの?」


「動きはなんとなくわかったんですが、わかってからでは間に合いませんでした・・・

二手目は向き合いたかったんですが、一手目からズレてたんですね・・・」


(ほお・・・自己分析もようできとるの・・・それに、この小僧・・・まだ何か技を隠しておるな・・・)


「おぬしの使ったのは、心眼ではなかったようじゃな?

何をどうやったんじゃ?」


「自己流です・・・空気の流れを感じて・・・

見えない物を追うより、そっちが良いかと思って・・・」


「空気?」

「そんなもの感じれるか?」

真央の言葉にザワザワ…と影の衆が顔を見合わせる。


「空気の流れか・・・そうか・・・先ほど闇の中で避けれたのはその技か?」


「あ、はい・・・ですが、空気を伝う動きよりも早い剣技には無駄な技でした・・・」


東郷は、落ち込む真央に呆れた顔をすると、木刀の先で後頭部をコツッ!と叩く。


「あいた。」


真央は頭を抱えながら東郷を振り返る。


「ほんに、面白い男じゃのう・・・

よかろう! 我らが剣、伝授してやろう!」


真央の顔が「えっ?」と驚いた顔をする。


「なんじゃ? いやか?」


「い、いえ、とんでもない!」


真央は両手を広げてフルフルと否定する動作をしたあと、深々と頭を下げる。


「よろしくお願いします!!」


「皆の者! そう言うことじゃ! 立花真央を歓迎してやれ!!」


東郷がそう言うと、平伏していた影の衆が真央の元へ集まってきた。


「あんた、やるじゃん!」

「目がいいんだろう・・・視力はどれぐらいだ?」

「自己流って、どうやって強くなったんだ?」

「実戦のこと、くわしく教えろ!」


次々と集まってくる影の衆が、真央に質問の嵐を浴びせる。

圧倒されている真央の前に、晴樹が割って入って皆を遮った。


「こら! 真央が困っているだろ。

これから、いくらでも交流できるんだ。

質問はあとだ、あとにしろ!」


そう言って、真央の背中を押すようにして、囲まれた輪の中から引きはがした。

すると、そこに薊が駆け寄ってくる。


「真央、我々との修練は許可されたが、今後どうする?」


「え? 今後って?」


「施設に宿泊するかってことだよ。 ここに毎日通うのは大変だからね。

セキュリティがあるから、中に入るのに時間がかかるしね。

影の所属章があれば、出入りできなくはないけど・・・真央は所属するわけじゃないし・・・」


薊が詳しく説明する。


(・・・侵入はできなくないけど・・・困ったな・・・)


「・・・親と一緒に住んでるんで、話しもしてないし・・・宿泊とか無理ですね・・・」


「はあ? 親? 許可?

真央、あんた、その実力で子供かよ。」


薊はバカにするように笑う。


「こら、薊。 真央には真央の事情があるんだ。

そんな風に言うんじゃない!」


「だってさー、晴樹・・・

親の許可って・・・ていうか、真央、オマエ歳いくつなんだよ?」


「え? 19ですけど。(戸籍は21だけど・・・)」


「ええーっ!? 19ーーぅ!? ウ、ウソでしょ!?」


薊は口をパクパクしながら、晴樹に視線を送る。

晴樹も少し驚いた様子をしていた。


「19であの体術か・・・大したもんだな・・・」


「え? 変ですか?」


真央の問いに、晴樹がきょろきょろと影の衆を探すように見まわす。


「いた、いた、信武しのぶ! ちょっとこっち来い!」


真央は晴樹の向いている方向を、首を回して見る。

呼ばれた信武が「はい!」と返事をして、駆け寄ってくる。


「晴樹さん、なんでしょうか?

あっ! 立花真央さん! 先ほどの仕合、すごかったです!」


信武が駆け寄ってすぐに真央に感想を伝える。

その視線はキラキラと尊敬のまなざしを真央に向けていた。


「あはは・・・、あ、ありがとうございます。」


真央は、信武と会わせた理由がわからず、晴樹を見る。


「この信武が19だ。

信武、真央はお前と同い年だそうだ。」


その言葉を聞いて、信武が目を見開いて驚く。

口がパクパクとして、言葉が見つからない様子だった。


「ちょっと二人、並んでみてよ。」と薊。


信武は動けない様子だったので、真央が横に並ぶ。

影の衆が、「何だ、何だ?」と集まってくる。


「うん、やっぱり同い年に見えないわ。」


「ああ、体つきや重心・・・纏っている“気”が全然違うな。」


晴樹が顎に手を添えて、まじまじと見ながら感想を述べた。

真央が“えーっ”と自分の体と信武の体を比較するように見つめるが、よくわからず首をかしげる。


「ちなみに、信武の序列は下から2番目よ。」


「序列?」


「ええ、お屋形様が当主だから、トップなのは当然として、次が“城代じょうだい”。

そして、私や晴樹など、影の幹部・指導者の“上士じょうし”、

あとは信武みたいな一般構成員“郷士(ごうし)”ね。

信武はその郷士の中で、下から2番目ってことよ。」


信武は恥ずかしそうに俯いた。

それを見て、晴樹が肩に手を置き、語り掛ける。


「信武、同い年の真央がこの域まで行けるんだ。

オマエも修行を怠らなければ、序列は徐々に上がるだろう。

良い目標ができたじゃないか。 頑張れ!」


「は、はい、そうですよね、頑張ります!」


信武は顔を上げ、両手を握り締めながら脇を閉めて、腕を力強く構えた。


「でも、どうするの? 通い?」


真央はマコールがあるとは言えない。

とりあえず、通える距離で答えた。


「そうですね・・・家は川崎なんで通います。」


「この時間、どうやって川崎まで帰るんだ?

もう終電終わってる時間だぞ。」


真央は晴樹の問いに“しまった”となったが、顔には出さず答える。


「走って帰ります。」


真央はそう言って笑った。


「そうか、走りか。

まあ、確かに1時間ほどあれば着ける距離だな。」


晴樹はそう言って納得した。

他の連中も走ることに何とも思っていない様子だった。

その様子に真央は笑ってしまう。


「じゃあ、明日から来る場所を教えよう。 こっちだ。」


晴樹は舗装された道路を元赤坂の森へ入っていく


「それじゃあね。」と薊が真央の肩をポンと叩いた。

信武は深々と頭を下げた。

他の影の衆も手を上げて見送る。


真央は、首を軽くまげて挨拶をして、晴樹を追いかけていく。


舗装された道路を進んでいくと、古い門が見えてくる。

晴樹はその門の脇にある通用口を開けた。


通用口の先に立っていた警官が振り返り、晴樹に気づいて敬礼する。


「お疲れ様です。」


晴樹は軽く敬礼をして、真央に説明する。


「ここに来たら、警官に頼んでオレか薊を呼んでもらえ。

この門が一番、影の施設に近いから、呼び出しても数分で来れる。」


「わかりました。」


そして、外苑東通りの歩道へと進んでいく。

その通りは夜中でも、タクシーが時折行きかっていた。

真央はこの時間でも明るい空を見上げる。


「ほえ~・・・ビルばっかだ・・・」

初めてきた場所なので、興味津々だった。


「川崎だって、これぐらいのビルあるだろ? 珍しいか?」


「え? あ、いや、ウチは住宅地なんで・・・」


真央はうっかり口走った言葉を濁す。

晴樹は“ああ~”という顔をする。


「そうか、真央の家は多摩地区のほうか・・・

じゃあ、246を西に走っていけばいいな。」


真央は意味が分からなかったが、「はい、そうなんです。」と答えた。


「でだ、そこの246の交差点・・・

左側に交番があるんだが、その隣に地下鉄の青山一丁目駅の入り口がある。

たしか、2番だったはずだ。」


真央はコクリと頷く。


「明日には通行証を用意しておく、それがあれば呼び出さなくても、ここを通してもらえるからな。」


「わかりました。 では、今後ともよろしくお願いします。」


「ああ、じゃあ、明日待ってる。 昼前に来るといい。」


「はい。」


晴樹はそう言うと、通用口から門の中へと戻っていった。


真央は晴樹を見送ると、上を見上げながら青山一丁目の交差点へと向かった。

周りの様子を見て真央は困惑する。


「今の時間だから人はほとんどいないけど・・・昼間に来れるのか?」


辺りを見渡せば、ビルの壁面、交差点の信号、街頭の至る所に、監視カメラのレンズが鈍い光を反射していた。

国家の重要施設の周囲だ、セキュリティの密度が南島原とは桁違いだった。


「まいったな・・・」


真央はなるべくカメラの死角になるような、ビルの陰を縫うように移動する。

地上の死角を探すより、上空から安全なポイントを探した方が早い。

人通りの途絶えたビルの隙間で、真央は指先を滑らせた。


一度空中に転移し、青山中学校そばの屋上に降り立つ。


「東京スゲエな・・・マンションだらけ。」


感嘆の声を漏らしながら、明日からの“着地点”を鋭い目で探す。


「お、あそこ良いんじゃないか?」


今自分が立っている建物のすぐ横に、外からは死角になっている地下へと降りる狭い階段が上から見えた。


試しにそこへ視界を合わせ、マコールで転移する。

そこは幅2メートルほどのコンクリートの階段だった。


そこをトントンと数段登ると、周囲のカメラに一切映ることなく、そのまま地上へと出ることができた。


「一度屋上に転移して、上から人がいないことを確認して転移すれば大丈夫かな?」


なんとか難題をクリアした真央は、指を組み、上へと大きく突き上げて背伸びをした。


「ふ~~~っ・・・とりあえず、これでやっと家に帰れるかな・・・?」


深夜の静寂の中、真央は自室のベッドの脇へと、本日最後のマコールを起動させた。


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