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アクチュアリー ―封印都市アクトリア―  作者: ブラックななこ


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真央は自宅に戻り、両親と夕食をとったあと、自分の部屋に戻った。


ポケットから黒木に手渡された紙切れを取り出し、机のライトに透かしてみる。

メモに書かれているのは、ただ“流派”と“住所”だけだった。


真央はその簡素すぎる内容に、妙な違和感を覚えていた。


(なぜ・・・流派と住所のみなんだ?)


担当者の名前も、連絡先の電話番号すらもないメモに疑惑を感じながら、

机に座ってブラウザにその住所を打ち込んでみる。

画面に表示された地図とピンの位置を見て、真央は思わず目を見張った。


住所が示す先は、“港区元赤坂2丁目1−1”

赤坂御苑、迎賓館を示していた。


真央はその場所のことを、たまに出るニュースで見聞きしており、知っていた。

皇室ゆかりの広大な敷地であり、国賓を迎える日本の象徴。


「おい、おい・・・こんなとこ、一般人が入れるわけないだろ・・・

黒木さん・・・マジかよ・・・」


呆れたような呟きが漏れる。

だが、メモを渡した黒木が、あの状況で冗談を言うとは思えなかった。

あの時の黒木の言葉が脳裏に蘇る。


(薩摩で有名な示現流ですが、表ではなく、裏の示現流です。

現代の時代でも、日本政府を裏で支える組織です。 我々のような遊技ではなく、本物ですよ・・・)


その言葉の本当の意味を理解した瞬間、真央の口元から自然と笑みがこぼれ落ちた。


「ははは・・・いいね、黒木さん! 面白くなってきた!」


真央は、場合によっては逃げればいいと、マコールを使って赤坂御苑へとジャンプした。


――― 赤坂御苑


真央は迎賓館の前庭の中央に、音もなく足をつけた。

すでに夜の帳は落ちていたが、赤坂がある東京は明るく空は照らし、雲を鈍い色に染め上げている。


遠くから微かに聞こえる大都会の地鳴りのような喧騒。

すぐ近くを通る首都高の赤坂トンネルから、車の走行音が眠ることがないかのように続き、広大な庭園の中に響いていた。


真央が立つ前庭は、迎賓館の美術品のような門をくぐり、建物までまっすぐに磨き上げられた石畳の参道が伸び、その両サイドには芝生が水平に広がり、その上には幾何学的に等間隔に配置された背の低いクスノキの植栽が整然と並んでいた。


「!!」


真央の警戒センサーにいくつもの動体が感知された。


バン!


真央が立つ参道以外の外灯が落ち、中央の参道だけが浮かび上がっていた。


「マジか!?」


ただ、降り立っただけなのに、不審者として認識された事実に、真央は身を構えて笑いをこぼした。


真央を取り囲むように人影が動いていく。

離れた位置で銃を構えて、配置につくと。


「動くな!!」


真央は手を上げる。

すると、囲んでる輪の数人が、輪をゆっくりと狭めてくる。


参道の外灯に照らされ、黒い闇の中からゆっくりと姿を現した。

それは、グロックを構えた黒ずくめの集団だった。

顔はフェイスカバーで覆われ、目元しか見えない。


(銃かぁ〜・・・求めるアレじゃないなあ〜・・・)


真央はそんな事を考え、“はぁ~”とため息をついた。


「何者だ!? 何の目的があって、ここに侵入した!?」


輪を狭めてきた正面の男が真央に尋ねる。

真央はメモを取り出そうとして、手を少し動かしたその次の瞬間――


チュィーン…!!


足元で弾が跳弾した。


「動くなと言っただろう!! 今のは警告だ!! 次はないからな!!」


真央は弾が飛んできた方をジッと見つめると、かなり離れたビルからだった。


―――


スコープを覗くスナイパーが、真央の視線にビクッと反応し、喉を鳴らす。


「こちらデルタ・・・ターゲットの男がこちらを視認している。

各員注意されたし・・・」


首に張り付けたマイクが、スナイパーの小声を拾う。


『デルタ、それは間違いないのか?』


耳の穴に入れているイヤホンが小さく振動した。


「間違いない・・・今もこちらに視線を送り続けている。」


『・・・・・・わかった、発砲せず監視せよ。』


「了解。」


(見た目・・・若い男だが・・・この視線は・・・)


スナイパーのこめかみに汗が流れた。


―――


(・・・へえ~・・・スナイパーも配置してるんだ・・・

流石、国家要人を迎える迎賓館だな・・・)


「おい! どこを見ている!?」


イヤホンに流れる会話を聞いて、正面の男が声をかけてきた。

真央は視線をその男に向ける。


「先ほど撃ってきた、そちらのお仲間さんをね」


デルタの話があったので、男が一瞬だがピクッと反応する。

だが、確認する必要があった。


「・・・はっ! そんな嘘が通じるとでも?」


「嘘は言ってないけどなあ・・・距離は700メートルぐらい?」


そう言って、再度目を細めてスナイパーに視線を送る。


『こちらデルタ! 間違いない、その男はこちらを認識している!』


『こちら指揮所、煽るな、目的を確認しろ!』


「了解。」


「貴様がここへ来た目的は?」


真央はメモを出すのを諦め、口を開く。


「えっと(なんだっけ?)・・・あなた方は示現流の方々ですか?」


真央の問いに数名は反応したが、ほとんどは反応せず、正面の男が首をわずかに傾げて口を開く。


「示現流? 我々は警視庁警備部だ!」


「え? 警備部? 示現流じゃない・・・」


『なに? 示現流だと・・・?』


イヤホンの向こうがザワザワとざわめいている。

聞き取れない指揮所の音声に、男が焦る表情に変わる。

(なんだ? 指揮所の様子がおかしい・・・示現流って何か意味があるのか・・・?)


「その示現流が何だと言うんだ!?」


「示現流じゃない方々には、用がないんですよね・・・」


指揮所からの指令が止まり、真央の態度が、目の前の自分に向けられていない事に苛立ち、

一歩、二歩と前へと踏み出す。


「貴様ぁ、馬鹿にしてるのか!?」


『おい、ちょっと待て!』


真央は手を上げた指先でマコールを描く。

指先から光を放ったが、現代の照明の光はその光を隠し、誰一人気づかなかった。


次の瞬間、真央は消滅する。


「なっ、消えた・・・?」


正面の男は、視界から一瞬で消えた真央に理解できない。

常に狙っていたグロックから力が抜け、首を振って周辺を探す。


イヤホンに流れる声も焦り声に変わった。


『タ、ターゲットがロスト!?』

『現場、報告しろ!!』

『センサーはどうなってる!』

『すべての照明つけろ!』


迎賓館すべての照明が一斉に点灯する。

夜の闇の中に、壮麗な白亜の赤坂離宮が眩いほどに浮かび上がった。


「あそこだ!!」


外灯の消えた場所に潜んでいた男が、指さして叫んだ。


「男は、すでに離宮の正面に到達しています!!」


先ほどまで真央と対峙してた男が、はじかれたように振り返る。

エントランス付近を走る真央を見つけて、“信じられない”という顔で呟く。


「い、一瞬で、あんなところへ・・・?」


「追え!!」


全員が真央を追いかけるために動き出した、その時。


『動くな!!』


指揮所からの冷徹な命令がイヤホンに流れ、警備隊はすぐさま足を止める。


『あの男は、別動隊が対応するそうだ・・・警備隊各員は現位置を維持せよ!』


真央は追手が止まったのを確認すると、走る速度を落とし、迎賓館の脇を抜け、裏手にある広大な主庭の闇へと進んでいく。

警備隊はその様子をただ見つめている。


「・・・指揮所、別動隊って、どこの部署ですか?」


『・・・“影”だ・・・・・・』


男の顔が、一瞬で引きつった。

動きが完全に止まる。


「・・・・・・か、影ですか・・・本当にいたんですね・・・」


『どうやら、あの男は・・・最初から影に会いに来たらしい』


「・・・・・・我々は・・・遊ばれたってことですか・・・」


『想像したくない話だな・・・』


男は手に持つグロックをショルダーホルスターへと戻すと、影がいるという迎賓館の主庭を見つめ続けた。


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