表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アクチュアリー ―封印都市アクトリア―  作者: ブラックななこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
82/98

道場破り

真央が家の中に入ったあと、田中はよろけ、立花家の門柱に手をかけ、倒れそうな体を支えた。


見つめるアスファルトの地面へ、ポタポタと汗が落ちる。


(な、何だあれは・・・殺人者のような・・・

――いや、今にも誰かを殺しそうな殺気だったぞ・・・)


田中はワイシャツの胸のあたりをつかんだ手がブルブルと震える。


手を離し、顔の前に手をかざして見つめる。

手の震えはまったく治まらない。


(・・・剣道の・・・有段者のオレが・・・大学生の殺気に当てられるとは・・・)


ゆっくりと体を伸ばす。

そして、真央が入っていった玄関を見て、真央の部屋がある2階に視線を送る。

落ち着ける為に、胸ポケットから煙草を取り出し、最後の1本を口に運んだ。


「こりゃ、立花真央という人物像を、見直さんといけないようだな・・・・・・」


そう言って、空になった煙草の箱を握りつぶした。


―――


真央は部屋に戻り、振動で倒れた物や落ちた物を片付けている。

元の状態に戻しながら、真央は先ほどのことを思い返していた。


「怒りに任せちゃったな・・・危ないとこだった・・・」


真央は母親の声で正気に戻った。


(真央-っ!! 地震よーっ!! 逃げんねーっ!!)


あの声で、怒りに任せて全力の圧を出しまくっていたことに気づき、

慌てて圧を下げると1階に降りて、倒れてる物を直してから外へ出た。


「母さんが留守だったら、家壊れてたかもな・・・・・・」


そう言って、部屋を見回す。


机には、ノートにまとめていた、アクトリアの歴史や、自分たちに起きた様々なことが書かれている。


ピリッ…


怒りがまた溢れそうになった。


「あ、まずい!!」


真央はこめかみ部分を両手でコツコツと叩いた。


「こりゃ、ストレス発散が必要だな・・・」


机に座ってブラウザーを立ち上げると、検索部分に“刀 実践 指導 道場”と入力して検索する。

ブラウザー上に、検索結果がずらりと表示される。


「居合? 抜刀? 対人間じゃないんだよなあ~・・・

なんとか流って、全然知らないし、分からないしなあ・・・」


そう言って、頭を掻く。


「お、これいいかも。」


真央は全国道場ガイドというサイトを見つけクリックする。

1000を超える道場が紹介されていた。


「とりあえず、上から順に行ってみようか。」

そう言って、ペロリと唇を舐めた。


真央はリストの中から、道場を自前で持っている団体を探し出す。

そして、マコールを使って移動する。

マコールの検証結果、建物より高い場所へ一度転移し、

その直後、見える場所に転移すれば、魔力が尽きぬ限り、どこへでも行ける事を実証していた。


―――


移動した先は、神社の隣にある、公園の上だった。

空中から見下ろすと、賑やかにはしゃぐ子供たちの姿が見える。

その視線を避けるようにして、死角となる公衆トイレの裏手へと滑り降りた。


降り立ったトイレ裏の奥には、澱んだ大きめの池があり、壁の向こう側からは、楽しげな家族連れの声が絶え間なく響いていた。

その日常の喧騒を背に歩を進め、辺りを見回すと、道路を挟んだ向こう側に神社の鳥居らしき影が視界に入った。


道路を渡ると、目の前にそびえたつ古びた石垣があった。


見上げると、石垣の上には樹齢が何百年とも知れない巨木――背の高いクスノキが何本も、枝を伸ばし、影を落としている。


入り口を探して、湿った石垣沿いに道路を歩いていく。


やがて、古い石造りの鳥居が現れた。

鳥居の足元には、まるで外の世界からの侵入者を拒むように、一対の狛犬がどっしりと鎮座している。


長年の雨風に晒された鳥居と狛犬は、一様に青々とした苔に覆われ、異様な様相を呈していた。

狛犬たちが見据える境界線の奥には、うっそうとした巨木へと続く石組された階段が上へと伸びていた。


「和だ・・・アクトリアとは、また違う世界だな・・・」


ポツリとつぶやき、鳥居をくぐり階段を登っていく。


階段を登りきると、第2の鳥居が現れ、その先には平坦な境内が広がっていた。

下から見上げていたクスノキの巨木たちが、今度は敷地を囲い守るようにして、頭上の天を覆い尽くすほどに枝葉を広げている。


鳥居の先からは、まっすぐに伸びた石畳の参道が続き、その先には「黒い神社」が厳かに佇んでいた。


真央は石畳を進んでいくと、静寂に包まれた境内に、気合いの入った大きな声が響いた。

神社の脇を抜けると、小さな石組の石垣の先に、古びた黒い平屋の建物が見えてきた。


カッ!カッ!カン!カンッ!カンッ!…


「おりゃーっ!」

「たぁーっ!!」


その建物の中からは、硬い木刀が激しくぶつかり合う乾いた音と、裂ぱくの気合い。


「ここだな。」


真央は躊躇なくその建物の前に立った。


入り口には戸板の引き戸があった。

真央は両手で戸板の取っ手に手をかけると、力いっぱい両側へ開く。


バターンッ!!


引き戸が目いっぱい開くと大きな炸裂音のような音を立てた。

中にいた門下生たちが一斉に真央の方へ視線を向けた。


「たのもー!」


真央はテレビで見た、時代劇のセリフを選んでみた。


「なんだ、貴様は!?」


数人の門下生が木刀を肩にかけ、真央の近くへと肩で風を切るように歩いてきた。

時代劇みたいな返しに、真央はニヤリとした。


「何を笑っておるか!?」


「道場破りですよ。」


そう言って、真央は土足のまま道場へ上がっていく。

神社の脇を通った時についた湿った泥が、ペタペタと足跡を残した。


「貴様、神聖な道場を土足で何様のつもりだ!!」


真央は構わず道場の中心へと歩を進める。


「黒木師範代! この無礼者の相手をしてもよろしいですか!?」


師範代と呼ばれた男は、道場の一番奥の神殿の脇に座っていた。

ジッ…と観察するような視線を送っている。


真央は門下生の立ち姿を見て、ガッカリため息をついた。

1人の男がその動作にイラついたのか、木刀を真央に振り下ろした。


「おい、斎藤!? 無手の男にやめろ!!」


門下生の一人が、慌てて静止させようとした。

だが、真央は一歩踏み出すと、振り下ろされた木刀を持つ手首に手を添えて、相手の振り下ろす力を利用して、斎藤の体をくるりと回すと、道場の壁へ勢いをつけて飛ばすと、斎藤の体は勢いがついたまま道場の壁にさかさまに激突した。


ザワッ……!!

「斎藤が吹き飛んだぞ!」


その様子を見た門下生たちから声が漏れた。


「その技は合気か?」


1人が真央に尋ねた。


「合気? いや、自己流だけど。」


「なんだと!?」


真央は、構えもせずだらりとした立ち姿で、大きなため息を吐く。


「大体レベルが分かったんで、全員で良いですよ。」


そう言うと、耳の穴に指を入れ、耳を掻いた。


「なめるな!!」

「てめえ!!」


10人以上の門下生全員が真央に襲い掛かった。

真央はヒョイヒョイと木刀を避けながら、振り下ろした腕に背中を入れたり、足を引っかけたりして、門下生を転がしていく。

門下生は転がっても立ち上がり、再度襲い掛かる。


「いいね! もっと、もっと! ほら、頑張って!」


そういうやり取りを何度か繰り返し、次第に門下生が疲れ果てていった。


そして、いつの間にか、道場に立っているのは真央だけになっていた。


「はあ、はあ、はあ、はあ・・・・・・」


道場の床には、息を荒くしてあおむけで寝転がる者、膝をついて木刀で何とか上半身を支えている者、体を支えられず道場の壁に背中をもたらせ、天を仰ぐ者がいた。


「な、なんだよ・・・こいつ・・・い、息も切らしてないぞ・・・はあ・・・はあ・・・」

「はあ・・・はあ・・・、くそ・・・バ、バケモンかよ・・・」


なんとか立とうとする者がいた。


「こんな・・・我が道場が・・・こんな若造に負けるわけには・・・」


フラフラと立ち上がり、木刀を構えた。

真央はその男を見て感心した。


「へえ~、実力差は分かったはずなのに、根性あるね。」


「当たり前だ、我々は、傍若無人な若造に負けるわけにはいかないのだ!!」


そう言って、男が木刀を振り上げる。


「そこまで!!」


大きな声が道場に響いた。

その声に木刀を振り上げた男が、動きをピタリと止め、神殿の方へ顔を向ける。


「し、師範代・・・」


「君たちが勝てる相手ではない・・・

相手の力量を計る力も実力のうちです! 引きなさい!!」


男は神殿に向かって一礼すると、道場の脇へと下がった。

師範代と呼ばれる男が、木刀を持って立ち上がり、神殿から道場へと足を下ろす。


「君にとっては力量不足だが・・・お相手してもらえるだろうか・・・」


師範代の言葉に、門下生たちが“えっ?”という顔をした。


「し、師範代っ! な、なにを!?」


男は木刀の先を門下生へ向ける。 すると、ざわついた声がピタリと止まる。


「先ほど言った通り、相手の力量を計ったうえでの発言です。

君たちはそこで見ていてくれればいい・・・

無様な姿をさらした私を見て、この道場を辞めるのも良いでしょう。

彼はそれほどの相手です。」


真央の前に立ち、男が真央に向けて口を開く。


「私は、厳形刀流剣術、黒木忠光。

実力は君の足元にも及ばないが、少し質問してもよろしいか?」


「!! ・・・オレは立花真央です。 質問、もちろん良いです。」


相手の名乗りに、真央は答えた。

そして、靴を脱ぎ、靴下も脱いで、道場の柱の脇に置いた。


「君の剣技は見ていないが、私には真剣での命のやり取りが見えたのだが、

気のせいだろうか?」


黒木の問いに、真央は感心した。

木刀は振ってないのに、それを見抜くとは思っても見てなかった。


「流石ですね。 その通りです。」


真央は目を伏せて、小さく頷いて答えた。

その答えに門下生がどよめいた。


(命のやり取りをするって・・・そんなの今の時代あるのかよ・・・?)

(剣技で命のやり取りなんて、時代が違うだろ・・・)


門下生が小声で囁きあう。


「ふむ・・・では、なぜうちの道場を選ばれたのかな?

確かにウチの流派は300年の歴史がある。 だが、とてもマイナーな流派なのだが?」


真央はその言葉に“そうなの?”って顔をする。


「じ、実は・・・」


真央は頭を掻きながら、この道場を選んだやり方を説明する。

自分が剣術に関して無知だということ、ネットで検索して、ただ、サイトの上から順に、道場をちゃんと持っている流派を選んだのがここだったという事。


「わははははは・・・! まさか、そんな理由とは・・・」


真央の答えに、黒木が大声で笑った。


「では、一手ご教授を・・・」


そう言って黒木は木刀を中段に構えた。

真央は床に転がっていた木刀を手に取り、同じ中段に構えた。


「開始の合図はどうします?」

「いつでもいいですよ。」


真央の問いに、後の先を狙っていた黒木はそう答えた。


がしかし、次の瞬間、黒木の首には真央の木刀が触れそうな距離に止まっていた。

門下生の驚きの声が道場で騒めく。


(まさか、これほどとは・・・)


黒木は横目で木刀の切っ先を見ると、額に汗が流れた。


「まいりました。」


黒木の声にお互いが体を引き、木刀を小脇に戻す。


「ありがとうございました。」


そう言って、礼を交わすと、黒木が口を開く。


「立花くん、これ以上鍛える理由があるんですか?」


黒木の問いに、真央はこぶしを強く握った。

最初はストレス発散が目的だったかもしれなかったが、

いつしか剣技だけで敵を圧倒できる力が欲しいと願っていた。


「このレベルじゃ、皆を助けることができないんです・・・

自己流ではなく、裏打ちできる技術を身につけたいんです!!」


真央の強く握りしめられた拳、そして悲壮なまでの決意がこもった瞳を、黒木はじっと見据えた。

道場の中は、先ほどまでの門下生たちの動揺が嘘のように、水を打ったような静寂に包まれている。


「・・・では・・・ここへ行きなさい。」


黒木は、用意していたメモを真央に手渡した。


「これは?」


メモには流派と住所が書かれていた。


「示現流・・・?」


「薩摩で有名な示現流ですが、表ではなく、裏の示現流です。

現代の時代でも、日本政府を裏で支える組織です。


我々のような遊技ではなく、本物ですよ・・・


私の名前で連絡しておきます。 行ってみてはどうですか?」


黒木は皆には聞こえないように、真央の耳元で囁いた。


「ありがとうございます!

色々無礼を働いたこと、お詫びします!!」


真央は黒木に向き直り、深く一礼すると、黒木は満足そうに小さく頷いた。

そして、真央の肩をポンポンと叩き、門下生に指示を出す。


「立花真央に復讐など、考えぬこと!

彼の強さに、己を磨く努力をせよ!!

分かりましたね!!」


門下生は立ち上がり「はい!」と強く返事をした。


その後、門下生たちはモップを持ち寄り、床掃除を始めた。


真央は、申し訳なさそうに、道場を出て行く。

一度、道場に向き、深く一礼した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ