表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アクチュアリー ―封印都市アクトリア―  作者: ブラックななこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
81/98

浸食の系譜

目を開いた榊原の視界に、覗き込む皆の顔が映った。

安堵ではなく、その警戒するような表情に、あの時の記憶が蘇った。


何も発さず、涙がボロボロとこぼれる。


「うっ・・・うっ・・・うっ・・・・・・」


ピューに寝ころんだまま、腕で顔を押さえる。


「・・・うっ・・・う・・・ゆ、ゆうぅ~・・・」


泣きながら朝比奈の名を呼ぶ。

その言葉に、全員がホッとし、警戒を解いた。


彩乃は4列目のピューに滑り込み、榊原の頭の位置で背もたれ越しに声をかける。


「雫・・・大丈夫?」


榊原は首を振る。


「大丈夫じゃない・・・由宇が・・・助けてって・・・叫んでたのに・・・」


「えっ?」


彩乃と木下が、その言葉で真央たちに顔を上げる。

真央も気になり、前列の背もたれに腕を乗せて頭を近づけると、片方の手を彩乃に向け、人差し指を数回動かし、続けるように指示をする。


彩乃はそれに頷いて答えると、榊原に尋ねる。


「由宇が助けてって言ったの?」


榊原はその声に頷く。


「私に・・・手を伸ばして・・・・・・

何度も何度も・・・助けて!助けて!って叫んでた・・・

でも、体が・・・動かなくて・・・・・・助けてやれなくて・・・

どんどん離れていった・・・」


「・・・・・・そ、それって・・・?」


彩乃は自分が見てた二人のやり取りと、全く違う話に戸惑う。


「雫さん、周りはどんな感じだったんですかー?」


彩乃が言葉に詰まったのを見て、木下が尋ねた。


「周り?」


木下の声に反応して、榊原の体がピクリと動いた。


「そうです、二人はどんなところにいたんですかー?」


「・・・黒くて渦が巻いてた・・・・・・

由宇は・・・その渦に飲み込まれていくのを必死に逃げようとして・・・

・・・私に腕を必死に伸ばしてた・・・・・・


でも、徐々に・・・体が渦に引き込まれていって・・・飲み込まれる最後に・・・・・・」


榊原の言葉に、喉を鳴らす。


「最後に?」


「・・・・・・最後に・・・何か言ってた・・・・・・」


「なんて言ってましたー?」


榊原の動きが止まった。

すでに泣いてはいない。

腕を顔から降ろし、上半身を持ち上げピューの上で膝を立てた。

膝を腕で抱え、下を向いた。


「朝比奈さんは、なんて言ってたんだ?」


真央が尋ねると、榊原は両腕で頭を抱え、


「・・・・・・お、思い出せない・・・

聞こえたはずなのに・・・ノイズみたいな音が・・・被って・・・」


真央は体をまっすぐに戻して腕を組み、俯きながら小さくつぶやく。


「くそ・・・何もなしか・・・」


榊原が頭をバッとあげる。


「あ、でも、最後の言葉の前に『迷宮に・・・』って!!」


その言葉に真央が榊原に視線を向ける。


「迷宮に?」


「そのあとはノイズが被って・・・思い出せないの・・・」


榊原は真央の視線から逃げるように、顔を横に動かしながら言った。


「迷宮か・・・・・・」


真央は組んだ腕の片方を、口元へ動かして考え込んだ。

そして、神父の方に顔を向けて尋ねる。


「過去に朝比奈さんみたいになった来訪者って、いたんじゃないですか?」


「可能性はあると思いますね。

“悪”属性が過去にあったという事例は、カトリックの文献では見つかりませんでしたが、

他には記録されているのではないでしょうか?」


神父はそう言って、祭壇の聖人像を見つめ、祈るように十字を切る。


「由宇に・・・神のご加護がありますように・・・」


わずかに聖人の像が光を放った。


真央はその様子を横目に見ながら篠原に尋ねる。


「なあ、城主の日記・・・どこまで調べられてるんだ?」


真央の問いに、篠原が答える。


「今、藤堂が手伝ってくれてるから、調べものの速度は上がってる。」


真央は藤堂を見る。 その視線に藤堂が頷く。


「でも、まだこのアクトリアが封印されるところまで到達できてない・・・

兎に角、量が膨大なんだよ・・・

コンティル城ができてから封印まで100年以上あるんだ・・・もうちょっと時間をくれ。」


「でも、封印まであとちょっとだ。」


藤堂が補足した。


「そうか・・・じゃあ、今後は来訪者だけじゃなく、

朝比奈さんみたいに、“呪いに関するような事”が書かれていないかも、探してくれるか?」


「・・・の、呪い・・・・・・」


篠原は自身にも起こりえる事例を探すことに、喉を鳴らす。

緊張した面持ちで、真央を見て細かく何度も頷き答える。


「・・・あ、ああ・・・・・・そうだな・・・

確かに、それは重要だ・・・探すよ・・・」


藤堂は黙り込んでいた。

ゆっくりと俯き、目を左右に動かして“ブツブツ…”とつぶやき、何かを思い出そうとしている。


「藤堂・・・どうした?」


その様子に気づいた真央が尋ねる。


「・・・・・・あ、いや・・・そう言えば・・・と思って・・・」


藤堂の漏らした言葉に、全員が藤堂に顔を向ける。


「何だよ、直哉。 はっきり言えよ。」


篠原の言葉に、藤堂が顔を上げる。


「いや、来訪者に関する事ばかりを気にしていたんだが・・・・・・

城主の日記・・・戦争中の辺りに・・・“黒騎士”って記述があったなと・・・思い出して・・・」


「黒騎士?」


「ああ・・・確か・・・カテドラリス軍の中に、

黒騎士と呼ばれる・・・真っ黒な鎧を着た戦士部隊があったとかって・・・」


藤堂は思い出すように額に手を当て、こする仕草を繰り返して思い出そうとしている。


「それが、なんだよ?

今、思い出さなきゃいけない話なのか?」


せかす篠原に、藤堂が待て、待てと手で合図する。


「いや、気になるだけ・・・なんだが・・・・・・そうだ!」


額をこすっていた手を離し、顔を上げた。


「そうそう、“妖気を纏った”って補足が入っていたんだ・・・」


「妖気・・・?」

「妖気ってなんだ?」


「それが、なんなんだよ? 何かとつながるのか?」と、訝しげに篠原が尋ねる。


「その黒騎士部隊ってのは、とんでもなく強かったらしく、

“人間離れしていた”とか、“この世の者じゃない”って内容だった・・・」


「まさか・・・来訪者じゃないかと?」


藤堂の説明に真央が尋ねる。

藤堂がちらりと視線を配り、「そういう思いつきではあるんだが・・・」そう言ったあと、首を振って続ける。


「・・・共通点があると思わないか?」


「共通点?」


「ああ・・・黒、人間離れ、妖気・・・」


藤堂は指を折りながら、そう言って、朝比奈の破った天井の窓に視線を送る。


「「「「!!」」」」


全員が、藤堂が何を言いたいのか気づき、愕然とする。


「まさか・・・」

「黒騎士って“悪”属性なのか!?」

「うっそ~・・・」


「エティエンヌ神父!

カテドラリスでノクサリウスが、

異世界から人を召喚して、職業を与えてたって、言ってましたよね?」


真央が神父に尋ねると、話を聞いていた神父は青ざめた表情をしている。


「え? ・・・ええ・・・そうです。教会の文献には・・・そう書いてあります・・・

いや、しかし・・・・・・本当にノクサリウスが・・・・・・」


「おい、立花・・・今、神父さんに聞いたこと・・・マジか?」


藤堂の問いに、真央は“またか・・”という顔をする。


「ああ、そうだ・・・今起きてることが、全部つながった!


ノクサリウスは生前から異世界人を召喚して、職業を与えた。

――という事は、属性も与えてたはずだ。」


――― 5月29日午前11時50分 真央の部屋(現実世界)


部屋の中にある固定されていない物が“カタカタ”と音を立てる。


ゴゴゴゴゴ……


真央は自分の部屋でブルブルと震え、抑えきれないほどの圧を放っていた。


先ほどまでアクトリアで起きたことを思い出しながら、一連の流れをまとめていた。

思い出せば思い出すほど、怒りがあふれていく。


次第に振動が、家全体に伝わっていく。


――― ダイニングルーム


真央の母親が昼ごはんを準備していると、台所の流しの中の桶に溜まった水に、波紋が出ていることに気づく。


「あら? なんかしら?」


その直後、食器棚の食器がカタカタと音を出し始める。


「えっ!? えっ!?」


家全体が振動を始め、写真たてがパタンと倒れる。

母親は真っ青になり、玄関へと走る。


「わ、わわわ、わっ・・・・・・」


廊下の途中の階段の所で、2階にいる真央に向かって叫ぶ。


「真央-っ!! 地震よーっ!! 逃げんねーっ!!」


そう言って、玄関のスリッパに足を突っ込み、玄関の引き戸を開け、外に駆け出ると、門をあけて道路に飛び出し倒れ込んだ。


「あいたっ!!」


真央に張り付いていた田中が、その様子に驚いて駆け寄る。


「立花さん! 大丈夫ですか!?」


田中は両手を着いて倒れ込んでいる母親の肩を抱いて、抱え起こす。


「何かあったんですか!?」


「地震がっ、地震です!! 家は!? 真央は!?」


母親は田中の両方の二の腕を掴み、ものすごい形相で訴えた。


「えっ? じ、地震なんて・・・発生してませんよ・・・?」


「えっ?」


母親は電線を見るが、電線は揺れていなかった。


「う・・・そ・・・? あがん、揺れたとに・・・?」


周りの様子に、先ほど起きた振動と頭が一致しない。

何度も何度も周囲を確認する。


田中がスマホを開き、地震情報を確認する。

何もないのを確認し、母親に見せる。


「ほら、地震なんて起きてませんよ。 落ち着きましょう。」


母親は食い入るようにスマホを見るが、気象庁の地震情報には九州地方の地震は直前の時間にはなかった。


ガラ…


玄関の引き戸が少し開けられ、真央が出て来た。


「田中さん・・・何かありましたか?」


「ああ、君のお母さんがここで倒れたんで・・・心配になって――」


田中はそう言いながら、真央に笑顔で顔を向けた瞬間、ビクッ!と体が強張った。

全身が粟立ち、刑事としての危険信号が鳴った。


「ああ~・・・さっき、母さんが地震だって騒いでたんで、慌てて転んだのかな?

ほら、母さん・・・地震なんて起きてないから・・・」


真央はそう言って、母親の腕を取ると、引き上げて立たせる。

すると、母親が真央に体を近づけて、


「ばってん、やっちゃ揺れたとよ~」


「気のせいだよ。 二階は全然揺れなかったよ。」


「うそー、あがん揺れたとにー!?」


母親は納得しない様子だったが家に戻っていく。

真央は田中に向き合い、「すいませんでした、母親がご迷惑をおかけしました。」と腰を折った。


そして、玄関へ戻ろうとした時、田中が声をかける。

田中の表情は、困惑気味だった。


「たっ、立花・・・真央くん・・・」


真央は振り返らず、立ち止まった。


「き、君は立花真央くん・・・だよな?」


田中はそう尋ねた。

真央は振り返ることが出来なかった。

怒りを抑えるのがギリギリで、表情を作ることが出来ない気がしたからだ。


「こ、答えてくれ!! 君は・・・立花真央なんだよな!?」


真央は耐えるようにこぶしを強く握る。


「・・・・・・えぇ・・・僕は魔王ですよ・・・

これから・・・ずっと、魔王でありたいと思ってます。」


ガラガラ……バン。


そう言って、真央は玄関のドアを閉めた。

田中は、その場に立ち尽くしていた。


(・・・今・・・魔王って言ったか?

なぜ、今ハンドル名を使った? 何か意味があるのか?)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ