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アクチュアリー ―封印都市アクトリア―  作者: ブラックななこ


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浸食

――― メインストリート


翌朝、12人という大所帯でル・ジメール教会へ向かう。

深夜までおしゃべりをしていた、彩乃と朝比奈は眠そうな顔で、歩きながら時折あくびをする。


先頭の方を歩いていた木下が、後ろを振り返ると、そのまま前を向かず、歩きながら嬉しそうに口を開く。


「全員でお出かけなんて初めてですね~。」


「全員じゃないだろ?」篠原がぼやくように答えた。


「あ~、そうでしたー。」


木下は顎の所に指を立て、上目遣いで笑う。


「また、アイツ等いなかったのか?」タツヤが篠原に尋ねた。


「多分、帰ってきてない!

今日は大事な日なのに、伝える事すらできないよ!」


篠原が吐き捨てるように言った。

その様子に藤堂が篠原をなだめる。


「まあ、まあ・・・直、お前の責任じゃないから・・・」


外城壁の所へ来ると、イチゴが昨日登った城壁にジャンプして飛びあがる。


「ここから~、城下町の様子が見れるよ~」と、城壁の向こう側を指さした。


2.5メートルほどの高さを、飛び乗ったイチゴを見て、セージとユージが目を丸くする。

昨日、来なかった“潜らない組”も口を開いて驚いた。


「すげえ~、イチゴ、何だよそれ!?」と、セージ。

ユージは助走をつけてジャンプしてみるが、半分もジャンプできない。


「登りもできたのかよ・・・」

呆れた顔で篠原がつぶやいた。


「オレも・・・壁使えば行けるかもな・・・」

真央は首を傾げながらつぶやく。


「えっ?」

篠原が振り返ると、真央がその横を軽く助走をつけてジャンプする。

そして、壁の隙間につま先をひっかけると、反対の足で上の段へスッと立ち上がった。


「ははは・・・もう、超人だらけだな・・・」


篠原は頭に手を当て、呆れた顔をした。


他のメンバーは階段を登って、城壁に上がり、城壁の隙間から顔を出すと、

目の前に広がる断崖絶壁に、初めて見たメンバーが驚いている。


「すごっ! 高っ!」


覗き込んだユージが、下を見ながら素直な感想を言う。


「小学生みたいなコメントね。」


彩乃が笑いながら突っ込む。

ユージが城壁に体を預けながらくるりとまわり、肘をついて彩乃に向かった。


「キッツいな~、柏木さーん。」

「ハハハ・・・、言われてやんの!」


セージがユージの肩を押して、バカにする。


「うっせーよ!」


ユージがセージにケリを入れると、それをサッと後ろに下がってよける。


「ざんね~~ん!」

「避けんじゃねえよ!」


セージとユージは自分たちのレベルが上がり、少し動きが俊敏になった。

そのせいで、もともとがアレな二人は、ちょくちょくこういったやり取りが迷宮でも起きていた。


「ちょ、ちょっと・・・ねえ、こんな狭い場所でやめましょうよ・・・」


木下が二人の小競り合いを止めようと間に入る。


パアァン!!


ユージのパンチが木下を襲ったが、木下はそのパンチを軽々と掴んだ。


「あ、ごめん・・・」

「いいですよ、全然痛くないんで。」


その木下の様子に、ユージが少し恥ずかしそうな顔になる。

セージが肘でつついてバカにすると、ユージがやめろと手で払った。


「あそこが、ル・ジメール教会だ。」


真央が教会を指さして説明する。


「で、あの周りにある家の中に空き家があるらしい。」

「昨日は夕方だったからわからなかったけど、上から見ても小さい家ばかりね・・・」


彩乃が、教会の周りに密集するように建ち並ぶ、家の屋根を見つめて言った。


「神父が言ってた、トーヴォル通りってどこだ?」

「右に2回曲がったとこでしょ・・・?」


篠原が通りを探すようにして言うと、彩乃が右を見るが、斜面の土手の向こう側で見えなかった。


「ここからじゃ、見えないわね・・・」


「そろそろ、教会へ行こう。」


真央が促すと、全員が階段の方へ動き出す。


「オレは近道で行くね~」


イチゴはそう言って、城壁に飛び乗る。

篠原が“また”って顔をする。


イチゴはそのまま城壁の外へ飛び降りた。


「「「えっ!?」」」「ウソだろ!?」


みんなが慌てて城壁の縁から身を乗り出して、下へ落ちたイチゴを確認する。


イチゴは10メートルの城壁の下に着地したあと、ピョンピョンと跳ねながら土手の急斜面を下っていく。 その姿はまるで崖を下るヤギなどの野生動物の様だった。


「イチゴ、すっげえ~!!」

「なんだそりゃあ!?」


ユージとセージが城壁に上る。


「おい、やめろ!」


真央が止めようと二人を掴もうとしたが、二人はそのまま飛び降りた。


ドサッ!!


「ギャアアーーーッ!!」

「いてえぇーーーっ!!」


二人は城壁の下で、唸るような声を出して、転げ落ちていく。


「タツヤ・・・仕事増えたぞ・・・」


真央が目を手で覆い呆れる。

タツヤも呆れながら答える。


「治さないって手はないか?」


「ホント問題児ね・・・レベルが上がっていったら、迷惑かけそう・・・」


彩乃はそう言うと、段差を飛び降りる。

昨日よりうまく着地できて、彩乃は振り返り真央にピースサインをだす。

それを見て、真央とタツヤが飛び降りると、続けざまに朝比奈と木下も飛び降りた。


「見せつけるなって言ってるだろ!」


篠原はそう言いながら、“潜らない組”は階段で段差を降りる。


「くそ・・・なんか悔しいな・・・」と、藤堂がつぶやく。


それを聞いて、木下が手招きをする。


「痛いのは嫌だから、行かないよ!!」


藤堂は城壁の方を指さす。

城壁の向こう側では、ユージとセージの叫び声が聞こえていた。


―――


土手を横切る坂道を下っていくと、イチゴが「早く、早く!」と大きく手招きしていた。


足元にセージとユージが唸りながら倒れている。

足の骨が折れているようで、ユージの方は開放骨折していた。


血だらけの足を見て、藤堂が青ざめて倒れそうになり、篠原の肩に眉間を押し付けた。


「智久は、相変わらず血がダメなんだな・・・」

「な・・・直は・・・なんで、平気なんだよ・・・」


タツヤはとりあえず、外傷のないユージに回復魔法を発動させる。

だが効果がなく、脛は曲がったままだった。


「あれ・・・? なんでだ? ・・・骨折は無理なのか?」


タツヤはそう言って、真央の方を見る。

真央も首を捻る。


「タツヤぁ~・・・早く・・・治してくれよぉ~・・・」

「オレも早く~・・・」


ユージとセージが弱弱しい声で懇願する。


「あんたたちが自分で怪我したんでしょ・・・」


彩乃が呆れてしゃがみ込み、ユージの曲がった脛を見つめる。


「ねえ、これ、曲がってるからじゃない?」


そう言って、ユージの脛を元の位置に捻って戻す。


「ギャアーーッ!! 痛い!痛い!痛い! やめて、柏木さん!!」


「何よ、治してやってんじゃない! 文句言わないの!」


足をある程度正常な位置へ戻して手で押さえると、タツヤの方を見る。

タツヤは頷いて、再度回復魔法を発動させる。


ユージの脛部分の皮膚の内側が生き物のように動き、正常な状態へと戻っていく。

真央は腰を折って、その様子を興味津々に見つめている。


「なるほど・・・そういう事なんだ・・・」


ユージは静かになった。

何事もなかったかのように上半身を起こし、足をまげて折れてた部分を手で触る。


「な、なおっ・・た・・・」


「さて、次はセージだな。」

タツヤがそう言ってセージの方を向く。


セージはさっきのユージの治し方を見ていたので、フルフルと首を振り、肘で土手を逃げるように後ずさりする。


「この出てる骨、どうする?」と、傷口を指さして真央が尋ねる。

「手で押し戻すしかないんじゃない?」と彩乃。


「や、やめ・・・手でやったら、ばい菌が・・・・・・」


セージは首を振りながら、逃げようとしている。


「回復魔法は、ばい菌も消すから大丈夫、大丈夫。」

真央が笑いながらセージに伝える。


「誰か押さえとけ。」とタツヤ。


「はいは~い。」

イチゴが背後に回って肩を押さえる。


「イチゴ、てめぇ・・・」

「自業~自得うぅ~~~」


真央が折れてない方の足をしゃがみ込んで押さえて尋ねる。


「なあ、誰が骨を押し込む?」


すると、皆が彩乃を見つめた。


「え? もしかして私?」

彩乃が尋ねると、後ろで見ている朝比奈達がウンウンと頷いた。


「しょうがないなあ・・・」


彩乃の言葉に、ユージがビクッっと体を震わせると、丸まって震え、目を塞いで両手で耳を塞ぐ。


彩乃がしゃがみ込んで足をまっすぐに延ばすと、セージが「アァーーッ!」と叫ぶ。

足首を離して傷口の方に手を動かすと、足首がクルリと回り飛び出している骨が動く。

それを見て彩乃が朝比奈の方に顔を向け、


「ねえ、由宇。 ちょっと足首支えといてくれない。」


朝比奈は、“私?”て顔をして、渋々と足の方に周って足首を支えた。


「はい、どうぞ。」


「よし、いくよーっ!」


「やめ・・・やめてえ~・・・」


彩乃が親指で骨を傷口に押し込み、開放した傷口を整える。


「イ、ギャアアアァーーー・・・・・・ッ!!」


セージの声が、城壁にぶつかりこだましていった。


―――


セージは土手に丸まり泣いている。

ユージは少し離れたところで震えいている。


「智也、終わったぞ。」と、篠原が藤堂に声をかける。


「終わった・・・?」


篠原の肩に目を押し当てていた藤堂が、顔を上げた。


「も~~、血だらけ・・・どうするのよ、これ・・・ヌルヌルで気持ち悪い。」


彩乃の手は、セージの血で真っ赤になっていた。

「ヒィッ!」と、それを見た藤堂が後ろに倒れ込んだ。


ドサッ!


「お、おい、智也!?」


篠原が慌てて、藤堂の上半身を起こすが、気を失っていた。

真央はそれをみて「やれやれ・・・」と呆れる。


「これ、いつ教会に着けるんだよ・・・

誰か、藤堂を背負ってくれよ。」


「じゃあ、僕が・・・」


門畑が手を挙げ、藤堂の足元にしゃがみ込むと、篠原が藤堂を持ち上げると門畑の肩に腕をかけた。


「ほら、泣いてないで、行くぞ!」


――― ル・ジメール教会


真央が教会のドアを開け、中に入ると、ぞろぞろと後ろから入っていく。


昨日の夜の訪問に比べて、天井のゴシック調のアーチの両サイドに設けられている装飾窓から外光が入り込んでいて、壁が白かった。

真央たちは、中央のネイブ(身廊)を一列に並んで祭壇の方へ進んでいく。

その足音が教会内で響いた。


真央は天井を見回す。


「昨日はロウソクの灯りだけだったから、わからなかったけど・・・

こんな装飾があったんだ・・・」


「へえ~、ナゼール教会と違って、こじんまりしてるんだな・・・?」


タツヤが、教会内を見回しながらつぶやいた。


足音に気づいたシスターが共同食堂のドアを開け、入ってきた真央たちを確認する。

一番年長のシスターだった。

真央はそれに気づいて、頭を下げた。


シスターは祭壇の方へと歩き、真央たちを迎える。

真央たちはネイブを進み、一番前のピュー(長椅子)の所で止まった。


シスターは、体を横に傾け、後ろの人数を確認すると、真央をまっすぐ見る。


「お待ちしておりました。 神父を呼んでまいりますね。

ピューにお掛けしてお待ちください。」


「分かりました。」


「あ、すいません・・・」

彩乃が真央の後ろから顔を出し、シスターに声をかける。


「なんでしょう?」


彩乃はパリパリに固まった、血だらけの手を見せて、


「手を洗わせてもらうこと、できますか?」


「あらあら・・・それは血かしら? どうしたのですか?」


「先ほど、仲間がケガをしまして・・・」と、彩乃は苦笑する。


「では、こちらへ・・・」


シスターはそう言うと、共同食堂の方へ彩乃を導く。

真央は彩乃の通り道を作るように、ピュー側に体をずらすと、そこを彩乃が通って、共同食堂の方へ歩いて行った。


シスターはドアを開け、他のシスターに指示をすると、戻ってきて対面側のドアへと入っていく。

真央はそれを見て、後ろを振り返ると、皆に指示をする。


「“悪”属性は左側に座って、蘇生組は右側に座ってくれ。

オレと彩乃さんは、今日の儀式は無関係なんで端っこに座るから。」


そう言って、右側の一番端に腰掛けると、他のメンバーもぞろぞろと移動して腰かけていく。


門畑は背負った藤堂を、ピューに座らせると、ひんやり冷たいピューに藤堂が目を覚ます。


「あれ? 僕は・・・いったい・・・?」


「血を見て気絶したんだよ。」


門畑が説明すると、倒れた時を思い出して、ため息をついた。


「藤堂くん・・・運動できるのに、何で迷宮潜らないのかと思ってたんだけど・・・

血がダメだったんだね・・・」


「・・・・・・恥ずかしながら、そういうこと・・・」

藤堂は、ピューにもたれると天井を見上げた。


キイィ……


共同食堂のドアから彩乃が出てくる。


「落ちた?」

「ばっちり! 聖水で洗わせてもらった。」


真央が尋ねると、手を広げて見せて、真央の横に座った。


キキィ……ッ


ドアが開いて、黒い立襟の衣装をまとったエティエンヌ神父が出てくる。

首には紫色の長い帯をかけて、手には分厚い本を持っている。


「お待たせしました。」


真央は立ち上がると、一歩前に出て神父に説明する。


「こちら側が、蘇生を行ったメンバー、向こう側が属性が“悪”のメンバーです。

見た感じ・・・どうですか?」


神父はジッと全員を見つめる。


「おお・・・こ、これは・・・・・・」


「何かわかりますか?」


神父は手を伸ばして説明する。


「マオの予測通りですね・・・こちらの・・・蘇生されたメンバーはイチゴと同じ状態です。

微かにくすんでいますね。

そして、こちらの・・・・・・」


神父は、久美が送り込んだメンバーに手を差し出し、黙ってしまった。

表情が硬くなり、目を何度も細めて見つめる。


「どうしました・・・?」


「彼女・・・・・・特に危険な状態ですね・・・」


神父は、朝比奈に手を差し出した。


「わ、私ですか?」


朝比奈が驚いた声を出す。


端に座っている彩乃が立ち上がり、全員が朝比奈に視線を送る。


「き、危険って・・・・いったい・・・ど、どんな状態なんですか?」


真央が、神父に少し近づいて尋ねた。


「ナオヤが・・・周囲は黒の枠で囲まれてるって説明しましたよね?」


神父は、視線を真央に送り、真央が頷くと、視線を戻して説明を続ける。


「彼女はその黒が太く囲み、中心まで浸食しており、中心もグレーになっています。」


その言葉に全員が驚く。


「やっぱり・・・昨日の・・・」


彩乃が震えながら口を押さえてつぶやく。

真央はその言葉に、一度彩乃を見つめ、神父に訴える。


「エティエンヌ神父、朝比奈さん・・・彼女は昨日・・・胸の所から黒いモヤのようなものがあふれて・・・倒れたんです!!」


神父は真央の説明に眉を上げて反応する。


「ほお・・・それで・・・?」


「頂いた聖水を飲ませたんです・・・それで・・・よくなったんですが・・・」


神父は“ふう~”と息を吐く。


「それはよかった・・・ナオヤのために渡した聖水が役に立った訳ですね・・・

飲ませてなかったら、完全に悪魔つきになってたはずです。」


「あ、悪魔つき・・・?」


神父は頷きながら説明する。


「ええ・・・我ら神官が見る事ができるこの色が、真っ黒に染まると悪魔に取り付かれた状態となります。

もし悪魔つきの状態に陥ると、自我が崩壊し、悪魔に体を乗っ取られてしまいます。


「じ、自我の・・・・・・崩壊・・・?」


神父の説明に恐怖し、朝比奈は自分の体を抱いて視線を床に落とした。

その様子を見た神父が、予測してたかのように口を開く。


「大丈夫です。 こちらもある程度予測していた範疇です。

悪魔祓いの準備はできてます。」


「悪魔祓い?」

真央が、“赦しの儀”ではなく“悪魔祓い”と言う言葉に驚く。


「ええ、そうです。取り急ぎ彼女から儀式を始めましょう!!」


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