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アクチュアリー ―封印都市アクトリア―  作者: ブラックななこ


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呪いの発露

――― ゲートウォッチ 2階


真央は、彩乃の部屋の前の壁に座り込んでいた。

ノックしても、声をかけても彩乃は部屋の中から出てこなかった。


「はあ~・・・何でこんな事になっちゃったんだ・・・」


真央は立てた膝の間に頭を入れ、ただ待つことしかできなかった。


ドダダダダダ……!


そんな時、階段を駆け上がってくる音が聞こえてくる。

真央は頭を上げ、階段の方を見つめると、木下が一階から上がってきた。


「た、立花くん! 朝比奈さんが!!」


階段を上がりきった所で膝に手を置き、荒い息を整える。

その様子に、真央は慌てて立ち上がり、木下のもとへ駆け寄った。


「朝比奈さんがどうかしたの?」


「わかんないです!

わかんないんですが、なんか大変なことにぃー!!

とにかく、下に来てください!!」


「わ、わかった・・・」


木下と真央は階段を降りて行く。

シンと静まった2階、彩乃の部屋のドアが開く。


彩乃が部屋から顔を出し、階段の方を見つめる。


「由宇・・・何が・・・?」


――― ゲートウォッチ 1階


真央は階段を降りながら、1階のスペースを覗き込むように見ると、朝比奈が並べた椅子に横たわり、タツヤが回復魔法を使っているのが見えた。


「イチゴ!」


イチゴに声をかけると、真央の所にやってくる。


「いったい、何が?」


「わからないよ~、真央ならなんか知ってるんじゃない?」


真央は朝比奈の傍に寄ってその姿を確認し、変わり果てた様子に驚く。


「・・・な、なんだ・・よ・・・これ・・・」


朝比奈は汗が吹き出し苦しんでいる。

胸の部分には、黒いガスのようなモヤが、触手のようにうねうねと蠢いていた。


「真央も分からないのか? 回復魔法や麻痺の解除魔法もまったく効かない・・・」


タツヤが説明する。


「ディスペルはやってみたか?」


「アンデッドか? これ?」


「わかんないよ・・・とにかくやってみてくれ・・・」


「わ、わかった・・・」


タツヤはそう言うと、右手の人差し指と中指を立て、左手でその指を握って印を結び、真言を唱え始める。


「ノウマク・サマンダ・・・」


「ゆ、由宇・・・? なに・・・?」


小さい声に真央が振り返ると、そこには彩乃がいた。


「彩乃さん?」


彩乃は、由宇のそばに駆け寄り、膝をついて顔を覗き込む。


「由宇! 由宇!」


彩乃の声に、朝比奈が目を少し開く。


「・・・・あや・・の・・・」


朝比奈は、彩乃に向けてブルブルと震えながら必死に手を上げる。

力が“フッ”と抜け、手が落ちると、それを彩乃が慌てて受け止めた。


「由宇・・・」


朝比奈は力を振り絞り、口を開く。


「・・・彩乃・・・ごめんね・・・傷つけたよね・・・」


瞳から涙がこぼれた。


「大丈夫! 気にしてないから!」


彩乃は振り返り、真央に尋ねる。


「何とかしてよ、真央くん!」


「どいて・・・柏木さん・・・」


タツヤがそう言うと、真央が彩乃の肩をつかんで立ち上がらせると、自分の方へ引き寄せる。


「タツヤ、頼む。」


タツヤは一度真央に視線を送り、すぐに朝比奈に戻す。


「・・・バザラダン・カン 炎よ魔を祓いたまえ!!」


朝比奈の周りに炎が沸き上がり、体にまとわりつくように渦を巻いていく。


オオオオォォ………!


すると、黒いモヤが苦しむような動きをする。


「き、効いてる・・・?」様子を見たタツヤがつぶやく。


炎が渦巻きながら、朝比奈の体の中心に集まって上へと伸びて行き、スーッと炎が消えていった。

胸に蠢くモヤは、見た目に小さくなっていた。

苦痛に歪んでいた朝比奈の顔が、少しだが落ち着いている。


「効果あるみたいだな・・・」


「すまん、オレのディスペルだと、今のが限界だ・・・」


「タツヤ、もう一回できないか?」


「そうか、もう一度・・・わかった、やってみる。」


タツヤは同じように印を結び、真言を唱えた。

朝比奈の周りに再び炎が沸き上がる。


しかし、黒いモヤはその炎を避けるように朝比奈の胸の中へと一度縮こまると、一瞬だけ“ワッ”と、タツヤに向かって攻撃するように勢いよく広がる。


「くっ・・・」


タツヤが、苦痛の顔を浮かべ、膝をつく。


「どうした!?」


「こいつ、真言を反転させやがった・・・」


真央はタツヤの腕を肘で引き起こす。


「何があったんだ?」


「オレの真言を反転させて、オレに返してきたんだ・・・生き物なのか?」


「反射させたってことか?」


「ああ・・・一体、何なんだよ、こいつは?」


「・・・・・・呪い・・・」


タツヤの問いに、真央がつぶやく。

その言葉にタツヤが真央の方へ顔を向けた。


「呪いだって?」


真央は朝比奈の胸の部分で蠢く触手を指さす。


「ディスペルの効果は、アンデッドに対する聖域の祓いだ。

アンデッドはこの世の未練や執着、そして、呪いや魔術による肉体の再起動・・・」


真央はハッとして篠原に視線を送る。

その視線に篠原はビクッ!とした。


「篠原には呪いがあった・・・

それが、属性の“悪”によるものじゃないかって予測したよな?」


「ああ、そんなこと言ってたな・・・」


「ってことは、呪いって・・・“これ”なんじゃないか?

エティエンヌ神父は言ってたんだ、篠原は罪が覆っていて、せめぎあってるって・・・」


真央がそう言うと、属性が“悪”の全員が凍り付いた。


「オレも・・・こうなるってことか・・・?」

「あ、“悪”属性の影響ってこと・・・?」

「・・・・・・ぼ、僕は・・・どうすれば・・・」

「由宇さんは、『自分の感情じゃない。』って言ってました。」


木下の言葉に全員が反応した。


「それってどういう事?」


彩乃が木下に詰め寄る。

その迫力に、木下が後ずさりながら答える。


「由宇さんが、そう言ってたんです・・・嫌な感情が破裂するって・・・」


「嫌な・・・感情・・・」


木下の言葉を聞いて、彩乃は朝比奈に視線を送り、静かに俯いた。

そして、教会でのことを思い出す。


教会の帰り際、真央たちに手渡されたものがあった。


~~~~~~


「イチゴは、大丈夫だと思うのですが、ナオヤは少し心配です。

何かあった時はこれを・・・・・・」


そう言って、神父は小瓶を真央に手渡す。


「これは・・・?」


「聖水です。 もし、ナオヤに何かあった時に使ってください。

一時的ですが、呪いの進行を遅らせるはずです。」


~~~~~~


「真央くん、神父から貰った聖水を・・・!」


彩乃の言葉に、真央はハッとする。

ウエストバッグをまさぐり、聖水を取り出した。


小瓶の詮を開け、朝比奈に近寄り跪くと、朝比奈の頭に腕を回して抱え上げる。

そして、小瓶を口元に添える。


「朝比奈さん、飲んで・・・」


少しずつ、小瓶の中身を口の中に流し込む。

朝比奈の喉が上下に動き、聖水を飲み込んだことがわかった。


しばらく、全員が朝比奈の様子をうかがった。

胸元にあったモヤの動きが弱くなり、内へ内へと引き込まれていく。

黒いモヤが完全に体内へ消えると、朝比奈はゆっくりと目を開けた。


「朝比奈さん! よかった!」


全員が朝比奈の顔を覗き込んでいた。


朝比奈は目を左右に動かし、今の自分の状況を確認する。

自分が真央に抱えられていることに気づき、バッと体を起こす。


「わ、わわっ!!」


脇を閉めて、両手を胸の前にこぶしを握り、耳まで真っ赤にして固まった。


「わ、わたし・・・・・・どっ、どうなってたの・・・かな・・・?」


彩乃が真っ先に飛びついた。


「由宇! よかった! よかった!

ほんとうに・・・よかったよぉ~!」


彩乃の様子を見て、全員が胸をなでおろした。

一瞬の諍いはあったが、迷宮で何度も戦った絆は確かに残っていたからだ。


「ご、ごめんね、彩乃・・・・・・酷いことしたよね・・・」


彩乃は両手を朝比奈の頬に添えると、額と額をコツンとぶつけた。


「ホントだよ・・・私がどれだけショックを受けたか・・・分かってるの?」

「ごめん。」


真央は二人から一歩さがって、距離を取った。

そこに、タツヤやイチゴたちが集まってくる。


「呪いは消えたのか?」


真央は首を振る。


「神父の説明では、聖水を飲んだ篠原を“効果があった”とだけ言った・・・

篠原が呪われたままなのに、あれだけの呪いが、これ1つで解呪できるわけがない・・・」


手に持つ小瓶に視線を落とす。


「明日の儀式で良くなればいいんだけど・・・」


「“呪われてる”って言われた時は信じられなかったけど・・・あんなもの見せられたら・・・」


篠原は体を震わせ、自分の肩を抱き、上下に腕を撫でる。


「あれは・・・“負の感情”みたいな物なのか・・・?」藤堂が尋ねる。


「さあ~・・・?」

「専門家でもないのに、分かる訳ねえよ・・・」

「そりゃ、そうだ。」

「オレ達は“悪”じゃないから、余計に分からないな。」


「とにかく、ヒナ、篠原、藤堂、門畑、榊原さんは、

明日絶対に教会で儀式をやってもらうからな。」


真央がみんなを見ながら声をかけた。


「由宇のあんな姿を見て、拒否なんてできないよ・・・・」


榊原の言葉に同意するように全員が頷く。


「じゃあ、夜ももう遅い・・・今日はもう休んで、明日早めに動こう。」


真央は彩乃たちの様子を一度確認すると、階段の方へ歩き始めた。


「ああ、そうだな・・・蘇生したオレたちだって呪われてるんだもんな・・・」


タツヤが言いながら、ユージとセージを見る。


「“まさか”の“まさか”って感じだけどな・・・」

「チートはないけど、呪いはあるってか?」セージがそう言って苦笑する。


「今日は~、迷宮行って~、呪われて~、色々だねえ~・・・もう寝よ~・・・」

「確かに・・・なんか疲れた・・・な・・・」


真央に続くように自由スペースから離れて二階へと登っていく。

最後に残ったのは榊原だった。


額をくっつけあい、話をしている彩乃と朝比奈を見つめ、後ずさりしたあと、逃げるように階段を駆け上がる。


バンッ!


勢いよく自分の部屋のドアを閉め、鍵をかける。


「私の方が由宇と仲良かったのに・・・」


榊原は胸の奥に、今までにない何かが生まれた気がした。


「はあ~・・・そうか・・・この感情なんだ・・・」


―――


暗くなった自由スペースで、彩乃と朝比奈は話を続けていた。

朝比奈はくっつけていた額を離し、両手をつなぐ。


「ねえ・・・彩乃・・・」


「なに・・・?」


朝比奈は俯いたまま、小さな声で告白する。


「・・・私・・・立花君のことが好き・・・」


「知ってるよ。」


彩乃はそう言って目を閉じて笑う。

その彩乃の言葉に、朝比奈は顔を上げ、言葉を失う。


「好きになる事は自由だよ。

誰だって走り出した心を、無理やり止める事なんてできないよ・・・」


彩乃は片手を離し、朝比奈の胸を指さして触れる。

そして、やさしく語りかける。


「“止めよう”、“止めよう”としてなかった?」


「・・・うん。」


朝比奈は小さく頷く。

思いがあふれる。


「苦しかったでしょ?」


「・・・うん。」


我慢していた時間の辛さを思いだし、涙があふれ、ボロボロと零れ落ちて行く。


「私のことを気にしてたでしょ?」


「・・・うん。」


「私もね・・・きっかけはアレだったけど、好きになったら止まらなくなっちゃった。」


彩乃は天井を見上げながら告白した。

朝比奈はそんな彩乃をまっすぐに見つめた。


「彩乃は、こっちに来てすぐに好きになったの?」


「そうだね・・・元の世界に戻れるかどうかわからないのに・・・

それがわかってて助けに来てくれたんだもん・・・


“好きにならない”方が無理だったな。」


話す彩乃を見て、朝比奈はやさしく笑う。


「いいなあ~・・・」


「由宇はいつごろからなの?」


「私は、初めて迷宮に潜った日・・・

みんなを守りながら戦ってる姿を見て“すごいなあ~”って・・・」


「あ~、わかる。

アイツ、戦ってる時カッコいいんだよね~

ヘタレのくせにさ・・・」


「ヘタレって・・・」


朝比奈は口を押さえて笑う。

その様子をみて、彩乃はホッとした。


「由宇の気持ちは分かったけど、アレ、あげないよ。」


彩乃の言葉に、朝比奈は目をパチパチとさせる。


「・・・貰おうなんて思ってない。

でも、もうあきらめようとするのは止める!」


「いいんじゃない。

私だって負けないから。奪えるものなら奪ってみなよ。」


「へえ~、剣を打ち合えるのは、彩乃じゃなくて、私だからね!」


朝比奈の言葉に背中を丸めて、自分の胸をつかむ。


「ぐっ・・・正直・・・それは羨ましい・・・」


彩乃の本音に二人は笑いあう。


時間を忘れ、お互いの気持ちを語りあう。

アクトリアの街の明かりが消えていき、夜が更けていった。


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