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アクチュアリー ―封印都市アクトリア―  作者: ブラックななこ


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黒い感情

彩乃の言葉に篠原は一度、肩をすくめる。

そして、背を伸ばして、持っていたカップを置くと、テーブルの上で指を組む。


「わ、わかったよ・・・ちゃんと説明する。


――ここで生活して約3か月。

生き返って時間が経ってない、広瀬と岡部は少ないかもしれないが、

僕たちは私物が色々増えて、部屋が手狭になってるんだ。


そこで、トレバス様に聞いたところ、城壁外に空き家があるって教えて貰ったんだ。

で、今日は、それを下見に行ったんだよ。


まだ、良い物件は見つけてないけど、引っ越しを前向きに考えないか?」


篠原は今日一緒に来なかったメンバーに視線を送る。


「私は良いわよー」

「僕もいいよ。」


榊原と門畑はすぐに引っ越しに賛成した。


「シェアハウスみたいに・・・みんなで住むってこと?」


朝比奈が少し困惑気味な表情になっている。

そして、続ける。


「私・・・ううん、久保田くんと小野寺さんは・・・どうするんです?」


篠原が“あっ!”って顔になる。


「確かに・・・まだ彼らとは打ち解けてないな・・・

話は聞かないし、勝手にどっか行ってしまうし・・・」


「由宇は嫌なんだね?」


彩乃が急須を手に取り、カップに注ぎながら尋ねた。


「イヤ・・・・・・そうですね、一緒に住むのは・・・

私、高い目標を持ってない人とは、一緒にやっていけないと思う。」


カップを両手に抱えて見つめると、思いを口にしていく。


「立花くんは親友を生き返らせる為に走っている。

そして、山下くん、本田くん、岡部くん、広瀬くんも立花くんと一緒に走ってくれる・・・」


視線を一度彩乃に向けて、再びカップに戻す。


「だから、一緒に戦えます・・・・でも――」


朝比奈の言葉に、彩乃は「ん?」って顔をする。

次の瞬間、椅子の足置きから足を外すと、勢いよく立ち上がる。


「ねえ、由宇、ちょっと!」


「え?」


立ち上がった彩乃に顔を向ける。


「私は?」


「え?」


「なんで、私は入ってないのよ!?」


「・・・・・・・・・。」


朝比奈は、「ああ~」という顔をすると、フッと笑った。

彩乃はその表情にプルプルと体を震わせる。


「わ・・・私はあんたと住みたくない!!」


朝比奈を指さして、吐き捨てるように言った。


「ええーっ!?」篠原が驚く

「えっ、なんで!?」

榊原も突然のことに他の人の顔を、首を振って見る。

全員が唖然としていた。


「ちょ、ちょっと彩乃さん! どうしたんだよ?」


真央が立ち上がって、彩乃の肩をつかむ。


「ううぅ・・・ッ」


彩乃は真央の方を向いて、脛を力いっぱい蹴る。


「アイタッ!! 彩乃さん何すんの?」


真央は一瞬苦悶の表情で腰を折り、下から見上げるように彩乃を見つめた。


「真央くんのせいでしょ!!」


そう言うと、彩乃は席を外し、階段を登っていく。


「彩乃さんっ!!」


真央は彩乃を追って階段を駆け上がっていった。

その様子を全員が目で追いかける。


朝比奈は持っていたカップに視線を落とすと、訳のわからない顔をして口を押さえた。

「わ、わたし・・・なんで・・・」と、誰にも聞こえない声でボソリとつぶやいた。


「なんだ? 柏木さん、どうしたんだ?」

「さあ・・・? 」


ユージとセージは訳がわからない。

隣のタツヤが眉を寄せ、朝比奈を見つめる。


「朝比奈さん・・・そう言うのは、どうかと思うけど?」


タツヤの言葉に朝比奈がピクッと体を震わせる。

ユージとセージはタツヤの言葉の意味が分からず、首を傾げる。


ビリビリビリ……


「んっ?」


篠原が自分のコップのお茶に、イチゴの方向から波紋が出ていることに気づく。

その波紋が徐々に大きくなり、篠原がイチゴの方を見る。


「ねえ~、パーティ続けられなくなるよ。 わかってて言ったのかな?」


イチゴが睨みつけながら、圧を飛ばす。


「うわっ・・・」

「こら、イチゴ! 何やってんだ」


ユージとセージはレベルが低いので、圧に腕を上げて耐えるようにする。

篠原と榊原と門畑は席から降りて、後ずさりしながらイチゴから離れて行く。


「ちょ、イチゴ・・・やめて・・・」

篠原は、壁を背にして、壁伝いに離れて行く。


朝比奈が顔を上げ、イチゴを見る。

瞳には今にも零れそうな涙を蓄えていた。

それに気づいて、イチゴは圧を消した。


「ご、ごめんなさい!」


朝比奈はそう言って席を外すと、ゲートウォッチから出て行った。


「由宇っ!!」


榊原が朝比奈を追いかけようと扉へ向かう。


ガシッ!!


榊原が肩をつかまれ、動きを止められる。

振り返ると、そこには木下が榊原の肩をつかんでいた。


「ちょ、なにする――」

「あなたのレベルじゃ、由宇さんには追い付けません。私が追いかけます。」


そう言って、木下は朝比奈を追いかけた。


「・・・・・・私じゃ追いつけない・・・由宇の力になれないの・・・?」


榊原は両手を見つめ、無力な自分に肩を落とした。


「いきなり空中分解とか・・・どうする、直?」


藤堂の問いに、篠原が戸惑って首を振る。


「いや、僕に聞かれても・・・何がなんだか・・・」


「良いタイミングなんじゃないか?」


タツヤの発言に全員がタツヤを見る。


「何が・・・いいタイミングなんだ?」


「パーティのことだよ。 大人数になりすぎて、迷宮の戦闘がやりづらくなってる。

真央が何とか指揮してるけど、前衛が多すぎで無駄が多い。」


「パーティを分けるってことか?」


セージがタツヤに尋ねる。


「あんまり多すぎると、隊列が縦に伸びるだろ?

経験値も溜まりづらいから、セージとユージのレベルアップが遅いんだよ。

実は、真央が分ける話しててさ・・・」


「真央がそういう話してたのか・・・」


「ああ、アイツはゲーム脳なだけみたいだけど・・・

セージとユージのレベルアップを優先させたいようだな。」


イチゴは朝比奈の出て行ったドアを見つめた。


「朝比奈さん、柏木さんに何かやったのかな?」


門畑が腕を丸テーブルに伸ばして独り言のように言った。


「何もやってないと思うけど・・・」

篠原が首をひねりながら腕を組む。


「オレもまったく何が何だか分からないよ。

突然、『一緒に住みたくない』って・・・そもそも二人はケンカしてたのか?」


藤堂が、詳しいだろうと思う榊原に顔を向けて尋ねた。

榊原は首を振る。


「わ、わかんない・・・わかんないよ・・・いつも迷宮行ってるんだもん。

二人の関係なんてわかんない!」


「笑ってたな・・・」タツヤが椅子に手をつき、背を伸ばしながら口を開いた。


「うん。」

イチゴがそれに答えた。


「笑ってたって・・・朝比奈が・・・?」


篠原がタツヤとイチゴに視線を配りながら尋ねた。


「柏木さんが立ち上がって尋ねた時、笑ったんだよ。

それで、怒ったんだ。」

「うん、歪んだ嫌な笑いだった・・・」


「う、うそ・・・うそよ、由宇はそんなことしないよ・・・」榊原が否定する。


「オレもそう信じたい・・・でも、何かおかしい感じがした。

最初に迷宮に潜った頃とは、イメージが変わってきてるのは確かだ。」


タツヤが眉を寄せながら、視線を徐々に床へ落とす。

ゲートウォッチの自由スペースに、何か得体のしれない何かが支配しようとしていた。


――― メインストリート


朝比奈を追いかけた木下が、人通りの多いメインストリートに出てくる。


「どっち行ったの?」


首を振って確認するが、見当たらなかった。


タタタッ……


走る音が上の方から聞こえた。

木下が上を見上げると、朝比奈が城壁の階段を駆け上がっているのが見えた。


「も~う・・・あんなとこに・・・流石、レベルが高い分、足速いなぁ~・・・」


木下も人波をすり抜けながら城壁へと向かう。

階段の所までやってくると、城壁の階段を駆け上がった。


―――


木下は城壁を登りきり、朝比奈を探す。


月は空には浮かんでいなかった。

その為、夜の城壁の上は、何の灯りもなく、アクトリアの街の灯りだけが頼りだった。

街からの灯りで、城壁の内側が境界線のように見える。

その外側は真っ暗だった。


ふ~ぅ・・・ふ~っ・・・


息はそれほど切れていない。 木下はこの世界にやってきて約1か月。

元の世界に戻る為に、迷宮へすぐに潜った。

その為、わずか1か月ほどでレベルは7まで上がっていた。


「さて、朝比奈さんは、どこ行っちゃったかな~」


真っ暗な城壁の上で、木下は街の灯りを遮るように、目の周りを両手で包み込む。

そして、城壁の左右を確認する。


「こういう時、僧侶さんがいてくれたら助かるんですけどね~・・・」


そんなことを言いながら、境界線の外側、暗い城壁の上をゆっくりと歩を進めていく。


うっ・・・うっ・・・うっ・・・・・・


どこからともなく、微かな鳴き声が聞こえてきた。

歩を進めると、徐々に声が大きくなってくる。


朝比奈は城壁のデコボコの一段高い所に座って泣いていた。


「見つけました。」


その声に、朝比奈はピクリと反応し、慌てて顔を何度も拭う。

木下は、朝比奈が座っているすぐ隣の、一段高くなった城壁に背をもたれさせる。


「どうしたんですかぁ? みんな心配してますよ。」


朝比奈は、木下側ではない隣の城壁に体を傾け、頭をコツンとぶつける。


「なんで、あんな事したんだろう・・・」


「あんな事ってー・・・?」


「・・・彩乃を・・・・挑発した・・・」


木下は“えっ?”って顔をする。


「へ、へえー、どうして挑発したんですかぁ?」


「わかんない・・・なんか胸の奥に、どす黒い物が沸き上がってきて・・・・・・

自分でもなんで、挑発したのか覚えてない・・・・・・」


朝比奈は腕を、城壁の外へと伸ばす。

腕は暗闇に溶け込むように、真っ黒に見えた。


「・・・・・・まるで、この闇が私みたい・・・」


木下は横目で朝比奈の様子を確認する。


「覚えてないんですかぁー・・・あの時は、久保田くんと小野寺さんの話でしたよね?」


朝比奈は伸ばした腕を戻すと、髪の毛をゆっくりと掻きあげて、耳の後ろあたりで手を止める。


「うん・・・あの二人とは、一緒に住みたくないって思ってた・・・

パーティ仲間の名前を口にしたら、どうしてか“彩乃”の名前を口にしたくなくなった・・・」


「口に?」


「うん・・・・・・胸の中で何かが・・・拒否した感じだった・・・

せっかく・・・名前で呼び合える仲になったのに・・・なんでだろう・・・」


頭から手を放し、服の胸の辺りをつかんで、引っ張る。

徐々に指から服が滑り零れると、その手を広げて見つめた。


「それは不思議ですねー・・・」


「もうだめだよね・・・」


「え?」


「パーティに居れないよね・・・だったら・・・もう、このまま・・・」


木下が言葉の意味に気づいた時、朝比奈は城壁の上に立ち上がっていた。


「ダメ、ダメ、ダメェー!!」


木下は慌てて足にしがみついて、こちら側に引っ張りこむ。


ドスン!!


二人は城壁の上に倒れ込んだ。


「イタタタタ・・・・・・」


木下は引っ張った拍子に、固い城壁の石にお尻を打ちつけた。

起き上がりながら、痛そうにお尻を押さえる。

そして、朝比奈を見ると、寝ころんだまま動かなくなっていた。


「だ、大丈夫? 頭とか打っちゃった?」


木下は慌てて、朝比奈の体に手をそえた。


「!!」


朝比奈は泣いて震えていた。

木下はほっとした顔をして、朝比奈にくっつくようにして、体育座りで城壁内の街を見つめた。


「・・・私ね・・・」


「うん。」


「・・・泣いたことなかったの・・・どんなに剣道の練習が厳しくても・・・・・・インターハイで負けても・・・悔しかったけど・・・泣いたことなかったの・・・」


「うん。」


「・・・でも・・・・・・イチゴくんに・・・・パーティが続けられなくなるって言われて・・・

それを考えたら・・・・・・涙が止まらないの・・・・・・」


「うん。」


「・・・パーティから抜けるなんて・・・・・・いやだよぉ~・・・うわあぁーん!」


朝比奈は城壁の上で体を丸めるようにしてワンワンと大声で泣いた。

木下は体を丸めて膝に頭を預けると、横に寝転がる朝比奈を見つめ、肩に手を添えてやさしく見守った。


「グスッ・・・グス・・・グス・・・ズズッ・・・ごめん・・・泣きすぎだね・・・」


朝比奈は次第に落ち着きを取り戻した。

そんな朝比奈を見守っていた木下が尋ねる。


「立花くんのこと、好きなんだね?」


「えっ!?」


木下の言葉に驚いて、目を見開く。


「好き? 私が? 立花くんを?」


「違う? 胸の嫌な黒いヤツって、嫉妬じゃないかな?

立花君と柏木さん、とっても仲いいもんねー・・・」


ドクンッ!


木下の言葉に、朝比奈は胸の奥から何かが込み上げた気がした。

寝ころんだまま、両手を胸に押し当てる。


(また・・・だ・・・)


朝比奈は上半身をゆっくりと起き上がらせる。

木下も膝につけていた頭を起こす。


「これ、変だよ・・・嫌な感情が・・・破裂しそう・・・」


朝比奈は胸元を見つめ、木下に訴える。


「こんなの私の感情じゃない!!」


木下には、朝比奈の胸元で黒いモヤが蠢いているのが見えた。


「いったい・・・なに・・・?」


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