呪いの共有
真央たちは教会を後にして、ゲートウォッチに帰ってきた。
「あ、帰ってきた~、どこ行ってたの~?」
自由スペースにいた榊原が、扉を開けて入ってきた真央たちに気づいて、声をかけてきた。
榊原の声で、調理場にいた朝比奈と木下が顔を出す。
「篠原の提案で、ちょっと外壁外に・・・」
「外壁外って、農場と墓場でしょー?」
顔を出している朝比奈が尋ねる。
「外壁外って、メインゲート側じゃなくて、コンティル城側なんだ。
実は――・・・」
真央は、夕方から篠原の提案で借りられそうな家を下見に行ったこと、そして教会で聞いたことを説明した。
―――
榊原が驚いて立ち上がり、朝比奈と木下を見て、自分を指さしながら口を開く。
「え、えぇぇっ!? わ、私達、呪われてるの!?」
「実は、僕もびっくりした。」
「ねえ、ちょっと待って、門畑くんと藤堂くんたちは呼ばなくていいの?」
彩乃が飲み物をすすりながら、手を上げて皆に告げた。
「あ、そうだ、そうだよね。
ちょっと待って、呼んでくるよ。」
篠原は苦笑しながら席を立つと、階段を登っていく。
「呪いのことも説明しとくー!」
階段を登る途中、そう言いながら2階へと消えて行った。
その様子を、自由スペースにいる6人は見ていた。
「立花くん、本当に“悪”属性が呪いなの?」
朝比奈が声をかけ、階段の方を見ていた真央が朝比奈を見る。
「わからない・・・
ただ、オレと彩乃さんとイチゴと違う点って、それしかないんだよね・・・」
真央は朝比奈の質問に少し困った顔をして、頭を掻いた。
「だからさ~、明日“悪”属性を持つ全員を教会に連れて行って~
神父さんに確認してもらおう~ってことになったんだ~」
「そっか・・・」
木下が両手で持っているカップを見ながら言った。
続けて、顔を上げながら質問する。
「神父さんに見てもらって、全員が呪われていたら、
“悪”属性が呪いの正体ってことになるもんね・・・
もし私たちが呪われてなかったら、属性の問題ではなくなるってことでいいのかな?」
「それで、間違ってないわ。
ね、真央くん。」
彩乃がカップを片手に持ち、もう片方の手で木下を指さしながら、真央を見る。
真央は目を強く瞑り、腕を組んで黙っていた。
「ねえ! 真央くん!」
彩乃の言葉に、ビクッとして目を開ける。
「また、何か一人で考えてる。」
「え、ああ・・・うん・・・ちょっと杖のことを・・・
エティエンヌ神父のいうことが本当なら、
タツヤを生き返らせるのはいつかな・・・ってことをね・・・」
「もうそこは~、割り切るしかないよ~、真央~~」
横で聞いてたイチゴが体を前のめりにして、真央の顔をジッと見つめた。
「でも、アイツ1人だけ生き返らせてない・・・
それを想うと・・・ここが苦しい・・・」
真央は胸の真ん中をこぶしで何度も叩いた。
「真央・・・」
「真央くん・・・」
イチゴと彩乃も、軽く唇を噛んだ。
「ねえー、私たちは仲間外れ?」
3人の様子を見ていた、榊原と朝比奈、そして木下が真央たちを見つめていた。
「ねえー?」
榊原は体を前後に揺らしながら尋ねた。
その声に真央たちが顔を上げる。
「私たち、仲間だよね?」と朝比奈
「そうです! 私たちは、口加高校“迷宮部”です!」
木下が両手を握って、脇を閉めてガッツポーズした。
「何、その迷宮部って?」彩乃が笑いながら尋ねる。
「今作りました!
よくないです? 迷宮部。」
「私は絶対入らないよー」と榊原が手を上げて、軽く木下に答えた。
「えー、そろそろ入りましょうよ~」
木下が榊原の腕をつかんでユサユサと揺らす。
「ヒナ、あんた来た頃と違って、メチャクチャここに馴染んだわね。
最初なんて、あんなにオドオドしてたのに・・・
いつの間にか、みんなと迷宮に潜るようになってるし・・・」
自分を揺すっている木下の手の甲を指でつまみ、“揺するのやめろ”と握った腕を離す。
木下はわざと痛そうに顔をしかめて笑う。
それを見ながら、彩乃が頬杖をついて笑って質問する。
「ヒナって、ほんと頭おかしいのよ。
ロングソードぶん回しながら、ブツブツなんか歌ってるよね?
・・・あれ何?」
「え? 聞こえてました?」
「「「聞こえてる(わ)よ。」」」
イチゴと彩乃と朝比奈が突っ込む。
真央はそれを見て笑った。
「で、何歌ってるの?」
「・・・ワーグナーの・・・ワルキューレです・・・」
木下は背中を丸め、恥ずかしそうに教えた。
真央と彩乃と朝比奈は“ああ~”という顔をした。
イチゴは首を傾げる。
「え~、なんの曲~?」
「パンパラパ~ンパ~ン、パンパラパ~ンパ~ン♪
パンパラパ~ンパン、パンパラパ~~~ン♬」
イチゴ以外の全員で合唱する。木下は、吹奏楽部なだけあって、別のパートを口ずさんだ。
「あ~、なんか聞いたことある~」
「この“ワルキューレの騎行”ってさ、フルートで風とか馬の嘶きをやるのよー。
それが、たまらなく好きなのーっ。」
木下が、丸めた手を顎のあたりでプルプルと震わせ、どれぐらい好きなのかを主張した。
「まさに・・・“フルートをロングソードに持ち替えた女”ね」
榊原があきれながら、木下を茶化すように言った。
その言葉に木下が反応して指さす。
「あ、それ!
ワルキューレの騎行って、ワルキューレ(戦乙女)が死んだ戦士たちの死体を回収して、
神殿ヴァルハラへ戦力増強に持ち帰るって内容なんですよ。
まさに、フルートを持ち帰って、ロングソード!
そっか~、私の為の曲になったのか~・・・あははは~・・・」
木下は笑いながらそう言った。
「ヒナ、あんた・・・頭のネジどっか行っちゃってない?」と榊原があきれ顔で言う。
「ロングソードをぶん回すワルキューレね。」と彩乃が突っ込む
「ワルキューレっていうより、バーサーカーだよ?」
朝比奈が顔の前で手を“違う違う”と振った。
「え? 私、まさかの回収される側!?」と木下が自分を指さして驚く。
「だって、フルートを回収されるんでしょ?」
榊原がそう言うと、女性陣がドッ!と大声で笑った。
真央とイチゴは意味が分からず、ポカンと見つめている。
彩乃がそれに気づいて、笑いすぎで目じりの涙を拭うと、二人に説明する。
「北欧神話の話なんだけど、ワルキューレ(戦乙女)とバーサーカー(狂戦士)って、
主神オーディンに仕えてるのよ。
それで――」
「意味はわかったけど・・・そのタイミングじゃないと笑えないなあ・・・」
真央が頭をかきながら苦笑する。
「オレと真央は~、インテリジェンスな笑いにはついていけないお~」
「だな。」
真央は笑いながら、手のひらをイチゴに差し出すと、イチゴはその手をぺチンと叩いた。
タンタンタン……
そんな時、階段の方から足音が聞こえた。
「なんか盛り上がってるね、笑い声が聞こえたけど。」
篠原が、門畑と藤堂を連れて階段を降りてきた。
そして、少し遅れて、タツヤとユージとセージが降りてくる。
自由スペースのテーブルに適当に座っていく。
「あ、お茶いれるね。」朝比奈が立ち上がる。
「あ、僕も手伝うよ。」
それを見て、門畑が席に座らず、そのまま調理場へと入っていった。
「陽ちゃんと、まどかちゃんは~?」
イチゴが、尋ねた。
「いなかったんだ。
どうせ、またどっかで遊びまわってんだろ?」
篠原が呆れるような顔をして、怒ったような口調で吐き捨てた。
イチゴの聞いた“陽”と“まどか”とは、二週間ほど前に送り込まれた来訪者のことである。
本名は“久保田陽斗”と“小野寺まどか”。
同じ口加高校の同級生だったが、今まで送り込まれた成績優秀者ではなく、
不良グループに属し、ほとんど最下位に位置するような二人だった。
なぜ、この二人が送り込まれてきたのかはわからなかったが、真央たちの話も聞かず、ゲートウォッチの経営者のマーロウからお金を貰うと、毎日好きなことをやって過ごしていた。
「篠原から聞いたけど、家を借りるんだって?」
タツヤが離れた席から、体を乗り出しながら尋ねた。
「ごめん、それは後で話そう。
まずは、明日みんなで教会に行くって話を・・・」
真央は手を広げて、タツヤの質問を止めた。
そこに、朝比奈と門畑がお茶を淹れて戻って来る。
来たばかりのメンバーが座る二つのテーブルに、カップの乗ったお盆を置くと、
礼を言いながら全員が手を伸ばす。
朝比奈は、もともといた席に戻ると、テーブルにお茶の入った急須を置いた。
「オレ達、呪われてるって聞いたけど。」藤堂が尋ねる。
「いや、呪われているかどうかはわからない。篠原は確定だけど・・・」
真央は篠原を見て「また、ちゃんと説明してないな。」と声に出さず、口だけを動かして睨む。
篠原はその顔を見て、“すまん”とまっすぐ伸ばした手を顔の前に出して、頭を少し下げた。
「呪われているかどうかは分からないんだけど、
篠原の呪いの原因が、こっちに送り込まれた時の“悪”属性かもしれないんだ・・・
だから明日、教会に一緒に行って、神父さんに見てもらえば、属性が原因かどうかを判断できるかと思ってさ。」
「そう言うことか。
直がいきなり“呪われてる”っていうから、何事かと思ったよ・・・」
藤堂の話を聞いて、真央が再び篠原を睨む。
「ははは・・・」
篠原は誤魔化すように笑った。
「別に誰かひとりでも良いんだけど、
もし“属性が原因”での呪いだとしたら、儀式が二度手間になるだろ?」
「儀式を受けると、属性が“悪”じゃなくなるのかな?」門畑が尋ねた。
「それはわからない。
でも、神父さんが言うには、聖水で“呪いが改善した”って言ってたから、
儀式を受ければ、呪いが消える可能性はある。」
榊原が口をつけていたカップをテーブルに置いて尋ねる。
「呪いを放っておくと、どうなるの?」
「それもわからない。
でも、呪われていると、復活の儀で失敗する確率があがるみたいだ。」
「じゃ、じゃあ、私は必要なくない? 迷宮行かないし・・・」
「じゃあ、雫は、呪われたまま生活するのね。
もしかしたら、痩せるのは呪いかもよ。」
「「え!?」」
彩乃の言葉に、榊原と門畑が驚いた声をだした。
「の、呪いを解いたら、また太っちゃうの?」
「せっかくお腹の肉無くなったのに・・・」
「余った腹の皮が、伸びなくなって良いんじゃないか?」
タツヤがそう言って笑う。
「ひ、ヒドイよ・・・タツヤぁ~~」
「まあ、冗談はさておき、そういう訳で、明日教会に来てもらいたいんだ。
まあ、呪いを解きたくない人は、来なくていいけどさ。」
真央は笑いながら、指で榊原と門畑を交互に何度も指さす。
「も、もちろん、僕は行くよ!」
「い、行くわよ!」
「そういうわけで、ユージとセージも、一緒に儀式を受けてくれ。」
真央が言うと、ユージとセージが「は?」って顔をこっちに向ける。
そして、ユージとセージが顔を合わせる。
再度、二人して真央の方を見て、「オレ?」って指を自分に向け確認する。
「えっ? オレたち、“悪”属性じゃないぞ?」とセージ
真央は“またか・・・”という顔をして、篠原を見る。
篠原は首をサッ!と逸らした。
(ったく・・・全部、オレが説明するんじゃないか・・・)
「神父さんの話だと、復活の儀で呪いが、徐々に溜まるらしいんだ。
ユージとセージは一度死んで、復活の儀で生き返ったから、呪われてるんだ。
だから、イチゴも呪われてる。」
「うえ~~い!」とおちゃらけて、手を広げて二人に向け、左右に振った。
「さっきも説明したけど、呪いの具合で、復活の儀の成功率が下がる。
できれば、これ以上コータと同じ“灰”状態にはしたくないからさ・・・
死なないのがベストなんだけど、もしもの時があるから・・・」
真央は、説明しながらコータのことを考え、眉間にしわを寄せる。
その様子を見て、二人は強く答える。
「わかった、わかった! 真央! オッケーだ!」
「オレも大丈夫だ! オレ達が死んだのは自分たちが悪いんだからな。
真央、お前が気にすんな!」
二人はそう言って、親指を立てて真央に向けた。
二人の様子に真央は口角を少し上げて、頷いた。
彩乃は真央の様子を見て、手をパンパンと叩く。
「じゃあ、次は家の話ね。
これは篠原君が“ちゃんと”説明してよね。」
中途半端な説明を続けていた篠原に、彩乃は少し圧をかけた。
篠原は、その圧に冷や汗をかきながら細かく頷いた。
「わ、わかったって・・・」




