禁忌の杖
儀式の取り決めを確認し、4人は神父と親睦を深めていた。
「なるほど・・・ここには住居を探しにやって来られたのですね。」
「はい、城主のトレバス様から、空き家があると聞きまして・・・」
篠原がここに来た経緯を説明する。
「トレバス様がおっしゃる通り、空き家はあります。
特に、封印の障壁の傍には、空いているところが沢山ありますね。」
神父の話に、彩乃とイチゴが要望を伝える。
「この教会の周辺を見たんですが、小さい家が多くて・・・」
「大人数で~・・・10人以上で住めるような家ないですか~?」
「大人数ですか・・・
だとすれば、部屋が多めの建物ってことですね・・・
たしか・・・トーヴォル通りに、大きめの家が多かったと思うのですが・・・」
「トーヴォル通り?」篠原が首を傾げた。
「おっと、失礼しました。
トーヴォル通りはこの辺りの住人しかわからないのでした・・・」
神父はどう説明すれば良いのかと、食事をとっていた手を止め、首をひねる。
何かを思いついたような表情をすると、説明を始めた。
「この教会の正面入り口側に障壁がありますよね・・・?」
外城壁から斜面を斜めに下りきった場所から、教会の横を通り、正面の障壁のことだ。
三人は、“ああ・・・真央が障壁を触った場所のことだ”と、すぐに理解し、首を縦に振った。
「障壁に沿って、右側へ進んでいくと、2度曲がったところの通りがトーヴォル通りです。
ほんの40メートルほどの“短い通り”ですから、行けばすぐにわかると思います。」
「だって!
真央くん、明日見に行ってみようか」
彩乃が真央に声をかけた。
だが、真央はマメのスープを掬ったスプーンを持ち、そのスプーンを見つめていた。
その様子に神父も、ちぎっていたパンを持ったまま視線を配る。
「・・・?」
彩乃は固まっている真央が気になり、声をかける。
「真央・・・くん?」
彩乃の声にハッとすると、食べる途中のスプーンを皿に戻す。
「え? な、何?」
「どうかしたの?」
「あ、いや・・・別に・・・ちょっと考え事を・・・」
神父が二人のやり取りに入る。
「他にも何か、聞きたいことがありそうですね?」
真央は喉を震わせながら、顔を上げて神父を見つめる。
イチゴと篠原も食事を止め、二人のやり取りに顔を向けた。
「違いますか?」
「・・・・・・。」
神父の問いに、真央は両手を祈るように組むと、喉を鳴らして尋ねる。
「あの・・・“復活の儀”を確実に成功させる方法を・・・
エティエンヌ神父はご存じではないですか?」
「・・・・・・確実に成功させる方法ですか・・・?」
神父はそう言って沈黙した。
水で薄めた葡萄酒をひと口飲んだ後、尋ねる。
「もしかして・・・誰か・・・蘇生に失敗した人が・・・?」
「・・・はい・・・蘇生に失敗して・・・今は“灰”状態です。」
真央はそう言うと、スプーンを持つ手に力が入り、ブルブルと震えた。
そして、続ける。
「オ、オレの・・・親友なんです・・・・・・生き返らせたい・・・
でも・・・また蘇生に失敗したらと思うと・・・どうしても決断ができないんです!」
真央は、両手こぶしを力強く握り、頭を下げて床を見つめる。
その悲痛な叫びに、イチゴは勢いよく立ち上がり、そのまま深く頭を下げた。
その様子はいつもの陽気なイチゴではない。
「オレからもお願いします! 方法を知っていたら教えてください!」
イチゴの様子を見て、彩乃と篠原が立ち上がって同じように頭を下げた。
その様子に、後ろにいたシスターたちが“何事”かと、シスター同士で見つめあい、困惑している。
神父がシスターに“大丈夫”と手を広げ、口を開いた。
「お座りください。
――我々の文化にはない動作ですが、それが“何か”はわかりました。」
真央は顔を上げて背中を伸ばし、三人は椅子に腰を下ろして、神父を見つめた。
神父はシスターを手招きして一人呼ぶ。
一番歳をとっているシスターが神父の傍に寄った。
「ここはもういいので、君たちはいつものお勤めに戻りなさい。」
「はい。」
年長のシスターは、他のシスターが持っていた水差しを受け取り、神父の近くに置くと、
他のシスターを連れ、共同食堂から出て行く。
真央たちは、その様子を首を動かしながら見つめていた。
パタンッ!
乾いたドアの音が響き、共同食堂が静寂に包まれた。
神父の表情から、穏やかさが消える。
神父は水差しを手に取ると、自分のコップに薄い葡萄酒を注ぎ、4人にそれを見せて、“要りますか?”と無言で確認する。
4人が首を振ると、水差しを同じ場所に置く。
コトン…
コップを手に取り、口をつける。
一口飲むと、コップを置きながら重い口を開いた。
「・・・いいですか・・・これは我々にとっては禁忌とされているものです。
絶対に、誰にも伝えてはいけません。 ・・・いいですか?」
神父が4人をジッと静かに見つめた。
真央がコクリと頷くと、他の三人も頷く。
神父は一度、部屋に誰もいないか確認をする。
そして、少し背を乗り出し、4人だけに聞こえるような音量で口を開く。
「・・・悪魔と契約した司教が、手に入れた杖を探しなさい。」
「えっ!?」
その言葉に4人が驚く。
「1000年以上前の杖を探すんですか!?」
真央が慌てて確認する。
神父は声を抑えろと、人差し指を口の前に掲げたまま話を続ける。
「そうです・・・娘を生き返らせる為に、
悪魔と契約した司教が手に入れたと言われる杖です。」
「もしかして、ナゼール教会にあるんですか?」
神父は首を振る。
「正教の教会にあるのは、すべてレプリカです。
最初に手に入れた杖を再現する為に、
正教が、罪人たちを贄として“本物を模して”作り上げた、冒涜の杖です。
レプリカゆえに、蘇生が完全に成功することはありません。」
「だから、失敗する時があるってことですか?」
「そうです。」神父は頷いて答えた。
真央は少し困惑気味に確認する。
「もしかして、本物の杖がこのアクトリアにあるんですか?」
「わかりません・・・」神父はそう言って、視線を落とす。
「あるかどうかわからないものを探せって・・・無茶だわ。」
彩乃が首を振りながら言った。
それを見て、神父が背を伸ばして椅子に座りなおす。
そして、普通の音量でしゃべりかける。
「ですが、ある可能性がある場所があるでしょう?」
「まさか!?」
「そのまさかです。」
真央と神父の会話についていけない篠原が尋ねる。
「おい、どこの話をしてるんだ?」
真央は篠原の方に視線を送る。
イチゴと彩乃も篠原と同じように答えを待っているのが分かる。
「迷宮だよ。」
「は? なぜ、迷宮?」
「迷宮には悪魔のモンスターが出る。
ということは、アイテムを落とす可能性があるかもしれない。」
「そこはゲーム感覚なんだな・・・」
篠原はそう言って、鼻で笑った。
「でも、可能性がゼロじゃない。
だったら、挑戦するべきだろ。」
「ゲームでは悪魔が出る階層ってどの辺なの?」
「デーモン系は結構深い・・・9階より下だったか・・・」
「3階をうろうろしてる私たちにとって、ずいぶん先の話ね・・・」
彩乃がうなだれながらつぶやく。
彩乃の様子を見て、真央が口を開く。
「どっちにしろ、潜らないといけないんだから・・・」
「そうだね~、今までより前向きに潜れるよ~」
「イチゴはいつでも前向きだろ。」
篠原がすぐにツッコミを入れる。
「そうそう、暗い話なんて似合わないわよ。」
彩乃がそう言って笑った。
4人の様子を見て、神父がフッと笑った。
「やっと、皆さん笑いましたね。」
4人はお互いの顔を見合って、“そういえば”という顔になる。
「それほど、重要で大事な事柄とはそういうものです。
皆さんの絆が、とても強く感じましたよ。
そして、希望が生まれたのであれば、
私の言葉も無駄ではなかったということでしょう。」
神父はそう言って、葡萄酒を喉に流し込む。
真央は立ち上がって、礼を言う。
「突然押しかけたのに、
親身になっていただき、ありがとうございました。」
他の三人も立ち上がって礼をした。
「これも神の思し召しでしょう。
――では明日、“赦しの儀”の準備を整えて、お待ちしております。」




