表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アクチュアリー ―封印都市アクトリア―  作者: ブラックななこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/76

聖水が暴く呪い

神父が招いたドアの先は、この教会で働くシスターたちが食事をとる共同食堂だった。

細長い部屋で、天井は船底をひっくり返したようなアーチを描いており、その奥にはドアがあり、ドアの先は調理場のようだった。


床は数百年の歩みが刻まれ、中央だけがわずかに窪んだ石床で、多少のでこぼこはあるが、平坦に整えられている。

部屋の中央には、何世代もの修道士たちが使い続けてきた長い木製テーブルが一台置かれ、長い時間で磨かれたのだろう、黒く輝いている。


テーブルにはカンデラブラが4つ置かれ、複数のロウソクが揺れている。


テーブルの手前側の壁には小さい祭壇が作られ、聖人の絵が掲げられており、その祭壇にも両サイドに太いロウソクが揺れていた。

その祭壇の前に神父が座り、テーブルの両サイドに真央たちの食事が用意されていた。


「どうぞ、おかけください。」


神父が両手を広げて声をかけ、真央たちは促されるまま席に腰を下ろした。


「質素な食事で申し訳ありませんが、食べながらお話を続けましょうか。」


食事は本当に質素だった。

レンズ豆の煮込みと石のように硬いパン。

そして、葡萄酒を水で割った酸味の強い飲み物が、目の前にあった。

真央がパンに手を伸ばそうとした時、神父が神に感謝の祈りを始め、慌てて手をひっこめた。


「天にまします我らの父よ・・・」

4人はただ神父の祈りを聞いているだけだった。


祈りが終わり、神父が目を開けると「おっと」という顔をする。


「これは申し訳ない。

来訪者の方々は信者ではないので、お気になさらずとも・・・」


「いえ・・・長いものには巻かれろって、我々の世界の“ことわざ”がありますので・・・」


篠原がそう返した。


カチャカチャとスプーンとスープの皿が音を立て、その音が天井のアーチに吸い込まれていく。


「さて、どこからお話ししましょうか。」


神父はパンをちぎりながら口を開いた。


「じゃ、じゃあ・・・復活の儀について・・・教えて貰えますか?」


真央が神父に尋ねる。


「復活の儀ですか・・・あれは利の理を外れた祭りごとです。

天に召される枠からはずれ、魂をこの世にとどめるという悪しき風習です。」


パンを口に運んでいたイチゴの手が止まる。


「生き返った・・・オレは・・・?」


ドン!!


イチゴの様子に気づいた彩乃は、テーブルに手を強めに置いた。


「この場に生き返った人間がいるんです!

そういう言い方は・・・どうかと思うんですが?」


神父は驚いた顔をした。


「生き返った人を見るのは初めてです。

どの方でしょうか?」


神父はそう言って、真央、彩乃と視線を配っていく。

イチゴの所で、視線が止まりジッと見つめる。


「ああ、彼ですか・・・確かに魂の色が少しくすんでますね。」


「「「「えっ?」」」」


そう言った後、篠原に気づく。


「おっと、こちらの・・・ナオヤ・・・でしたか?」


「はい。」


神父は篠原をジッと見つめる。

その視線に篠原がたじろいだ。


「ぼ、僕に何か・・・?」


「ふむ・・・君は最初からその色なのか?」


「色?」


篠原が首を傾げる。


「外側は黒なのですが、内側は白い・・・これは一体どういう状況でしょうか?」


神父は珍しいものを見るような目で、篠原を見つめた。

4人は訳が分からず、神父の次の動作を待った。


神父が、給仕の為に部屋の隅で立っていたシスターに視線を配る。

シスターがそれに気づいて神父に近づくと、腰を折って頭を神父の高さに合わせた。

神父は口を押さえ、シスターに何かを伝えた。


「かしこまりました。」


シスターはそう言って、ドアを開けて聖堂へと向かった。


「あ、あの・・・なにか?」


黙っている神父に篠原が気になって尋ねた。

そこに先ほどのシスターが戻って来る。

小脇には銀の水差しを重そうに持っている。


「彼と彼に」


神父は篠原とイチゴに手のひらを順に差し出すと、他のシスターがやってきて銀のワイングラスのようなもの(カリス)を、篠原とイチゴの傍に置いた。

そして、水差しを持つシスターがそれに水を灌ぐ。


「飲んでください。」


神父が篠原とイチゴにそう言った。


「こ、これは?」


「聖水です。」


何の説明もなく差し出された聖水に4人は驚く。


「いや、いや、何の説明もなく・・・飲めと言われても・・・」


真央が前のめりになって神父に訴えた。


「説明はちょっとできないのです。

私にもこれでどうなるか・・・わからないのです。

聖水は、体に悪いものではありません。大丈夫です。」


神父の言葉を聞いて篠原がカリスを手に取る。


「直ちゃん・・・」


イチゴが心配そうに見つめた。

篠原はゴクリと喉を鳴らし、カリスに口をつけ、一口だけ飲む。


「・・・・・・普通に水だ。」


そして、一気に聖水を飲み干した。

その様子を見て、イチゴもカリスを手に取り聖水を飲み干す。


神父は二人の様子をジッと見つめている。


「・・・ど、どうなんですか? 何かありましたか?」


真央が沈黙に耐え切れず神父に尋ねた。

神父は少し体を起こし、口を開く。


「少し、改善されました・・・聖水の効果はあるようですね・・・」


「効果って?」


「どうやら、彼らは呪われているようです。」


「「「「え!?」」」」


イチゴと篠原が、神父の言葉に驚いた。


「え~、オレ呪われてるの~?」

「一体いつ!?」


「呪いって、何の呪いですか?」と、真央が尋ねる。


神父はイチゴに手のひらを向ける。


「彼は“復活の儀”によるものでしょう。――そして・・・」


続けて篠原に手のひらを向け、怪訝な表情でジッと見つめる。


「・・・彼の呪いは・・・わかりません・・・

今まで見たことのない呪いです。」


「えっ!?

う、嘘・・・だろ? 呪いって・・・なんともないぞ!

ホントに呪われてるのか?」


篠原は椅子から立って、自分の体を左右に捻って後ろ側を何度も確認する。


「呪われているのは、間違いありません。

ただ、なんの呪いなのか・・・見当もつきません。」


真央は神父の話を聞きながら、ゲームシステムの呪いに関して考えていた。


(アクチュアリーにも呪いはある・・・だが、ゲームシステムでの呪いは、呪われたアイテムを装備して初めて呪われる。


そもそも、“復活の儀”での呪いってなんだ??


篠原は迷宮にすら潜ってない・・・最初から呪われてるってことか?

・・・そんなもの、ゲームのシステム的にない・・・)


彩乃が、俯き黙り込む真央に、気づいて尋ねる。


「真央くん、どうかしたの・・・?」


「いや・・・ゲームの呪いと、2人の呪いについて考えてたんだけど・・・

何も思いつかなくて・・・」


「ゲームだとどんな呪いなの?」


「ゲームでは呪いの要素は少なくて、呪われたアイテムを装備すると外せなくなる。

そして、防御力が下がったり、ダメージを受けたりするんだ。

外せない呪いのアイテムは、道具屋で外してもらうんだけど・・・


イチゴは“復活の儀での呪い”って言われたけど・・・

ゲームでは何度生き返っても呪われはしない・・・」


「つまり、ゲームの呪いとは違うってことね?」


「そういうこと。」


彩乃の問いに頷きながら答えた。

真央は神父に向きを変えて尋ねる。


「聖水の効果があるって言ってましたが、呪いは消えるんですか?」


神父はイチゴと篠原を指さしながら説明する。


「彼の“復活の儀の呪い”は、確実に消せるでしょう。

だが、彼・・・ナオヤの呪いは、正体がわからないので、何とも言えないですね・・・」


「何かヒントみたいなものはないですか?」


「ヒント?」


「呪いの可能性とか、何かに似てるとか・・・

オレの知識に照らし合わせられるようなヒントです。」


神父はテーブルに肘をつき、自分の顔の前で指を組んだ。

篠原をジッと見つめて考える。


「そうですね・・・色は・・・ペッカート(罪)に近いかもしれない・・・

中心は問題がなく、外側だけに罪・・・覆っている? せめぎあってる?」


「直ちゃ~ん、なに悪いことしたの~?」と、イチゴが体を前に倒して篠原を見る。

「おい、茶化すなよ・・・」


「呪いが・・・覆っている・・・?」


真央は片肘をテーブルにつけると、目を閉じ、眉間に指を押し当てて上下に動かす。


「オレたちと・・・篠原の・・・違いって・・・・・・あっ!」


真央は指の動きを止めて目を見開く、何かを思い出した。


「何か気づいたの?」


「いや、篠原のステータスで、オレたちと違う物ってあるじゃない。」


3人が真央の言いたいことに気づいて「あっ!」って顔をする。


「ぞ、属性か・・・」


篠原が両手を開いて見つめながら言った。


「ああ・・・設定された“悪”設定が関係してるかもしれない。

エティエンヌ神父、ちなみに“罪”が増える(?)と、どうなるんです?」


真央が神父に尋ねる。


「罪が多くなると、神の元へ行けなくなります・・・」


「それは・・・カトリックでの場合ですよね・・・正教だとどうなんです?」


神父はその問いに眉間を寄せ、“ふぅ~”っと大きく息を吐く。


「正教のことなど知らないと言いたいですが・・・

正教の場合、罪の多い人間は、復活しにくいと言われています。」


「なるほど・・・復活の儀で罪が溜まり、

溜まりすぎると復活しにくくなるってことか・・・」


真央は腕を組んで、背もたれにもたれた。


「エティエンヌ神父、聖水を飲む以外に浄化方法ってあるんですか?」


「ありますよ。

カトリックでは、“赦しの儀式”で浄化します。」


「やっぱりあるんだ・・・二人に儀式をお願いできますか?」


「わかりました。 ですが、儀式には準備が必要なので明日以降となります。

それでも、よろしいですか?」


真央は、コクリと頷いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ