アクセスポイント
――― 岡崎公園野球場 深夜
真央は周囲を見渡しながら、ライト方面へと歩いていく。
ライトの一番端部分のフェンスに出入りの扉があったからだ。
しかし、扉にはダイヤルタイプの太いチェーン鍵で閉じられていた。
「破壊はできるけどね・・・意味ないからやらないよ・・・」
そう独り言をいって、真央は笑った。
顔を上げてフェンスの上部を見る。
「・・・高さは2メートルぐらいか?」
腕を後ろに振り下げ、腰を折りながら膝を曲げる。
「よっ!」
その体を伸ばすように勢いよくジャンプすると、余裕でフェンスの上をつかみ、
腕で体を引き上げ、軽々とフェンスを乗り越えた。
カシャ、カシャーーン!!
扉が動いて、チェーン鍵が乾いた音を立てた。
そして、真央は扉の向こう側に着地する。
ザッ!
公園の芝生で寝ていた男が、扉の立てた金属音にビックリして飛び起きた。
「な、なんや? なんやなんや?」
すぐそばに着地した真央を見る。
「お兄さん、あんたが今の音立てたんか?」
そう言って立ち上がると、真央の傍へヨロヨロと歩いてきた。
(やべ、面倒くさそうなのに見つかったな・・・)
その男はアルコールの匂いをプンプンさせ、真央の前に立つと、人差し指を胸に何度も押し当てながら、文句を続けざまに言ってくる。
「気持ちよう寝てたいうのに、邪魔しよってからに・・・! 何してくれとんねん!」
「オッサン、酔っぱらってる?」
「おう、酔うてるでぇ〜! ええ心持ちや!
お兄さんが起こしさえせんかったら、もっとぐっすり寝てられたんや!」
男はヨロヨロとよろめき千鳥足になるが、踏みとどまると再び真央に詰め寄った。
(こりゃ、まいったな・・・)
真央が困った顔して、顔を空へ向ける。
男はその困った顔をみて、ニヤニヤと笑い、何を思いついたような顔をした。
「お兄さん、なんかおもろいことやってくれたら、堪忍してあげてもええでぇ〜」
「え? マジで?」
真央は、男の方に顔を勢いよく向ける。
「お~、マジや、マジ! で・・・何見せてくれはるん? 期待してまっせぇ?」
男はフラフラと体を揺らしながら、ひらひらと手のひらをコイコイと揺らす。
真央はその様子を見てニヤリと笑うと、男の顔の高さに合わせるように膝を少し曲げて、
両手を開いてボールをもつような恰好をした。
「この指、よ~く見ててよぉ~~ 絶対、ビックリするから」
真央はそう言いながら、恰好をつけるように人差し指を顔の横に立てる。
酔払いは指をジッと見つめた。
「いくよ~~」
「ラ~~」そう言って、指でLを描くと光を放ち、空中にLの文字が浮かび上がる。
「おおぉ~・・・なんやこれ? お兄さん、これもしやマジックいうやつか!?
えらい凄いやんかいな!」
男は空中に浮かぶLの光を、何度も手で振り払うようにして驚いた顔をする。
真央の指先がLを描き、その光る軌跡は止まることなくATINOへと続く。
空中に“LATINO”が完成した瞬間、男の意識がカクンと落ちた。
男の額をポンと指で押すと、男はフラフラと後ろによろめき、芝生にペタンと腰を落とし、いびきをかいて寝転んだ。
「ええ夢、見とおくれやす~♪」
真央はおちゃらけながら、そう言って立ち去った。
―――
松林を抜けると、公園の中央に走る広い歩道に出た。
周囲を確認するように見回す。
左手には赤い大きな鳥居が見え、右手を見ると道路の向こう側に、赤く歴史を感じさせる建物が見えた。
「きっと、有名な建物なんだろうな・・・
日本史の授業、まったく覚えてないからなあ~・・・
まあ、思い出すには、いい目印になるな・・・」
建物を横目に見ながら、真央は神宮道を横切っていく。
「流石は京都・・・公園よく整備されてるな・・・」
神宮道を挟んだ対面の公園の敷地の先に、目標のローム・スクエアがあった。
深夜なので、施設は全部営業終了しているので真っ暗だ。
「あった・・・このカフェだ。 ここからアクセスしたんだな・・・
オレのタブレットはSIMスロットないモデルだからな・・・
タブレットをネットにつなぐには、無線LANかモバイルWi-Fi、テザリングしかない。
安永がこのカフェで接続しているってことは、どっかの無線LANのサービスに入っているってことだな・・・」
真央は、周囲を見て場所を覚えるように見回して確認した。
「よし、次に行こう。」
真央はポケットから紙を取り出し、スマホでアクセスポイントの方向を確認する。
「次は・・・西海子町のハンバーガ屋・・・向こうか・・・
あのビルの屋上がいいな。」
見える範囲の高所へマコールを発動する。
真央は6階建てのビルの屋上へとテレポートした。
「知らない街にこうやって来れるって、テンション上がるなー。」
真央はそう言って、屋上を南方向へ駆け足で移動し、手すり越しにハンバーガーショップを探す。
「ごちゃごちゃで見えないな・・・南島原と違い過ぎだよ・・・」
真央は6階建てのマンションの屋上へと移動すると、スマホで現在地を確認する。
屋上から乗り出して下を確認する。
「この通り沿いのはずだけど・・・くそ、見えないな・・・」
再度、スマホを確認する。
「あ、あの交差点か!?」
真央は交差点沿いのビルへ移動した。
交差点を確認する。
「東山三条交差点・・・あった、アレだ!
ん? なんか色が地味だな・・・?」
三条通を照らす淡い街灯の光が目的のハンバーガーショップを照らしていた。
京都の景観を壊さないよう、色がグレーに抑えられ、街灯の赤色灯に照らされ、茶色に見えた。
真央は、赤と黄色の派手なイメージカラーしか知らなかったのでびっくりしていた。
「よし、次に行くか!」
そうして、真央はアクセスポイントを記録していった。
―――
最後のアクセスポイントへやってきた時、時間は3時30分を回っていた。
真央は大谷大学の屋上に立ち、アクセスポイントのあるドーナツ屋が入っているイオンモールを見下ろしていた。
「ふあぁ~・・・やっと終わった・・・
安永のやつ、行動範囲広すぎだろ・・・」
探索を始めた頃は、交通量はまだ多かったが次第に減り、喧騒も徐々に音量が落ちていた。
「帰る前に・・・あそこを見ておくか。」
真央は南東にある目的地の方へ顔を向けた。
「あそこ、妙に高いな・・・一気に飛べるぞ。」
京都では高い建造物が少ない。
その中で、南東方向に妙に目立つマンションが見えた。
真央はそこへテレポートする。
「不思議な形のマンションだな・・・」
その建物は、2つのマンションが25度ぐらいで並び、その2つの両端が渡り廊下のようにくっついているようなマンションで、真ん中には屋上から地上まで吹き抜けになっていた。
「やっぱ、都会は違うなあ~・・・
でも、アクトリアの方が数倍美しいな・・・」
そんなことを思い浮かべながら、1段高くなった屋上の縁に片足を置き、その膝に手を添えて体を前のめりにすると、眼前に広がる京都大学のキャンパスを見下ろす。
「あれが・・・安永が通う京都大学・・・」




