世界が見た消失
木下陽菜乃が消えるという衝撃動画がネット上に拡散され、連日のようにTVではニュース番組でも検証コーナーが行われていた。
SNSでは、CGだと主張する派と、CGではない派との間で論争も巻き起こっていた。
――― 国営放送のニュース番組の対談コーナー
対談室でアナウンサーの井上一郎と映画監督の山崎貴彦が、斜めに対面した形で木製の椅子に座っている。
「文化祭の最中に人がステージから消えるという現象について、“本物”なのか、“偽物”なのかと色々ネット上でも言われてますが、今回は日本映画界でも屈指のCG演出を手がける山崎貴彦監督に来て頂きました。
山崎監督、お忙しい所、出演ありがとうございます。」
アナウンサーの井上は、冒頭で対談内容の説明と、ゲストの山崎を紹介すると、腰を折って挨拶した。
「お呼びいただいてありがとうございます。
映画監督をやってます、山崎貴彦です。
よろしくお願いします。」
山崎は頭を下げて挨拶し、続ける。
「まさか自分がニュース番組に呼ばれるとは思いませんでしたよ。
自分の作品に関するインタビューでも、別撮りの録画放送なんで、僕にとっては非常に新鮮です。」
山崎はそう言って笑った。
「山崎監督、高校生が消えた例の動画は、ご覧になられましたか?」
「バズった当日に見ました。」
「アレだけバズりましたからね。
で、監督の目にはどう映りましたか?」
「どう映ったかというと?」
「本物か? 偽物か?ってことです。」
山崎は目を泳がせて少し答えを考える。
「“本物”か“偽物”かっていうと、どちらの可能性もある、というところでしょうか・・・」
「というと、監督にも分からないと?」
「まあ、はっきり言ってしまえば、“AI動画”ではないですね。」
「・・・それは偽物ではないってことでは?」
井上は少し身を乗り出して、尋ねた。
「あ~~、順を追って説明しますね。
今回、文化祭の舞台上で起こった事件です。
その為、舞台を撮影するスマホの数は多かったですし、同じシーンの動画があらゆる角度で撮影されました。」
手を使って、舞台とカメラの視点をなんとなく表現する。
「はい・・・そうですね。」
「これらの動画を検証すると破綻がない! 全くないんです!」
山崎は両手を広げて井上の方に手を差し出した。
「ほう・・・それが?」
井上は背もたれにもたれると、ひざ元で指を組む。
「AI動画の特徴は、一つの動画は作れますが、複数の視点の動画は難しいんです。
例えば、ひとつの人が消える動画を作ったとします。
続けて同じ設定で動画を生成しても、完全に一致する映像は作れません。
体育館って舞台も多少変化する可能性もありますし、“制服を着た生徒”と書いても同じ制服の動画が作成されること自体が稀でしょうね。
なので、カメラに映っている観客の動きがフレーム単位で完全に一致するなんて、どうやっても無理でしょう。」
「つまり、AI動画では、別アングルの動画を作れないってことでしょうか?」
井上は首を少し傾げて尋ねた。
「完全一致はまず不可能でしょうね。
なんとなく似ている程度には出来るかもしれませんが・・・」
一度、少し口をとがらせて、頭を少し縦に揺らしながら答えた。
「それで、AI動画ではないということですね?」
「そう言うことです。
AI動画の偽動画ではありません。」
山崎は人差し指を立てて、断言した。
「それなのに、本物か偽物かわからないって言うのはどういうことでしょうか?」
井上は再び前のめりになって尋ねる。
「それは、人の手で作られたCGであれば、理論上は可能だからです。」
山崎は背を伸ばし、足に両手をパン!と叩いた。
井上はその山崎の動きに、体を起こす。
山崎の答えに一瞬考え、次の問いを続けた。
「・・・誰かが作った可能性があるということですか?」
「いえいえ・・・可能性は低いです。
ただ、本物か偽物かって話では可能ということです。」
井上は何度か左右に少し首をひねる。
「ちょっと待ってください・・・
可能だけど、作った可能性は低いって・・・どういうことでしょう?」
山崎は、椅子に両手を着くと、軽く腰をあげて、椅子に座りなおす。
「まず、一番問題なのは制作期間。
次に製作費でしょうか・・・あとは、目的・・・」
足に置く指で足を叩きながら問題点を示していく。
その問題点の提示に井上は少し驚く。
「ひとつずつ聞いていいでしょうか・・・まず、制作期間について・・・」
「事件が起きた日に、消えた人物のモデリング作業、そしてモーションの作成
さらに、レンダリング作業・・・まず無理でしょうね。」
「無理ですか・・・」
「はい、無理です。
消えた人物がその日に消えるのが分かっていれば前もって作れるかもしれませんが、
当日起きた事件を再現する映像なんて、絶対に間に合いません。
いえ、私にも作れません。」
井上はその答えに“ほー”っと軽く声を出して驚く。
「山崎監督にも無理ですか・・・」
「ウチの機材と人材使っても、間に合わないでしょう。」
「では、製作費とは?」
「まあ、目的とも関連しますが、無償でそんな大変な作業をやるかどうかです。
拡散された動画はコピーされ、どんどん拡散されるわけですが・・・
今のSNSのシステムでは映像制作した費用の回収なんて無理ですよ。
コピー動画を拡散した側に収益が流れてしまいます。
なので、無償で制作しているとしたら、“何を目的としているのか?”って話です。」
「何を目的としているのか・・・なんだと思われます?」
山崎は笑う。
「え? 僕に聞きますか?
そうですねぇ~」
そう言って腕を組み、背もたれにもたれて、視線を上に向ける。
「『自分の技術はすごいぞ!』とか、そういう感じでしょうか?」
パッと体を背もたれから離して、手を両足につけながら、笑って話した。
「もし、そういう理由で誰かが作ったとしたらどうします?」
「すぐ、ウチに来て欲しいです。月200は出しますよ。
明日からお仕事あります。」
その答えに井上も笑った。
「就職活動成功ですね。 おめでとうございます。」
―――
SNSもすぐに反応する。
「山崎監督でも無理って、本物動画って話だよな」
「ワイドショーと違ってまともだ。」
「オレも山崎監督と仕事したいぞwww」
「しかし、何人目なんだ? 本当に南島原市だけなのか?
全国で発生してないの?」
「失踪はあるけど、神隠しはないぞ」
「それ、どこ情報?」
「行方不明者リスト、ネットに上がってるぞ。」
「へえ~、そんなリストあるって知らなかった。」
「山崎監督、次何撮るんだろう?」
「今回の失踪者も3年生なん?」
「絶対、口加高校呪われてるよ…まじこわ…」
そしてその日、
“観測された異常”は、世界中へと拡散していった。




