覚悟
――― 10月7日 国道251号線
――原城跡駐車場前で発生した人身事故の現場。
「事件性はなさそうなんで、我々は戻りますね。」
笹田は、青と黄色のユニフォームを着た処理班に声をかけた。
処理班は二人に向かって頭を下げた。
「お疲れ様でーす。」
田中と笹田はパトカーに乗り込み、署に戻るために国道を口之津方面へと発進した。
事故が起きたこの場所は左コーナーで、口之津方面から島原方面へ走ると、ブラインドコーナーになっており、コーナーの途中にある駐車場から国道に合流する際、右側から接近する車は、カーブミラーを使っても視認しづらかった。
そのため頻繁に交通事故が発生し、この場所へ事故処理に行くのは年に何度も通う場所だった。
笹田は運転しながら、ドアの窓枠で頬杖をつく田中に話しかける。
「原城跡での事故、頻発しますね・・・」
「ある意味、あそこも呪われてるよな・・・」
「天草四郎のですか?」
「3万も4万も殺されりゃ、呪いの一つぐらいあるんじゃないか?」
「小説とかの物語にはもってこいの歴史ですよね。」
「そのうち神隠しもネタになるんじゃないか?」
「・・・・・・。」
笹田はその冗談に言葉が続かなかった。
国道は南有馬の街並みを抜け、海岸線へと抜けていく。
今の時間は満潮に近く、風が強ければ波が道路にまで押し寄せ車が海水をかぶる、そんな海岸線の道路だ。
笹田は古野公園を過ぎてすぐに右折させ、県道へと入っていく。
「おい、どこ行くんだ?」
思いもよらないルートに田中が笹田に尋ねる。
「多分、いらっしゃると思うんですよ。」
「だれが?」
「まあ、まあ・・・」
パトカーは、錆びた鉄板の昭和時代の看板“カクイわた”が飾られた車庫を抜け、島鉄の吉川駅跡を抜けると、視界が開け農地が広がった。
川にかかる橋を抜けて数件目の所で笹田が指さす。
「ほら、やっぱりいました。」
田中は体を丸め、体を少し前に出して車の前方を確認する。
道路右わきの水路を、畑へ渡るための農業用に作られた橋の所に男が立っていた。
「ああ、岩永さんか。」
笹田は、窓を開けて挨拶を交わす。
「お疲れ様です。」「お疲れさん。」
「田中さん、笹田さん、お疲れ様です。 どうしてここへ?」
「人身事故で、こっちに来たんですよ。 乗りませんか?」
そう言われて、岩永は後席のドアを開け乗り込んだ。
笹田はその先の家の脇に車を寄せて停止させた。
「ふう~~~、この時期にしては暑いですね。」
「木下陽菜乃ですか?」田中が尋ねた。
「ええ、中間テストで1位になったでしょ?
成績上位が狙われるとすれば、いつ消えてもおかしくはないですから・・・
自宅のご両親への注意と、周辺調査をしてました。」
「なるほど・・・笹田はそれを知ってたのか・・・」
笹田は田中を見て頷いた。
(10月8日、11時になりました~♪ のんびりCafeの時間です。
こんにちは、パーソナリティの“ジジ”です♪
まずは、いつものお願いから!
口加高校で発生してます失踪事件について、何かしら目撃や発見等がありましたら、FMひまわりのメールへご連絡、もしくは警察へのご連絡をお願いします。
事件が始まってから、約5か月。
ご家族の方、ご関係者の方々は本当に心労を抱えられてます。
早く事件が解決することを、わたくし“ジジ”も願っております!
ですので、何かしら事件に関する情報等ございましたら、FMひまわりへのメッセージでも構いませんので、頂けたらと思います。
あ、ご家族やご関係者への応援メッセージでも構いません。
頂いたメッセージはFMひまわりを通してご家族様、関係者様へお渡し致します!
では、うどんやの美人若女将さんの無茶ぶりリクエスト、今日の1曲目・・・)
パトカーのスピーカーから流れた音声に岩永が驚いた顔で尋ねる。
「・・・今のは?」
「コミュニティFMってやつです。
南島原と雲仙市で放送されてるFMひまわりですよ。」
笹田がそう説明すると、田中は頭の後ろで指を組み、口を開く。
「聞いてるのは、ほとんどが地元の住民ですから、
事件解決のヒントでも貰えないかと思って、協力してもらってるんですよ。」
「へえ~、県警にはない取り組みですね。」
「まあ、なんか拾えればラッキーって感覚ですがね・・・
それで、木下の家族の方は何と?」
「まあ、思ってもいなかった学年1位。
TVのワイドショーでも“成績上位”の話をしてましたから、
ご存知だったようで・・・酷く心配してましたね。
成績が良いと、狙われる可能性があるなんて・・・誰だってビックリしますよ。」
「県警としてはどうすんです?
何の証拠も、犯人の目星もないんでしょう?」
田中の問いに岩永は少し声を詰まらせる。
「・・・・・・成績上位の生徒たちに24時間張り付こうかと思ってます。」
田中と笹田はその言葉に驚く。
「そんな許可、出たんですか?」
「・・・・・・・・・。」
笹田の問いに、岩永は答えなかった。
「・・・無許可ですか」
田中がボソリと呟くと、笹田が慌てて止めようとする。
「無許可はマズイですよ! 岩永さんのキャリア吹っ飛びますよ!?」
岩永が覚悟を決めて口を開く。
「・・・もうこれしかないかと・・・
張り付いても、人が消える現象なんて止めれるかどうか分かりませんけど・・・」
「ワハハハ・・・・・・!」
「ちょ、田中さん笑うのは失礼ですよ・・・」
田中はバッと振り返り、岩永に向かい合う。
「その覚悟、気に入った!
“キャリア組なんて”と思ってましたが、アンタみたいなヤツがいるとは!
オレも付き合おう!」
そう言って田中は左手を岩永の方へ差し出した。
思いもよらない田中の協力の提案に、岩永は唖然とする。
そして、目を伏せて口角を上げた。
「田中さん・・・ありがとうございます・・・」
岩永はそう言って田中の手をガシッとつかんだ。
田中は笹田の方を見て伝える。
「上には黙ってろよ。」
田中のそのセリフに、一瞬ムッとした顔をする。
「何言ってんですか! 一蓮托生でしょ!!」
そう言って、二人の手の上に右手を置いた。




