条件
篠原と藤堂の討論が終わると、藤堂が立ち上がって、腰を折って謝る。
「ごめん、オレが悪かった。
否定せず、君たちの説明をちゃんと聞くべきだった・・・
その上で、分からないことを質問すべきだった!」
藤堂の言葉を聞いて、真央は朝比奈を見る。
「ねっ!」
朝比奈は笑いながら、そう言った。
「おぉ・・・」
真央は感嘆の声を漏らし、藤堂に向き合う。
「よかった・・・
じゃあ、この世界の教会を説明するよ。」
真央がそう言うと、藤堂は椅子に座りなおすようにして、頷いた。
「頼む。」
その後、藤堂が納得できていなかった部分を、真央は詳しく説明した。
―――
――という訳で、今3人が教会の安置所にいる。
これが現状のすべてだ。」
藤堂は真央の説明をただただ静かに聞いた。
そして今、静かに腕を組んで考え込み、ゆっくりと質問する。
「その教会の“復活の儀”・・・
蘇生を2回失敗すると・・・死ぬってことであってるのか?」
その質問に、真央は眉間にしわを寄せた。
「・・・そう・・・1回目の失敗で『灰』になって・・・
『灰』状態で“復活の儀”を失敗すると存在が消える・・・現実世界でいう『死』だ・・・」
「灰・・・」
「・・・そして・・・コータが今『灰』の状態で保管されている・・・」
真央がコブシをギュッと握り締め、歯を食いしばる。
それをみた彩乃が、そのコブシに手を添えて見つめる。
「・・・大丈夫?」
真央は大きく深呼吸し、彩乃に答える。
「ありがとう・・・大丈夫だよ。」
藤堂は、二人の言葉と表情を見て、それが真実だと思い知らされる。
「そ、そうか・・・そりゃ、次の蘇生を戸惑うよな・・・
しかも、親友ともなると・・・」
藤堂の手が細かく震えていた。
蘇生という、人の命を確率に乗せるという行為がどれほど重いか、数学が得意な藤堂は胸が締め付けられるほど理解できた。
「それで、その・・・魔法ってのは・・・オレにも使えるのかな?」
真央は首を振って説明する。
「藤堂の職業を調べないことには、現状それはわからない。」
「職業・・・それは“教会で調べられる”で、いいんだよな?」
「ああ、教会で金を払って調べてもらう。 ちなみに篠原は盗賊だった。
それと・・・全員属性は『悪』だ。」
真央がそう言うと、篠原が“余計なこというなよ”という顔をする。
藤堂は、かまわず尋ねる。
「その属性ってのは?」
真央は三本の指を立てながら説明する。
「ゲームでは、『善』・『中立』・『悪』の3つの属性があって、
善と悪は通常パーティを組めないんだけど、
悪属性の朝比奈さんはオレ達と一緒に行動できた・・・
この点はゲームシステムとは違う。
だけど、この属性は何かあるようなきがしてならない・・・」
「・・・・・・なるほど・・・現状属性の意味は分からないってことか・・・」
「ああ・・・そう言うことになる。
それと、魔法に関してだが・・・
今の藤堂の職業では魔法を使えなくても、転職すれば魔法を使えるようになる。
ただ、レベルが1に戻るけどな。
だが、これはゲームの論理であって、まだ実証はできていない。」
その会話を聞いていた篠原が口を開く。
「そうだ!
転職について、この世界の住人に聞いてみたんだけど・・・・・・聞く?」
篠原はそう言うと、真央たちの方を見た。
全員が篠原に視線を送った。
当然のように、真央は「聞く」と答える。
「コンティル城の書庫を管理している『イレーネ・ドレイス』って人がいるんだけど・・・
その人、この世界の【魔術師】だったんだ。」
真央がピクリと反応する。
「この世界の【魔術師】ってのは、基本は“血”・・・遺伝みたいだね。
だれでも、魔法が使える訳じゃないらしい。」
「それ、面白い話だな。
じゃあ、オレ達は何なんだ?」
タツヤが話に入ってきた。
「オレの家系は“真言宗”。
厳しい修行をして、真言の力を得る。
この世界の【魔術師】ってのは、そういうことなのか?」
「本田、ちょっと待て!
それって・・・」
藤堂が慌てて、タツヤの方へ体を捻って口を開いたが、
まだ魔法を信じ切れていない藤堂は口ごもった。
その表情をみたタツヤが、目を伏せ笑いながら藤堂の肩を叩く。
「安心しろ、向こうでは魔法は使えないよ。 オレはね・・・」
その微妙な答えに、安心しつつも、確認するように尋ねる。
「オレは・・・ってことは、誰か使えるのか?」
タツヤは両方の手のひらをテーブルの上に乗せる。
「真言宗は“不動明王の炎を使って、邪を祓う”とされる。
全国から修行僧がウチの寺にやってきて、霊峰“雲仙”の地獄で修行する。
その修行が無意味とは思っていない。」
そして、タツヤは左手の人差し指を立て、右手でその指を包み込む。
小声で真言を唱える。
ボッ――
小さな炎が印の上に現れ、踊るようにテーブルに広がるとそのまま消えた。
熱とかすかな風が、テーブルに座る全員が感じ、髪をなびかせた。
「う、うわっ!?」
ドサッ!
藤堂が驚いて体を反らせると、背もたれのない長椅子の後ろにひっくり返った。
慣れてない、篠原と榊原、門畑は体を少し反るようにして避けた。
それを見たパーティメンバーが笑う。
「あはは・・・藤堂、驚きすぎ~」
イチゴがフォークで指さして笑う。
藤堂は長椅子に乗ったままの足を、体を後ろにずり下げて床に下ろすと、上半身を起こしてテーブルを見る。
「炎は?」
「消えてるよ。」
隣の榊原が答える。
藤堂はゆっくりと立ち上がり、テーブルに座るメンバーを見渡す。
ふう~~~っ!
額に流れる汗を腕で拭う。
ドッドッドッドッ……
驚きと緊張に胸で激しく跳ねる心臓がいた。
大きく息を吐き、口を開く。
「常識が通用しないことがよくわかったよ・・・」
「言っとくけど、今のは魔法じゃないからな。」
真央が説明すると、藤堂は座りながら確認する。
「じゃあ、今のは何?」
「よくわからん。
タツヤだけが使える何か・・・そうとしか言えないなぁ~」
「・・・・・・現実での修行の成果ってことかい?」
そう言ってタツヤを見る。
「そうかもしれないし、そうじゃないのかもしれない・・・
この力はこの世界に来て初めて発現した力だし・・・」
そう言って、タツヤは自分の手を見つめた。
藤堂も黙ってしまった。
それを見ていた篠原が口を開く。
「なあ・・・イレーネさんの話に、戻して良いかな?」
全員が顔を上げ、篠原を見る。
「彼女が言うには、転職は成功しないらしい。
教会の転職は“詐欺”だって断言してる・・・
立花・・・これってどういうことだ?」
真央はもっていたフォークを皿に置き、その手で顎をこねて考える。
「失敗ねえ~・・・なぜ失敗するのか・・・?
あ、もしかしたら・・・」
篠原は体を少し前のめりにして尋ねた。
「も、もしかしたら?」
「先にパラメーターを調べてないかもしれない・・・」
「どういうことだ?」と篠原が尋ねる。
「基本、転職は条件があるんだ。
職業に必要なパラメーターだよ。」
真央はコップの水を指につけ、テーブルに条件を書きなぐりながら説明する。
「職種は全部で8種類――
戦士の場合、STRENGTH(力)が11以上で全属性が可能。
魔術師の場合、INTELLIGENCE(知力)が11以上で全属性が可能。
僧侶の場合、PIETY(信仰心)が11以上で【善】と【悪】のみ
盗賊の場合、AGILITY(俊敏性)が11以上で【中立】と【悪】のみ――」
早口で職業を説明する真央に、
イチゴとタツヤは「始まったよ」という顔をし、
彩乃はあきれたように視線を向ける。
篠原たちはぽかんとしたまま、言葉についていけていない。
それでも、真央は止まらない。
止まる気もない。
「――司教の場合、INT(知力)とPIE(信仰心)が12以上で【善】と【悪】のみ
侍の場合、STR(力)が15以上、INT(知力)が11以上、PIE(信仰心)が10以上、VITALITY(体力)が14以上、AGI(俊敏性)が10以上で【善】と【中立】のみ
君主の場合――って、誰だよ笑ってんの?」
笑い声が聞こえて、真央が説明を止めて顔を上げると、イチゴとタツヤと彩乃以外は、あきれた顔にしていた。
イチゴはケラケラと笑っている。
タツヤは目を伏せ“毎度のことだ”という顔をしている。
彩乃は隣で頬杖ついてニヤニヤしていた。
「立花くん、君・・・ある意味すごいかも。」
「確かにすごいな。」
門畑が唖然としながら口を開くと、隣の篠原が感心して笑う。
「確かに、そのINTELLIGENCEを勉強に向けたら・・・」
榊原がそう言って笑う。
藤堂は首を振って笑っている。
「わ、私は、毎日のように片鱗を見ていたわよ・・・ぶふっ!」
朝比奈までもが笑いながら、皆に伝える。
「お、覚えるだろ? げ、ゲームの基本だろ?」
真央が両手を広げて尋ねる。
「まさか!」「ありえない!」「ないな~」「時間の無駄?」「攻略本でよくない?」
「30年以上前のゲーム、記憶するか?」「僕も覚えないなあ・・・」
散々な言葉が返ってきて、真央はショックを受ける。
彩乃が笑いながら肩を叩いて尋ねる。
「あはは・・・で、真央くん、そのパラメーターが何?」
彩乃の言葉に真央はハッとする。
「あっ! ・・・でも、ほんとに聞きたいと思ってるのか?」
そう言って、真央は全員を見回す。
全員が笑っている。 篠原は話せと指で手招きする。
「ほら~、みんな待ってるよ~~」
イチゴが笑いながら促すと、真央は口角が上がる。
「要は、条件にあった職種を選択しないと転職できないわけだから・・・
パラメーターも調べずに適当に転職しても失敗するに決まっている。
もしかしたら、この世界の住人は、この職業になれる条件を知らないのかもしれない。」
そう言って、真央はテーブルを指でトントンと軽く叩いた。
「だから、パラメーターも調べないってことか?」
タツヤが目を細めて尋ねた。
「多分だけどね。」
「なるほどね・・・
だからイレーネさんは『ほとんど成功した話を聞いたことない』って言ったのか・・・」
篠原が腕を組んで黙り込んだ。
何かを考えているようだった。
―――
「そういや、藤堂は今後どうする?」
真央がそう言うと、藤堂が顔を上げて真央を見る。
そして、首を傾げながら尋ねた。
「今後っていうと?」
「迷宮行かない組か、迷宮組のどっちかってこと。」
そう言いながら、行かない3人をフォークで指して、自分達を指した。
藤堂は腕を組み考え込む。
「迷宮に興味はある。
ただ、自分が何者なのか知りたいかな。」
「そうだな・・・まず職業を調べないと、先には進めないか・・・明日以降の話だな。
よし、難しい話はここまででいいよな?
今日から3日、篠原のおごりらしいんで、食べようぜ!!」
真央がそう言うと、ザワザワと皆が反応する。
「おごりか、そりゃ頼まないと」
「はいはいはーい! コロナさーん!!」
彩乃が真っ先にコロナを呼んだ。
篠原はその様子に慌てる。
「ちょっと待て、オレはおごるとは言ったが、3日は了承してないぞ!!」
アクトリアの上には満天の星が広がり、いつの間にか夜の帳が落ちていた。




