時間差
榊原と門畑の姿に驚いた藤堂が、矢継ぎ早に口を開く。
「なんで二人とも、そんな痩せてるんだよ!?」
榊原と門畑は、乾いた笑いを浮かべ、
お互いに顔を見合わせてから藤堂の方へ向き直った。
「「謎!」」
「なんで答えがそれなんだよ!!」
藤堂はその答えに、体を反らせ頭を抱えた。
(相変わらずのハイテンションだな・・・)
篠原は藤堂のテンションの高さに、懐かしさを覚え、笑う。
「直! 笑ってないで、説明しろよ!」
篠原は藤堂の肩に手を置く。
「まあ、まあ・・・やり取り見てるのも楽しいけど、座ろうよ。」
「う・・・ん・・・まあ、そうだな・・・」
榊原たちは、6人テーブルの席に向かい合って座っていた。
篠原は門畑の隣、藤堂は榊原の隣に座る。
「・・・・・・・・・。」
「な、なによ?」
藤堂は頭を上下させ、榊原の顔と体をまじまじと見つめている。
その視線に榊原は落ち着かず、何度か座り直して体を少し離した。
「と、藤堂君! わ、私っ・・・そういう視線慣れてないから、やめてっ!」
榊原は耳まで真っ赤にして、顔を背けた。
「あ・・・ごめん。」
藤堂はスポーツマンで女子に人気があった。
イケメンというわけではないが、男にも女にも隔たりなく接するその無意識的な行動が人気の理由だった。
「・・・しかし、3カ月ほどで、ここまで変わるもんか?
食いもんがマズいのか?」
藤堂が尋ねた。
その問いに、三人は「えっ?」という顔になる。
「は? 3カ月だって?」
お互いを見て、篠原が首を振る。
「いやいや、ここに来て、まだ1か月ぐらいだぞ。」
藤堂は人差し指を立て、顎の辺りを叩きながら、思い出しつつ話をする。
「直、オマエが消えたのは6月末・・・榊原と朝比奈が消えたのは7月頭・・・
門畑が消えたのは7月18日だったはず・・・
門畑は保護者会の開催日だったから日付をはっきり覚えてる。
そして、オレは2学期の中間テスト前の9月末だから、3カ月ぐらいだろ?」
藤堂の話に、三人は動かなくなった。
その固まる三人を見て「どうした?」と藤堂が問いかける。
「と、智久・・・さらっと、この世界の謎をいいやがって・・・」
「なぞ?」
「ああ、この世界は時間軸にズレがあるみたいでさ・・・
・・・単純に3倍なのか・・・? それとも、もっとズレが・・・?」
篠原はそう言って、テーブルに視線を落として考え込んだ。
「って、ことはさ! 急激に痩せる理由も、その時間軸と関係するんじゃない?」
榊原がそう言うと、全員が榊原を見つめる。
藤堂の視線がきついのか、榊原は再び席をずれて藤堂と距離を取る。
「関係って? 僕の体の変化に時間軸が?」
門畑が榊原に尋ねた。
「よく分かってないよ・・・例えば、私たちは3倍の速度でカロリー消費してるとか?」
「それ、面白い仮定だな。」
藤堂がそう言って榊原に指をさす。
その何気ない動作に、榊原は視線を逃がす。
「いや、僕たちが3倍の速度で老化してるって可能性もあるぞ。」
篠原がそう言うと、榊原の顔が青ざめ、両手でほほを押さえる。
「う、うそ・・・青春時代が・・・あっという間に過ぎちゃうじゃない・・・」
「いや、仮定の話だから・・・本気にするなよ・・・」
「仮定は証明されるかもしれないじゃない!!」
榊原がそう言って、肘から先をテーブルに置き、顔を横向きに伏せた。
視線の先に藤堂が見え、首をひねって反対を向いた。
そこに、コロナがやってくる。
「あんたたち、話ばっかりしてないで、料理を頼みなよ!
お、あんたが新顔かい? 私はコロナ、旦那とここで飯屋をやってる。」
そう言って、コロナは腰を折りながら藤堂の首に腕を回した。
藤堂の鼻先に、服越しだがコロナの巨乳が当たる。
「と・・・藤堂智久です。
呼びにくいと思うんで『トモ』って呼んでください!」
そう言いながら、藤堂の視線は巨乳にくぎ付けになっていた。
コロナは回した腕を外し、藤堂の背中を叩く。
「トモね! よろしく!」
腰を伸ばし、ドアの開く音に気づいて振り返る。
「丁度、マオたちも来たよ。」
コロナは店に入ってきた真央たちの方へ近寄っていく。
藤堂はそのコロナを“ボー”っとして、視線で追いかける。
(藤堂君・・・どうしたんですか?)
門畑が篠原に頭を近づけ小声で尋ねた。
(あいつ、年上が好みで、巨乳好きなんだ。)
(でも、コロナさん、旦那さんいますよ?)
(ははは、好みの話だからなあ~・・・)
篠原はそう言って笑った。
それを聞いていた榊原は自分の胸を見つめてニヤリと笑う。
「榊原・・・言っとくが、こいつ年上が好みだぞ・・・」
篠原が頬杖をつきながら、親指で藤堂を指しながらそう言うと、榊原が体をビクッと伸ばす。
「な、な、な、なにを言ってるのよ! べ、別にそういうアレじゃないしぃ~・・・」
藤堂は気づかず、コロナに視線をずっと送っていた。
―――
店の入り口の所で説明を受けた真央たちが、テーブルへと近づいてくる。
「藤堂君、久しぶり!」
朝比奈が最初に口を開いた。
藤堂は朝比奈を見つめる。
「朝比奈は、あんまり変わってないね。」
「え? なに? なに?」
藤堂の突然の言葉に、朝比奈はどぎまぎする。
「この二人を見て、藤堂が初対面だと勘違いしたんだよ。」
篠原が説明する。
「初対面って・・・」
朝比奈が榊原と門畑を見る。
「・・・だよねえ~」
朝比奈は、笑いながら同意した。
次々と席に座っていく。
藤堂があることに気づく。
「なあ、雄志はどうした? 一緒じゃないのか?」
その言葉に真央とイチゴとタツヤが反応する。
真央は篠原を見て睨む。
篠原は顔の前で両手を合わせて、肩目を瞑った。
真央は篠原の動作を見て、「ふ~~~っ」と息を大きく吐いた。
「藤堂、どうか冷静に聞いてくれ・・・ユージは・・・死ッ――」
ドガッ!!
真央の脇腹を彩乃が肘打ちした。
「がはっ!!」
苦悶の表情で脇腹から上の体を横に捻った。
「な、な~にすんだよ、彩乃さん!」
「出だしは良かったけど、直球すぎなの!」
「直球? そう・・・だった?」
真央は、パーティのメンバーを見る。
「ド直球~~w」
イチゴがそう言うと、パーティメンバーはうんうんと頷く。
藤堂は二人のやり取りを驚いた表情で見ている。
篠原が、唖然とした藤堂に説明する。
「コイツらは、いつもこんな感じだよ。」
そう言って口角を上げる。
それを藤堂がじっと見つめ、やさしい表情になって、つぶやくように言う。
「直・・・オマエ、柔らかくなったな・・・。」
「そ、そう? ・・・この世界のせいかな? ははは・・・」
篠原は、少し照れてテーブルに置かれた自分の手を見つめて笑う。
(ああ・・・利のある人間以外を、寄せ付けないようにする感じが消えたよ・・・)
藤堂は変わった篠原に目を伏せて笑った。
そこにコロナが料理を持ってやってくる。
「おまちどうさま~」
シチューやパスタなど大皿をテーブルに置いていく。
そして、彩乃の前にだけ、料理を一つ置いた。
「ほらアヤノ、あんたの特別チーズ入り!」
「きゃ~~~~っ!」
彩乃はハンバーグに目玉焼きが乗った煮込みハンバーグに、チーズを入れた特別注文品を頼んでいた。
目の前に置かれた料理に、顔を近づけて甘いソースの香りを嗅ぐ。
「ん~~~~、これこれ! ハンバーグって言ったらチーズin!」
その様子を藤堂がポカンと見つめている。
「・・・・・・柏木ってあんなキャラだったんだ。」
「ああ、僕たちも初めて見た時ビックリした。
才女のイメージ強かったから、ビックリするよな。」
篠原が取り皿にパスタを取りながら、そんな話をする。
「智久も食えよ。」
「あ、ああ・・・」
藤堂は目の前の煮込みを大きなスプーンで、取り皿に取っていく。
煮込みには大きな肉と、大きく切られたニンジンや玉ねぎがゴロゴロと入って、柔らかく煮込まれていた。
藤堂は肉にフォークを差し込むと、ホロホロと肉が崩れる。
「おお~・・・これはうまそう・・・」
スプーンにフォークで肉と玉ねぎを乗せ、口へと運ぶと、目がパッと開く。
「うまいよね? この街の飯屋はどこもうまいけど、門番亭はぴかイチだよ。」
篠原の問いに、藤堂は咀嚼しながら頷いた。
ごくりと飲み込み、真央に尋ねる。
「で、雄志はどうなってるって? 『し』で止まったけど、その後はなんだよ?」
真央は口に運ぼうとしたフォークを止め、取り皿に戻す。
「いい? 真央くん・・・この世界の説明からよ。」
彩乃がハンバーグをナイフで切っている途中で手を止めて、真央に念を押した。
真央が彩乃を見ると、その後ろでイチゴとタツヤが両手でコブシを作って頷いている。
「オレは、子供かよ・・・」
真央は苦笑する。
そして、藤堂の方を向いて、ゲームによってこの世界に転移されていること、この世界が現実世界とは違う異世界だということを説明していく。
―――
「――なるほど、そのアクトってゲームに名前を刻まれることで、
来訪者としてこの世界へやってくると・・・
そして、この世界から戻る方法は分からないが、迷宮に謎がありそうだと・・・」
怪訝な顔して、篠原を見る。
篠原は黙って頷き、本当だと伝えている。
だが、藤堂はどうしても“迷宮”や“モンスター”とかそういうものが信じられなかった。
「オレは、ゲームはまったくやらないし、アニメや漫画も読まない・・・
子どものような・・・そんな夢物語――」
コォーーン! ビィィィィンッ……
藤堂の手元にダガーがテーブルに刺さり、細かい振動がテーブルに伝わる。
「う、うわあっ!!」
藤堂はテーブルからあわてて手を上げる。
全員がダガーの飛んできた先を見ると、朝比奈だった。
腰に付けていた予備の武器を抜いて、藤堂に投げたのだ。
「な、何すんだよ!?」
「それが夢物語かしら?」
藤堂はテーブルに刺さった、ダガーを見る。
冷たく光る刃に、冷たい汗がほほを伝う。
「そ、そんなことより、刺さったらどうするんだ! あ、あぶないだろ!!」
「怪我したらタツヤ君が治してくれるわよ。」
「なんで、本田が治せんだよ!?
なあ~、直! オマエもなんか言ってやれよ!」
その言葉に篠原は苦笑する。
「ま、マジな話なのか・・・?」
藤堂は言葉を無くした。
そこにコロナがやってくる。
「こら~! ユウ! あんた、何やってんだい!」
その声に朝比奈がビクッとして肩をすぼめた。
コロナはテーブルに刺さったダガーを数回前後に傾けてから抜き、テーブルの傷を指で触って確認する。
「ユ~ウ~~~ッ・・・・・・」
コロナは腰に手を当て、朝比奈の前に圧を強めて立つ。
朝比奈は目を強く閉じ、犬が謝るように頭を下げ、体を捻らせる。
「弁償だよ!!」
「はい!!」
朝比奈は、返事をして立ち上がる。
「ユウは見た目、“真面目な子”だと思っていたのに、こんなことをする子だったなんて・・・
ウチの備品は大事に扱ってくれなきゃ困るよ!」
両手をこめかみに当てながら首を振りながらそう言った。
そして、コロナはダガーを朝比奈に差し出す。
朝比奈は受け取ると、反省した声で謝る。
「ごめんなさい・・・」
そして、腰のベルトにつけた革製の鞘に収めた。
「わかりゃいいよ・・・
この間のこともあるけど、ケガするようなケンカはご法度だからね。」
「この間・・・?」
「あれ? あの時、ユウはいなかったっけ?」
そう言って、真央たちに視線を送った。
「いませんでした。」
「ああ、そうか・・・ユウ、気にしなくていいよ。」
朝比奈の頭にポンと手を乗せ、コロナはカウンターの方へ戻っていった。
朝比奈は椅子に座り、視線をみんなに戻すと、全員がこっちを見ていた。
「えっ? えっ? な、なに?」
その視線に朝比奈がどぎまぎして尋ねる。
「朝比奈さんがさ・・・『ずいぶんこの世界に染まったな』って、みんな思ってるんだよ。」
真央がそう言うと、藤堂以外がドッと笑った。 藤堂は苦笑した。




