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アクチュアリー ―封印都市アクトリア―  作者: ブラックななこ


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56/75

空白

――― アクトリア コンティル城内


篠原はコンティル城を訪れていた。


――コンティル城――


城塞都市アクトリアが封印されて800年。

その間、改修はあったとしても、作り変えていない城の内部は、

城塞都市内の建物とほぼ変わらない作りをしていた。


封印前のコンティル城はもっと大きかった。

ノクサリウスの呪いによって、城の中庭に迷宮の穴が発生し、

当時の城主が呪いの恐怖から逃れるために中庭内に城壁を新造させ、

元の城壁を外城壁として機能させるようにした。


結果、アクトリア城塞都市の二重城壁と同じ構造がコンティル城に作られ、

城塞都市には4つの城壁が存在していた。


だが現在は、迷宮へ自由に潜れるように、

コンティル城の外城壁は開放されている。

アクトリアに住む住民は、外城壁を自由に通過できるようになっていた。


篠原は、コンティル城の門番とあいさつを交わし、

いつものように城内へ入っていく。


城塞都市の城であるコンティル城は戦いがメインで、

見た目の豪華さではなく機能だけを追求した作りだった。

美術品というよりは、中世以前の建物の雰囲気があった。

石を厚く積み上げ、隙間をモルタルで固定した内部構造だ。


侵入者の進行を遅くするために廊下は狭く、

横と下は二重構造となり、城壁と同じように

そこから侵入者に対して攻撃できるよう細長い隙間が開いている。

ただ、呪いによって封印された現在では、まったく意味をなしていなかった。


篠原はその狭い廊下を進み、城主がいる大きな扉をノックした。


コン、コン……


「どうぞ。」


ドアの向こう側から低い声が響いた。


「失礼します、トレバス様。」


部屋の中はそれほど大きくなかった。

20平米ほどの部屋で、L字型の大きな机に城主は座って書類に目を通していた。

その顔を上げ、篠原を見る。


城主の名は『トレバス・コンティル』。


封印されたアクトリアを、必死で維持してきたコンティル家の二十三代目だった。

30代の彼は、父親から城主を引き継いで6年余り、

狭いアクトリアと増加する人口に頭を悩ませていた。


800年の間、外との闘いはなく、

迷宮から呪いがあふれることもなかった。

それにより、外部との『戦い』から、

民をいかに『守る』かを重視した政治方針となっていた。


そのため、10年ぶりの来訪者を、

篠原のような高校生でも大歓迎していた。


「ナオヤ、調子はどうだ? 生活に問題は発生してないか?」


「はい、ありがとうございます。 トレバス様も調子良さそうですね。」


「ふむ・・・調子はいいが、悩みは相変わらずだよ。」


そう言うと、ペンを置き立ち上がった。

そして、壁際の棚に置かれたコップを二つひっくり返すと、

ピッチャーからハーブティーを注いだ。


一つを篠原に手渡し、もう一つを自分の口へと運ぶ。


「で、今日はどうしたのかな?」


そう言うと、窓枠に左肘を置き、

体を傾けるようにリラックスして直哉を見た。


「実は、来訪者について調べたいんです。」


「来訪者を? なぜ?」


「トレバス様は、過去の来訪者の数をどれぐらいご存知ですか?」


「そうだな・・・10年前に訪れた来訪者は、

大体150名だったと思うが・・・」


「それはどれぐらいの期間ででしょう?」


トレバスは窓枠に背中をあずけつつ、腕を組み、天井を見つめて考える。


「・・・・・・そうだな・・・確か・・・1年半ぐらいだったかと思う・・・」


「来訪者はゲームに名前を刻まれると、この世界へやってきます。

ですが、そのゲームは我々の世界では約30年前に作られたそうです。」


トレバスは眉間にしわを寄せ、目を細める。


「30年・・・・・・?

来訪者の世界の時の流れと、我々の時の流れが違うのか?

それで?」


「僕たちの仲間にそのゲームに詳しい男がいて、

その男が言うには、ゲームが30年前に発売された。

でも、呪われたこのアクトリアは800年前から封印されている。


『呪いのゲームは本当に30年前からなのか?』って言うんですよ。」


「・・・????

ちょ、ちょっと待て、ナオヤ・・・・・・どういう意味だ?」


「つまりですね、

『来訪者を送り込むというシステムが、770年の間何もせず、

30年前から始まるか?』って、その男は言ってるんですよ。」


「・・・つまり・・・私の知っている10年前以前にも・・・

来訪者がきたと・・・?

そういう・・・ことか・・・・?」


篠原はコクリと頷いた。

そして、手に持っていたハーブティーを一口含んだ。

トレバスは喉を鳴らし、口角をあげる。


「お、おもしろい! その疑惑・・・私も気になるぞ!

つまり、城の記録が見たいのだろう?」


「はい・・・トレバス様は、過去のことを調べたことはありませんか?」


「ない! 多分、父上も調べてないだろう。」


「それはなぜ?」


「なぜ? おかしなことをいう。


このアクトリアは封印された場所、もともとは城塞都市だが、

今はどこの国も攻撃してこない。


つまり、このアクトリアは単独の世界だ。

内乱がおきんように政治は振るうが、対外へはいらない。」


「なるほど・・・過去の情報は必要ないと・・・」


「そうだ! 未来への情報は欲しいが、

過去の情報なんてものは、なんの役にも立たんよ。」


そう言うと、ハーブティーをクイッと飲み干す。


「まだ飲むか?」


篠原は首を振ってことわる。


「ナオヤ、書庫の閲覧許可を出そう。

過去の来訪者・・・どのように扱ったのか知ってみたくなった。

歴代の城主の日記も書庫にあるはずだ。」


「ありがとうございます。」


「だが、農耕改革も同時並行だぞ。」


「わかっています。」


「許可証は今日中に作っておく。

明日の朝、城に入る時に受け取るがいいだろう。」


「よろしくお願いします。」


篠原は腰を折って挨拶する。


出て行こうとしたが、手に持つコップをどうするかオロオロする。

トレバスは笑いながら、入口のドア脇にある小さなサイドボードを指さす。


その上に大型のトレイが乗っていた。

篠原はそのトレイにコップを置くと、ドアを開けて出て行った。


トレバスは壁の方に歩き、ハーブティーをコップに注ぎ足す。

そして窓際に戻り、窓枠にコップを置くと、

肘をかけ、窓枠に肩を預けて外を眺めた。


コンティル城は、メイン城門の丁度反対側の城壁に接するように建っていた。

城は二重城壁の内城壁と一体となった構造になっており、

外城壁まで15メートルほどしかなかった。

しかも、コンティル城側は山の斜面が急こう配で、

トレバスの部屋の窓の外は60メートルほど落ちた崖だった。


午前中の早い時間帯は城の影が、封印の壁にまで届いていた。

トレバスはそのいつもと同じ風景を見ながらつぶやく。


「来訪者の・・・我々が知らない歴史の中に・・・存在する可能性・・・か・・・

歴史が動くかもしれんな・・・」


そう言って、ゆらゆらと透けた風景に、

切り立つ城の影が不穏に揺らめき続ける。


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