あと1日
――― 中間テスト4日目(最終日前)
校舎全体が、異様な静けさに包まれていた。
ツクツクボウシの途切れ途切れのか細い声が、窓の外でかすかに続いている。
相変わらずの圧が全校に漂っていた。
――― 職員室
間島は、ノートPCの画面に表示されている
2日目までの採点結果の一覧表を見ながら、腕を組んでいた。
2日間のテスト結果、3−Aの平均点はすでに落ちている。
あと今日と明日があるが、その2日で平均が急激に上昇するとは思えない。
それが学校全体の評価に響くのは明らかだった。
(・・・藤堂がいないだけで、ここまで数字が落ちるのか・・・
いや・・・この雰囲気か・・・)
間島は天井を見回す。
(・・・オレも・・・あの日から・・・どこか落ち着かん・・・
生徒はもっと落ち着かないはずだ・・・)
職員室の空気も重かった。
他の教師たちも、気持ちがどこか散漫だった。
――― 3−A
カリカリ…
生徒たちは黙々と問題を解いていた。
だが、その沈黙には“恐れ”が混ざっている。
(・・・・・・苦しい・・・)
(・・・早く・・・解放してくれ・・・)
誰も言わないが、全員が同じことを考えていた。
パラ…
答案をめくる音が、やけに重い。
――― 3−B
カリカリ…
試験官の教員は、教室の空気に言いようのない違和感を覚えていた。
(こりゃ・・・今期のウチの進学・・・ヤバいことになりそうだな・・・)
どこか集中力を欠いた生徒ばかりが目立っていた。
ガリガリガリガリ…
そんな中、一人だけ集中する女子生徒がいた。
(ん? あの子だけは違うな・・・だれだ・・・?)
木下陽菜乃だった。
9月末から急に圧が軽くなり、そのおかげで集中力が上がっていた。
(うん・・・調子がいい・・・前はペンがなかなか走らなかったけど、
10月に入って気持ちがすごく乗るわ。)
走らせるペンの動きで、長髪が肩から滑り落ちる。
その髪を左手でかき上げて押さえた。
(この中間テストが終われば、最後の舞台、文化祭に集中できる・・・がんばろう!)
――― 3−D
カリカリ…
久美は余裕の表情で問題を解いていた。
シャーペンを回しながら、ニヤニヤと笑いながら問題を解いていく。
(ここも復習でやってた問題・・・簡単ね。
でも、たまに全く知らない問題が出てくる・・・
問題集は全部解いてるはずなのに・・・こんなことってあるかしら?)
久美はそれでも他とは違う速度で問題を進めていく。
だが、ペンが止まる。
(まただ・・・この問題はやったことない・・・とりあえず後回し・・・
他を埋めてから解こう・・・)
パラッ…
そう考えると、問題用紙をめくった。
カバンの隙間から光が漏れた。
(…クククククッ……あと少し…)
隣の男子生徒がちらりと横目で久美を確認した。
(・・・くそっ! なんであいつ・・・あんなに余裕なんだよ・・・)
ペンを持つ手が震える。
(こんな・・・嫌な空気の中・・・集中なんてできるわけがないよ・・・)
如月はちょうどDクラスの試験官をやっていた。
教室の前で腕を組み、久美を見つめる。
(・・・あの子だけ、空気が違うわね・・・)
教室を見回して他の生徒を確認する。
イライラして足を揺らす生徒、頭を掻きながら問題に向かう生徒、額に汗をにじませている生徒・・・
それぞれ様々だったが、久美だけが冷静に問題を解いていた。
(彼女、成績はトップに近いわよね・・・消される恐怖はないのかしら?)
如月はそう考えながら首を傾げた。
――― 廊下
廊下はシンと静まり返っていた。
試験の時間は誰も声を発しない。
生徒はもちろん教員にも、平等に時間が過ぎていく。
カチ…カチ…カチ…
どの教室でも、時計の秒針だけが同じリズムで響いている。
だが――
その静けさの中に、“何かが待っている”気配があった。




