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アクチュアリー ―封印都市アクトリア―  作者: ブラックななこ


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52/75

消滅

プルルッ! プルルッ! プルルッ!……


次の日の朝、間島はスマホのアラームで目を覚ます。

ゴソゴソと起き上がり、枕元のスマホのアラームを止める。


「オレ、いつ寝たんだ?」


記憶が混濁して、昨日のことがよく思い出せなかった。


ベッドから起きあがり、部屋を出て洗面所を目指す。

途中で、母親が心配そうに声をかける。


「・・・慎ちゃん・・・おはよう」


「はよ」


間島はそっけなく挨拶を返し、洗面所で顔を洗い、ダイニングのテーブルに座った。

実家に住む間島は独身で、朝起きると母親が朝食を用意している。


テーブルについたのを確認し、母親はいつものようにインスタントコーヒーを作って間島の前に置いた。

そして、いつもと同じようにトースターから焼けたトーストを取り出し、熱そうに指先で運ぶと、急いで間島の皿に乗せた。


トーストをかじり、コーヒーをすする。


「ねえ、母さん・・・昨日の事なんだけど・・・何があったかな?」


間島は昨日の事がオブラートに包まれているようで、記憶を確認するようにたずねた。


「覚えとらんと? あんた警察ん人に、車で送ってもらったとよ。」


「え? 送ってもらった・・・?」


間島は眉間にしわを寄せ、テーブルに肘をつくと、両手に額を乗せて沈黙した。


「学校で何かあったとね? 同僚ん子もえらい慌てとったけど・・・?」


間島は母親の問いに、次第に記憶が蘇ってきた。

授業中に目の前で消えた『藤堂』。

額に汗が滲む。


(そうだ・・・昨日・・・藤堂が消えた後・・・)


ピンポン!パンポン!パンポ~ン………


そんな時、家のチャイムが鳴った。


「は~~~~い!!」


母親が大声で返事をして、ドタドタ……と足音をたて玄関に向かう。

そして、誰かと話をしている声がわずかに聞こえた。


「慎ちゃ~ん・・・同僚の方が迎えに来らしたよ~!」


「同僚・・・・・・?」


間島は立ち上がって玄関へ向かうと、そこには如月がいた。


「如月・・・?」


「先輩! おはようございます!

迎えに来ましたぁ~!」


如月はお辞儀をして、手を額に当てて敬礼のポーズをした。

間島はその言葉に首をかしげる。


「迎え?」


「はい。 先輩、昨日車を学校に置きっぱなしなんで、

足がないと『困るかな』って思って迎えに来ました。」


「そういや、昨日警官に送られてきたって・・・母さんが言ってたな・・・・・・」


「そうです、早く行きますよ。」


間島は数歩下がって、ダイニングルームの時計を見る。6時50分だった。

顔を如月に戻してたずねる。


「早くないか?」


「やっぱり昨日のこと覚えてないんですね。

よかった~~、迎えに来て・・・


昨日聴取できなかったんで、県警の岩永さんが、『明日の授業が始まる前に聴取させてください。』って言ってたんです。」


「マジか?」


「マジです!」


「ちょっと待ってろ!」


間島は慌てて洗面所に行くと、歯ブラシを口にくわえて自分の部屋へ戻る。

しばらくすると、スーツに着替え、片手に鞄を持ち、歯を磨きながら出てくる。


洗面所に一度入り、うがいの音が響く。

そして、玄関の方へ歩いてくる。


「すまん、待たせたな。」


二人は道路に止めてあった車に乗り込み、学校へと向かった。


―――


学校に到着すると、いったん職員室に荷物を置き、3-Aに向かう。


3-Aの入り口は締め切られ、立ち入り禁止と書かれたテープが貼られており、入れないようになっていた。

教室の中は電灯が点され、中からザワザワと声が聞こえる。


間島は一度喉を鳴らし、ドアを開ける。


ガラガラッ!


作業していた科捜研の人達が作業を止め、間島の方を見る。

岩永と後藤は生徒の机に座り、話をしていて気づかなかった。


「岩永さん!」


岩永は顔をこちらへ向け、間島と如月に気づいて立ち上がった。


「間島さん、おはようございます!」


「・・・おはようございます。」


「テープ、くぐって入ってください。」


そう言われて、間島と如月は規制テープをくぐり教室の中へと入る。

間島は教室の中に入ると、黒板を見つめた。

昨日、藤堂が解いた式が残っており、それを見て昨日のことをはっきりと思い出した。


目を強く瞑り、右手の親指で眉間を強く押さえて、何度も何度も右手を左右に小刻みに動かす。


「今日は落ち着かれましたか?」


岩永がそう尋ねて、間島は右手の動作から顔を離し、目を開けた。


「そうですね・・・起きるまでに記憶がうっすらとしかありませんけど・・・」


「まあ、それほどショックを受けたってことです。

さ、こちらへどうぞ。」


岩永は教室の最後方へ案内し、椅子を引いて「ここにどうぞ」と手で示した。

間島はその椅子に腰かける。

如月は、間島の廊下側の隣の椅子に座った。


岩永は窓側の隣の椅子に座るとボイスレコーダーのスイッチを入れて机に置く。

後藤は後ろの黒板の傍に立った。


「実は、大人の証言が欲しかったんですよ。」


岩永の言葉に間島の片方の眉がピクリと反応する。


「大人ですか・・・?」


「ええ・・・これまで5月の柏木彩乃、立花真央。

7月の門畑良平。 そして、今回の藤堂智久。

この4人の目撃証言がありますが、どれもバラバラなんです。」


「バラバラ・・・?」


「ええ、証言が不安定というか、想像というか・・・

兎に角証言が安定してないんですよ。


例えば、『光って消えた。』とか、『筋になって消えた。』とか・・・

証言に整合性が無くてですね・・・我々も困っていたんです。」


間島はその話を聞いて、ああ~…と何度か小さく頭を上下させて頷く。


「高校生と言えど、中身が子供みたいな生徒がいますからね。」


「そう言うことです。

で、今回間島さんが、初の成人男性の目撃者というわけです。」


岩永は太ももに肘を置くと指を組み、少し下から間島の顔を見つめる。

間島は岩永の視線に少したじろぎ、深呼吸する。


「まず、消えた時の状況を教えて貰えますか?」


間島は少し目を閉じ、目を開けて数回瞬きをする。


「あの時、少し意地悪な問題を用意したんです。」


「意地悪?」


「ああ、難易度の高い問題です。

ただ、これが解ければ、センター試験は難なくクリアできるような問題です。

難関大の入試で出た微分積分の応用問題です。」


「ほう。」


間島は視線を左右に動かし、ゆっくりと言葉を選びながら説明する。


「その問題を黒板に書き、最初は別の生徒にやらせて、

解けないのを藤堂にやらせようかと思ったんですが・・・


時間がもったいないと考えて、

そのまま藤堂に解説しながら解くように指示を出しました。」


頭をゆっくりと反対方向へ傾げた。


「・・・それで?」


「藤堂は教壇より後ろ側・・・生徒の机の1列目のちょっと後ろ・・・」


間島は、その位置を見ながら口にする。

岩永は後藤に視線を配る。後藤が、間島のいう位置へと移動して立つ。


「そう、その辺です。

そこで、黒板を見つめてました。


多分、頭の中で問題のパターンを読んでたんでしょう。」


「パターンを読む?」


「ああ・・・そうですね・・・

いきなり黒板に数式を書かず、自分の頭の中で知りえる数式を当てはめるんです。

答えに導けそうな形が見えるまで、何度も繰り返します。」


「ほほう・・・」


「2~3分ほどして藤堂は黒板にチョークで、生徒たちに解説をしながら式を書いていきました。

あの時点で、すでに藤堂は答えにつながることをわかっていたはずです。

答えに導けないと、途中で止まりますからね・・・・・・」


そう言って、間島は少し笑った。

岩永が少し顔を上げて見つめた。


「・・・・・・。」


そして、間島が続ける。


「藤堂が答えを導き出し、私を見ました・・・・・・

私は正解だと伝え・・・生徒たちが小さく歓声を上げました。

藤堂はその歓声に少し照れたのか・・・笑ったんです。

そして、チョークを黒板に置こうとした瞬間・・・・・・」


間島は息をのむ。

その様子に岩永の組んだ指に力が入る。


「・・・・・・消えたんですね?」


間島は口に出さず、頷いて答えた。

後ろで聞いていた如月の額に汗が滲み、ハンカチを取り出して額に数回当てた。


「・・・どんな風に消えたんですか?」


間島はもう一度息をのんで、口を開く。


「・・・あ、あれは・・・・・・消滅です・・・

存在がこの世から消えたんです・・・」


岩永は体を起こし、背もたれにもたれると、椅子が軋む音が鳴る。


キィッ……


「しょう・・・めつ・・・」


その言葉に、岩永は背中に汗を感じた。

今まで刑事をやってきて、初めての感覚だった。


「な、何か・・・・・・その瞬間・・・感じましたか?

もしくは・・・気づいたこととか・・・」


間島は、少し何かを思い出すかのように目を伏せた。


「・・・そうですね・・・風・・・風を少し感じました。」


「風? 藤堂智久からの風ですか?」


「いえ? 逆です・・・藤堂に向かう風です。」


「つまり・・・吸い込まれるような・・・・・・?」


「え、ええ・・・」


「・・・・・・吸い込まれる・・・」


岩永がその現象に頭をひねると、物理教師の如月が手を上げて答える。


「そ、それ、空気の引き込みだと思います。」


岩永は頭を上げて体を少し左側に傾け、間島は座る向きを少し回し、体をひねって後ろの如月を見つめた。


「引き込みって?」


「いえ、今作った言葉なので、そう言っていいのか分からないんですが、物理現象です。

いや、スゴイ! そんなことが・・・現実に起きるなんて・・・」


如月はワクワクしながら、説明せず、自分の今の気持ちを吐き出す。


「おい、如月! ちゃんと説明しろ!」


その言葉にハッとなる。


「あ、す、すいません・・・えっとですね。

通常ありえないんですが、物体が消えるって現象が現実に起こった場合・・・

その空間は真空になります。


つまり、藤堂君の体積分の真空ができるんです。」


「それで?」


「真空が現実空間に出来ると、空気はその真空に向かって流動します。

それが、その風の正体ですね。

先輩が一番近くにいたから感じれたんですよ!


先輩! これ、ものすっごい体験したってことですよ! いや~、すご~い!」


如月は笑いながら、羨ましそうに間島を見る。

間島はあきれて、冷ややかな視線を如月に送る。


岩永が大きなため息をつき、頭を掻く。


キーンコぉーン…カぁ〜〜ンコーン!


そんな時、いつもの壊れた予鈴が鳴った。


「あ、もうこんな時間・・・」


如月が腕時計を見て確認する。

岩永が再び大きくため息をつく。


「ここまでですね・・・教頭先生から頂いている時間は、この予鈴まででしたから。」


そう言って、膝に手をついてゆっくりと立ち上がる。

間島と如月も合わせて立ち上がる。


「朝の忙しい時間を頂き、ありがとうございました。」


そう言って、腰を折った。

間島と如月は急ぐように教室を出ていく。


岩永は廊下をパタパタと響く足音を聞きながら、両手を腰に当てる。


(こんなもの・・・どう上に報告すりゃいいんだ・・・?)


岩永は後藤を見る。


「後藤さん、どうすりゃいいですかね?」


「わからん!」


「誰か何か思いつかないか?」


教室で痕跡を見つけようとしている者達が顔を上げる。


「あるか?」


全員が首を振った。

それを見て岩永は目を瞑り、天を仰いだ。


そして、口加高校に――運命の中間テストが、静かに始まろうとしていた。


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