導かれる先
目覚め始めた朝の静かな城塞都市アクトリアに篠原の声が響く。
戸板の窓を開け、部屋に空気を取り入れている人たちが、城塞都市に響き渡る声を聞いて顔を上げる。空を見上げても、そこには鳥たちが飛んでいるだけだった。
ゲートウォッチの中庭の緊張は続いている。
「なんで、そんな平静なんだ!?」
篠原が感情的に問いかける。
真央はゲートウォッチの周りの住民たちがざわついていることに気づく。
朝練で掻いた汗をタオルで拭きながら、皆を誘導する。
「中で話そう・・・近所迷惑だよ。」
真央が指さし、ドアをくぐる。
7人はぞろぞろとゲートウォッチの中へと移動する。
―――
8人はゲートウォッチの自由スペースへと移動した。
「悪い・・・話し合いの前に水が飲みたい・・・動いたんで、喉乾いてる・・・」
「あ、私も」
真央と朝比奈が調理場へと向かう。
「じゃあ、お茶も用意しよっか。
全員要るよね。」
榊原がそう言って調理場へと向かう。
「あ、手伝うよ。」
彩乃も続いた。
残った4人は丸テーブル2つを使うように座った。
―――
真央は調理場の流しの隣のカメの木製のフタを開け、柄杓を使ってカメの水を2つのコップへ注ぐ。
一つを手に取って、朝比奈へ渡すと、自分のコップを手に取ってゴクゴクと喉へ流し込む。
「プフゥ~~~~ッ! 美味い~~~!」
朝比奈も隣でコップに口をつけた。
棚に置かれたヤカンを手に取り、同じように水を入れて、火にかける。
そんな時、彩乃と榊原がアーチをくぐって調理場へとやって来た。
「何がどうなってんの? 私たちが異常ってどういうことよ?」
彩乃が少し苛立ちながら、気持ちを吐き出した。
「ねえ、真央くん!」
「・・・・・・あいつらの気持ちはわからなくはない。」
「どういう――」
彩乃の発言を真央は手を開いて差し出して止めた。
「気持ちがわかるってことだけだよ。
二人は現実の世界に近いんだ。
ここが現実と違うということを理解していないんだよ。」
「それって?」
真央は彩乃を指さして尋ねる。
「彩乃さんって、ここは異世界? それとも現実の過去?
どっちだと思ってる?」
「え? 私は異世界だわ。」
指を朝比奈に向けて聞く。
「朝比奈さんは?」
「私は・・・ゲームの世界・・・」
指を榊原へ向け首をかしげる。
「榊原さんは?」
榊原は上の方に視線を流し、少し考えて答えた。
「・・・・・・異世界かな・・・魔法や封印って現実とは思えない?」
「真央くんはどっちだと思ってる?」
「オレはゲームに近い異世界。
もしくは、異世界を真似たゲーム世界。」
真央の答えに皆が「えっ?」ってなる。
カタカタカタカタッ…!!
そんな時、やかんのお湯が沸き、蓋が圧力で上下し音がなる。
朝比奈が慌てて火を消すと、すぐに音は止んだ。
彩乃が全員分のコップを棚から出す。
それぞれにお茶の粉をスプーンで入れ、お湯を注いでいく。
「真央くん、さっきの・・・」
「ああ・・・・・・この世界に来て、ずっと考えていたことなんだけど・・・
30年前に発売されたゲームのルールが、この世界と同じっておかしいと思わないかい?
魔法の呪文も同じ・・・教会のルールも同じ・・・
それがオレたちの現実世界で30年前に発売されたという事実。
この世界の誰かが、オレたちの世界でゲームを作らない限り・・・
こんなことってありえないよね?」
「卵が先か、鶏が先かってヤツに近い考えだね。」
朝比奈が言った。
真央が頷きながら、説明する。
「そう・・・
じゃないと、オレたちの世界と、この世界がつながる理由が説明できないんだ・・・」
「なんか鳥肌たった。
ていうか、めっちゃ面白くなってきた。
その辺の小説より面白いよ!」
榊原が体を抱いて、そう言った。
「この世界は謎だらけ、でも世界はつながっているのね。」
彩乃が言うと、真央が頷く。
「オレの考えはみんな理解したようだから、向こうに戻ろうか。」
真央は自分のコップを手に取り、もう一つコップを持った。
彩乃たちも同じように自分のコップともう一つ持って、自由スペースへのアーチをくぐった。
―――
自由スペースへ戻ると、四人が椅子に座って待っていた。
4人にお茶を渡していく。
「真央、オマエわかってて、オレに教えてなかったのか?」
まず、タツヤが口を開いた。
「お茶でも飲んで落ち着けよ。」
真央がそう言うと、タツヤがお茶を手に取りすすった。
「まず、何が聞きたいんだ? タツヤと篠原の二人だけで良いのか?
門畑はどうなんだ?」
「僕は別に・・・何もないよ・・・痩せてうれしいし・・・」
門畑は手を椅子に置き、体をモジモジさせて言う。
「良平! オマエ、そんな理由で・・・」
タツヤが門畑をテーブルに乗り出して睨んだ。
「おい、タツヤ。 お前の考えを他人に押し付けるなよ。」
真央がそう言うと、タツヤは乗り出した体を戻す。
「・・・・・・。」
「で、篠原は何が聞きたいんだ? オレたちが異常だと言ってたが。」
真央がそう言うと、篠原の口がゆっくりと開く。
「・・・なんで・・・なんで、疑問に思わないんだ!?
たった2週間でこんなに変わった榊原。 そして、変わっていく門畑。
すべてが異常だ。
なんで、平然としている。」
篠原は立ち上がって、タツヤ以外を指さしていく。
「直ちゃ~ん、落ち着いてよ~」
「イチゴ、オマエもおかしいって言ってんだぞ!」
「そう言われてもな~」
イチゴは頭を掻く。
篠原の興奮状態を見て、逆にタツヤが冷静になった。
「篠原、ちょっと落ち着こう・・・
真央、この世界の人とオレたちは違うってのはどういう意味なんだ?」
「具体的には分からないが、それでも良いか?」
タツヤがコクリと頷く。
篠原を見ると、篠原は腕を組んでいらいらしているのが分かった。
「オマエたちは、さっき外でオレたちが異物だって言ってたよな。」
「篠原君がそんなこと言ってたね。」
門畑が答えた。
それに篠原が答える。
「ああ、言ったよ。」
「それは正解だ。 オレたちはこの世界にとって間違いなく異物だ。」
「!!」
テーブルに座る全員に衝撃が走る。
ガタガタン!
篠原は勢いよく立ち上がる。
その勢いで椅子が音を立てた。
「真央くん、さっきの話ではそんなこと言ってなかったよね?」
彩乃が真央に尋ねた。
「ああ、順を追って話すよ。」
真央は全員の顔を見る。
タツヤは平静だが、篠原は今にも爆発しそうだ。
「異物と言ったのは、オレたちがこの世界の人間ではないという意味だよ。」
この言葉に、篠原とタツヤ以外はホッとする表情を浮かべた。
真央は続ける。
「タツヤ・・・・・・
オマエ・・・この世界が、自分の世界と一緒だと思ってないか?」
「え? どういう・・・」
タツヤはすぐに否定できなかった。
真央は続けて問う。
「タツヤ、オマエが実家で厳しい修行しているのはオレも知ってる。
だからって、魔法が使えたか?」
「なにバカなことを言ってんだ、魔法なんて使えるわけ・・・ない・・・だろ・・・」
タツヤは口を手でふさいだ。
実際に使っていた事実が、タツヤは改めてこの世界を認識できた。
黙って聞いている篠原の体がカタカタと小さく震えはじめた。
「そう言うことだよ。
タツヤ、オマエはこの世界のことをおかしいとは思っても、
どこかで自分の世界と同じように考えていたんだ。
この世界はオレたちの世界とは違う世界。
だから、魔法が使えるし、異常なことが起きる。
タツヤ、オマエの体はレベルアップで何回作り変えられた?」
「いや、だからって・・・何もしていない榊原さんや良平が・・・変化するのか?」
そのタツヤの問いに、真央は篠原に尋ねる。
「篠原、城に過去の来訪者はいたか?」
真央の問いに篠原がビクリと体を震わせた。
それをタツヤが不審に思う、先ほどまであれだけ興奮していた篠原がうつむき黙っていた。
「・・・しのはら?」
「・・・数年前に行方不明と・・・・・・」
篠原の答えに、全員がピクリと反応した。
「え? 城で働いている・・・ウッディコさんはそう言ったよね。」
彩乃が真央に尋ねる。
真央は小さく頷き、ため息を一つついた。
「・・・やはりか・・・」
そう言って、真央は頭を掻いた。
そして、目線を手元のコップに落とし、言葉を探した。
「行方不明ってどういうこと? この世界って外には出られないんだよね?」
榊原が全員に尋ねた。
全員が目線を外すようにうつむく。
「行けるところが一つある。」
真央がそう答えると、全員が顔を上げ、真央を見つめた。
真央は指で下を指して、テーブルを叩く。
トン、トン、トン…
沈黙が落ちた自由スペースに、その音が不穏に響く。
「ち・・・・・・ち、ちか・・・めいきゅう・・・?」
榊原が震えながら答える。
他は黙っている。
全員が気づいていた。
真央が口を開く。
「ウッディコさんが言ってた、『なぜか来訪者は迷宮に引き寄せられる』と・・・
迷宮に挑戦しないという選択肢を選んでも、何かが原因で迷宮へ導かれるのかもしれない。」
「じゃ、じゃあ・・・・・・僕も迷宮に行く・・・そう言うことか?」
篠原は震えながら尋ねる。
「それは、わからない・・・これは、全部オレの予測だから・・・」
真央がコップを持ち、お茶を一口飲んで、テーブルに置く。
トン!
テーブルに置く音が響く。
誰も、うつむいたまま口を開かなかった。
篠原の座る椅子だけが自由スペースに響く。
カタカタカタカタ……




