異物
―――アクトリア・ゲートウォッチ
門畑良平がやってきて、一週間が経っていた。
一週間の間に朝比奈のレベルは3つ上がり、Lv.5になっていた。
他のメンバーもレベルが上がり、盗賊のイチゴがLv.9、彩乃が1つ上がってLv.7、タツヤがLv.7、真央がLv.6と、順調にパーティは強くなっていた。
朝練をやるようになって、雨の日以外は中庭がにぎやかになった。
剣を合わせる音や、飛び散る汗が変化を与えるのかは分からないが、迷宮には行かないと言っていた三人の意識にも少しずつ変化が表れていた。
―――
今朝も全員が集まっていた。
剣の打ち合いをやりながら、真央は独自の剣術の考え方を朝比奈に伝え、朝比奈は今まで習った技術を真央に教えている。
「ほんと、立花君の体の動かし方って面白い。
なんだろ・・・動きの流れが良いのかな?」
「う~ん、次の動作への動きが止まらないようには考えてはいるけど・・・
でも、朝比奈さんの剣術の知識と実践の技術もすごく参考になるよ。」
そう言って、真央は剣をゆっくりと教えて貰った剣術をトレースする。
その二人を、面白くなさそうに膝で頬杖をつきながら見ている彩乃。
中庭の脇に休憩場所として作られている石製の長椅子に座り、ブスッとしている。
頭では分かっているが、どうしても割り切れていなかった。
そこにイチゴがやってくる。
「そんな顔してると、真央に気づかれちゃうよ~」
彩乃がビックリして、背を伸ばす。
「え? 私どんな顔してた?」
イチゴが彩乃の顔を真似して、眉を顰め、口をとがらせる。
「ウソ! 絶対、そんな顔なんてしてないわ。」
「ははは、でも~、近い顔にはなってたよ~」
イチゴが彩乃の隣に座る。
「真央は~、朝比奈さんのこと、なんとも思ってないと思うけど~
それでも気になる?」
彩乃は再び頬杖をつく。
「ひと言、言ってくれるだけで良いんだけどさ・・・あのヘタレ・・・」
イチゴが苦笑する。
「ははは・・・」
そこに篠原がやってくる。
「おはよ。」
二人が篠原を見る。
「あ、眼鏡!」
「できたんだ~」
篠原が眼鏡をはずして、眼鏡の構造を見せる。
「微小なネジとナットが作れないから、固定式だけどね。
完全に僕専用眼鏡だよ。」
「へえ~、これで迷宮行けるね~。」
眼鏡をはめる途中に、慌ててイチゴに両手を広げて向けながら、手首を左右に回す。
「いやいやいやいや・・・眼鏡と迷宮は関係ないだろ?
うんちの僕に無理は言うなよ・・・」
そう言って、完全にはまっていなかった眼鏡の鼻の部分を押して整える。
「そう言えば、篠原くん、城主と会ったって聞いたけど?」
彩乃が頬杖をついたまま、左にいる篠原を見上げながら尋ねる。
篠原は、不満そうな彩乃に、困惑した顔になる。
「・・・・・・あ、ああ・・・この間会ってきたけど・・・
ね、ねえ・・・柏木さん、なんか怒ってる?」
「えっ!?」
篠原の問いに彩乃の背が伸びた。
それを見てイチゴがケラケラと笑う。
「ほらね、だから言ったじゃ~ん」
彩乃は両手で顔を押さえ、自分の足に顔を埋めた。
「う~~~~っ・・・・・・」
耳まで真っ赤になっている。
篠原がそれを見て、彩乃を指さしながらイチゴに尋ねる。
「なにかあったのか?」
「あ~・・・気にしない、気にしない~
青春してるだけだから~」
そう言ってイチゴが笑うと、彩乃は体を起こし、イチゴを両手で叩く。
イチゴは笑いながら、両手を顔の前にクロスさせてガードしている。
「?」
篠原は二人のやり取りの意味がわからず、ぽかんと見ていた。
「で~、城主様とどんな話をしてきたの~?」
イチゴがガードしながら聞いた。
「え? ああ、うん・・・やっぱり僕らの技術とか知識を・・・
知識がメインかな・・・かなり欲しがっている。
特に農業と畜産の知識。」
篠原の言葉に彩乃がピタリと停止し、篠原を振り返って見た。
「農業と畜産なの? 武器とか工学じゃなくて?」
「僕も驚いたんだけど、単純に現実的な話だったよ。
少ない農地での生産量の増加。 畜産も同じような理由。
あ、医療の知識は欲しがってる。
武器は迷宮から手に入るから要らないみたいだね。」
「うわ、それは・・・リアリティあるわね・・・」
「工学は電気が前提だからね・・・この世界は電気がまだないし・・・」
「そうか・・・技術レベルが中世なんだもんね・・・
封印された城塞都市じゃ、川もないし水車なんて作れないか・・・」
「風車なら作れそうだから、提案はしておいたよ。」
「そう言えば、前に真央くんが熱気球作ったら、『封印の壁を超えられるんじゃないか?』って話してたことがあったわ。」
彩乃の言葉に篠原が飛びつく。
両手の親指と人差し指を立てて、手を前後に小さく振る。
「そ、それ! めちゃくちゃ面白い!
熱気球は18世紀の技術だ・・・ここで神になれるんじゃないかな?」
「直ちゃんは~、神になりたいの~?」
イチゴは背中を反って、彩乃の後ろから視線を送りながら聞いた。
篠原はイチゴの問いに一瞬固まる。
そして、額のあたりに片手を当て、空を見る。
空に朝日を浴びた雲が浮かび、鳥たちが飛び交っている。
篠原は手を額から離し、イチゴと彩乃を見る。
「神になりたいわけじゃない・・・
けど、それを見た人がどういう反応をするのか見てみたい。
それと、この世界を確認してみたい。」
再び空を見上げた。
「眼鏡の次にやること決まった感じ?」
彩乃が笑いながら尋ねた。
「そうだね・・・個人的にやってみるよ。
城主の望む、農業改革をやりながらって感じかな。」
「直ちゃんは~農家の息子だもんね~」
イチゴの言葉に彩乃が驚く。
「え? そうだったんだ!」
そして、篠原を見る。
篠原は照れくさそうに答えた。
「ま、まあ・・・やりがいはありそうだよ。」
―――
タツヤはメイスの練習をしていた朝練を終え、
中庭に出る扉の段差に座っている門畑に話しかける。
「榊原が言った時はウソっぽかったけど、
良平・・・オマエ、一週間でずいぶん痩せてないか?」
「う、うん・・・僕も最初は気のせいかと思ったけど・・・確かに痩せたよ。」
門畑はそう言って立ち上がると、腹の脂肪を両手でつかんだ。
「前は月刊誌だったけど、今は週刊誌ぐらいだな・・・」
「だね。」
門畑は笑いながら答えた。
「運動してこんなに痩せたことなかったけど、不思議だよね~」
「榊原がやせたって事実と、良平がやせたという事実・・・
やっぱりこの世界、なんかあるのか?」
「呼んだ?」
ドアが開いて、痩せた榊原が顔を出す。
「なんか聞こえたけど?」
「いや、呼んではいない・・・てか、オマエまた痩せた?」
榊原は嬉しそうな顔をする。
「わかる? あれからまた落ちたのよ。
この世界に来たときは、人生終わったとしか思わなかったけど、
痩せて、ニキビも消えて・・・
私、生まれ変わった感じよ!
ここに来て自信がついちゃったわ~~!」
そう言って、榊原はクルクルと回った。
「オマエの言った通り、良平も痩せたぞ。」
タツヤの言葉に、回るのをやめると、
右手の親指と人差し指を顎にそえ、腰を折るようにして、目を細めながら門畑を見る。
「そう? あんまり変わらない気がするけど・・・」
首だけを動かしてタツヤを見る。
「それは、毎日見てるからだろ。」
三人の話の輪に、イチゴたちがやってきた。
「どしたの~~~?」
「この世界、やっぱおかしくないか?
生活しているだけで、体形変わるっておかしいだろ!?」
タツヤは、集まってきた三人に両手を広げて訴える。
「確かに・・・人間は、普通一週間で落とせる限界がある。
どう見ても門畑君は、10キロ以上落ちているな・・・」
篠原は、門畑を頭から足までチェックしながら言った。
「篠原君、私は~?」
榊原のセリフに篠原が見てギョッとする。
「ちょ、ちょ、ちょっと腕めくってみてよ。」
榊原がニヤニヤとしながら、袖をめくる。
こっちに来た当初、パイプのようだった腕は、
筋肉の上に綺麗に脂肪がのり、形の整った細い腕になっていた。
「なんだこれ・・・おかしいだろ!?」
篠原の額から汗が溢れた。
「やっぱり、そう思うよな・・・」
タツヤがボソリという。
「ああ、絶対おかしい・・・」
イチゴが二人の会話に、あることを思い出す。
「そういえば~、ガルシアさんが言ってたね~」
彩乃も思い出した。
「アクトリアのヒューマンと、来訪者のヒューマンは、『能力の作りが違う』だっけ!?」
「そうそう~、だからオレが盗賊やっていいって言われたんだよね~」
タツヤが頭を押さえる。
「なんだよ、それ・・・・・・」
篠原はショックを受け、後ろに数歩下がって門畑にぶつかった。
門畑が篠原の肩を両手で支える。
「篠原君、大丈夫かい?」
「なんで君たち、それを聞いて普通にしてるんだよ!?
なんでもかんでも受け入れるって・・・」
「それが痩せた理由ってこと?」
榊原が人差し指を顎にのせて、首を傾げた。
「多分、そういうことだよ!
この世界では、僕らは異物なんだ!!」
篠原の叫びに近い声に気づき、真央と朝比奈がやってくる。
「どうかしたの? 彩乃さん。」
「ほら、前にエルミダさんの店でガルシアさんが言った『この世界のヒューマンと来訪者が違う。』ってやつ・・・タツヤくんと篠原くんが異常に反応して・・・」
「ちがう! 異常なのは君たちだ!!」
篠原は、そう言って真央たちを睨みつけた。




