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アクチュアリー ―封印都市アクトリア―  作者: ブラックななこ


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魔王とセミナリヨ

―――南島原警察署内


笹田は、自分の机に集めた資料を軽くトントンと整え、書類の角を合わせている。


「ふ~、今日はここまでかな・・・」


失踪事件は県警が受け持つこととなり、南島原警察署で働く者は所轄内の他の事件をこなすことになった。

署内は失踪事件が発生する前の状態に近くなり、基本的には定時で上がれるようになっていた。


「田中さん、久しぶりにコレどうです?」


笹田が対面の席の田中に、書類の上からのぞくようにして、グラスを持つ仕草をしながら口に数回近づけて言った。


「・・・たまにはそうだな。」


田中はカバンに書類を入れ、ネクタイを少し緩めると席を立つ。


「お先ぃ~」

「お先に失礼します。」


刑事課の部屋から、夜勤組の署員が挨拶を返す。


「おつかれ~」「お疲れさまでしたぁ。」


田中と笹田は、冷たく暗い階段を下りる。

一階へと降りると、同じ時間帯で帰る署員が署の入口付近で詰まっていた。


原因は、メディアの連中だった。

出てくる署員の顔を確認し、取材対象かどうかを判別しているのだ。


「田中さん。」


担当を外れてから、声をかけられたのは久しぶりだった。

田中と笹田が声の方を見る。


「伊藤か・・・」


長崎新聞社の伊藤記者だった。

今集まっているメディアは全国規模なので、記者やカメラマンのほとんどが初対面だったが、伊藤は島原半島を担当している記者の一人のため、顔見知りだった。


「言っとくが、何もないぞ。」


「ははは、いきなりっすね。

でも、田中さん、担当外れてからも一人で調べてるんじゃないんですか?」


「さあな。」


「またまたぁ~、なんか教えてくださいよ~

田中さんと僕の仲じゃないですか~」


「そんな仲だったか? 県警の連中に絡めよ。」


「え~、ひどいっす、もう10年以上の付き合いじゃないっすか~

県警の連中は、何にも見つけられてないんで、

田中さんに聞いてるんですよぉ~」


「オレだって何も見つけてねえよ。」


「またまたぁ~」


警察署の門を抜け、左の横断歩道を渡り、さらに県道389号の横断歩道を渡る。

田中は一緒に歩いてくる伊藤を睨んだ。


「おい、どこまでついてくる気だ?」


「え? 波美音ですよね?」


「おい!」

田中は伊藤に詰め寄るが、笹田がその間に入る。


「まあまあ、たまには良いじゃないですか。

もしかしたら、我々の知らない情報持ってるかもですよ。」


田中が笹田の体の横から顔を出して尋ねる。


「・・・・・・持ってるのか?」


「ここで言うと、ここで聞かれちゃうでしょ?」


伊藤は言葉を濁し、波美音へ同行しようとした。


笹田が波美音の二重になった引き戸を開けて中へ入る。

二つ目の引き戸を開けると、鈴が鳴った。


カラ~ン!カラ~ン!


波美音に入ると、目の前に木製の船が置かれていた。

客が多かったころは、その船の中に海水を入れ、いけす代わりに使われていたが、今では海水すら入っていない。


店内は入口から奥まで十メートルはあった。

床は大きめのタイルで敷き詰められ、左側にはカウンターが奥まで続き、木製の椅子が十五脚ほど並べられている。


右側には大人数に対応する座敷があった。

普段は少人数に対応できるよう、襖で五つほどに仕切られている。


鈴の音が鳴ると、カウンターの一番奥から四つ目あたりに座ってテレビを見ていた女性が、立ち上がってこちらを確認する。


「田中さん、笹田さん、久しぶり~~。 今日は三人?

あ、あれ? 伊藤さん。 珍しか組み合わせね。」


「益美ちゃ~ん、今日も来たば~い!」


伊藤は手を振る。


「伊藤さん、いつもありがとね~。」


益美は腰から上を横に傾けてそう言った。

田中と笹田が呆れた顔になり、田中が尋ねる。


「益美ちゃん、もしかしてコイツ、毎日来とったりする?」


「ウチが休みの月曜以外は、五月の半ばから毎日来よらすよ。」


「伊藤さん、仕事してるんですか?」


笹田が呆れて尋ねる。

伊藤は笹田に向かって背を伸ばし、敬礼をして答える。


「はい! 部下の林田が、きっちり県警に張り付いてます!」


「それは、他人任せって言うんですよ。」


笹田は笑いながらそう言った。

その後、田中が益美に希望を伝える。


「益美ちゃん、座敷でよかかな?」


「一番奥の場所よね。よかよ。」


三人は店の一番奥の座敷へ靴を脱いで上がる。

益美はおしぼりを3つテーブルへ置き、メモを構えた。


「とりあえず、生貰うか?」

「ですね。」

「じゃあ、生ビール3つ。 それと、枝豆。」


益美はメモに注文を記すと、座敷から出て引き戸を閉めた。


益美が出たのを確認して、3人は話を始める。

まず、伊藤がポケットから、メモ帳を出した。


メモ帳には、消えた順に名前が書かれており、その名前から線がひかれ、「友人」「同クラス」「親友」「幼馴染」などと、線の横にメモ書きされてあった。


「今回消えた“門畑良平”なんですけどね・・・意外な接点がありましたよ。」


田中と笹田が身を乗り出し、テーブルに片肘をついた。


「意外な接点とは?」


笹田が外の気配に気づき、手をテーブルの上に広げて二人を制する。

二人の体が定位置に戻り、伊藤はメモ帳を閉じて、自分の座っている座布団の横に置いた。


引き戸が開き、益美がビールのジョッキと山盛りの枝豆の皿をお盆に乗せ入ってきた。

ビールと枝豆を置くと、テーブルの襖に近い位置に正座して、メモを構える。


「何食べる? 刺身は、まぐろ、カンパチ、鯛、イカ・・・あ、あとコノシロがオススメ。」


「じゃあ、刺身盛り合わせと・・・豆腐サラダ。」

笹田がメニューを見ながら注文していく。


「今日は煮魚、何ができる?」

田中が尋ねた。


益美は体をひねって、襖から頭を出し、大声で厨房に聞く。


「煮魚、なんがでくっと!?」


「アラカブ、カワハギ、アコウ。」


厨房から男の声が返ってきた。

益美は体を戻し、田中を見る。


「じゃあ、アコウで。 ちょい甘めで。」


「あと、皆でつつける、すき焼き。」


伊藤がそう言った。


「じゃあ、三人前でよかね? ご飯いるよね?」


「もちろん。」


益美はメモを取ると、座敷から出ていった。

伊藤はそれを見て、メモを再びテーブルに開く。


「門畑はオンラインゲームが好きで、最近は減っとったようですが、

昔は毎日のように参加してたみたいっすね~。」


田中と笹田はビールを飲みながら、視線をメモに落とす。


「ほう・・・それが?」


「“魔王”って知ってます?」


伊藤が二人に尋ねた。

そして、一口ビールを飲む。


「魔王? 悪魔の大将とかか?」

「ゲームの最終ボスによくいますよね。

オンラインゲームの最終ボスってことですか?」


田中と笹田は、伊藤の問いに戸惑いつつ答える。


伊藤はニヤリとした。


「流石に、この情報は警察も持ってないようっすね~。」


「なんだ? 勿体ぶらず言えよ。」


「“魔王”ってのは、立花真央がゲームする時のハンドルネームです。」


「はんどる?」


田中はビールを飲む手が止まった。


「田中さん、ハンドルネームっていうのは、ネットの世界で身分を隠す為の通り名です。」


「・・・もっと詳しく教えろ。」


「ネットでは身バレって怖いじゃないですか。 住所特定や、誹謗中傷。

この辺では起きてませんが、全国では何件も殺人事件につながってたりしてますよね?」


「ああ、あれのことか・・・」


田中はネットで発生する事件は知っていたので、ハンドルネームの意味がよく分かった。

その上で伊藤に尋ねた。


「で、立花真央がネットで使う名前が“魔王”ってのが、なんだってんだ?」


「門畑良平は“セミナリヨ”って名前を使ってるんですが、“魔王”とフレンド登録して、パーティを頻繁に組んでたんですよ。」


「蝉なりよ? 蝉です。って意味か?

アニメの~・・・コロ助が言いそうなセリフだな。」


田中の意外な言葉に二人が笑う。


「いまどきコロ助って・・・」


笹田が笑って眼鏡をとり、目じりを拭いた。

伊藤も大声で笑っている。


「そんなおかしいか? オレがコロ助を知ってるのが・・・

娘が子供の頃よく見てたんだよ。 一緒に見てたから知ってるだけだ。」


そう言って、頬杖をつき、ビールを飲む。

伊藤がまだ笑いながら口を開いた。


「ははは・・・

門畑が使っていた“セミナリヨ”は、彼の住んでいた町にあったキリスト教の学校名ですよ。 このハンドルは小学校から使ってたようなので、学校で習って興味があったのか・・・

それとも、語呂が気に入ったのかは本人しかわかりませんが・・・」


「・・・で、ゲーム内で一緒に遊んでたことが、事件と関係あんのか?」


田中は伊藤に手に持つビールを前に出して尋ねる。


「さあ? それは田中さんたちの仕事っしょ?」


そんな時、引き戸が開いて、益美が入ってくる。


「おまたせ~、刺身盛り合わせと枝豆と豆腐サラダ。」


益美はドカドカとテーブルに置いていく。

店内はザワザワと騒がしくなっている。

次第に客が増えているようだった。


ピンポ~ン~♪


店内に呼び鈴の電子音が鳴った。

慌てて、益美が田中たちの座敷から出ていく。


「忙しそうですね。」


笹田がつぶやく。


「口之津や加津佐を中心に、外から来ている人が増えちゃってますから・・・

最近、いつもこんな感じっすよ。」


毎日来ているという伊藤が、刺身を口に運びながら答えた。


「忙しいことは良いことだ・・・

ただでさえ、町の人口が減って、売り上げが落ちていたからな。」


田中は枝豆を指先で弾き、豆を口へと飛ばす。

そして、続ける。


「で、その“魔王くん”と“セミナリヨくん”、仲が良いのか?」


伊藤が“おっ!”という顔をする。


「さすが田中さん、いい所を突いてきますね。

多分・・・いや、絶対、二人はお互いの正体に気づいてませんよ。」


伊藤は手に持っている箸で、何度も突つくように手首を振った。


「まさに、ネット世代あるあるですね。」


笹田が豆腐サラダを取り分けながらつぶやく。


「なんで気づいてないってわかるんだ?」


伊藤はビールを口に運び、


「ぷは! そりゃ、気づいてたら二人は交流するでしょ。」


「交流ゼロってことか・・・確認したのか?」


「ええ、興味があったんで。」


「思いもよらないところに接点ってあるもんですね。」


取り分けたサラダを二人に渡しながら言う。


「しかし、魔王が人間を消してるってんなら、この事件楽なんだけどな。」


マグロの刺身を箸でつかみ、目の前でプラプラとさせる。

笹田がビールを飲み干す。


「確かに・・・この異常現象が簡単に説明できますね。」


「でも、その“魔王”も消えてますけどね~。」


伊藤がそう言うと、全員で笑った。

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