兆し
5人はメインストリートを下り、ゲートウォッチへ帰っていく。
彩乃は、すでに頭を切り替え、門番亭で何を食べるか考えている。
「アクトリア・・・魚が食えないのがつらいわよね。
南島原なら、美味い地魚が食べることができるのになあ・・・・・・」
アクトリアは小高い丘に建つ城塞都市。
食事に魚介類が全く存在していなかった。
「そ、そうだねえ~」
イチゴは肉派だったので、魚が無いことが特に苦痛ではなかった。
ゲートウォッチの扉を開けて中へ入ろうとすると、ゲートウォッチ内が騒がしかった。
その雰囲気に彩乃とイチゴは気になり、首を振って確認する。
丸テーブルが並んだ自由スペースに、篠原たちがいた。
彩乃とイチゴが気づいて、そちらを見る。
「あれ・・・だれだっけ・・・?
見たことあるような・・・同級生だよね?」
彩乃が見なれぬ男に気づいて指を指しながらつぶやく。
それをイチゴが確認すると、確かに見たことがある男で制服を着ていた。
立った篠原と榊原に挟まれて、大きな体の男が座っていた。
その男はガックリとうなだれて、膝に肘を置いて体を丸めている。
篠原は、その男の肩に手を置き、何かを話している。
後ろから、真央、タツヤ、朝比奈がゲートウォッチの扉をくぐろうと、2段ほどある石段を上がってくる。
立ち止まっているイチゴたちに、タツヤが声をかける。
「狭い入り口に立ち止るなよ。」
イチゴは振り返り説明する。
「いや~、篠原たちの中に、見たことあるやつがいて~・・・タツヤ知ってる~?」
その言葉にタツヤが、自由スペースを見て“ハッ”とする。
「りょ、良平か!?」
タツヤの声に男がこちらに顔を向ける。
「タツヤ・・・?」
門畑はすぐにタツヤに気づいた。
「ちょ、イチゴ、わりい・・・」
タツヤがイチゴを押しのけて、篠原たちの方へ駆け寄っていく。
「あ~~、そうだ。 タツヤと同じクラスの門畑良平だ!」
イチゴが思い出して手を叩いた。
真央と朝比奈が立ち止っている二人の隙間から顔を入れて覗き込む。
「あ、良平くんだ。
彼も送り込まれたんだ・・・」
朝比奈はすぐに気づき、イチゴにぶつからないようにゲートウォッチ内に入ると、
自由スペースの方へ駆け足で向かう。
真央はこぶしを強く握る。
新たな来訪者に自分の罪が問われているような気がした。
彩乃がその真央を横目で見て、手を握った。
真央は軽く握り返す。
「彩乃さん・・・ありがとう・・・」
イチゴは、二人を見て自由スペースへと向かった。
「もう・・・また門番亭のごはん遅れちゃうね。」
彩乃が苦笑しながらぼやく。
真央はその彩乃を一度見て。
「・・・数も足りてるし、
もう、あいつらに任せちゃおうか。」
彩乃が真央を見る。
「え、それって、二人でってこと?」
真央は顔を真っ赤にしてコクンと頷く。
「オッケー、オッケー! それは実にいいことだよ!」
彩乃は笑いながら、真央の手を逆の手に持ちかえると、外へと引っ張っていく。
「わわっ・・・ちょ、彩乃さん。」
両開きのドアがパタンと閉まる。
イチゴはそのドアを見て手を振る。
後ろでは門畑を囲んで、色々説明している。
「一体、いつ来たんだ?」タツヤが尋ねる。
「君たちが迷宮に行ってる間、昼前だったかな・・・」
篠原が続けて説明する。
「ウッディコさんが、僕の仕事場に門畑君を連れてきたんだ。
話を聞くと、図書室で受験勉強してた時に、ここに送られたらしい。
君たちが帰ってくるまでに、この世界のことは説明しておいたよ。」
「はあ~・・・僕・・・これからどうすれば・・・」
門畑は、真っ青な顔してつぶやく。
「生きていくには、このアクトリアで仕事をするか、迷宮に潜るかだ。
だけど、元の世界に戻るには、迷宮に潜ってみるしかない。」
タツヤが説明する。
「迷宮って・・・いったい・・・」
門畑は首を振って、あり得ないという顔をする。
「この世界は封印された場所・・・
その封印された時に、発生した迷宮・・・
真央が言うには、元の世界に戻る方法は
迷宮に可能性があるんじゃないかって話だ。」
その隣では、朝比奈と榊原が二人で話をしている。
「由宇・・・ほんとに迷宮に行ってきたの?
行くとは言ってたけど、本当に行くなんて・・・」
榊原が顔を押さえて呆れている。
鞘に収められたショートソードを顔の正面に横に掲げる。
鞘から少し抜いて刃を榊原に見せる。
ジャーッ……
鞘と刃がこすれる音が響き、刃がきらりと光る。
朝比奈はそれをジッと見つめながら話す。
「分かってもらえないかもしれないけど・・・
部活引退したあとに燻ぶってた気持ちが、開放された気がする。
続けるなら、大学に行くまで我慢しなきゃならない・・・
それは理解してたんだけど・・・12歳から続けてきた大好きな武道を・・・
受験という言葉で、簡単に割り切れるものじゃなかった。」
榊原は両手を腰にあて、剣を掲げる朝比奈に呆れている。
「あなたは文武両道だから、しょうがないのかもね。
私には無理だもの。 部活やりながら成績の上位維持なんて・・・」
朝比奈は剣を鞘に収める。
「それより・・・部活と違って、本当にケガするんでしょ?」
「ケガというより、死に直結してるかな。」
朝比奈の言葉に榊原が呆れる。
「死って・・・バカじゃないの?!
ホントに分かってるの?」
「わかってるよ。
今日だって、イチゴくん死にそうになってた・・・」
榊原が驚いて、口を開けてイチゴを見る。
イチゴは話が聞こえていたのか、頭を掻いている。
「あんた達おかしいよ・・・」
タツヤはその言葉を聞いて、自分もすでにそっち側になってることに気づく。
(・・・いつからだ? 迷宮に行くことが、当たり前のように思い始めたのは・・・)
タツヤは何か嫌な予感がした。
「僕は・・・こんな体だ・・・
迷宮なんて行ったら、すぐ殺されるよ・・・」
門畑は自分の腹の肉をつかんで、見つめながら言った。
「じゃあ~、痩せれば大丈夫じゃないかな~」
イチゴの言葉に門畑が顔を上げる。
「だってさ~、ここで受験勉強必要ないし~
運動する時間とか~、取れると思うよ~」
「確かに・・・」
篠原がつぶやくように言う。
そして、門畑の肩を軽く叩く。
「ここで、食って机に向かうって仕事はないし、
働かなきゃ飯も大量に食えない。
生活しているだけでも、痩せられると思う。」
「篠原君・・・それは全然うれしくない。」
門畑が苦笑する。
「そう言えば私、一週間経ってないけど、結構軽くなった気がする。」
ぽっちゃり系の榊原がそう告白する。
体をひねって、足や二の腕を確認する。
「そういや、確かに少しシュッとしてきた気がする。」と篠原。
「少しじゃない。
ここにきて・・・最初に買った服・・・ブカブカになってるんだよ。」
今着てるズボンの太もも部分を引っ張る。
「それは少しじゃないね~・・・」
「たった一週間だよ! 何もしてない・・・
ただ、毎日この城塞都市を観光してただけ・・・」
榊原は両手を広げて、皆に尋ねる。
「コレっておかしくない?」
「迷宮に向かわせる為に、世界が体を変えている・・・」
篠原の言葉に全員が目を見開いて篠原を見た。
みんなの反応に篠原が驚き弁明する。
「い、いや・・・冗談だって、そんなことあるわけ・・・が・・・?」
「こわ、こわっ! この世界こわっ!」
榊原が両手で肩を抱く。
目を流し、視線が自然と交差する。
何かを確認するように。
グゥウ~~~ッ……
門畑の腹の虫がなり、全員が門畑を見つめる。
「あ、ご、ごめんね・・・」
一瞬の間が開く。
「ブッ! オマエ、ここに来たばっかのくせして、通常営業しすぎだよ。」
タツヤが笑い飛ばす。
「門畑君の一週間後を早く見てみたいわね。」と朝比奈。
「あ、それ、気になるわ~」
朝比奈を指さして、榊原が笑う。
篠原が首を振って探す。
「なあ、立花と柏木さんは?」
「門番亭に行ったよ~」
イチゴの言葉に、門畑以外が「えっ!」となる。
「ずっる~い!
二人で黙っていくなんて!」
頬を膨らませて榊原が文句を言った。
「私たちも早く行こう!」と朝比奈
榊原と朝比奈がスタスタとドアへと歩いていく。
篠原とイチゴもその後をついていく。
「門番亭って?」
門畑が席に座ったまま、タツヤに尋ねる。
「食堂だよ。絶品料理が多いんだ。」
「絶品料理・・・」
門畑が喉を鳴らす。
立ち上がってタツヤを見る。
「いくぞ。」
タツヤと門畑が走って皆を追いかけた。




