連携
全員が肩で息をしていた。それほどの危うい戦いだった。
「はあ・・・はあ・・・た、タツヤ・・・回復を頼む・・・」
真央は、膝に手をついて息を整えているタツヤに声をかけた。
タツヤが顔をあげる。
「・・・か、回復がいるやつ・・・手を・・・上げてくれ~」
体育座りしていたイチゴが、頭を膝に置いたまま手を上げる。
朝比奈が戦闘中に受けたかすり傷を見ながら、手を上げた。
「二人ね・・・真央は良いのか?」
タツヤは、血がしたたる真央の左手を見て言う。
「ん?」
真央は、自分の手の傷に気づいていなかった。
タツヤの目線で手を見て初めて気づく。
「あれ? いつの間にこんな傷を・・・」
タツヤは3人分のジオスを発動させ、傷を癒した。
朝比奈は初めて受けた回復魔法に目を見張った。
傷の皮膚がみるみる再生していく。
「おおおっ・・・もう何でもありだね。」
彩乃が真央の真横に来てうつむき。
「ごめん。」
真央が彩乃の方を向く。
「オレも叩いてごめん。 痛くなかった?」
彩乃は首を振る。
「真央、さっきの敵、何だったんだ?」
タツヤが尋ねた。
「多分、ローグだと思う。
霧散したってことは、迷宮のモンスターとして生まれたやつなんだろうな・・・」
「ローグって、人間なのか?」
「ローグはそもそも盗賊と同じようなキャラクターだよ。
アクトではないけど、ゲームによっては、職業として存在もする。
でも、落ち武者や夜盗って設定もあって、さっきみたいに敵として登場もする。」
「迷宮の探索者と敵との見分けが難しいな・・・」
「敵意があるかないかで判断するしかないなー。
朝比奈さんがパーティに入ったことで、
属性の“悪”でも、何も影響を与えないことが分かったし・・・」
「え? 私の属性の“悪”って、そんな設定なの?」
「アクトの世界では、“善”と“悪”は同じパーティ組めないって設定なんだよね・・・
ゲームでは“善”と“悪”のパーティを組むための裏技はあるけど、
このアクトリアでは、属性の“善”と“普通”と“悪”がどういう影響があるのか、いまだ不明だよ。」
「みんな~ごめんね~、色々ごめ~ん!」
やっとイチゴも気力が戻ったようで、立ち上がる。
「まあ、こういうこともあるさ。
今日はどうする? 撤退って手もあるけど・・・」
真央がみんなを見ながらそう言った。
「ダメ! 絶対ダメ!」
彩乃がうつむきながら、叫ぶように声を出した。
その声が闇へと溶けていく。
全員がびっくりして彩乃を見る。
「ここで戻ったら、もう迷宮に来れなくなる気がする!」
そう言って、強く杖を握る。
「オレも、そう思う~。
そして~、今の声でモンスター呼び寄せたよ~」
イチゴの発言に、彩乃が“えっ!?”って顔になって、顔をあげる。
「みんな、またゴメン!」
「撤退しないんだから、いいんじゃない。」
朝比奈がそう言って、手の平をだす。
彩乃がその手をパチンと手を合わせた。
真央がそれを見て口角を上げる。
「よし、次はうまくやろうか。
イチゴ、どっちから来る?」
イチゴは目を閉じて耳を澄ます。
ガチャガチャガチャ……
ペタペタペタ……
「左手から、2グループ。
音の感じだと、スケルトンと生物系」
パーティは左側へ陣形を整える。
闇の中から、モンスターが姿を現した。
「オークが4体とコボルトスケルトン8体だ。
朝比奈さん、オレ達はオーク優先で!」
朝比奈が頷く。
「タツヤはディスペル頼むぞ。」
「おう!」
「イチゴ、オレ達の両翼を広げるぞ。」
「おっけぇ~」
そう言って、前衛の二人が両サイドに広がる。
前衛グループのオークがそれによって、クサビ型の陣形になっていく。
先制攻撃をくわえたのは真央だった。
真央が近づくと棍棒を振り上げたところに飛び込み、下から上に剣を振り上げる。
切っ先がオークの盾をかすめて、小さな火花が散る。
だが、その切っ先はオークのアバラの下のあたりに突き刺さり、そのまま胸を切り裂きつつ肩口へと抜けた。
オークはもっていた棍棒を持てなくなり落とした。
真央はその棍棒を他のオークの方へ蹴り飛ばす。
そして武器を失ったオークに止めを刺した。
オークは霧散した。
真央によって蹴られた棍棒は、一番左側のオークの足に当たり、よろける。
その隙にイチゴがオークに近づいて、首の頸動脈を切り裂くとあっという間に霧散した。
「――魔を祓いたまえ!!」
タツヤのディスペルが発動する。
スケルトンは炎に包まれ、3体が霧散する。
「・・・3体かよ! 5体残ってる! 注意してくれ!」
「任せて!」
そこに、彩乃がマヤリトを発動させた。
迷宮の天井に炎が渦巻き、迷宮を赤く染め上げ、上からの熱を全員が感じる。
朝比奈は、肌を焼くその熱を上目遣いで確認する。
「す、すごい・・・」
目線をオークに戻し、ペロリと舌なめずりする。
その瞬間、天井で渦巻いていた炎が、スケルトンに降り注ぐ。
残ったスケルトンは骨が焼かれ、一度黒くなって、滲むように灰になっていった。
朝比奈は目の前の巨大なオークと対峙している。
真央との会話を思い返し、右手に持った剣の切っ先を下へ落とした。
オークは棍棒を振り上げ、朝比奈に向けて振り下ろす。
朝比奈は次の瞬間、左足で力強く蹴りだし、オークの棍棒は空を切った。
そして、すれ違いざまにオークのアキレス腱を切る。
そのまま走りながら直後にいたオークの懐へ入り込み、同じようにアキレス腱を切る。
切られた2体のオークは跪く。
直後、朝比奈は時計回りに回転しながらジャンプして、後ろのオークの首を切った。
真央とイチゴが、跪いた前のオークの首元に両サイドから突き刺した。
2体のオークは同時に霧散した。
朝比奈の顔がパアッと明るくなる。
息がまだ荒い状態で、口を開いた。
「はあっ・・・はあっ・・・今のッ・・・すごくッ・・・よくなかったッ・・・?」
朝比奈は目を見開きキラキラとした目で皆を見ている。
「コンビネーションがよかったな。
後ろで見てて、見とれたよ。」
タツヤが前衛と中衛の3人を褒めた。
「いやいや~、後衛のコンビネーションもよかったよぉ~
二人でスケルトンを壊滅させるんだもんな~」
イチゴが後衛の二人を褒める。
「確かによかったな。 1グループ任せられるのは、頼りになるよ。」
彩乃が真央の言葉で笑顔になり、恥ずかしくなって後ろを向く。
(役に立てて・・・よかった・・・)
手で小さくガッツポーズした。
―――
その後、真央が求めた広い空間のマッピングを進めた。
その間に、遭敵したパーティは、徐々にコンビネーションが上がり、難なく戦闘をこなしていく。
途中、コボルトの小隊とオークの小隊との闘いが終わった時、朝比奈は自分の体に違和感を覚えた。
だが、気のせいだと思い、口にはしなかった。
その後、10回ほど戦闘を終わらせた頃、やっとマッピングが終了した。
真央はルマピックを発動し、地図を空中に表示させる。
「うん、これでこの空間は全部把握できたね。
ゲームと違って、広大な空間だったな・・・」
そう言いながら、空中の地図を、指で指しながら続ける。
「次はこの空間からつながる二つの通路の探索かな。」
全員が地図を見て確認している。
「どっちを先に探る?」
タツヤが質問する。
真央の脳裏に、右側の通路は惑わせる罠が浮かんだ。
「左の通路にしよう。」
左の通路を指さした。
そんな時、彩乃は体の変化を感じ、両手を見つめる。
手を上げて伝える。
「レベルアップの予兆が来た。」
全員が彩乃を見る。
「次はレベル5だったよね~?」
イチゴの問いに彩乃は頷く。
「予兆ってどんな感じなの?」
朝比奈が尋ねる。
「なんか、体の熱が上がる感じかな。」
彩乃が体に起こる変化を教えると、朝比奈が手をグーパーグーパーと繰り返す。
「じゃあ、私のコレもそうなのかな?」
「それ、いつから感じてた?」
真央が尋ねる。
「もう、ずいぶん前だったかな・・・?」
「早いな。」
「戦士は盗賊の次に成長が早いからな。」
タツヤに、真央が答えて続ける。
「もともと、朝比奈さんのレベルアップが重要だったのに、
彩乃さんも、とは・・・・・・今日はここまでにしようと思うんだが・・・。」
「いいよ~、宝箱もいっぱい開けたしね~。」
「オレも良いと思うぞ。」
「私も初迷宮もこなれてきたし。」
「いいと思うよ。」
全員がここで地上に戻ることに賛成した。
―――
迷宮の入口から5人は地上に出た。
アクトリアはすでに日が沈んで暗かった。
夜の営みのざわめきが5人を優しく包む。
朝比奈は、地下の圧から解放され緊張がやっと解けた。
「ふう~、この解放感・・・すごいね。」
「でしょ? 私も最初はあの圧に耐えられなかったもの。」
「それって、一人で逃げたってヤツ?」
朝比奈の問いに、彩乃は「しまった。」という顔になる。
教えた真央を睨みつける。
「な、なんでオレを睨むのさ?」
イチゴが睨みつける彩乃の背中を押す。
「さあさあ~、早く着替えて飯に行こうよ~。」
彩乃はまだ文句を言いたい感じで抵抗するが、イチゴの力に押し負けて、あきらめる。
「もう・・・はいはい、門番亭に行こう。」
離れていくイチゴと彩乃。
それを見て、朝比奈が口を開く。
「ごめんね。なんか部外者が入ってきて・・・バランス崩してない?」
真央とタツヤがその問いに答える。
「大丈夫、大丈夫だよ!
朝比奈さんと組んだのは今日が初日だよ。
それで、バランスとかそう言うのないよ。
なあ、タツヤ!」
「そうだな。
実際、今日の朝比奈さんの攻撃力は、目を見張るものがあったと思う。」
朝比奈は(そっちじゃないんだけどなあ・・・)と思ったが、口にするのをやめた。
「そっかー、そう思ってくれてるなら大丈夫。
これからもよろしくね。」
そう言うと、真央とタツヤの背中を押して、イチゴと彩乃を追いかけた。




