368点
クマゼミの鳴き声が、日ごとに徐々に大きくなる。
季節はじめの数と全盛期の数は大きく違う。
あちらこちらでクマゼミが鳴き喚き、
三半規管を狂わせるような声が、至る所で鳴り響いていた。
その音が、机に向かう生徒たちに圧をかける。
――もうあと少ししか時間はないのだと
夏休みは、止まることなく進んでいく。
そして、8月上旬の模試がやってきた。
久美は、この模試を目標にやってきた。
座る机には、鉛筆が数本と消しゴムが転がり、ペンケースの中には鉛筆が何本も入っている。
予備校の教室は、きつめの冷房がかかり、薄手の長袖を着て、目の前の楕円形に向かい合い、それを黒く塗りつぶしていく。
教室中に、カリカリ、ガリガリと他の受験者の音が交じり合う。
鉛筆の芯が丸くなるたび、削りたての予備に持ち替える。
窓の外ではセミが鳴いているはずだが、今はただ、隣の席が刻む規則的な筆記音だけが焦燥感を煽っていた。
机の上に置いた腕時計をちらりと確認する。
その直後、ペンを走らせるペースが上がる。だが、できるだけ正確に・・・・・・
「試験終了三分前です。マークの書き損じがないか確認してください」
試験官の声が教室に響く。
それに合わせて、教室の音が少し変化する。
そして――
「・・・はい、そこまで。筆記用具を置いてください」
数秒前まで教室を支配していた「カリカリ」という狂気じみた筆記音が止まる。
受験生たちの背がまっすぐに伸びていく。
「解答用紙を裏返してください。」
試験官の声に全員が動き、教室内には紙の音が響いた。
解答用紙が回収されていく。
「枚数が確認できました。 解散です。」
ようやく重苦しい沈黙から解放され、教室内が騒がしくなる。
筆記用具や問題用紙をバッグへ詰め、席を立った。
周りでは、同じ学校の生徒たちがグループを作り、試験の出来を聞きあったりする。
だが、久美はただ一人、誰とも話さず教室を出た。
―――
久美はバスを乗り継ぎながら、3時間かけて地元へ戻ってきた。
バスを降りると、蒸し暑い空気の中、疲れたように自宅へ帰っていった。
真っ暗な自分の部屋に入ると、ベッドに横になりたかったが、やることが残っていた。
机のスタンドのライトをつけ、バッグから問題用紙を取り出す。
スマホを使って予備校のサイトにアクセスし、今日の試験の解答を確認していく。
スマホの電卓には、368と数字が躍る。
それを見て久美は笑いがこぼれる。
「よし、よし、よし! 確実に上がってる。
これなら、まだ間に合うわ!
次は8月末の模試・・・・・・そこでAにできれば・・・」
スタンドの明かりがベッドに久美の影が落ちる。
その影の中で、タブレットがボウっと光を放つ。
(…まだ…希望は早い…他の学生の…点数を上げるか…)
タブレットの光が落ちて、久美の影は真っ黒になった。




