剣の素質
彩乃の突き放すような言葉を受け、真央は何が何だか分からないまま立ち尽くしていた。
そこにイチゴの声がする。
「朝からやってるねえ~」
真央はその方向を見ると、
彩乃の隣の部屋から、イチゴが顔を出していた。
真央はイチゴに尋ねる。
「イチゴ、オレなんか変なこと言ったか?」
イチゴはその問いに笑いながら答える。
「それは自分で考えるべき~」
その答えに真央はえっ?となり、再び固まった。
その様子を見たイチゴがニヤニヤと笑った。
「ねえ、立花!」
そこに、素振りを終えた朝比奈が声をかけてくる。
真央は慌てて、朝比奈を見た。
真央の慌てた様子に、朝比奈が首をかしげた。
「あれ? どうかした?」
「え? あ・・・いや・・・なんでもない・・・
で・・・何?」
「ああ、防具や武器をそろえる場所を教えて貰おうと思って。」
「ああ~、装備品ね・・・
武器は迷宮で手に入れた武器があるし、
使い古しのオレ達の武器もある。
武器はなんとかなるけど、防具はサイズがあるから買わないと・・・かな。」
その答えに朝比奈が目を輝かせる。
「ねえ、武器! 武器を振ってみたい!」
朝比奈が真央に顔を近づけ、大きな声でそう言った。
「ああ、ちょっと待ってて、取って来るよ。」
真央はそう言うと、中庭のドアを開けて、ゲートウォッチの中へと入っていく。
―――
真央はショートソードとロングソードを持って中庭に戻ってくる。
真央は朝比奈に二本の剣をくるくると回して、“どっちにする?”と、体の前に剣先を下に垂らして、向き合った。
朝比奈は、二つの剣を何度か眺めて、両方を手に取り重さを確認する。
「結構重いね・・・」
そう言って、朝比奈は真央を見る。
「使っていると慣れるけどね。」
朝比奈は体の左右でショートソードを片手で振り回す。
「取り回しは、良いけど・・・」
次にロングソードを手に取り、両手で上段に剣を構える。
「フッ!!」
息を吐きながら、上段から振り下ろす。
腰の高さでビタリ!と剣が止まる。
それを見た真央は、“ほう”と感心した。
だが、朝比奈は剣の重さを実感し、ほほに汗が流れた。
「すごい・・・
剣の重さが・・・腕に来る・・・」
朝比奈は真央に向きを変える。
「ねえ、立花の戦い方を教えてよ。」
「オレの戦い方?」
「うん、参考にしたい!」
真央はロングソードを受け取ると、説明しながら動きを示す。
「オレは、基本この形。」
下段に構え、右に剣先を流した形を示す。
朝比奈はその形をジッと見て、口を開く。
「か、かすみ・・・?
立花・・・剣技の修練あるの?」
「え? いや・・・この形がしっくりきて・・・
モンスターの足を止めるなら、この形が良いんだよ。
突っ込んでくる敵に踏み込んで、下半身に刃を立てると、
敵の力も相まって、刃がすっと入るんだ。」
「それが本当なら・・・すごいな・・・
霞はどこから斬ってくるか分からない構えなんだ。
ちょっと立ち会ってよ。」
そう言って、二人は向かい合った。
それを二階から見えないように覗く彩乃。
剣技を試すように、打ち合う二人をジッと見ている。
「大丈夫だよ~」
隣の部屋から声が聞こえた。イチゴだ。
彩乃は少し頭を出して、隣の板戸を見て確認して、再び頭を引っ込め、下を覗く。
「そう?
楽しそうだよね。趣味、合いそう。」
そう言う彩乃の反応がイチゴにはかわいかった。
笑いながら答える。
「真央は~、ああ見えてくそ真面目だからね~
基本、否定はしないし~、みんな“あの肯定”に背中を押されるんだ~
ゲームオタクだけど、その辺りはしっかりしてるよ~
だから、信じて待っててよ~」
彩乃はイチゴの方を見ていた目線だけを下に落とす。
楽しそうに剣技を試しあう二人を見つめた。
「・・・・・・MAYALITOぶち込んでやろうかしら・・・」
イチゴが彩乃の爆弾発言にワタワタと慌てる。
小声でもしっかりと止めようとした。
「柏木さん、ダメ、それダメ~
こんなとこで爆裂魔法はダメ~~~!」
彩乃は、頬杖を突きながら、息を一つ吐き出す。
「冗談よ・・・
でも、なんだろう・・・このムカムカ・・・
私のこと大事って言ったくせに・・・ちゃんと言って欲しいだけなのに・・・」
真央は聞こえないが、何やら二階で行われる会話に気づいて、視線を上に向ける。
(イチゴか・・・? だれかと話してる・・・?)
そこに朝比奈の剣先が首筋でピタリと止まった。
真央はその剣に視線を戻す。
朝比奈は踏み込んで剣を真央の首筋に向けたまま止まっている。
真剣な目線を真央に配っていたが、首だけを緩ませ頭を持ち上げる。
「ちょっと、集中してよ。いいとこなのにー」
「ああ、ごめん、ごめん。
なんか2階の会話が聞こえてきちゃって。」
朝比奈は踏み込んだ足を戻しながら、剣を下ろして地面に立てた。
腕で額の汗をぬぐいながら、大きく息を吐く。
「ふう~~~。
朝から運動いいね~~~。
体が柔らかくなって、どんどん動きが良くなる。」
朝比奈はショートソードを片手で左右に振り上げ、自分の正面で止める動作を繰り返す。
振り回せる重さの剣が、朝比奈の剣道での技を次第に改良していく。
まるで、中国拳法のような動きに変わっていく。
踏み出して突き。 引き戻しながら頭の上を時計と逆回りで回して、体を右方向へ反りながら踏み出して正面でピタリと止めた。
その動きを真央は見つめた。
「それ、剣道とまったく違うね。」
朝比奈は体を立ち位置に戻す。
「剣道は狙う場所が決まってるからね。
このショートソードだと、片手で振り回す感じだから、同じ動きだと飛び込み技ぐらいかな~」
そう言って、中段に構えると、思いっきり踏み出して胴を切る動きを見せる。
「さっき立花が言ってた、足を止めるってのは、理にかなってるよ。」
「え?」
「剣道だと足は狙わないじゃん。
でも、実戦では相手の動きをまず止めるには、足を狙うのは基本だよね。」
剣を手首だけを回して、地面に近い方へ剣を動かしながら説明する。
「後の先ってのに近いかもね。
相手の動きに自分の動きを合わせる・・・
ちょっとロングソード貸して。」
朝比奈は、ショートソードを左手で逆手に持つと、真央に差し出しながら、
右手でロングソードを求めた。
真央はショートソードを受け取りながら、ロングソードを渡した。
ロングソードを受け取ると、両手で中段に構える。
ズシリ…と重さが腕を伝う。
「わお・・・全然違う・・・」
上段に構えて振り下ろす。
朝比奈はピタリと止めるつもりだったが、体が前へと傾いた。
「ダメだ・・・ロングソードだと振り回される・・・
これは使えない・・・」
そう言って、剣先を地面に落として、しばらく見つめた。
「今は無理でもレベルアップしたら、普通に使えるようになると思うよ。」
真央がそう言うと朝比奈が真央を見て驚く。
「え? この世界ってレベルアップなんてのあるの?」
「え? 篠原、説明してないの?」
朝比奈が頷いて答えた。
真央は眉を寄せる。
(篠原のやつ、自分が迷宮に行かないからって、
説明ぐらいちゃんとしろよな・・・)
真央は迷宮での戦いで得られる経験値がたまると、
レベルアップの予兆が発生し、
寝ることでレベルアップすることを朝比奈に教えた。
朝比奈はロングソードを片手で水平に持つ。
腕がプルプルとなるのを見て、剣先を再び地面に落とした。
「なにそれ? とんでも世界ね。
鍛えること自体がバカに感じるわ。
じゃあ、立花君の剣技がすごいのもレベルアップで?」
真央は首を振る。
「鍛えることは、レベルアップに上乗せされるよ。
だから、鍛えている朝比奈は、人より前を行ける。
レベルアップでは剣技は身につかないよ。
オレは映画とかで格好いい動きあったら、よく練習してたから。
目もいいみたいだけど。」
「そっか、私の努力は無駄にはならないんだね・・・・・・」
剣の柄を股間で止め、手を離して両手を見つめた。
そして、真央を見る。
「へえ~、迷宮、楽しみになってきたよ。」




