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アクチュアリー ―封印都市アクトリア―  作者: ブラックななこ


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戦う理由

真央はゲートウォッチのベッドで目を覚ます。

上体を起こし、石灰モルタルの壁に埋め込まれた観音開きの板戸へ手を伸ばす。


ギィ……


板戸を押し開くと、冷たい朝の空気が流れ込んできた。


窓から外を見ると、高い城壁の上に光の筋が真横に伸びている。

朝日が世界の輪郭をゆっくりと立体化していく。

その光の筋をなでるように、数羽の白い鳩が一斉に飛び立った。


真央は肘を板戸の枠につき、その光景をしばらく見つめ続けた。

白い鳩が城壁の向こうへ消えていく。


胸の奥に残っていた重たいものが、

少しだけ薄くなっていくのを感じた。


前日の絶望が、仲間と共に目指す目標を明確にした。


「・・・・・・今日から、だな」


自分に言い聞かせるように呟くと、

冷たい朝の空気が肺の奥まで入り込み、

眠っていた意識がゆっくりと覚醒していく。


部屋のテーブルの上には、雑然と転がる服が目に入った。


「ずいぶん物が増えたな・・・そろそろハンガーが欲しくなるな・・・」


ゲートウォッチの部屋に常備されているハンガーの数よりも、

服の方が多くなってしまっていた。


こちらの世界へ来て、すでに1か月以上が経つ。

迷宮に潜り、モンスターと戦うたびに服は傷み、破けていく。

そのせいもあり、下着や服がどんどん増えてしまった。


汚れものを入れた樽を見ると、すでに一杯になっている。


「・・・洗濯するか。」


真央は、汚れ物の樽を持って、1階の洗い場へと降りていく。

ゲートウォッチの洗い場は、正面から見て建物の右側の中庭にあった。


階段を降り、中庭に抜ける扉を開ける。


ギィ……


そこには先客がいた。先日こっちへ送り込まれた“朝比奈由宇”だった。


「おはよう。」


「あ、立花君・・・おはよう。」


朝比奈はニガニガしい顔をしている。


「どうかした?」


「これ・・・」


朝比奈は樽に入った、ドロドロの石鹸を指さした。


「ああ~、それ臭いよね。」


真央は初めて洗濯したときの事を思い出し、笑った。


「なんで、こんなに臭いの? ほんとに洗剤なの?」


「動物の油と灰汁が混ぜてあるんだって。獣の匂いが臭いんだよ。

でも、めっちゃ汚れは落ちるよ。服が傷むぐらい。」


真央は洗濯用の樽に、持ってきた樽をひっくり返して服を乱暴に入れる。

木べらで洗剤をすくい、木べらを力強く振って、洗剤を樽に放り込む。


壺に入った水を樽に流し込むと、はだしになって樽に入り、踏みつけ始めた。


その動作を見ていた朝比奈が尋ねる。


「そのやり方が正解?」


「足の方が皮が厚いから、良いんじゃないかって・・・手だとめっちゃ荒れる。」


そう言って、真央は荒れた手を見せる。


「あ、でもね。

タツヤに回復魔法を頼むと、この手荒れはきれいになるよ。」


そう言って笑う。


「何その裏技。」


朝比奈も笑った。


―――


洗濯が終わり、中庭のロープに干していく。

朝比奈が話しかけた。


「ねえ、立花くん・・・私達どうしたらいいのかな?」


「生活の事?」


朝比奈が頷く。


「金貨3枚貰ったでしょ?

あれで3か月は生活できるらしいから、

その間に決めてもいいんじゃないかな?


・・・それとも朝比奈さんは迷宮に興味あったりする?」


「・・・実は・・・少し興味がある。」


真央は洗濯物を干していく作業の手を止め、朝比奈を見る。


「え? ・・・そうなの?

・・・ゲームやってた口?」


真央の問いに、朝比奈はもじもじしながら、地面を見てゆっくりとしゃべりだした。


「そう言うんじゃ・・・ないんだけど・・・

立花君は、私が“剣道部”だったの知ってる?」


そう言って、真央を見上げる。


「ごめん、帰宅部だったから知らなかった。」


真央は目をパチパチさせて、片手を眉間に当て、目を伏せながら言った。


「あ、知らなかったことは別にいいのよ。

そうじゃなくて・・・

実は・・・篠原君に連れられてパラメーター調べたのよ。」


「そうなの? それは知らなかった。」


「私、戦士になってて・・・属性は“悪”だったけど・・・

あ、雫も“悪”だった。」


「・・・・・・全員が“悪”設定・・・絶対ワザとだな・・・」


真央は眉を細め、少し怒った声になった。


「・・・この“悪”って・・・何か影響あるのかな?」


「ゲームでは“善”と同じパーティは組めないんだけど、

ここの世界はゲームと違うからどうなるんだろう?」


(・・・確かに心配な設定だ・・・

この世界で悪設定がどうなるか、調べてみたいが・・・)


真央は世界の理とパラメーターが気になり、腕を組みながら朝比奈に目線を流す。


「あ、ごめんね・・・“悪”はどうでもいいんだ・・・」


真央は“え? いいの?”って顔になった。

朝比奈は続ける。


「私の部活動の“剣道”に話を戻すと、

6月のインターハイ予選で終わったんだけど・・・

3位で終わってインターハイに行けなかったんだ・・・」


朝比奈は自分の手を見る。

手にはマメがあった。

だが、そのマメが次第に柔らかくなっていく事に、

朝比奈の心が納得できていなかった。


朝比奈は、真央の顔をしっかりと見つめる。


「立花君、私ね、まだ気持ちが終わってないの!!

あと一人勝ててたら、インターハイに行って、まだ部活動続けていたはずなのにって・・・


今も朝練の時間になると目が覚めるの!!

悔しい・・・でも、思いをぶつける場所はもうない!!


それが、今“戦士”として、この世界にいる!!

これは、私に挑戦しろ!って言われてる気がして・・・さ・・・


立花君はどう思う?」


真央は朝比奈の気持ちがよく分かった。

だが、一つの懸念が真央の口にブレーキをかける。


「・・・朝比奈さん・・・剣道では人は死なないってわかってる?

オレ達が使う武器は竹刀じゃない、本物の刃だし、敵も本物の刃を使う。

当然、ケガをする。

オレ達がやることは部活動じゃなくて、本当の闘いだよ!?」


朝比奈は、真央の迫力に喉を鳴らす。

絞り出すように勇気を示す。


「・・・も、もちろんわかってる。

これがゲームでもなんでもないことも・・・

ど、同級生が死んでる状況も理解してる・・・


それを踏まえたうえで相談してる。」


最後の言葉がとても力強かった。

真央は、朝比奈の本気を受け取った。


「そこまで考えてるなら、否定なんてしないよ・・・

今のオレ達なら、朝比奈さんが入っても死なないようにはできると思う。」


真央がそう言うと、朝比奈の顔が明るくなった。


「じゃあ!?」


「ようこそ、うちのパーティへ。」


真央は手を差し出す。

朝比奈はその手を一度見て、しっかりとつかんだ。


「よろしくね!」


朝比奈は手を放すと、思い出すように剣道の上段からの振り下ろしの型を繰り返す。

真央はそれを見て口角が上がった。


「よかったじゃん。」


上の方から声がかかった。

真央が声の方を見ると、彩乃が頬杖を突きながらこちらを見ていた。

その顔は、少し不満気味だった。


「ど、どうしたの?」


真央は彩乃の表情が気になり尋ねた。


「別に~・・・リーダーの決めたことですから~」


「え? 彩乃さんは反対なの?」


「違うわよ。 ニブチン!」


そう言って、彩乃は頭をひっこめた。

真央は、動けなくなり開いた板戸をずっと眺め続けた。


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