家族の声、警察の声
テレビから若狭の笑いが流れる。
(橋本さん、それはダメでしょう。(笑))
「ふざけるなっ!!」
バサッ! バサバサッ!!
テレビに雑誌が投げつけられ、テレビの前に雑誌が落ちる。
雑誌の開かれたページには“また消えた高校生!?”の見出しと共に、
目が隠された写真と実名が載っている。
「いったい誰だ、情報をリークしたのは!?」
雑誌を投げつけたのは、失踪事件対策室の田中だった。
テレビは視聴率、雑誌は発行部数や売り上げの為に、無責任に情報を垂れ流す。
そのテレビや雑誌の行為は日常茶飯事だが、田中は自分が当事者になるとは思ってもみなかった。
「そりゃ、無理だ。
今回の門畑の件は、保護者会に参加した人数があれだけいたんだ。
全員の口にチャックはできんよ。」
同僚の鉢田だった。
彼は背もたれにもたれ、頭の後ろで手を組んでテレビを見ている。
「田中さん、落ち着きましょう。」
笹田が田中のそばに来て、手の平を下に向けながら上下させる。
「やめとけ笹田。
そいつは県警の連中が、わが物顔でウロウロしてるのもイライラの原因だ。
かまうだけ無駄だぞ。」
「鉢田、うるせえんだよ!」
「どうだ? 仕事終わったら“波美音”にでも行くか?
いくらでも愚痴聞くぞ。」
「うるせえって言ってんだろ!!」
そう言って、田中は自分の椅子に乱暴に座った。
「科捜研のヤツら、何か見つけますかね?」
笹田が二人に尋ねる。
「オレ達が見つけられなかったもん、見つけられるわけないだろ!」
田中のテンションは先ほどのままだ。
そんな田中を見て、笹田は軽いため息を吐く。
「どうだろうな・・・
残った物を見つけても、消える現象なんて前代未聞だからな・・・
答えは見つけられんだろう。」
「・・・・・・・・・。」
田中は鉢田の言葉を黙って聞いている。
鉢田は頭の後ろで組んでいた手を外し、両膝に肘を置いてテレビを見つめた。
テレビでは相変わらず、神隠し事件を面白可笑しく伝え続けていた。
―――口加高校 図書室
岩永は門畑が消えた場所に立ち、本棚から適当に本を取り、ペラペラとめくって止める。
(人間が消えてなくなる・・・証拠も何も残さず・・・
マジックならトリックがあるんだろうが・・・
これはマジックなどではなく、一般人が突然消えた。)
「後藤さん。
前回と前々回は成績がトップ3でしたよね。
今回の門畑はどうなんです?」
岩永はカウンター内で、図書室の利用履歴を調べていた後藤巡査部長に尋ねた。
後藤はもともと岩永を指導していた巡査部長だった。
その為、お互いの会話は地位と逆転した状態になっていた。
「教員の情報だと、悪くはないようだ
期末テストでは5位だったと聞いている。」
「その前は分かりますか?」
「中間テストか? ちょっと待ってくれ・・・」
後藤は手帳をペラペラとめくる。
「お、あるね。 中間の成績は16位。」
「えらく跳ね上がってますね?」
「この失踪事件が起きて、精神的にダメージを受けてる生徒も多いようだ。
上位にいた生徒が成績落ちて、入れ替わりが激しいな。」
「そいつらの友人関係はどうなんです?」
「ここに来て2日目だぞ。しかも昨日は移動日と部署設置作業。
さすがに、そこまでは調べられんよ。」
「南島原署の連中は知ってますかね?」
「どうかな?
田中さんだったら、調べてる可能性があるかもな。」
「田中・・・あいつは足で稼ぐタイプだったな・・・」
岩永は開いていた本をパタンと閉じた。
そこに図書室の外で警備していた南島原警察署の警官が岩永に声をかける。
「岩永警部補。」
岩永はその警官の方に目線を配る。
「なんです?」
「その~、門畑良平の両親が図書室前に来とらして・・・・・・
消えた場所を見たいと言いよらすとですが・・・・・・どがんしましょうか?」
岩永はその言葉に眉に力が入り、目を伏せて頭をガシガシと強く掻く。
顔を上げ、警官に強く伝える。
「わかった。とりあえず、話を聞こう!」
そう言って、図書室の入口へと早歩きで向かった。
―――
図書室の入り口には門畑良平の両親が寄り添いながら立っていた。
岩永が後藤を引き連れて図書室から出てくる。
「県警の岩永です。彼は同じ県警の後藤です。
門畑良平くんのご両親ですか?」
「はい。」
「消えた現場を見たいと聞きましたが?」
「あん子が! ・・・・・・最後におった場所ば確認したかとです!」
母親が訴えかけた。
「すみません。まだ、鑑識の保全が終わってない状態でして・・・・・・
今日はまだ無理かと・・・・・・」
岩永は、こういう別れを強いられた家族を何度も見てきていた。
幸せに暮らしていた家族が、突然の別れで崩れていく姿を。
特に、かわいい子供の成長を見守ってきた家族が壊れていく、その切なる思いをよく知っている。
だが、今回の失踪事件は、殺人事件や事故現場とは違い、
何も見つからないという事情があり、現場の保全が第一だった。
だからこそ、なんとか今日は乗り越えたかった。
「なして、肉親が息子のおった場所ば見れんとですか!!」
父親が叫ぶように声を出す。
「あ、いや・・・」
岩永はその迫力に言葉が詰まった。
そこに後藤が説明を入れた。
「横からすみません。
今はまだ良平くんの痕跡を探っている段階なんです。
今、現場に人が立ち入ると、その痕跡が消えてしまう可能性があるので、
岩永は“今日は無理”だと言っているんです。
決して、見せないと言っているわけではないのです。
分かっていただけませんか?」
その言葉に父親が口を食いしばった。
父親は唇を震わせ、何か言おうとしたが、しかし言葉が出なかった。
握った拳だけが、小さく震えていた。
「ばってん・・・・」
母親が後藤に一歩踏み出して食い下がろうとしたが、
そこに父親が肩をつかんだ。
母親が振り返ると、父親は首を振る。
そして、二人を見つめて重い口を開いた。
「じゃあ、いつんなれば見らるっとですか?」
岩永は、その眼に気持ちが揺れる。
だが、事件解決という自身の向かう先が重くのしかかる。
「ふ、二日ください。明後日には見せられると思います。」
そう言って、深々と腰を折った。
後藤もそれを見て、同じように腰を折った。
そして、そのまま二人の反応を待った。
「・・・・・・わかりました。
岩永さん、後藤さん・・・息子んこと・・・よろしくお願いします。」
軽く会釈して、母親に声をかける。
「・・・行こう。」
父親は母親を見ながら向きを変え、一歩進んで待った。
母親は、少し図書館を見つめて、思いつめる気持ちを残すように父親の方を向き、
二人はゆっくりと寄り添うように階段を下りて行った。
岩永と後藤は腰を折ったまま、二人を見送る。
両親の歩く音が小さくなって、やっと体を戻す。
まだ二日目だというのに、現場はもう限界に近かった。
ドォン!!
岩永は廊下の硬い壁に、こぶしの横を叩きつける。
誰もいない学校の廊下にコダマするように響いた。
「こんな理不尽な事件、納得できるかよ!!」




