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アクチュアリー ―封印都市アクトリア―  作者: ブラックななこ


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祓いの熱

迷宮1階、地上への階段付近


タツヤは彩乃のサポートを受けながら、“GIOS”を発動させる。

僧侶には魔術師と違い杖はない。

発動させる意思があれば、指で文字を描くことで発動した。

最初の“G”を描くと、空中に自分の書いた文字が浮かぶ。タツヤは試しにブロック体で描いてみた。

“G”を描き始めた瞬間から、指の動きに合わせて線が伸びる。

意図しない場所にも線が引かれてしまった。


(み、見づらい・・・確かに筆記体の方が良いかも・・・)


タツヤは、動かす指のすべてが描かれてしまうことで視界がふさがれ、邪魔に感じた。

“GIOS”を全部描いたが、発動しない。

彩乃が補助をする。


「対象者を意識して。」


その言葉に、タツヤはイチゴを意識する。

するとGIOSが発動し、イチゴを明るい光が包み込む。

傷口の筋繊維がつながり、最後に皮膚が再生されてふさがった。


「おお~~~~~っ!!」


そのポーションとは違う光景に全員が驚いて、傷口を見つめた。


「なんか、ポーションと違うね~」


イチゴが実感を言った。


「どう違うんだ?」


「なんか~、熱を感じた。ポーションは冷たく再生する感じだけど~、

魔法は熱を帯びて再生した。」


「すごい。なんか探求感あるわね。」

「オレもケガしてGIOS受けてみたいかも!」


三人のテンションに、タツヤはこぶしを握り、声を絞り出した。


「やッ、やめてくれよッ!!」


その声に三人は言葉を止め、タツヤを見つめた。


タツヤは三人をまともに見られなかった。

自分の足元を見つめ、思いをぶつけた。


「オマエら、おかしいよ・・・ケガしたいとか言うの変だと思わないのかよ?

それとも、オレの方が異常なのか?」


三人は見つめ合う。

タツヤの言うことは全員が分かっている。

だが、真央と彩乃は動かない。

今動くのは自分たちではないと分かっていた。


イチゴが一度、真央と彩乃を見て、タツヤの方へ歩み寄る。

タツヤの肩に手を乗せると、タツヤがビクッ!となる。


「タッちゃん・・・気持ちは分かるよ~

でも~、オレ達は元の世界に戻る為に迷宮に挑むんだよ~

それなのに、この一階でケガなんてしてちゃダメなんだよ~


この迷宮が何階まであるか分からないけど、ここでやめるなら、

この世界の住人になるしかないんだよ。」


最後はいつものイチゴの口調ではなかった。

そして、タツヤの肩をつかむ手が力強かった。


タツヤは顔を上げ、イチゴを見る。

イチゴの目はまっすぐにタツヤを見ている。

その眼に嘘偽りはなかった。


死を前提とした覚悟の違いだった。

タツヤはイチゴの眼を見て、その眼が何を伝えたいのか知っていた。


サッカーの試合で、ビハインド状態で残り5分。

そんな時にキャプテンが見せた、皆を鼓舞するあの力強い目力。


タツヤは、ここが分岐点なんだと気づいた。

ここで諦めるのか、諦めないのかを突きつけられているのだと。


「タッちゃん・・・」


タツヤは肩に乗せたイチゴの腕をつかんだ。


「わぁったよ! これ以上は言わない!

ただ、真央! オマエがこの世界に送り込んだこと、絶対忘れないからな!」


その言葉に真央は申し訳なさそうに「分かった!」と手を上げて合図した。

彩乃は真央を見て、真央の手を握った。


その様子を見ていたタツヤがイチゴに尋ねる。


「なあ、アイツら、いつの間に付き合ったんだよ?」


「あはは・・・あれで付き合ってないのが問題なんだよね~」


「ウソだろ?」


「真央がね~・・・奥手すぎてね~・・・」


「あ、なんとなくわかった。」


「だよね~」


やっとタツヤは笑うことが出来た。


―――


パーティは先へと進んでいく。

今まではこの先に進んでいなかった扉が目の前にある。


真央はその扉の前で一度後ろのメンバーを見た。

全員が覚悟している目だった。


ドアを開け、奥へと足を踏み入れた瞬間、頭の中に誰かが語りかけてきた。


(我々はすべてを受け入れる。それが善だろうと悪だろうと。

世界は混沌を呼び、真実を語らない。

あなたにこの世界の真実が見つけられるか? 期待している。)


四人は呆然としていた。


「今のは・・・」


真央だけがゲーム経験者だった。

他の三人は、真央の次の反応を待っていた。


「――ゲームと全然違う・・・今のはどういう意味だ?」


真央は周りを見回した。

迷宮は深い闇に覆われ、いつもと同じだった。


「真央くん、今のは・・・?」


「分からない・・・ゲームとはまったく違うメッセージだった。」


「じゃあ、やっぱり・・・」


「ああ、アクチュアリーの世界は似ていても、アクトリアの世界とは一緒じゃない。」


「それ、どういうことだ?」


タツヤが尋ねると、真央が答えた。


「ああ、原因となったゲームの世界観って、この世界と似てるって思ってたんだけど・・・

どうも・・・全く違う。」


「じゃあ、真央のゲーム知識は無駄なのか?」


「そこなんだよな・・・似てる・・・でも、微妙に違う・・・」


「むう・・・・・・」


三人は答えを探すが、見つからなかった。


「この世界の誰かが~、ゲームを真似たダンジョン作ったとか~?」


イチゴが突然口をひらいた。三人はイチゴを見る。


「それってどういうこと?」彩乃が尋ねた。


「ん~? 何となくそんな気がしただけ~」


「真似って、そんなこと無理なんじゃ?」


タツヤが真央を見ると、真央は腕を組んで考え込んでいた。


「・・・ゲームが発売されたのは約30年前・・・

でも、この迷宮ができたのは800年前・・・

どう考えても、ゲームを真似るなんてできない・・・」


ガアーンッ!!


真央はシールドを迷宮の床に叩きつけ、シールド縁にヘルメットをコツコツと打ち付ける。

その様子を見ていた彩乃が近寄る。


「真央くん、今無理に答えを出さなくても良いんじゃない?」


その言葉に真央は動作を止め、彩乃を見た。


「そうだね・・・

迷宮のメッセージはたった一つ。

この世界がアクトに似てても、似てなくてもやることは一つだった。」


「そう! この迷宮の謎を解くという、私たちの目標は変わらない!」


「で、どうするの~?」


「そうだな・・・タツヤにレベルアップの予兆が出るまでは、

このまま迷宮探索したいけど・・・

何があるか分からないから、あまり奥までは進みたくない・・・」


「じゃあ・・・」


「この辺の周辺を調査しよう。」


真央の提案に、全員が頷いた。


―――


メッセージを受け取った場所は、広いスペースになっていた。

迷宮の闇は相変わらず圧を放ち、視界をふさぐ。

そんな中でのモンスターとの戦闘。

次第に疲労が真央たちを襲ってくる。


それでも壁伝いに迷宮を進みながら、マッピングを続けていった。


「この広い空間って厄介ね・・・

壁が無かったら、迷子になっちゃいそう・・・」


その時、イチゴがモンスターを感知した。


「正面の闇の中にモンスターがいるよ!」


「壁から離れるのか?」


タツヤの額に汗が流れた。壁から離れる恐怖が襲ってくる。

闇の中に突っ込んで戦闘になれば、方向が分からなくなる。

その想像だけで手が震えた。


「待つのは後手になる。攻める方がここでは正解だと思う。」


「わかった。行こう!」


敵の正体は分からなかったが、彩乃は先んじてBILTOを発動させた。

闇の中に青紫の光が灯台のように八つ浮かび上がる。

敵が八体いるという明示のようだった。


その光に導かれるように接敵すると、真央がモンスターを特定した。


「コボルド・スケルトンだ!」


真央が切りつけると、BILTOで防御力が低下したスケルトンは一撃で霧散した。


「タツヤ、ディスペルを何でもいい、試してくれ!」


横目で後ろにいるはずのタツヤへ伝える。

タツヤはその声にビクリと体を震わせた。


その瞬間、真央は鞭のような触手で体を打たれた。


バチッ!!


「うわっ!」


真央の体は半歩以上後ろへ飛ばされる。


「なんだ!?」


「モンスター! もう一つのグループがいるよ!」


イチゴが叫んだ。


「スライムだ!」


パーティに危機感が走る。

二つのグループの敵は初めてだった。


彩乃はLATINOを発動しようとしたが、慌ててLATNOと書いてしまい発動失敗。

体が一瞬脱力する。


「くっ!」


真央はスケルトンの攻撃を防ぎつつ、剣をシールドに固定し、

右手で拙い文字ながらLATINOと描いて発動した。

しかし侍の適性では、スライムは一体しか眠らなかった。


「くそっ!!」


焦りが滲む中、真央はシールドから剣を握り直した。


タツヤは焦りが募っていた。

パーティの役に立てない自分が悔しかった。


(ディスペル・・・どうすりゃいいんだ?)


「ディスペル。」


ふと口に出した瞬間、両手にじわりと熱を感じた。

――その熱がタツヤの記憶を揺さぶる。


タツヤの実家は真言宗だった。

背後にそびえる雲仙は大宝元年(701年)に開山されたとされる古霊山。

全国から修行僧が集まる場所だった。


タツヤも幼いころから父の方針で、修行僧と同じ扱いを受けていた。


(そうだ・・・毎朝、本堂で“朝行”やったな・・・)


護摩焚きの猛烈な熱の中、意識を「無」にして火の中の仏を探した。

額から汗があふれる。


(・・・あの熱さは・・・忘れない・・・)


蝉の声が耳鳴りのように脳を刺す。

長崎、雲仙の山中。一乗院の本堂は外気よりさらに熱かった。


「立てるな、音を。・・・己の呼吸さえも、仏に捧げる供物と思え」


住職である父の、鉄のように冷たい声。


タツヤの口から、無意識に修行で何度も唱えた真言が漏れた。


「ノウマク・サマンダ・バザラダン・・・」


手に持つメイスは独鈷杵ではなかったが、関係なかった。

強く握りしめ、最後の一節を叫んだ。


「・・・ウン・タラタ・カン・マン!! 魔を祓いたまえ!!」


その瞬間、コボルド・スケルトンが炎に包まれ、骨がはじけ、霧散した。

真央が相手していたスケルトンも同じように消えた。


「た、タツヤ・・・?」


真央が振り返ると、左手でメイスを横抱えにし、

右手の人差し指と中指を立ててメイスに押し当てているタツヤがいた。


「真央くん、集中!」


彩乃の声にハッとする。

コボルド・スケルトンはすでに全滅していた。

残るはスライム六体だけ。


複合でなければ、スライムは迷宮最弱。

レベルの上がった真央やイチゴの敵ではなかった。

容易に攻撃をかわし、一撃を叩き込む。


そして、すべてが霧散した。


真央はタツヤのそばへ駆け寄った。


「タツヤ! 今のディスペルか?」


「・・・わかんねえ・・・でも、実家で修行してた言葉を重ねたらできた。」


その時、真央とタツヤの体に異変が起きた。


「あ、来た。」

「来た? これなんだ?」

「レベルアップの予兆だよ。宿で睡眠を取れば“レベルアップ”するんだ。」


そこにイチゴと彩乃が走り寄ってくる。

よく見ると三人とも傷だらけだった。


「すまん、今すぐ回復魔法かける。」


タツヤが慌てて三人に“GIOS”をかけた。


「ねえ~、これどっち向いてるん~?」


イチゴが周りを見回しながら聞く。

四方は迷宮の闇が続き、床と天井しか見えない。

圧が四方から重くのしかかってくる。


彩乃が周囲を警戒しながら、真央の腰のバッグを握った。


「激しい戦闘だったからな・・・オレにもさっぱりわからない。」


「どうするの?」


彩乃はバッグを握ったまま、真央に一歩近づいて尋ねた。


「こういう時に便利な魔法があるんだ。

オレは覚えてないけど、彩乃さんは覚えてるよね?」


彩乃は少し考え込む。

レベルアップ時に覚えた魔法を真央に説明したことを思い出す。


「あ・・・もしかして・・・RUMAPIC?」


「そう、それ。」


「どんな魔法~?」


「迷宮で歩いた場所を表示して、自分の位置と方向を調べる魔法。」


彩乃がRUMAPICを発動する。

初めて使う魔法なので、描く文字も慎重になった。


今まで歩いたルートと迷宮の迷路が、金色の光の線で目の前に浮かび上がる。


「おおぉぉ・・・す、すごいな・・・」


タツヤがその光景に感動する。

真央が方向を指さした。


「戦闘の前にいた壁はあっちだね。

オレとタツヤも予兆が出たし、今日は上がろう。」


「おっけ~!」

「うん。」

「疲れた・・・マジで疲れた・・・」


そうして、パーティは地上への階段を登っていった。


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