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アクチュアリー ―封印都市アクトリア―  作者: ブラックななこ


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27/75

静かに壊れていく

―――体育館


保護者会は淡々と続いていた。


保護者の一人が立ち上がって質問していた。

「では、進学組のメンバーは、いなくなった分を下のクラスから

上のクラスに入れるということですか?」


間島がマイクを取り、説明する。


「そうです。

進学組の補習は、試験結果のタイミングでクラスのメンバーは変更されます。

これは、今まで通り・・・」


その時、一人の教員が体育館の大きな扉を勢いよく開けた。


ガラガラ・・・ガンッ!!


扉に取り付けられた滑車が転がるたびに音を出し、

最後に扉を止めるガードに当たった音が体育館の中に響いた。

あまりの音に間島の言葉が止まった。

保護者たちは何事が起きたのかとザワつき始めた。


開けた教員はバタバタとスリッパを鳴らしながら、壇下の校長と教頭に耳打ちした。


(さ、先ほど、図書室の管理者の“田端さん”から連絡がありまして・・・

り、利用していた3年B組の門畑良平が・・・き、消えたと。)


その内容に校長は青ざめる。

教頭は確認するように問い返した。


(そ、それは・・・ほ、本当なんですか?)


(田端さんの話ですと、き、消えたのを見た生徒がいるそうです。)


教頭が勢いよく立ち上がる。


右側に座る3-Bの担任、前田を手招きする。


「前田先生!」


前田が立ち上がり、教頭のそばへ寄っていく。

教頭と前田、そして連絡に来た教員が輪になって話す。校長は座ったまま、輪の方に耳を寄せていた。


その様子に、保護者たちが立ち上がって確認しようとする。


「何かあったのか?」

「こういう会でコソコソするなよな。」

「何をやっているんだ・・・?」


前田が保護者の方を見て確認すると、保護者の中へ入り、門畑の母親を外へ連れ出してきた。

教頭たちもそこへ集まる。

他の保護者には聞こえないように、前田が説明する。


「か、門畑さん・・・お、落ち着いて聞いてくださいね・・・」


「はい、何をでしょう?」


前田は唾を飲み込む。


「りょ、良平くんが・・・としょ・・・図書室で消えたそうです。」


「はぁ・・・?」


母親は前田の言葉の意味がわからなかった。

教頭が説明する。


「門畑さんの息子さんも、他の行方不明者と同じように消えたってことです。」


「え? 良ちゃんが?」


母親が手で口を押さえ、前田と教頭の顔を見上げる。

頬に汗が流れ、母親は二人の圧に耐えている。

前田と教頭がゆっくりと頷いた。


理解すると同時に目がぐるりと回り、膝を折りながら後ろへ倒れていく。

慌てて前田が受け止めた。


その光景に体育館に悲鳴があがり、保護者たちが騒ぎ始めた。


「門畑さん!!」

「何があったんだ!?」

「説明して!」


教頭が前田に指示する。


「ほ、保健室へ・・・」


前田は頷き、連絡してきた教員と一緒に母親を外へと抱えていく。

体育館の入口には親たちが集まり、興味津々にその行方を見ながら話し合っている。


それを見ている壇下の担任と副担任たち。

うなだれる者、机に頬杖をついて眺めている者、立ち上がって様子を見ている者がいる。

間島は頭の後ろで指を組み、じっと眺めていた。


「こりゃ、保護者会どころじゃないな。」


「間島先輩、何があったんでしょう?」


「門畑が消えたんだろ?」


如月が驚いて周りを見る。周りの教員が頷く。


「また警察ですか・・・? この学校、一体どうなるんでしょう?」


「さあな・・・ここまで来たら、もうオカルトだよ。」


―――


プルルルルッ! プルルルルッ! プルルルルッ!


失踪事件対策本部の電話が鳴る。

対策室には専用の電話が引かれており、電話が鳴ると全員がビクッとなった。


安藤が電話を取った。

本部の全員が安藤を見つめた。


「はい、こちら失踪事件対策本部。 安藤です。」


「はい。」・・・「はい。」・・・「はい。わかりました。」


そう言って、受話器を置く。


「口加高校で新しい行方不明者が出ました。

同じく三年生。今回は目撃者がいます。」


「笹田、行くぞ。」

「はい。」


田中と笹田がすぐに出て行った。

他の刑事たちも続いて出ていく。


対策室に残ったのは、斎藤と安藤だけだった。


斎藤は左手を膝に置き、背を曲げてうなだれる。

額と目を手のひらでふさいで、唇を真一文字にしている。


「どうします?」

安藤が尋ねた。


「・・・・・・・・・。」


背もたれにもたれる。

塞いでいた手の指を開き、片目だけで天井の照明を見つめた。

しばらく沈黙したあと、膝を両手で叩き立ち上がった。


「署長の所に行ってくる!」


―――


斎藤が木目のドアの前に立ち、こぶしを握ったあと、ノックを躊躇して停止する。

5秒ほど考えていたが、ノックする。


コン!コン!


「斎藤です。」


「入れ。」


ドアノブを回し、ドアを押し開ける。


「失礼します。」


ドアの正面の机に男が座っていた。


その男はこめかみから下は白髪だが、その上は真っ黒な髪をしており、

オールバックにしている。


机に向かって右側に黒塗りの名牌が置かれていて、

そこには「警視正 南島原警察署長 内田康夫」と書かれていた。


何かの書類を見ていたのか、片手に書類を持ったまま顔を上げて斎藤を見る。


「何かあったのか?」


斎藤は背を伸ばして、腕を後ろに組み答える。


「はい。新しい行方不明者が出ました。」


内田は両肘を机に置き、胸の前で指を組んだ。

一つ大きなため息をつく。


「もう無理だな・・・」


「・・・はい。自分もそう思います。」


内田は頭を傾け目線を手に落として見つめた。

そして、見上げるように頭を起こし斎藤を見る。


「・・・今回の被害者もやはり三年生なのか?」


「そのようです。」


内田の口元がイライラしているのが分かった。

落ち着かせるように深く息を吐く。


「ふ~っ・・・行方不明者の居住地域は?」


「まだ、電話連絡だけですので、確認できておりません。」


内田は何度か小さく頷きながら指示を出した。


「そうか、わかった。調書は揃えておいてくれ。

応援に関しては、追って連絡する。」


「わかりました。では失礼します。」


斎藤は敬礼をして、ドアを開けて出ていく。

内田は椅子に深く腰掛け直し、ひじ掛けに手を置くと、背もたれに頭を乗せて天井を眺めた。

両手の人差し指と薬指でひじ掛けを何度もたたき、思案を巡らせる。


「この事件の謎、応援呼ぶにも宿舎が足りるのか・・・?」


立ち上がって、ブラインドを指で引き下げると、隙間から窓の外を見る。


警察署の周りにはメディアのカメラや、カメラを手に持ち、脚立に座る記者が沢山いた。

パトカーが動くと、それを追いかけていく取材車。


目線を奥に送ると、車が路駐して列を作っていた。


「こんな田舎によく集まったもんだ・・・

今回の件で、さらに増えると思うと、胃が痛くなりそうだ・・・」


そう言うと、ブラインドから指を放す。

ブラインドは「ジャッ!」という金属音を出して、元の形に戻った。


机の前に立つと、専用電話の受話器を上げる。

連絡先は県警本部の刑事部捜査第一課だ。


「・・・ああ、私だ。内田だ。」


相手が出ると同時に、内田は声を低く落とした。

同じ「警視正」という階級であっても、

本部の部長クラスを相手にする時は、言葉の端々に慎重さが混じる。


「うちで発生している件、そっちで把握してるか?・・・そう、それだ。

今日また一人行方不明者が出た。

高校三年生だけが消えて行っている。

・・・ああ、何もかもが分からない状態だ。


とにかく人がいる。・・・そうだ。うちの小さな所轄じゃもう手も回らん。

他の小さな案件にも支障が出始めてる。・・・ああ、頼む。」


電話の向こうでも、慌ててこっちの事件を調べているのが分かった。


「これ以上の所轄独断では無理だ。

そっちの『強行犯係』、それと『科捜研』の精鋭を至急回してほしい。

・・・ああ、わかってる。正式な応援要請の手続きは今すぐ執らせる。

だが、一刻を争うんだ。・・・頼む」


そう言って、内田は受話器を置いた。


受話器を置くと、内田は机に手をついた。

「神隠し」などという非科学的な言葉を、報告書に書くわけにはいかない。


だが、これからやってくる本部の連中も、この「空白」を前にして同じ絶望を味わうことになるだろう。


―――


体育館の入口から運び出される門畑の母親。教員たちの声が校舎と校舎の間で響きあう。

それを3階の自分の席から久美が見つめている。

眼鏡が空を反射して白く光っている。 その奥の目は見えないのに笑っているのが分かった。


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