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アクチュアリー ―封印都市アクトリア―  作者: ブラックななこ


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7月18日、静かな始まり

―――7月18日


口加高校は夏休みを前にして、保護者会を開いた。

そのため、この日は全校休校となり、生徒たちは自宅待機か、校内での自習という扱いになった。


体育館へは、保護者たちが次々と集まっていく。

校門には警備の教員が並び、押し寄せるメディアやパパラッチを必死に抑えていた。


体育館の周囲でも、保護者会に参加しない教員たちが、

侵入してくる部外者を警戒しながら見回っている。


3-Cの教室。その窓際で、久美が立ち上がり、

校庭の騒がしい様子をじっと見つめていた。


「くくくッ・・・バカな連中。

保護者会なんてやっても無駄なのに・・・くふっ・・・」


久美は笑いが止まらなくて困り、口を手でふさいだ。

他の生徒を気にして周囲を見回す。


だが、自習に来ていた生徒たちは、

まじめに机に向かっており、まったく気づいていなかった。


久美はそれでも平静を装いながら、目をギョロギョロと左右に動かしつつ席についた。

そして、カバンから参考書やノートを取り出す。


「・・・・・・。」


久美は、ふと、自習している他の生徒の状況が気になった。

立ち上がると、トイレに行くふりをしながら、

自習している生徒の様子を伺いながら隣を通っていく。


(ふ~ん。 あいつはあの辺りをやってるのか・・・)


誰も久美の動きを気にしない。

まるで何かに守られているようだった。


クラスの様子に、久美は大胆になっていく。

現在の同学年トップがいる教室【A組】へと侵入する。


ここでも誰も気にしなかった。

久美の顔にはニヤニヤと笑いがこぼれる。


久美はそのまま、同学年トップ“藤堂智久とうどうともひさ”の机の前に立った。

ノートを上から見続けていると、藤堂が久美に気づき、顔を上げる。


「・・・やすなが・・・くみさん?」


久美はそのままノートを見続ける。

藤堂は、その凝視している目線に恐怖を覚えた。


「な、何・・・?」


「藤堂くん、ラッキーだね。

上にいた三人が消えて、今じゃトップになれたんでしょ?」


「なに・・・を・・・言ってるのかな?」


藤堂は久美の言葉に眉間を歪めた。


「うれしくて、たまらないでしょ?」


久美は意に介さず続ける。


「友達が消えてうれしいわけないだろ!」


藤堂は手に持つペンが震え、歯が軋むように声を出すが、

それでも冷静に対応した。


「友達ねえ~、向こうもそう思ってたのかしら?」


久美はニヤニヤとしながら、背中を少し曲げて顔を藤堂に近づける。


なおとは小学校からの付き合いだからわかるよ。」


藤堂は逆に冷静に戻った。

それに久美は不満気な表情になった。


「つまんないわね。」


そう言って振り返ると、教室を出て行った。


藤堂は、その久美の出て行ったドアを無言で見つめていた。

斜め後ろの男子生徒が藤堂に声をかける。


「智久、どがんした? あれ、【C組】の?」


藤堂は椅子に座ったまま、声をかけた男子生徒の方へ向きを変える。


「うん、安永久美さん・・・あの人、あんな嫌な感じだったかな?」


「よ~知らんけど・・・【C組】の友人は“がり勉ちゃん”って呼んどったな。」


「・・・あれは・・・なんの圧なんだろう・・・」


「圧?」


「・・・うん・・・話してる間、変な圧を感じて・・・」


藤堂は、さっきの久美の圧を思い出し、手に持っていたシャーペンを歯で噛んだ。


―――体育館


体育館の中では、保護者会が始まろうとしていた。


檀上の前の壇下に長机が横一列に並べられ、真ん中に校長、その隣に教頭が座り、

その両サイドに三年生の担任と副担任が並んでいる。

そして、その対面の折りたたみ椅子には、生徒たちの母親や父親がずらりと座っていた。


開始時間まで待たされる間、体育館はざわざわと、エコーのかかった声が響いている。


やがて、壇上の校長がゆっくりと立ち上がった。

ざわめきが少しずつ収まり、体育館の空気が静まっていく。


「・・・えー・・・本日は、お忙しい中お集まりいただき・・・ありがとうございます。」


校長の声はマイクを通して、体育館の天井に反響しながら広がった。


「まずは、日頃より本校の教育活動にご理解とご協力を賜り・・・

心より御礼申し上げます。」


校長の余計な挨拶に、保護者の男が叫んだ。


「仕事ば休んで、挨拶ば聞きに来たんじゃなかっぞ! はよ本題に入れ!」


校長は額にハンカチを当てて言葉を探す。


「あ~・・・え~・・・っとですね・・・」


体育館のざわつきが戻ってきて、次第に大きくなっていく。


「校長がこいやいけん、変か事件が起きっとよ。」

「早よしろ~」

「カンペあんだろ!?」


見かねた教頭が立ち上がる。


「保護者の方々!

この度の口加高校への報道やSNSでの誹謗中傷、

まことに申し訳ございませんでした。」


教頭はそう言うと、腰を折った。

周りの担任も立ち上がり、同じように腰を折る。


校長は周りを何度か見ると、遅れて、弱弱しく頭を下げた。


「まずは・・・今回の“生徒失踪”について、

学校として把握している事実をお伝えいたします。」


ざわつきが一瞬で止まり、体育館の空気が張りつめた。

教頭が話し始めると、立っていた担任と副担任は席に座る。

校長はそれに気づき、慌てるように座った。


「え~・・・今回の失踪が確認されているのは、三年生の生徒三名です。

性別は男生徒が1名、女生徒が2名です。


男生徒は朝、母親がいないことを確認。

女生徒の一人は、食事中に目を離したすきにいなくなった。

もう一人の女生徒は、洗面所にいたはずがいなくなったそうです。


共通点は・・・いずれも、連絡が取れなくなったまま現在に至っているという点です。」


教頭の声は淡々としており、用意した書類を読み上げているだけのようだった。


「警察にはすでに捜索願が提出されており、

学校としても、可能な範囲で協力を続けております。」


「なお、現時点で・・・事件性の有無については、

警察から正式な発表は出ておりません。」


一人の保護者が手を上げる。

教頭がそれに気づき、右の“手のひら”を向けて「どうぞ」と促した。

手を上げていた女性が立ち上がる。


「事件の事よりも、進学ば控えた息子ん授業の方が、私は重要なんですが~。」

「いやいや、真相も必要だろ。」

「そがんこつより、子供ん心んケアやろ!!」


保護者会はお互いの主張の場に変わっていく。

教頭はその雰囲気に困った顔をして立ち尽くす。


「あ・・・ちょ・・・おしずかに・・・」


教頭は声を出そうとするが、声が小さくマイクが拾わなかった。

見かねた、教頭の右側二つ隣の女性が立ち上がると、教頭が持っていたマイクを奪い、一気に息を吸い込んでからマイクに怒鳴った。


「お静まりください!!」


大音響。

マイクがハウリングを起こし、キーンという音を混ぜながらスピーカーが空気を揺らした。

その音に、立ち上がって言い争っていた保護者の動きが止まり、壇下の方に顔を向ける。


壇下の教員たちは座ったまま、マイクを持った女性を見つめ、

「おおお~っ!」っと感嘆の声を上げた。


彼女は【3-A】の副担任“如月咲良きさらぎさら”だ。

まだ25の彼女は、教育現場に強い信念を持っていた。


「まだ、こちらの説明は終わっていません。

教頭の説明を聞いてから、お互いの話し合いをしましょう。」


彼女がそう言うと、立ち上がっていた親たちが静かに席に座っていった。


「どうぞ。 勝手にすみませんでした。」


如月は教頭にマイクを返す。


「お、おお~・・・如月さん、あ、ありがとう・・・」


教頭はおずおずとマイクを受け取った。

如月は教頭の態度が気に入らず、フン!という仕草で自分の席へと戻っていく。


その後、教頭は説明用の紙を拾うと、事件のあらましを保護者に伝えていく。

そして、話は報道の過熱状況や、SNSでの情報漏洩へと進む。


「現在、テレビでは連日のように、この事件を面白おかしく伝えています。

正しい部分もありますが、中には間違った情報や、ウソ情報も混ざっており、

それが現在、皆さまの中での懸念となっているのも分かります。


当校としましては、この間違った情報やウソ情報に対し、皆さまが惑わされないように、

本日説明会をしたいと考えております。


では、3年を受け持つ教員に説明してもらいます。」


教頭は、隣に座る【3-A】の担任“間島慎太郎まじましんたろう”へマイクを渡す。

間島は立ち上がり、マイクを手に取る。


「3-Aを担当しております“間島”です。

3年生の担任の代表として、皆さまにご連絡いたします。


まず、当校の進学校としてのスタンスを変えることはありません。

皆さまからお預かりしている大事なお子様たちに、真摯に教育者として向き合い、

今後も、生徒たちの希望する進路を叶えるために、生徒たちと努力していきます。


それを踏まえたうえで、皆さまの質問に答えていきたいと思います。

ただ、先ほどのように、皆さま同士でのやり取りは行わないでいただきたい。


疑問や質問がある場合は、まず挙手をしていただき、順序良く進行させたいと思います。」


間島はそう締めて、席に座った。

隣の如月が顔を間島に寄せて、小声で耳打ちする。


(さすが、間島先輩です。 ハゲ校長や教頭と違って隙なしです!)


如月は嬉しそうに、両手を胸の前で小さくガッツポーズした。


(お前が先走らなきゃ、もっと校長と教頭を追い込めたってのに・・・

余計な事しやがって。)


間島は横目で如月を見る。

余計な事と言いつつも、淡々とした口調で返した。


その言葉に、如月は再度耳元へ寄る。

横目で右側に座る校長と教頭を見ながら、少しイライラした口調でつぶやく。


(だって、あまりに情けなくて・・・)


(だが、まあ、結果は悪くないだろう。)


そう言うと、間島は目線をシンと静まった保護者の方へ向けた。


誰も挙手しない雰囲気に、保護者の一人が遠慮がちに手を上げる。

それに気づいた教頭がマイクを取る。


「どうぞ。」


「3-B、“中村健司”の母です。

下校中に、テレビか雑誌かは分からんとですが、『後ばついてくる』って気にしてまして。」


保護者会は静かに再開していった。


―――図書室


久美は1年の校舎にある図書室へ行き、そこで自習している生徒の様子も確認していく。


入り口付近にはカウンターがあり、管理者が蔵書の貸し出しや返却を受け付けていた。


図書室には、大きなテーブルが4つ並んでいる。

対面で座れるようになっているが、コロナの発生以降は中央にアクリル板が立てられている。

片側の椅子が二脚外され、隣との距離を取っているので、

教科書やノートを何冊も広げても余裕がある。


テーブルの奥には、蔵書が並ぶ棚が5列ほど続き、奥の壁近くまで伸びている。

図書室の両サイドにもサッシの下に低めの棚が並んでいた。

奥の壁には、手前の棚とつながるように、壁にぴったりと付けられた棚がある。


久美は図書室の中をウロウロと観察していく。


(意外と図書室にもいるわね・・・)


全体が見えるように一番端の棚の列に入って、手前の蔵書を手に取ると、

怪しまれないように、テーブルに座る生徒を舐めるように観察していく。


(あいつは、この間の期末テストで3位だった『福田哲也』・・・

あ・・・あいつは5位だった『門畑良平』・・・ふ~ん、真面目に勉強してるじゃない。)


目がきょろきょろと動く。

開いていた蔵書をパタンと閉じる。


「決ぃ~~めた。」


そう言って図書室を出ていき、前の階段を降りていった。

その足取りは、まるでスキップするように見えた。


―――3-C


久美は教室に戻ると、おもむろにタブレットを鞄から取り出す。

だが、誰もその行為に気づかない。

誰もがスマホで勉強の補佐として検索して答えを求める。

タブレットを出そうとも気にするはずがなかった。


(今までにトップ3を消した。

だが、それに続くトップ4を消したら、誰かが気づく・・・

上から順に消えている事を・・・だから、今回は変える。)


久美の次のターゲットは、5位の門畑良平だった。


タブレットを操作し、作成するキャラの名前に“K”とだけ入力する。

ボーナスはどうでも良かった。値は10。適当に割り振り、戦士に設定する。


「あんなデブが悪の戦士って笑える。」


思ったことが、そのまま口から出てしまう。

久美は慌てて口をおさえる。


「おっとっとっと・・・」


周りを見るが、誰も気づいていなかった。

その状況に、笑いが止まらない。


タブレットの“作成しますか Y/N”の問いに、躊躇することなく“Y”を押した。


「このキャラ作成、頭に思い描くだけってホント楽だわ。」


―――図書室


門畑良平が受験用のコーナーにある蔵書を閲覧している時だった。


久美が“Y”を押した刹那、門畑良平の姿が消える。

手にしていた蔵書は床へ落下し、音を立てた。


ドサッ!


その両サイドにいた生徒が、一拍の間をおいて驚きの声を上げる。

目の前で起きた現象に、頭が追いつかない。


「き、消えた?・・・お、おい! か、門畑が消えたぞ!」


その声は図書室を伝播していく。

静かなはずの図書室がザワザワと騒がしくなった。


図書室の管理者が、その声に慌てて駆け寄る。


「な、何が、あったんですか!?」


その声は図書室に響き渡り、これからこの高校に起きる事件の前触れのようだった。


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